第278話 釣りとか色々 その2
ザクザクと蜆を採っていく。1年に1度しか獲らないから大漁だ。全体的にデカイし時々蛤みたいにもっと大きいの混じっているのが嬉しい。
「何やってるん?」
「蜆って貝を採ってるんだよ。晩御飯に食べさせてやるよ」
「ウチ魚いっぱい食べたいねん」
「魚も色々調理するよ。どんな食べ方が好きなんだ?」
「生でもええし、焼いてもええで」
「生だと寄生虫ってやつが危ないからな。似たような食べ方はさせてやるよ」
「今までも何回もそのまま食べたことあるけど何ともないで」
「運が良かっただけだよ。お腹の中が虫だらけになってお腹痛くなったり頭の中まで虫が入ったりするからな」
俺がそういうとサーッと血の気が引くミケ。
「まぁ今まで何ともないようなら大丈夫だろ。これからは勝手に生で食うなよ」
コクコクと頷くミケ。
「暇なら手伝え。この貝をこうやってここに並べていってくれ。重ならなければ適当でいいぞ」
「これは何の為にするん?」
「貝の中に砂が入ってたりするんだよ。こうやって砂から出して置いておくと自分で吐き出すからこのまましばらく放置するだけでいい」
「あんた何でもよう知ってるなぁ」
「ミケと違って頭がいいからな。もう計算は出来るようになったか?」
「字は読んだり書いたり出来るで」
「計算が出来るようになったかって聞いてるんだよっ」
目を逸らすミケ。
「ほ、ほら、バルのご飯って高いやろ?計算出来たら怖ぁてお勧めでけへんやん!?」
まぁレジは他の人がやるからいいか。
「困らないんなら別にいいよ。さ、昼飯に魚料理するからそこのイケスから出してくれ」
ミケはシャッシャッと魚を引っ掻けて外に出していく。見事だ。
魚をさばいて塩胡椒をしてからフライにしていく。お昼ご飯はフィッシュバーガーだ。朝作った玉子サンドの具を流用する。ピクルスもらっきょうも無いからタルタルソースとしては物足りないどね。
魔力が切れたシルフィードも稽古を止めて戻って来た。
「昼飯出来てるよ」
みんながつがつとフィッシュバーガーを食べる。
「ゲイル、生より断然旨いで」
調味料無しでそのまま食うより大抵旨くなるだろ。海の魚だと刺身にしたいけどね。
「ゲイル、シルフィードって凄いんだな・・・」
「稽古を見てたのか?」
「うん」
「シルフィードは必死だからな。皆の役に立ちたいとか自分の命を守るとか色々あるんだよ。やらされてる訳じゃないから上達も早いんだと思うよ」
「命を守る?」
「来年の春にダンと俺と3人でシルフィードの父さんを探しに行くんだよ。人里から離れた山奥に向かうから何に襲われるかわかんないからね」
「危険を犯してまで探しに行く必要があるのか?」
「シルフィードの生い立ちは知ってるだろ?昔の記憶も曖昧だからちゃんと自分の事を知りたいんだよ。自分の力で生きて行くために必要なんじゃないかな」
「そうか・・・。俺がしてやれることは何かないのか?」
「今は何も無いな。俺達もシルフィードを鍛えるのと自分を鍛えて守れるようになるくらいしか出来ないからな。ベントは将来ハーフエルフでも安心して暮らせる場所を作るのが一番いいんじゃないか?シルフィードは今でも耳隠してるだろ?今のうちの領でも不安なんだよ」
「安心して暮らせる場所・・・?」
「ハーフエルフだけじゃないぞ。ドワーフや獣人とか全ての人種が安心して暮らせる場所だ。お前昔おやっさん達に人間じゃないって言った事は今でもそう思ってるか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「ベントは辺境伯の息子だから意味も無く殴られたり嫌がらせされたりすることは無いと思うけど、誰も話し掛けて来ないんだろ?そんな学校楽しいか?」
「楽しくない・・・」
「ドワーフや獣人は人間からそういう扱いより酷い扱いを受けて来たんだよ。他の領だとまだそれは続いている。ハーフエルフはそれだけじゃなく命すら狙われるからな。獣人はずっと東の国だと奴隷になることが多いんだとよ。ミケはハーフ獣人でそこから逃げてきたんだ」
「奴隷・・・」
「それぞれ種族によって特色はあるけど、俺達と同じように食って、飲んで、笑って、怒って、寝て・・・。何も違いがないだろ?」
・・・
・・・・
・・・・・
「人間の中でも爵位がどうとか派閥がどうとか俺には下らなく思うんだよね。それより楽しくみんなで美味しいもの食って笑ってられる方がいいだろ?」
俺とベントが真面目な話をしている時に最後の1個のフィッシュバーガーをミケが食べたーっ!とか大騒ぎしていた。
「ゲイル、トンファーとハンマー、それと剣を作って頂戴」
こっちに来たアイナが突然そんな事を言い出した。
「何するの?」
「腹ごなしよ。ベントもいらっしゃい」
「えっ?」
「ダン、また同じ稽古をするんでしょ?」
「え、ええ・・・」
「私達も混ざるわ。はいドワンはこれね」
俺が作ったハンマーを有無を言わさずにドワンに渡した。
俺、知ーらねっ!
