第285話 饒舌なエイブリック

「あ、ジョンとアルが出て来たよ」


「俺もアルがどれくらいやるか最近見てないからな。楽しみだ」


エイブリックもアルが出て来て嬉しそうな顔をする。


「私もジョンがどれくらいやるのか楽しみよ」


アイナも同じ顔だ。


ー闘技場ー


ざわざわ


観客席は誰だあいつら?みたいにざわざわする。


今から剣技のデモンストレーションだとよ。

まだ子供じゃねーか?

ダンスでも見せてくれるんじゃねーか?はっはっはっ


観客達はジョンとアルが誰だか分かってはいないので好き勝手に言っていた。大きくなって来てるとはいえ遠目でもまだ成人していない子供達の剣技は大したことがないと思っているのだろう。



「始めっ!」


アーノルドが開始の宣言をすると二人はゆっくりと立ち合った。学校で幾度も立ち合っているため、お互いに手の内は知り尽くしている。


カツン カツン


様子見に剣を合わせて行くがお互いに隙がない。高度な心理戦といったところか。


おいおい、随分と上品な剣だな。

おーいっ!そんなんじゃ面白くねーぞーっ!


観客達はスローに動き出した二人に対してブーイングを飛ばし始める。高度な心理戦は素人達には退屈なようだ。



ー貴賓室ー


「ジョンもアルも隙がないね」


「あぁ、どっちが先に動くかな。ここからでも良い気迫を感じる。成長したな二人とも」


アルが先に動いた。速いっ


アルがジョンに踏み込んで突きを出したのを剣で軌道を変えてジョンが突き返す。アルはすぐさま後ろに飛んで突きを躱すとジョンがそのまま踏み込んで横斬りで空いた腹を狙うがそれを剣で受けるアル。ここからは序盤の動きとはうってかわって激しい打ち合いだ


カカカカカッと木剣の打ち合う音が聞こえて来る。


おおおおっーー!


沸き上がる観客。



「おい、あいつら何者だ?」


「キレイな剣筋してやがるな。あれは魔物相手の剣じゃねぇ」


「冒険者見習いじゃないのか?」


「いや、おそらく騎士見習いってとこだろう。しかも相当レベルが高い」


「ディノスレイヤに騎士見習い?」


「わからん。どこからあんなの連れて来やがったんだ・・・」


銀の匙のジャックと剣士のザジは二人の剣技に目を見張っていた。



激しい打ち合いが続いているがお互い有効打を取れないままアーノルドが終了宣言をした。セレモニーなので勝敗を付ける必要が無いと思っているのだろう。


「そこまでっ!」


ざわつく観客達。


今のどっちが勝ったんだ?

いやわからねぇ。しかし、二人ともすげぇぞ。

誰だあいつら?


ざわざわ


「両者有効打無し。引き分けっ!」


おおおぉぉぉぉ

ぱちぱちぱちぱちっ


お互いに一歩も引かなかった見事な立ち合いに観客達は大きな拍手と声援を贈った。



貴賓室にジョンとアルが戻って来た。


「お前達随分と上達してるじゃないか」


「父上、まだまだです。ジョンからなかなか1本取れません」


「アルとは勝敗がつかない勝負が続いているのですよ、エイブリックさん」


「みたいだな。上達はしているがここぞという時の得意技が二人ともないんだろ?」


「エイブリックさん、それってどんなの?」


「まぁ、それは人それぞれだ。得意技はあんまり人に見せるもんじゃないからな」


見せると対策取られるからかな?アーノルドとかエイブリックはどんな必殺技があるんだろ?


「ダンにもそんな技あるの?」


「いや意識したことねぇな。独自の技とか持ってねぇぞ」


ダンは見た目は力任せに剣を振るようなイメージがあるが、実際にはそんな事はなく相手の動きを良く見てるんだよな。後の先って奴だろうか?


「ダンも得意技が出来たら俺も魔剣無しだと苦労するかもしれんな。お前こっちの動きを読もうとするだろ?それが解ってりゃ対処もしやすい。意外な攻撃ってのが無いしな。その点ゲイルは何をしてくるかわからん怖さがあるな」


俺のは漫画やアニメ、ゲームの知識が元だからな。普通は思い付かない攻撃だろう。


「意外な攻撃?」


「そうだ。自分よりスピードが速いと防戦一方になるだろ?こっちはカウンターにだけ気を付けてスピード上げれば問題無しだ。意外な攻撃が無いと解ってりゃ遠慮なくスピードを上げて打ち込めるからな」


