第284話 いよいよ闘技会

明日から予選が始まるという事でとにかく慌ただしい。


賞品の各種ポーションという名の魔法水の準備完了。濃い目にして小さなアンプルサイズにしておいた。携帯するなら小さい方がいいからな。


闘技場の周りは屋台がびっちりと並び、どこから来たのかわからないけど宿泊テントも広場にたくさん建っていた。屋台はすでに賑わいを見せ、お祭り騒ぎだ。



俺はパーティー戦の予選に使うお宝の埋まった岩を作っている。お宝と言ってもアーノルドのサインが入ったプレートだ。これを運営の所に持って来た早さで順位を決める。


プレートを入れた岩をせっせと作っていくが公平に全部同じ大きさと強度で・・・とかはしない。大きさもバラバラ強度もバラバラだ。パーティー戦には運も必要なのだ。


これで俺のやることは終わった。後は闘技会を楽しもう。



闘技場での準備が終わって屋敷に戻る。


「ぼっちゃん、予選から全部観戦するのか?」


「そのつもりだけど?」


「決勝戦だけで良くないか?」


「いや初めての闘技会だし不備もたくさんあると思うんだよね。だから見ておかないと」


仕事モードで見るのかよとダンに言われてしまった・・・



晩御飯前に馬車がやって来た。


「ゲイル、帰ったぞ」


「お、またデカくなったな。」


「あれ?冬季遠征だったんじゃないの?」


出て来たのはジョンとアルだ。


「それは終わった。なかなかにキツかったぞ」


へぇと立ち話をしていると。


「俺もいるぞ」


エイブリックも出て来た。


「エイブリックさんまで来たの?もしかして闘技会に出るとか?」


「俺とジョンは大会開始のセレモニーで父上は観覧だけだ」


エイブリックが出たら誰も勝てないからな。大人げないことしそうだから疑ってしまった。ちょっと安心。



取りあえず中に入って貰ってミーシャに部屋へと案内して貰った。ブリックに伝えておかないと。




「じゃ決勝戦が終わるまでここにいるんだ。公務は大丈夫なの?」


「父上がいるから問題ない」


酷ぇ、ドン爺に全部押し付けて来たのか・・・



ー闘技会予選初日ー


貴賓室で観覧の準備完了。下の観客席はすでに満席で冬だというのに凄い熱気だ。


「こちらをどうぞ」


ミーシャがドリンクを持って来てくれた。


アイナとエイブリックにはリンゴの発泡酒だ。ここで初めて披露してみる。俺とベントはジュースだけどね。


「ん?これはジュース・・・ではないな。酒か?」


「あら、これ美味しいじゃない。いつの間にこんなの作ってたの?」


「つい最近だよ。再来年には一般流通させられると思うけど、来年はバルで出すだけかな」


「ゲイル、これ・・・」


エイブリックが何かを言い掛ける。


「社交会に出せるように準備はしてるよ。炭酸が抜けない様に瓶のお酒なんだけど、これと同じものが60本ともう少し軽いのが60本、それぞれ樽1個ずつくらい用意してあるんだ。他の酒もあるから足りるよね?」


「さすがだな。多分足りるだろう。いくらで販売するんだ?」


「売値はおやっさん達に任せてるから知らないけど蒸留酒ほど高くはないと思うよ。今回のエイブリックさんの社交会の分は献上するから」


また献上かと苦笑いするエイブリック。金銭で買った方が楽なのかもしれない。



「アーノルドが出て来たわよ」


と、アイカが言うのでリンゴのお酒の話は後にして、会場を見る。



「お前ら、盛り上がってるかあぁぁぁぁ!」


うぉぉぉぉぉー!


「わ、何これ?父さんの声が闘技場全部に響き渡ってる」


「ふっふっふっ、驚いたかゲイル。最近解読された声を大きくする魔道具だ。アーノルドが持ってる魔道具に向かって話し掛けると設置してある魔道具から声が出るのだ」


おお、マイクとスピーカーじゃないか。しかもワイヤレスとは素晴らしい。


「凄いね。でもディノスレイヤ領で使って良かったの?」


「構わん。実験にちょうど良かったからな。ここでこれだけ使えるなら十分だ」


この魔道具は魔石をめちゃくちゃ消費するらしい。どうせアーノルドは俺に魔石の魔力を補充させるつもりなのだろう。いつの間にかライトもたくさん設置してあるからナイターとかするつもりなのだろうな。普通に魔石買ってたらとてもじゃないけど維持出来ないな。



アーノルドから大会のルールと内容が説明されたあと、賞品にかけてあった布を取り払い、何が賞品か発表されるとさらに大きな声が上がる。


「ずいぶんと貴重な賞品を出すんだな。あのポーションはお前が作ったのか?」


遺跡からそんな物が出て来ていない事を知っているエイブリックは俺が作ったとすぐに分かったようだ。


「そうだよ。いきなり作れって言われたからね。父さんで実験したから効果はあるよ」


実験内容を伝えると、お前は本当に容赦がないなと、エイブリックは大笑いした。



ー観客席ー


「おいおい、体力と魔力を全回復するポーションだと? 本当にそんな物が存在するのか?」


銀の匙のリーダーのジャックは驚いて魔法使いのルーラに聞く。


「聞いた事が無い。でも遺物ならあってもおかしくない」


「治癒ポーションもあんな少ない量で効くなら凄いわね」


治癒士のシリアも驚いている。


「あの杖欲しい。絶対優勝する」


「俺はあの変わった刀ってのに興味があるな。あんなのが賞品に出るならエントリーしとけば良かったぜ。ジャックが手に入れたらくれよ」


剣士のザジは刀が気に入ったようだ。


「バカ野郎、俺はあの剣を手に入れるぞ。ドワーフの国でもあんなの売ってなかったぞ」


「盾や防具は無いのか。残念だな」


盾役のゴンは賞品に自分が扱える防具が無いのにガッカリしている


「スピードが早くなる靴とかあれば良かったのに」


斥候のミサも欲しい賞品が無いらしい。


「ここは何なんだ?あんなどこにも売ってないような物を賞品にしやがるとは・・・」


銀の匙メンバーから剣士部門にジャック、魔法使い部門に魔法使いのルーラ、そしてメンバー全員でパーティー戦にエントリーしていた。


「おい、ルーラ、そろそろ会場に行け」


うんと返事したルーラは会場へと向かって行った。



観客の熱気が立ち込めるなか、いよいよ第一回ディノスレイヤ領の闘技会の予選が始まるのであった。


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