第280話 ベント修行開始
「え?ビトーさん来てたの?」
マルグリットから詫びの手紙を持って来たことを朝飯の時にアーノルドから聞いた。
「マルグリットが闘技会の決勝戦を観覧するらしいぞ。マスは持って帰って来てるんだろ?その時にビトー達にも振る舞ってやってくれ」
「たくさんあるから大丈夫だけど釣りの話とかしたの?」
「ここで一緒に酒飲んでな、その時に骨酒の話になったんだ」
アーノルドの生贄はビトーだったか・・・
ーマルグリットの私室ー
「アーノルド様よりお手紙を預かって参りました」
「ビトー、ありがとう」
マルグリットはアーノルドからの手紙を読んだ。
シムウェルの受付はしたが、スカーレット家を代表して参加されるのはお勧めしない。締め切りが過ぎていた等の理由で参加を見直すのであれば口裏を合わせる。その場合は連絡を乞う、そのまま参加なら返信不要・・・か。
「ビトー、ダン様は参加されるのかしら?」
「いえ、ダン様は参加されないとのことでした。それでも優勝は難しいのではないかと・・・」
「ビトーはシムウェルが勝てると思いますか?」
「・・・ディノスレイヤ領に行った事が無ければハイと答えましたが、今は解りませんとしかお答えが出来ません。アーノルド様が難しいと言われた以上・・・」
ビトーは断言こそしなかったがシムウェルが優勝出来ない可能性が高いという事がマルグリットにも理解が出来た。さてどうしたものかしら・・・
その場で考え込むマルグリット。
・・・
・・・・
・・・・・
「お嬢様、観覧についてもご報告がございます」
「どのような内容かしら?」
「観覧された後、泊まりの準備をしておけと。我々護衛にもゲイル様が釣って来られたマスをご馳走するから楽しみにしておけとおっしゃられました」
「ビトー、そんなに楽しみなのかしら?顔が笑ってましてよ」
ビトーはアーノルドが話した骨酒の事を思い出してついニヤついてしまったのだ。
「も、申し訳ありません。アーノルド様があまりにも美味しそうな説明をされたもので・・・」
真面目なビトーがこんな顔で報告してくるとは・・・。シムウェルが参加しなければ観覧する理由も無くなりますわね・・・
「ビトー、シムウェルに日程を伝えて頂戴。決勝戦は12月の5の付く日、予選はその3日前よ」
シムウェルには事前に参加を止めたが参加すると言ったのでこれ以上自分が止める必要もないかとマルグリットは自分に言い聞かせた。
どのような魚料理なのかしら?
ビトーのニヤついた顔を見て自分も食べたくなった事は心の中にしまっておいたのだった。
ーいつもの肉屋ー
「おっちゃん、魚持って来たよ!」
「お、本当に持って来てくれたのか?悪いな」
「こっちのが焼き魚用でこっちがカルパッチョ用」
「カルパッチョってなんだ?」
「これは焼かずにこのまま食べるんだよ。今は凍ってコチコチだから半分くらい溶けて少し柔らかくなったら薄く切ってオリーブオイルと塩掛けて食べて。一応味付けはしてあるけど」
「へぇ、そんな食べ方があるんだな。」
「オニオンスライスと一緒に食べるともっと美味しいからやってみてね」
ほーっと感心しきりのミート
「あとこれはプレゼント。絶対このまま飲まないでね」
「なんだいこれは?」
「蒸留酒よりもっと強い酒だよ。火のそばでこぼしたりすると燃えるから気を付けて」
「そんな危ないものなのか?」
「そうだよ。だから非売品なんだ。焼いた魚の骨をもう一度焼いて、熱い湯とこの酒を入れた所に入れて飲んでみて。奥さんとか甘いお酒が好きならジュースとかに入れてもいいし」
骨酒の説明をして鶏肉を買ってから森へ向かった。
「ベント、お前も馬に乗れるようになれよ。お陰でミーシャを連れて来れなかったじゃないか。これから毎日焼き鳥になるんだからミーシャが必要なんだぞ」
焼き鳥は好物だがこれから毎日食べることになるからな。毎回同じものでも平気なダンとミーシャがいないとヤバい。
