第275話 釣り(アーノルド抜き)
アイナとベントがブランに乗り、俺はミーシャとシルバーに、ダンはクロスに乗って商会へと向かった。馬車は商会のいかれたデザインの奴で行く。
ぽこぽこと商会へ到着するとみな外で待っていた。
「あれミサも行くの?店は?」
「ミケとシルフィードも行くのに私だけ置いてかれるの嫌じゃん。オープンしてから休み無しだったからちょっとくらい閉めてても大丈夫」
ミサの店には仕入れの為休みます、と張り紙がしてあった。この嘘つきめ。
「ミーシャ、馬車がいっぱいだからこのままシルバーに乗ってる?それとも誰かと替わる?」
「あ、それなら私がゲイル様と馬に乗ります」
と、シルフィードがミーシャに馬車にどうぞという感じで言う。
「シルフィードさん、大丈夫ですよ。このまま私がぼっちゃまと馬に乗りますから」
ミーシャはシルフィードの申し出を断った。こうやってミーシャと馬に乗るのも久しぶりだったからかもしれない。
ブランとウォッカを馬車に繋いで出発だ。御者はドワンがするらしいので俺達が先頭を歩く。ドワンに先に行かせたら飛ばすからな。
「今日の夜に湖に到着して、明日の朝から釣りをする予定で行くから。途中で日が暮れたら予定変更ね」
ドワンにそう伝えて出発した。
ースカーレット家王都邸ー
「旦那様、お願いがございます」
「なんだシムウェル?」
「ディノスレイヤ領で開かれる闘技会に参加させて頂けないでしょうか?」
「マリから聞いたのか?」
「はい、私を推薦して下さったと伺いましたので」
「お前らしくもない。田舎領の闘技会なんぞお前が出たら話にならんだろ?優勝しても名誉にも何もならんぞ」
「はっ、それは承知しております」
「どうせ参加するのは冒険者どもばかりだろ?相手にするだけ無駄ではないのか?」
「いえ、ディノスレイヤ領に我が領の力を示しておくのも悪くはないかと思いましたもので」
「我が領を代表していくなら負ける事は許さんぞ」
「承知しております」
「なら好きにしろ」
コンコンッ
「どなたかしら?」
「シムウェルでございます」
「お入りなさい」
「お嬢様、領主様より闘技会への参加の許可を頂きました。付きましてはどこに申し込みをすれば良いか伺いたく」
「あら、本当に参加するのね。いいわ私から手紙を出しますから、先方から返事があれば伝えますわ」
「お手数をおかけ致しますが宜しくお願い致します」
「シムウェル、一つ聞いておきますけど個人的に参加するのかしら?それともスカーレット家の代表として参加するのかしら?」
「勿論、スカーレット家の代表として参加致します」
「あら、それなら止めておいた方がいいわよ。お父様から負ける事は許さないと言われなかったかしら?」
「はい負ける事は許さないと申し付けられましたが問題ありません。止めておけとはどういった意味でしょうか?」
「そのままの意味よ。私は個人的に参加して貰えばあなたに取って良い経験になると思ったから推薦したのだけれども、家を代表するならお止めなさい。あなたの経歴に傷が付きますわ」
「私が負けるとでも・・・?」
「そうね、アーノルド様は出場されないと思いますけど、ダン様が出場されるなら勝ち目はありませんわ。あと野蛮なお兄様の姿が見えませんのよ」
「ジャンバック様も参加なさると?」
「それは存じませんわ。私は姿が見えないと申し上げただけですもの」
・・・
・・・・
・・・・・
「お嬢様、お気遣いは感謝致しますが、参加の手紙を宜しくお願い申し上げます」
「そう、では手紙を出しておきますわ」
退出したシムウェルは怒りに身体が震えていた。王都の闘技会ならともかく、たかが田舎領の闘技会に優勝出来ないだと?筆頭護衛の腕をなめるなっ!と心の中で大きく叫んでいた。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「ビトー、この手紙をディノスレイヤ家に持って行って下さらない?」