エイブリックに一本も取れていないダンはそういう所を狙われていたらしい。


「アルとジョンはそれに加えて剣筋が素直だからな。型通りの剣は真剣勝負になると独自で覚えた剣の奴にやられる可能性があるぞ。学校だと今のままでも敵無しだろうけどな」


ジョンは騎士学校の入試を思い出していた。確かに変則的な剣を使う奴に苦労した覚えがある。


「変則的な剣ですか?」


「まぁ自分にあったスタイルってのがあるから無理にやると崩れて弱くなることもあるからお前達にそれをやれとは言わん。特にジョンはアーノルドに稽古付けて貰ってたのに綺麗な剣筋だからな。本来のあいつの剣筋で稽古つけられていたら魔物討伐向けの剣筋になっててもおかしくないはずだ。それでもあの剣筋に育ったのならお前は変則的な剣筋にはあってないんだろ」


へぇ、そうなんだ。


「そういやダンも冒険者上がりの癖に剣筋がキレイだよな?どこで剣を教えて貰ってたんだ?」


「まぁ、見よう見まねってやつですよ」


ダンは少し濁したように答えた。


「ゲイルはダンに稽古付けて貰ってる割に癖のある剣というか戦い方だな。あれはダンが教えてるのか?」


「ぼっちゃんにあんな戦い方は教えてねぇぞ。勝手にやってるんだ」


「そうか、ならアーノルドに稽古付けて貰った方が合ってるんじゃないか?騎士になるつもりもないんだろ?」


「父さんとやるとまともな稽古にならないことが多いんだよ。ムキになってこっそり身体強化したりするしさ」


あっはっはっは


「子供相手に闘気か。実にあいつらしい。よっぽどゲイルに負けたくないんだな。ジョンには闘気使わんだろ?」


「はい、闘気を教えて貰う時だけでした」


「アーノルドはジョンには確実に負けない自信があるんだろ。ゲイルには万が一があるとか感じてるんじゃないか。こいつは何してくるかわからんからな」


「ゲイルの方が強いということですか?」


「強いというより何してくるかわからんという怖さだ。1本勝負でアーノルドとジョンが戦ったら千回やっても勝てない。良い勝負はあるだろうがな。それに対してゲイルはコテンパンにやられる勝負が999回、ただ1回は勝てるかもしれない。そんな感じだ」


・・・

・・・・

・・・・・


「別に変則的な技でなくても変哲もない上段斬りを極めたらそれが必殺技にもなりうるぞ。お前達にはそれが向いてるのかもしれんな。ゲイルはまぁアレだ。好きなようにやれ」


なんだよそれ?


「母さん、僕はジョンやゲイルと同じような事が出来ると思う?」


ずっと蚊帳の外だったベントがアイナに聞いてみる。


「誰しも向いてる向いてない事があるわ。やりたいことと出来る事が違うことも多いのよ。ベントはあの二人と同じ事をするより自分のやりたいこととやれることを見つけた方がいいんじゃないかしら?剣の道に進みたいわけじゃないでしょ?」


「うん。でも僕に出来る事ってなんだろう?」


「色々な事を見て学んで探して行くのが人生よ。あなたはまだその途中なの。慌てる必要はないわ」


俺は早くからやりたいことが見つかった者は幸せだと思う。最後まで見つからずに何となく生きて死んで行く者も多いからな。


「ベントよ、俺はお前の事を良く知らんが何が出来るかなんて気にするな。そんなことよりやりたいことをやれ。やりたいことがなければなんでもやれ。そうすれば勝手に見付かる。見つからん奴はあれこれ理由を付けて何もやらん奴だ。歳食っててもそんなつまらんヤツが大勢いるからな」


エイブリックの言うことは芯を食っているな。俺もそう思う。


「なんでもやる・・・?」


「そうだ。やってみなきゃ面白いかどうかもわからんだろ?やってみて出来ないと分かるのも経験だ。何年も後に面白さが分かる物もあればやっぱりつまらんと思うものもある。最初っから全部解ってる奴なんかおらん。出来る事も出来ないことも楽しめ。そうすりゃ人生幸せだ」


「出来ないことも楽しむ・・・?よく意味が解りません・・・」


「今出来ない事を悲観するなって事だ。出来なかった事が出来るようになれば楽しいぞ。それがなんであってもな。初めっから何でも出来たらそんな楽しみも味わえんだろ?出来ない事があればそれは将来の楽しみが増えたってことだ。お前はいま将来の楽しみをたくさん持ってるって思ったら幸せだろ?」


「エイブリック、あなたがそんなこと言うなんて似合わないわね」


クスクスと笑うアイナ。


「ちゃかすなよアイナ。俺はゲイルに火魔法を使えるようにして貰った時に気付いたんだよ。俺が長年温めていた出来ない悔しさはこの楽しさを味わわせる為だったんだとな」


エイブリックの言葉はベントに響いたみたいで、周りと比べて出来ない事が多いの自分は楽しさをたくさん持ってると言われた事で心が晴れていくようだった。





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