第274話 思い立ったが吉日

「え?明日?」


「いつでも良いと言ったじゃろが」


そりゃそうだけどさ・・・


取りあえず屋敷に戻ってアイナに明日行くことになったと伝えてからブリックにもパンを焼いておくように伝えた。



次は肉屋だ


「ぼっちゃん久しぶりだな」


「今日うちにソーセージとベーコン届けてくれる?それと焼き肉用の肉も。一部は今持って帰るから」


ダンがタンとシマチョウも食いたいというからそれも追加。


「ずいぶん買うけどまた飲み会でもするのか?」


「明日から釣りに行くんだよ。魚ばっかりでも飽きるからね」


「お、釣りか。いいねぇ。何釣るんだ?」


「マス釣りだよ。おっちゃんも魚食べるならお土産に持ってくるけど」


釣れたらだけどねと注釈しておく。


「マスかぁ。その場で食うと旨いんだが持って来るまで時間が経つとそんなに旨くねぇだろ?」


「むこうで処理してから冷凍するから大丈夫だよ。それなら食べる?」


「なら頼むわ。たくさん釣れるといいな」


だんだん身内みたいになってる肉屋のミート。こうやってしゃべってる時にも客足は途絶えず繁盛している。



ようやく森の小屋に到着してシルフィードの剣と魔法の訓練をしていく。


午前中の稽古を終えて昼飯だ。ダンが塩タンでネギを巻いた物を頬張りながらシルフィードの稽古について話し出始める。


「ぼっちゃん、シルフィードに闘気は教えねぇのか?」


「身体強化か。そう言えばやってなかったね。走る事も多くなるだろうしやった方がいいけどどうやって教えようか?」


俺は身体強化してるのが目に見えるから理解しやすかったけど、シルフィードは理解出来るだろうか?罠に掛かったボアを倒す時にシルフィードに身体強化したきりだしな。


「ゲイル様、闘気ってなんですか?」


「身体の身体能力を魔法で強化するんだよ。力も強くなるし動くスピードも上がる。罠に掛かったボアをシルフィードが初めて仕留めた時にやったことあるんだけどね」


シルフィードは自分に身体強化魔法を掛けられた事を理解していなかった。魔法が使えなかったアーノルドやダンが自然に使えるようになっていたのは常に戦いの中で生きて来たからだろう。ミゲルとかは重いものを運ぶのにいつの間にか知らずに使っていた。どちらも必要にかられて集中した結果なのかな?魔力はだれでも持ってるからそれを何に使うかだけだし・・・


「ご飯食べたらやってみようか?」


取りあえずシルフィードに身体強化魔法を流して感覚を覚えてもらおうとするがいまいち解らないみたいだ。強化されててもその力を使わないとダメみたいだな。土魔法でバーベルを作ってみるか。


まずは自力でどれくらいの重さのバーベルを持てるか確めてみる。これでだいたい30キロぐらいかな?


「シルフィード、これ持ち上がる?」


シルフィードはバーベルを持ってふぬぬぬぬぬっ!と力を込める。こんなシルフィードの顔見たことないな。ちょっと面白い。


バーベルがふっと持ち上がって胸のところまで上げた所でどすんとバーベルをおろした。


ハァハァハァ


「なんとか持ち上がりました。」


まだいけそうだな。10キロ程重くしてみる。


またもやふぬぬぬぬぬっとやる。持ち上がったけど胸の所までは上がらない。


もう10キロプラスすると地面から浮くかどうかの所で限界を迎えた。


「もう上がらなさそう?」


「あの、もう握る力が入りません・・・」


回復魔法を掛けてやり直しても結果は同じだった。


「この重さが今のシルフィードの限界だね。でも身体強化魔法を覚えたら軽々上がるようになるから」


と言われても信じられないシルフィード。


もう一度バーベルを持たせてシルフィードに少しずつ身体強化魔法を流す。


「ゆっくりと持ち上げて。いきなり力入れちゃダメだよ」


ふぬっ!と力を込めるとくっとバーベルが持ち上がる。


「はいそのまま持ち上げて」


ふぬぬぬぬぬっ


膝の所まで持ち上がったので一旦下ろす。


「身体強化したら持ち上がっただろ?」


「はい、さっきより軽くなりました。」


「俺から魔力流れてたのはわかった?」


「はい、でもそれがどうなってるかはわかりません」


そうか、火や水とか分かりやすく目に見えないしな。思いきってもっと重いバーベルでやってみるか。


100キロくらいまで大きくしたバーベルを作ってシルフィードに見せたら無理無理無理ってなった。


「これでやってみるから」


シルフィードはふぬぬぬぬぬっと試すがびくともしないバーベル。そのまま力をいれさせたまま身体強化魔法を流す量を増やしていく。


するとずずっとバーベルが上がり始めた。どんどん流す量を増やして行くとバーベルが持ち上がった。


えっ?えっ?えっ?と驚くシルフィードに少しずつ魔法を流す量を減らすとバーベルがどんどん重くなっていく。


「シルフィード、今少しずつ身体強化魔法の流す量を減らしてるから減った分を自分の魔力で補って!魔力を込めながら力を入れるんだ」


ふぬぬぬぬぬっと力を込めるシルフィード。少しずつ身体から金色の光が出始めた。


「いいよ!その調子で」


金色の光が強くなっていった所でフッと消えてしまった。ガクンとバーベルが勢いよく落ちそうになる。


やべっ!自分の魔力を減らしつつあったのでバーベルが落ちてしまうっ!