巻き込まれないうちにミーシャ達に手伝わせて残りの魚をせっせと処理して行った。
ふぅ、やっと終わった。今晩食べる分を残して冷凍しておく。
大きめのマスは全部軽くスモークしていく。これも大量だ。シルバー達も近くに来て魚をさばくの見ていたけど面白いのだろうか?
途中で何度かベントのぎゃーっと言う叫び声が聞こえたが気にしない。アイナがいるから問題ないだろう。
そろそろ夕方の釣りタイムとなり皆が戻ってくる。
トンファーもハンマーも剣も砕けちったらしい。どんだけ本気でやってたんだろ?
夕方の釣りもめっちゃ釣れたけどヌシがこっちに魚を誘導でもしてくれてるんだろうか?
晩御飯に様々な魚料理を作り、大人達はマスの骨酒を堪能していた。
こっそりと抜け出してまたいくつかの魚料理をお供えの様に森の中に置いてから風呂に向かった。
明日の朝、釣りして魚さばいて昼飯食ったら出発だな。湯に浸かりながらボンヤリとしていたらベントがやって来た。昨日で酔っぱらいは相手にしてはいけないと学んだのだろう。
「お前いつもこうやって抜け出してたのか?」
「そうだよ。あんなの相手してられないからね。ご飯作ったら俺の仕事は終了。あとは勝手にやってくれって感じだよ。あそこにいるとあれ作れとかキリがないからね」
ジャブっとベントも風呂に入ってくる。
「露天風呂って気持ちいいだろ?俺は特にこう寒い時期に入るの好きなんだ」
「確かに気持ちがいい」
「母さん達とどんな稽古してたんだ?」
「あんなの稽古じゃないよ。一方的にやられただけだ。母さんは俺だけじゃなくシルフィードも殴ったんだ。シルフィードは痛くて泣いてたんだぞ、可哀想に」
シルフィードもやられたのか。俺達はシルフィードにはそんなこと出来ないからアイナがやったんだな。
「なんで守ってやらなかったんだ?」
「俺ごと殴ったんだよっ!」
それは防ぎようが無い。
「そうか、きっと母さんはシルフィードにもマルグリットと同じ事を体験させたんだよ。やられる経験も必要だしね」
「だけどさぁ・・・」
「俺なんかこの前の護衛訓練で集中攻撃されたんだぞ。父さんに背中まで斬られてめっちゃ痛かったんだからな」
「お前は魔法でなんとか出来るだろっ?」
「そりゃそうだけど。そうだ、ベントにも魔法教えてやろうか?」
「僕にも魔法使えるってことか?」
「そうだよ。魔法って誰でも使えるんだよ。皆、使い方がわからないだけで」
「ほ、ほ、本当かっ?」
「ただ俺は詠唱を知らないから無詠唱魔法しか教えてやれない。ベントが無詠唱魔法を覚えたら色々な所から利用しようと変なやつが近付いて来たり、命を狙われたりするけどな。それでも良かったら教えるぞ」
「本当は教えるつもりが無いからそ、そんな脅しを言うんだろっ」
「脅しじゃないぞ。今日は居ないけど外に出るとどこからか監視されてるからな。居ないと言ったけど俺が気付いてないだけかもしれないし。まぁダンが何も言って来ないし呑気に酒飲んでるから大丈夫だと思うけど」
「今までそんな話を一言も・・・」
「ベントってさぁ、何でも聞きたがるけど自分の都合の悪い話とか想像出来ない話になるとシャットアウトして聞かなくなるだろ?だからこっちも何も言えなくなるんだよ。今回もシルフィードが来なかったら釣りにも来るつもりなかったんじゃないのか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「だけど釣りに来た事によってシルフィードの知らない一面も知れたし、俺ともこうやって話す事が出来たろ?今まで同じように知ったり体験するチャンスがあったのにお前はそれを自分で捨てて来たんだよ」
「う、うるさいっ!」
