第281話 ベントのやることが増えて行く

「いつものタレと違うのか?」


「これは商売用だからね。いつでも手に入る材料じゃないとダメだし、原価も考えないと」


「なるほどねぇ。ネギ挟んだやつの方が旨ぇがあれはしねぇのか?」


「青ネギなら売ってるけどダンの言ってるのは白ネギだろ?あれは俺が作ったやつだからどこにも売ってないよ」


「誰かに作らせたらいいじゃねぇか」


「あれ手間が掛かるから青ネギよりずいぶんと高くなると思うんだよね。そうすると屋台じゃ使えないよ」


「ぼっちゃんさっき言ってた原価ってなんだ?」


「ベント、説明してやれよ。知ってるだろ?」


「あ・・・うん・・・。ダン、原価ってのはそのあれだよ」


・・・

・・・・

・・・・・


「ベント、知らなかったら知らないと言え。そうしないと解ってると思って先に話すすめちゃうだろ?」


「わ、わかったよっ」


「原価ってのは物を売る為に使うお金の事だよ。売れたお金が売上、使ったお金が原価とか経費とか色々とある。売上から使ったお金を引いて残ったのが利益だ。そこから税金を引かないとダメだけどね」


この国の税金の仕組みはどうなってるんだろうか?率は聞いてるけど売上に掛かるのか利益に掛かるのか知らないな。おそらく利益だと思うけど・・・。帰ったらセバスに聞いてみるか。



取りあえずタレは味噌とリンゴジュース、ニンニクが入った物をベースにした。後は味噌の分量の調整にしよう。それかいっそのことマヨ焼にしてしまうかだな。まだ日があるから色々試せばいいか。



屋敷に戻って晩飯を食ってる時にアーノルドに税率の事を聞いてみる。


「父さん、農作物の税率って上限6割だったよね?他の税率ってどうなってるの?売り上げに掛かるの?それとも利益?」


「うちは販売してるものに関しては利益に2割だな。生産しているものは売上か生産量だな。生産と販売両方しているところは販売の分は免除だ。他の領はどうやってるかは知らんぞ。細かいところはセバスに聞いてみろ」


利益ってどの段階の利益だろうか?粗利か純利で大分変わってくるしな・・・


「後で執務室にベントと行くよ。ベントが王都で屋台するのに知っておかないとダメだからね」



ーセバスとの会話ー


「はい、税金の掛け方の率は違いますが王都もほぼ同じです」


「利益って粗利なの純利なの?」


「粗利と純利とは・・・?」


図に描いて説明していく。


「なるほどこういうことですか。この図でいきますと粗利と言うことになりますな」


売上-仕入れに掛かるのか。


「減価償却とかないの?」



「ほら、建物とか建てたり、魔導コンロ買ったりするとお金払うでしょ。高額なものだと、何年かに分けて払ったことにして月々いくらの経費でとか・・・」


「そういうものはありません」


そうかややこしくなる計算はすべて無いんだな。


「仕入れってどこまで認められるのかな?例えば串肉の屋台だと、肉、串、炭、調味料、とかあるんだけど」


「今おっしゃったものは含まれますよ。屋台の賃貸や人件費は含まれません」


なるほどね。


「王都は販売するものによって税率が変わります。ちなみに屋台は無税です」


「え?無税?」


「はい、販売しているものも安価ですし、税金の計算が出来るような者がしている仕事でもありません。税を取る側もどれだけ売れたか把握が難しいのです。そういった者に労力をかけるより高額な物に対して税率を上げた方が効率がよろしいですからな」