ダンの前にベントが乗って、俺の後ろはシルフィードを乗せなければいけないからミーシャを連れて来ると3人乗りになって危ない。
「怖いんだから仕方がないだろ」
「うちの馬たちは賢いから落ちないように掴まってるだけだからやってみろよ」
うるさいなぁとかぶつぶつ言うベント。今日から森の小屋で焼き鳥の練習をさせてみることにしたのだ。
小屋に着いたらダンとシルフィードは身体強化しながらの稽古、俺はベントと売れる為の焼き鳥の研究だ。
俺の作った焼き鳥のタレは味噌の上澄みを使ったけど、商売に使うほど量が作れないので味噌ベースにする。蒸留酒も原価を考えると量を使えないのでどうするか考えなくてはいけないのだ。
「ベント、鶏肉はこのモモ肉ってのをベースにするから」
まず鶏肉のさばき方から教えていく。やったことがないベントは悪戦苦闘だ。
「じゃ、これを串に刺していくんだけど、商売でやるなら全部同じ大きさにならないとダメだ。俺のが小さいとかもめるからね」
ベントは串に肉を刺すが大きさが揃わない。さばき方にもよるが大きい小さいを組み合わせてバランスを取らないといけないのだ。
ベントに頑張らせながら俺はタレを試行錯誤する。砂糖も原価に響くから使えないしなぁ・・・。安価で甘くて手に入りやすいものだとリンゴジュースかブドウジュースか・・・
2種類のジュースとそれを混ぜた物、ニンニク入り、ニンニク無し、味噌の多い少ないなど複数作って番号を付けていく。
「ゲイル出来たぞ」
不揃いの焼き鳥が100本完成した。
「ベント、これが1本銅貨1枚で売れるとするだろ?100本で銅貨何枚になる?」
「ば、馬鹿にするなっ!銅貨100枚だ!」
お、ちゃんと計算出来てるじゃん。
「じゃ銀貨だと?」
えーっと銅貨10枚で銅板が1枚で・・・
「銀貨1枚だ」
「はいご名答!でもそれくらい計算せずに覚えとけ。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。じゃあ銀貨10枚ならこの焼き鳥何本買える?」
えーっとえーっと・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「千本・・・?」
「はい当たり。なんか計算に時間掛かってるけどどういう風に計算してるんだ?」
義務教育で算数習ってるはずだけどなんでこんなに時間がかかるんだ?
「学校で教えて貰った通りだぞ」
「どんな風に習うの?」
ベントは板切れに書いて説明していく。
お・・・・ぅ・・・
かけ算なのに頭の中でどんどん足していくんだ・・・。こんな教え方してたらそりゃ計算苦手になるわな。ある意味すげぇわ。
「ベント、屋敷に戻ったら俺が違う計算方法を教えてやる」
「何がダメなんだよ?」
「お前は悪くない。教えた奴が悪いんだ。気にするな」
なんだよそれとかぶつぶついうベント。
「ぼっちゃん腹減ったぞ」
もうそんな時間か。
「ごめん、今から炭の準備をするよ」
俺とベントは串に刺した焼鳥と番号札の付いたタレを持って外の焼き鳥台にむかった。
さ、炭に火を・・・・?
「ダン、普通火を点ける時ってどうするの?」
「火打石で燃えやすい物に点けてからだな」
やっぱりそうだよな。屋台で炭を使わせるつもりだったけど、火打石で炭に火をつけるなんてめちゃくちゃ時間かかるな。王都で薪なんか拾いにいけないだろうし・・・
「ベント、やること増えたぞ。お前火魔法を覚えろ。そうじゃないと屋台が出来ん」
「どういうことだ?」
「やってみりゃ俺の言った意味がわかるよ。取りあえず今日は俺が火を点けるから」
今日は俺が火魔法で炭に火を点けてタレの完成を目指す事に集中しよう。
そしてベントが真剣な顔で焼き鳥を焼く前でダンの腹の音と焼き鳥の焼ける音が不思議なメロディを奏で始めたのであった。
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