と思った時にダンがバーベルを掴んだ。


「ぼっちゃん、こんなの落としたら危ねぇぞ」


ひょいとバーベルを横に置くダン。あんた光って無いところを見ると強化してないよね?


熊の力恐るべし。


その場にぐったり座り込むシルフィード。


「す、すいません。いきなり魔力が無くなって・・・」


初めて使う身体強化魔法に一気に魔力を持っていかれたのか。シルフィードは制限が掛かってるだけで実際に魔力が0になるわけじゃないから魔力0でも気を失うことはない。


「ごめん、こんなに一気に減るとは思ってなかったんだよ。でも身体強化魔法が使えるのは解ったね。次は安全な方法を考えるよ」


魔力回復と体力回復を兼ねてシルフィードを休憩させながらダンと方法を考える。


「ダンが二人居たら解決するんだけとね。分身の術とか使えない?」


「出来る訳がねぇだろっ。それになんだよ術って?」


「いや、別に・・・。ダンがシルフィードの正面に立ってダンベルに手を添えててくれる?落としそうになったら掴んでくれたらいいから」


俺のイメージはバーベルの両方からサポートする筋トレのイメージだったけど、よく考えたらダンなら一人でいけるじゃん


「ダンベルってあの錘の付いた棒のことだな?それで良いぞ」


それからしばらくシルフィードの魔力回復を待って同じ訓練を続けた。



「明日は釣りで出掛けるし、この辺にしておこうか。シルフィードも身体強化魔法が解って来たようだし」


「はい、でもこんなに魔力を使うものなんですね」


「使ったこと無い魔法だから最適化するのに時間かかるかもしれないね。使い続けてたら慣れるよ」


少し早いけど俺達は屋敷に戻る事にした。



帰りにバルに寄ってシルフィードの荷物を取りにいく。マルグリットが帰ったから屋敷に戻って貰うのだ。


「なんやシルフィードはここからおらんようになるんか?」


ミケが荷物を取りにきたシルフィードに尋ねた。


「はい、お世話になりました。今晩から屋敷に来るように言われたので」


「なんや寂しなるな。せっかくミサと3人で楽しかったのに。ドワーフ、ハーフ獣人、ハーフエルフ。こんな人種がそろうとこなんてあらへんで!ここにおりーな」


「えっ?でも・・・」


「なんや、うちらよりゲイルと一緒におりたいんはわかるけどなぁ」


そう言ってニヤニヤするミケ。


シルフィードはここの暮らしが楽しいのは確かだった。離れるのも寂しい気がする。しかし屋敷でミーシャとも話をしていたい。


「ちょっとどうするかゲイル様と相談してみます。取りあえず引っ越すのは釣りから帰ってからにします」


「釣り?釣りって魚釣りのことか?」


「そうですよ。湖まで行ってマスを釣って食べるんです」


「なんやそれっ?ウチも行くっ!」


「え?お仕事は・・・?」


「休めるか聞いてくるっ!」


ドタドタっと下に降りていくミケ。


シルフィードはゲイルのところに向かった。


「あ、あの、ゲイル様。引っ越すのは釣りから帰って来てからでもいいですか?」


「良いけどどうしたの?」


「ミケさんに釣りに行く話をしたら一緒に行くと言い出して、休めるか聞いて来るって走って行ったんです」


「ミケが付いて来るのか。チュールが許可するなら別に良いけどね」


バルからチュールが出て来た。


「ゲイルさん、ミケが休みたいと言って来たんですがどうしましょうか?」


「チュールがいいなら別にいいよ。店は大丈夫?」


「はい、あれから人も増やしましたのでミケが居なくてもなんとかなります。まぁ売上が少し落ちるかもしれませんが」


そう言って笑うチュール。お勧め上手なミケはかなり売上に貢献しているらしい。


「よく働いてくれてますのでご褒美に休みを与えますので宜しいですか?」


「責任者はチュールだから俺の許可は必要ないよ。じゃあミケを連れて行くね。たくさん釣れたらお土産に持って帰ってくるから」


楽しみにしていますとチュールは笑顔で返事をした。



えーっとこれで9人か。馬車の客室に6人、御者台に1人、俺とダンが馬だからギリギリだなぁ。


明日迎えに来るねとシルフィードに伝えて屋敷に戻った。釣りの準備をせねば・・・

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