「ベント知ってた?」


「授業で習ったと思うけどよく分からなかった。今ゲイルが描いた図で授業の意味が分かったよ」


確かに聞くだけだと分かりにくいよな。


「セバスありがとう。だいたい分かったよ」


「もう宜しいので?」


「うん、俺はね。ベントは聞いておくことない?」


「あ・・・うん」


分からないところが分からないってやつだな。まぁ疑問が出て来たらまた聞くことにしよう。



ーゲイルの部屋ー


「さて、ベント、計算の勉強は今からするか?それとも明日からにするか?」


「今からやる」


お、いい心掛けだ。


俺の部屋でかけ算と割り算のやり方を初めから教えた。


1×100は解っても10×100になると延々足し算をしていくんじゃなくて数字の後ろの0を足すだけとか九九を教えていった。


「こんなに簡単に出来るなんて・・・」


「後は九九を覚えたらもっと早く計算出来るようになるぞ。学校もサラもベントに教えたやり方しか知らなかったんじゃないか。おやっさんとか親方とか計算早いからドワーフは俺と同じような計算をしてると思うぞ」


「ドワーフの国の学校てどんなんだ?」


「学校は無くて親とか知り合いが教えてるとか言ってたな。セバスも計算早いけどどうやってるんだろな?」


今度聞いてみよう。


今回の冬休みは領の視察は無しにして、朝稽古と焼き鳥の工夫、夜は俺との勉強をすることにした。バルでの焼き方稽古はその後だ。取りあえず焼き鳥を串に上手く刺せるようにならないとな。



翌日シルフィードを迎えに行きがてら商会に寄る。


「おやっさんの所に火打石ってある?」


「そんなもん何するんじゃ?」


「ベントが屋台するのに必要なんだよ」


「あれで毎日炭に火を点けるのか?」


「いや火魔法を教えるつもりだけど、火打石ならどれだけ苦労するか知って貰おうと思って」


「ワシも使わんからな、あそこの冒険者の店で売っとるじゃろ」


ということで改心したと思われる冒険者御用達の店に向かった。



「ぼっちゃん、お久しぶりでございます。」


「あれから真面目にやってる?」


「はい、お陰様で魔道ライトも好調に売れております」


魔石使用量の少ない懐中電灯くらいの明るさの奴が売れているらしい。いつの間にか改良版が出来てたんだな。


「ここに火打石って売ってる?」


「色々とありますけど、これがお勧めでございます。剣などでこすって頂くとこの通り火花がでますので。通常タイプは二つ使いますがこれなら一つで大丈夫です」


チッ チッとやって見せてくれる店主。


「このお勧めの方なんだけどもっと長いの無い?」


「と言いますと?」


「ほら短いとちょっとしか火花が飛ばないじゃない?これくらい長くしたらもっと火花が出ると思うんだけど」


元の世界のキャンプ用品のはもっと長い。ここのは3cmくらいしか火花が出るところが無いのだ。


「ちょっと商会に戻っておやっさんに聞いてくるよ」



「おやっさん、燃えやすい鉄ってある?」


はぁ?とドワンが聞き返すので火花が散りやすい金属を持ってきて貰った。さりげなく鑑定するとマグネシウムと出た奴がある。


「これ使っていい?」


なんぼでもあるぞと言われたので遠慮なく加工する。


10cmくらいの棒にして鋼の棒でシャッとやってみると、シュバババッと火花が飛んだ。


「おやっさんありがとう。これを火打石にするよ」


「ずいぶんと火花が飛ぶの」


「これ単価は安いけど売れると思うよ。持つところを木で加工して持ちやすくしたり、携帯用に鞘に仕舞えるようにしたりして」


冒険者の店に教えとくから相談しておいてと言い残して店に向かう。


「良いのがあったからまたおやっさんと打ち合わせしといて」


目の前でシュボボボッとやってみせる。


「おおぉ、素晴らしい。これはヒット商品の予感がします。ありがとうございます」


じゃ宜しくねと言って店を後にした。



「お前いつもこんな事をしてんのか?」


「そうだよ。後は勝手に商品化してくれるから」


「なんであんなの思い付くんだ?」


「こんなのがあったら便利だなと思うだけ。自分で使ってみると不便な所がよく解るよね」


「自分で使ってみる?」


「そうそう、聞いた話より体験した方が分かりやすいだろ?俺も火打石は知ってたけどやってみたのは初めてなんだよ」


「俺は冒険者時代は使ってたが不便とか感じなかったぞ」


「ミーシャはなかなか火が点かなくて火魔法を覚えたんだよね?」


「はい」


「な、不便だなとか思ってそれを何とかしようと思った人が進化したりより便利な物を産み出したりするもんなんだよ。ダンも中々火が点けられなかったら今頃火魔法使えて魔剣を手に入れてたかもよ」