「な、都合が悪くなるとそうやってシャットアウトするだろ?昨日焼き鳥焼けって言ったのもからかったんじゃないぞ。領主や貴族の生活は平民の納める税金によって成り立っているけど、平民がどれだけ苦労して稼いでるか知らないだろ?」
・・・
・・・・
・・・・・
「学費は仕方がないとして、父さん達から結構な金額の小遣いもらってるだろ?話を聞いてると他の奴等より少ないかも知れないが同じ金額を自分で稼いでみたらどれだけ大金なのか理解すると思うぞ。自分で稼いで売上、経費、利益の計算。人々の暮らしや苦労とか視察するよりも体感した方が理解できるからな。護衛訓練と同じだよ」
「・・・焼き鳥なんて焼いてたら他の奴等に金が無いからバイトしてるとか馬鹿にされるじゃないか・・・」
「別に馬鹿にされてもいいんじゃないか?どうせ口もきかないような奴等だろ?こそこそ言われるような学生生活は辛いかもしれないけど、卒業したらきっと役に立つぞ」
「一人でやるのか・・・?」
「最初はそうだろうな。王都の庶民街なら貸し屋台とかあるんじゃないか?店持つのはリスクが高すぎるから午前中の授業が終わってからやればいいし、勉強で忙しい時はやらなくて済むし」
「・・・本当に出来ると思うか?」
「適正な値段で旨ければ絶対に売れる。食中毒とか衛生管理は絶対しないといけないけどな。本当にやるなら保管用のクーラーも作ってやるし、秘伝のタレの作り方とか教えてやるよ。屋台が流行れば領主コースの奴等は来ないだろうけど、他の学校の奴等が雇ってくれとか来るんじゃないかな」
「あら、仲良く二人でお風呂に入ってるなんて珍しいわね。お邪魔かしら?」
そう言いながらも服を脱ぎ出すアイナ
「か、か、母さん!?何するの?」
「何って?お風呂に入りに来たのよ」
あわあわしているベントに構わずじゃぼんと入ってくるアイナ。
「こんな歳で母親と風呂に入ってるやつなんていないからっ!」
慌てて出ようとするベントの腕をがっつり掴むアイナ。ベントの手がもげるぞ・・・・ いででででっ!
生身をつねられると非常に痛い。腕輪からピンクの光が出たじゃないか。
「こうやって一緒に入ることももう無いかも知れないからゆっくりして行きなさい」
そう言われたベントはあっちむいてまた湯に浸かった。
「で、何の話をしていたのかしら?」
「ベントの学生生活の話だよ。なんかつまんない学校みたいだね」
「そうなのベント?」
「母さん、僕アルバイトやってみたいんだけどいいかな?」
「あらお小遣いが足りないの?」
「そうじゃ無くて勉強の一環として」
「好きにすればいいわ。何やるの?」
「屋台をやろうと思う。」
「屋台・・・?」
ベントは俺との話をアイナに話した。屋台をすると決めたベントにアイナはとても嬉しそうだった。
「はぁ、長湯でのぼせちゃったから上がるよ。母さん達はどうする?」
ベントものぼせたらしく風呂から出る。アイナはもう少し入ってるわとの事だったので熱い湯を足しておいた。
ベントと二人でスポドリを飲んで寝に行くことに。
俺は湯冷まし代わりにシルバー達の様子を見てから寝る事にした。
フンフンフンと嬉しそうにするシルバー。
「明日の昼に出発するからちゃんと休んでるんだよ」
満足するまで撫でてやってから部屋に向かうとミケがやって来た。
「ゲイル、風呂にお湯いれてや」
ミケは酒よりも魚だったみたいで昨日ほど飲んでいないみたいだ。
大部屋に行って風呂にお湯を入れていく
ふんふん♪とご機嫌なミケは服を脱ぎ出した。
「もうすぐお湯入れ終わるからまだ脱ぐな」
まったくもう・・・どいつもこいつも恥じらいを持てってんだ。露天風呂は真っ暗だが大部屋は灯りが点いているので丸見えだ。
「さ、お湯入ったぞ」
「えいっ!」
ジャボンっ!