「招待状でございますか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「いえ、お詫びの手紙と闘技会への参加申し込みですわ。こちらから誘っておいてお断りの手紙ですので直接届けて頂きたいの」
「えっ?お断りですか・・・?」
「お父様の政治的判断って所かしら?本当に残念だわ・・・」
「お嬢様、実は帰る前日にゲイル様より我が領の改善案を説明して頂いたのですが私には理解し難く、こちらにいらした際に領主様にお話し頂ければと思っていたのですか・・・」
「どのような改善案かしら?」
「不作を防ぐ方法です。来年以降新しい作物の種を流通させるからそれらを組み合わせて不作を防ぐという内容でした」
「それはとても大事ね。では来年の夏休みにディノスレイヤ領に伺えるかお願いしてみましょう」
「ゲイル様は来年冒険に出るらしく、いつ戻ってくるか分からないとおっしゃられてましたので無理かと」
「冒険に・・・。ビトー、手紙を書き直しますので少し待って頂戴」
断りの手紙を出すのも心が重かったのに、厚かましくも闘技会の観覧希望までお願いしなければいけない。しかし、不作の改善案はどうしても聞いておかねばならないとマルグリットは思った。
「ではビトー、こちらを」
手紙を受け取ったビトーは明日の朝ディノスレイヤ領に向かう事にした。
ー釣りに向かうゲイル達ー
「おお、寒っ!ミーシャ寒くないか?」
「はい少し寒いです」
「ダン、ちょっと休憩しよう。寒過ぎる」
相変わらずぼっちゃんは大袈裟だなとダンは言うが、お前と違ってこっちは毛皮着てないんだよ。
去年より少し早めの時期に出発したのに物凄く寒い。
休憩だけど火をおこしてスープを作る。暖まるようにカレースープにした。
「はー、温まりますねぇ」
ミーシャも幸せそうだ。
「ミーシャさんそんなに寒いのなら替わりますよ?私は寒さに慣れてますので」
「シルフィードさん大丈夫ですよ。私はぼっちゃまのメイドなので」
「そうですか・・・」
ミーシャにそう言われたシルフィードは引き下がった
「ミーシャ、裁縫道具持ってる?」
「ありますよ。何するんですか?」
こうやってここをこうと2枚の毛布を簡単に縫い合わせて貰った。その毛布でミーシャの足元までくるみ、二人がすっぽり中に入るようにした。
これで大丈夫。寒くなってきたら時々温風を循環させれば良い。
「わぁ、あったかいですぅ」
「だろ?ダンは毛皮があるから平気みたいだけど俺達は毛皮が無いからな」
二人でダンを見ながらキャッキャ笑ってそんな話をしていた。
「なぁ、ゲイルってミーシャとおる時はあんな顔で笑うんやなぁ。ウチには怒った顔しかせえへんで」
「ミケ、ミーシャはゲイルが生まれた時からずっと一緒にいるのよ。ゲイルがなんか色々やりだしてからは別々にいることが増えたけど、それまでは寝る時以外はずっと一緒に居たわね。私より一緒にいる時間が長いわ」
「へー、そうなんや」
「森の小屋があるじゃろ?あれは元々ミーシャの為に坊主が作ったんじゃ。狩りには連れて行けんからミーシャが留守番してても安全なようにな」
ミゲルと御者を交代したドワンが過去の話をした。
「そうだったんですか?」
「出来たばっかりの小屋の内装を決める二人は新婚夫婦みたいにキャッキャ言いながら楽しそうにやってたわい」
「ゲイルはミーシャを嫁さんにするつもりなんかな?」
「えっ?ゲイル君とミーシャちゃんってすでに許嫁同士なのー?」
「さぁどうかしらね?ミーシャはメイドだけどうちの娘みたいなものだし二人がその気なら反対はしないわ」
えーーーーっ?っと女性陣の大声が聞こえてくるけど何話してんだろ?
あと少しで森というところで日が暮れてしまったけどライトを点けてそのままいつもの場所まで進む事にした。
女性陣は大部屋が良いと言うことなので一部屋の小屋で風呂つき。男性陣はイビキがうるさいので個室だ。
シルバー達の小屋に毛皮を入れて草も生やしておき、持ってきたライトをセッティングして完了だ。
バーベキューの準備を済ませてかんぱーい!