「俺は火打石を使えてなかった方が良かったのか・・・」


「そんな深刻な顔するなよダン。例え話だよ」


ぶつぶつと何やら考え出したダンに気にせず小屋でそれぞれやることをやっていった。




シュボボボッ シュボボボッ


枯れ草に着火させてから炭に火を移すのに苦労を重ねるベント。


「な、この炭って奴はなかなか火が点かないんだよ。その代わり火が点いたら安定した温度で燃え続ける。焼き鳥も薪より上手く焼けるんだ。王都だと薪も買わないといけないから炭の方がいいと思うけどどうする?」


「薪ならもっと簡単に火が点くんだろ?」


「ちょっと工夫してやればね。俺としては火魔法を覚えて炭を使う事をお勧めする」


「何でだ?」


「商売を成功させようとしたら他の店と差別化しないとダメだからね。手っ取り早いのは安売りだけど、他の店に値段を下げられたら終わるだろ?だから他の店が真似できない物を考えなきゃダメなんだよ」


「それと炭とどう繋がるんだ?」


「じゃ試してみよう。炭焼と薪焼で食べ比べしてみたらいいよ」


炭と薪で焼き鳥を焼いていく。



「さ、食べ比べするぞ」


薪で焼いた方は焦げてたり焦げてなかったりと焼け方にばらつきが出ているが炭の方は安定して焼けている。


「どうだベント?薪で焼くの難しいだろ?熟練していくともっと上手く焼けるようになると思うけどな」


将来焼き鳥屋になるなら極めてもいいけどね。


「炭の方が旨い・・・」


「後はお前が決めろ。自分がやりたい方を選べばいい。学校に行きながら仕込みして店出しても大変だからタレ焼きじゃなくてマヨ焼きとか柚子胡椒焼きとかでもいいぞ。そっちの方が管理が楽だからな。どれも他の屋台だと真似できない味で差別化出来るぞ」


「いや、タレ焼きと炭でやる」


「よしっ、じゃ火魔法覚えろ。シルフィード、杖をベントに貸してやって」


「杖?」


「魔法使った事なかったら上手く魔力を出す事が出来ないんだ。それを補助してくれる道具だよ。お前なら爆発させる心配も無さそうだしな」


ダンはシルフィードの稽古に行ったのでこちらは火魔法の稽古をする。焼き鳥をたらふく食べたミーシャは後片付けをしてくれていた。



「いいか、俺がベントの身体に魔力を通して火を出すからよーく杖の先から火が出るのを見ててくれ。魔法はイメージが大事なんだ」


ベントの身体に魔力を流していく。


「なんか感じるか?」


「ゲイルから温かいような感じの物が入って来てる気がする」


おろ?すぐに分かったのか?


「その温かい物が魔力だ。それを燃料に火を点けるからな」


杖の先からボッと火を出す。


「今俺の魔力で火を出してるけど、自分の中の温かいものが燃やしているとイメージしてくれ。俺のじゃなく自分で燃やしてると」


しばらく火を見つめるベント。


「はいそのまま集中して」


少しずつベントの身体が赤く包まれていくので、少しずつ少しずつ気付かれないように俺の魔力を抜いていく。


ボボボッと火は出たままだ。ベントはまだ集中しているのでゆっくりと離れるがそれにも気付かない。こいつ実は集中力高いんじゃね?