「な、何すんだお前っ!」
服を着たままの俺を風呂に突飛ばしやがった。絶対押すなよとか言ってねーだろ!
慌てて出ようとするとシャッと服を引っ掛けられてまた風呂に落とされる。
ブクブク・・ ブハッ
「やめろ言うてるやろっ!」
「あっれー?ウチみたいなしゃべり方するやん、その方がええわ。ほら服着たまま風呂入ったらあかんで」
「やめっ やめっ 服を脱がすなっ」
ぷにょん
・・・
・・・・
・・・・・
「うっわ、ゲイル、ちっこいのにスケベやなぁ」
服を脱がそうとするミケを振りほどこうとした手が胸を触ってしまったのだ
「ち、違っ!事故だ事故っ!」
「まぁえぇわ、ウチの胸がどんな感触やったかゆっくり聞かせて貰うわ」
「だからやめろーーー」
また触ってしまうかもしれないと思うと思うように抵抗が出来ず服を剥ぎ取られてしまった。
「お前、子供相手とはいえ恥じらいを持てよっ!バスタオルくらい巻けっ!」
「ええやん、もうチチ揉まれた仲やねんから」
そう言ってしっぽで顔をぺしぺしするからしっぽをぎゅって掴んでやった。
ふぎゃっ!と大きな声を出すミケ。
「や、やめやっ!しっぽはあかん」
ミケの弱点はしっぽか・・・ふっふっふっ
「なんやその笑顔は?やめや、ほんまにしっぽはあかんて・・・」
「俺を風呂に突き飛ばして服を剥ぎ取った罰だ!ミケ、覚悟しろ・・・?」
「あーっ!ゲイル君がミケと二人で風呂にはいってるーっ!」
今の声を聞き付けてドヤドヤと女性陣がやって来やがった。
ミーシャはなんの抵抗も無くいそいそと服を脱いで入ってきた。ミサも服を脱ぎだし、シルフィードはバスタオルを巻いて来た。
「今日はみんな一緒にお風呂ですね」
「ミーシャ、頼むから上がらせてくれ。もうとっくにのぼせてるんだよ・・・」
「はいお水です」
シルフィードはニッコリと笑って俺に水を渡してきた。
「いや、飲むけどそれよりもう上がらせて・・・」
酒の臭いのと湯当たりでボーッとしてくるけどきゃっきゃっ笑うだけで誰も俺の言うことを聞いてくれない。ダメだ。このままでは素っ裸で倒れてしまう・・・。アイナがもうすぐ戻ってくるはずだからそれまで耐えろっ!
「あれ?アイナは風呂入って寝るとか言っておらなんだか?」
「なんだか子共達が楽しそうにお風呂に入ってるのよ。邪魔しちゃ悪いわ」
ドワンから骨酒を渡されたアイナは飲みながらさっきのベントの話をする。
「へぇ、ベントがねぇ」
「ゲイルが色々とベントと話したみたいだわ」
「ベントはこの前の護衛訓練も、さっきの稽古も何度殴られても止めなかったし根性付いて来たな」
「そうね、ちゃんとシルフィードを守ろうとしてたわね」
「子供は急に成長する時があるみたいじゃしの、今がそうなんじゃろ。今日みたいに色々と体験させてやるとええ。屋台なら失敗しても取り返しつくからの。好きにやらせてやれ」
「ええ、そのつもりよ」
「なら、休みの間バルで焼き物の手伝いさせてやればいいんじゃないか?おやっさん達がそれ食べて問題無しなら客に出せるしよ」
それいいわね、そうしましょと大人達の間で話が付いて行った。
ゲイルはいつまで経っても戻って来ないアイナを待ち続けて意識を失ってしまったのだった。
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