やっぱり外で食べる肉って美味しーとかミサとミケがはしゃいでいる。半分が女性だとめっちゃ賑やかだ。おとなしいシルフィードも大きな声で笑って食べている。そんな女性陣の迫力におろおろするベントを見ているのは面白い。
「ぼっちゃま、おいひでふね」
「ミーシャはあっちに加わらなくても良いのか?」
「はい、ぼっちゃまとこうして一緒に食べるのもひしゃしぶりなの・・・ムグムグ」
そうだよなぁ。遊びの時以外は別行動になってるからな・・・ しかし、しんみりと話しながら食うのを止めないスタイルは好きだぞ。
ーディノスレイヤ邸ー
「恐れいります。どなたかおられますか?」
「はい、どのようなご用件でございますか?」
セバスは日が暮れてからやって来た男性に警戒しながら対応した。
「失礼致しました。私はスカーレット家で護衛をしておりますビトーと申します。先日はお世話になり誠にありがとうございました。」
「おやおや、何かお忘れ物でもございましたかな?」
「いえ、マルグリットお嬢様からの手紙を届けに参りました。こちらをアーノルド様にお渡し願います」
「これはわざわざご丁寧にありがとうございます。どうぞ応接室にてお待ち下さい」
ビトーは遠慮しようとしたがなぜかセバスの言葉に逆らえなかった。
「おう、ビトーどうした?」
膝を突いて挨拶をするビトー。
「そんな畏まるな、取りあえず椅子に座れ」
はっ、と返事して椅子にかけるビトー。
「こちらはマルグリットお嬢様からの手紙でございます」
「わざわざ持ってきてくれたのか。大変だったな。これを渡す時のマルグリットは渋い顔してただろ?」
「内容はお分かりなので?」
「招けなくなってごめんなさいだろ?嬢ちゃんが招待するって言った時に断ってやりゃ良かったんだがな、それも変かなと思ったんだよ。嬢ちゃんには気にすんなと言っておいてくれ」
「何もかもお見通しでしたか」
「俺は成り上がりの田舎領主だからな。逆にこれが招待状なら驚いてたぜ」
そう言ってはっはっはっはと笑うアーノルド。
「誠に申し訳ございません。あとこちらは当家より闘技会への参加の申し込みでございます。」
「お前が出るのか?」
「いえ、筆頭護衛のシムウェルと申す者です」
おちゃらけた雰囲気から急に真剣な顔をするアーノルド。
「お前、当家からの参加と言ったな。ということは個人的な参加じゃないんだな?」
「詳しい事は分かりかねますのでお嬢様からの手紙をお読み頂ければと・・・」
そう言われたアーノルドは手紙を読んではぁーっとため息を付く。
「ビトー、シムウェルってやつは貴族か?」
「はい、そうです」
「こいつが負けたらどうなる?」
「アーノルド様かダン様が参加されるのでしょうか・・・?」
「俺は主催者だから当然出ないがダンも出さん。面白味がなくなるからな」
「では他の方でもシムウェル様より強い方が参加されると・・・」
「あぁ、シムウェルってのがどれくらい強いかしらんが、中々腕のある奴が出て来る。かなり優勝は難しいぞ」
「そうですか、しかし私には止める権利も何もございませんので」
「そりゃそうだな。あと見に来るのはマルグリットだけか?」
「はっ?見に来る?」
「ほれ、決勝戦を観覧したいと書いてあるぞ?」
「い、いえ初耳です」
「そうか、じゃあ手紙を書くから持って行ってくれるか?」
「はい、ではお待ちしております」
「何言ってんだお前、帰るのは明日の朝だろ?今から俺に付き合え。ゲイルの野郎俺を置きざりにしてみんなで釣りに行きやがったから俺一人なんだ」
「釣りに・・・?」
「そうだ。ほらさっさと食堂へ行くぞ」
え?あのあの・・・と訳もわからずアーノルドに無理矢理引きずられていくビトーであった。
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