しばらく見続けているとふっと火が消えると共にゲロゲロ~と吐いたので慌てて魔力を補充してやる。


「ごほっごほっ。なんだ急に吐き気が・・・」


「それが魔力切れだ。めちゃくちゃ気分悪いだろ?」


「魔力切れ?」


「そうだよ。お前自分の力でずっと火を出し続けてたんだよ。俺がやってたのはほんの最初だけだ」


「本当か?」


「それが証拠に魔力が切れただろ?」


「ゲイル、お前も昔良く吐いてたよな?あれは魔力切れだったのか?」


「そうだよ。何回吐いたかわからんよ。死にそうだろ?ほっとかれたら何時間か気絶するからな」


「気絶する?ならなんで僕はすぐに治った?」


「俺の魔力をベントに補充したからな。少しでも魔力が回復したら気持ち悪いのが収まるけど、自然回復だと一旦魔力が切れてしまうと時間がかかるんだよ」


「魔力の補充?」


「それは俺の魔法の才能だ。おやっさんも俺にしか出来んと言ってたからな。しかし火魔法とか水魔法とか一般的な奴なら誰でも使えるようになるぞ」


「一般的な魔法?」


「そう。イメージしやすいのは教えてやれるんだけど、イメージしにくいのは教えられない。風魔法とかも教えにくいな。目で見えて身近な奴は割と簡単なんだよ。火もイメージしやすいだろ?」


「イメージ・・・」


「あと集中力ね。お前きっと魔法の才能あるよ。杖を使ってたとはいえ、こんなにすぐに出来るとは思ってなかったからな。俺が離れたのも気付かないくらい集中してたろ?」


「僕に魔法の才能?」


「そうだよ。俺から魔力流れてるのもすぐ感じ取れたし、すぐに火魔法使えたからな。真面目に練習したら魔法使いにもなれるんじゃないか?」


「本当に僕に才能があるのか?」


「ああ、こんな事で嘘なんか言わない。全く魔法を使った事が無いのにこんなにすぐに出来たのはベントが初めてだぞ」


「そうか、僕にはこんな才能が・・・」


ホロホロと泣き出すベント。


「泣くなよこんなことで」


「う、うるさいっ!お前に僕の気持ちなんて解るかっ!」


いや理解はしてるよ。


「ぼ、僕もゲイルみたいに自由に魔法を使えるようになるのか?」


「火魔法と水魔法と土魔法は教えてやれる。風魔法、治癒魔法は難しいな。ただ魔力量の問題がある」


「魔力量?」


「そう、人には魔力の量ってのがあってな、成長と共に増えるんだ。誰がどれくらい増えるのかはわからんけどな」


「僕の魔力量は・・・」


「多分人並みだな」


「じゃあ才能あっても無意味じゃないか・・・」


「そうでもないんだ・・・あー、ちょっとこの先の話は父さんに相談してからにするわ」


「な、何か解決方法があるのか?」


「あるけど今は言えない。父さんに話すかどうか決めて貰う」


「何故だ?なんで今教えてくれないんだっ?」


・・・

・・・・

・・・・・


「お前の命に関わるからだ。これからの話は国家機密より重大になるらしい。お前がそれを知ってる事がバレたら確実に狙われる。拐われて拷問されたりするかもしれんからな」


ごく・・・・


唾を飲むベント。


「炭に火を点けたりするくらいの魔法なら誰も怪しまないだろうけど、俺みたいに派手に使ったら確実に狙われるからな」


「お前が誰かに命を狙われているというのは本当だったんだな?」


「本当だって言っただろ。俺を利用しようとしているのか、何か秘密があると踏んで狙ってるかわからないけどね。結構気を張って生活してるんだぞ。嫌だろそんな生活」


「いつも楽しそうにしているじゃないか」


「楽しいのと気を張ってるのとは別だよ。この前釣りから帰って来た時に誰かに見られてたのとか気付いてないだろ?」


「誰かに見られていた?」


「あぁ、商会に着いた時な。ダンとも話してたんだけど敵ならそのうち動きがあるだろうから放置してあるけど」


・・・

・・・・

・・・・・


「な、安心して暮らせる生活と引き換えに手に入れるほどの情報でもないとは思うんだよ。知ったからどうにか出来るものでもないのも含まれるからな。取りあえず父さんに相談してからにするのは理解してくれ」


「わかった・・・」


素直に俺の話を聞くようになったベントはそれ以上何も言わずに引き下がったのだった。


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