第271話 マルグリットが来た 完結

「お、おまっ何言うてんねんっ!」


あ、思いっきり関西弁が出てしまった・・・


「なに慌てとるん?冗談やんか。みんなもそない怖い顔せんとってや」


「くだらん冗談言うなよ。それに俺が結婚とかないからっ!」


「あら、私を弄んだのかしら?」


マルグリットまで・・・


「とにかくっ!みんな早く追加注文して。ミケ、おれはマルチョウの味噌煮込みとご飯、ネギ多めで」


「ご飯にかけとく?」


「別々にしといて」


(シルフィード、ゲイルはモテモテやな。まごまごしてたら盗られるで。なんやミサも狙っとるみたいやし)

(わ、私はそんな・・・)

(あのお嬢様もえらいべっぴんさんやしなぁ)

(えっえっ?)

(ほな頑張りやぁ)


ミケ、全部聞こえてるぞ。



そのあと味噌煮込みでご飯を食べながら護衛達の個別訓練方法とかワイワイと話しながら食事を終えた。



「こんな庶民向けの店なのにゲイルの屋敷と同じようなご飯が食べられますのね。ここの領はみな料理がお上手なのかしら?」


マルグリットは馬に乗りたいと言い出して俺の後ろにいる。スカートなのにいいのだろうか?ベントも一人で馬車に乗るのはなんなのでアーノルドと乗っている


「あそこは父さん達とパーティーメンバーだった人が経営する食堂でね、レシピ売ったんだよ。コックも一人王都から来てくれたからラッキーだったね」


「ゲイルのレシピに王都のコック?そんなの庶民が食べられるような値段では無理でしょう?」


「他の店より3倍くらいに高いからね、それでも稼いだ冒険者とかで結構流行ってるよ。高い酒を飲むともっとビックリするような値段になるけどね」


「じゃあ先ほどアーノルド様は金貨2枚とかお支払いされたのかしら?」


ぶっ!金貨2枚って200万円だぞ。そんな高いわけ無いだろ・・・。通常ならあの人数で銀貨20枚くらいだ。蒸留酒を結構飲んでたみたいだから銀貨4~50枚くらいか?


「金貨2枚ってどんな高級レストランだよっ!普通なら銀貨20枚くらい、高い酒が結構出たみたいだから銀貨40~50枚ってとこじゃないの?」


「えっ?あの人数でそんな値段なの?」


「一人銀貨2枚くらいなんてめちゃくちゃ高いよ」


「最新のお料理と高級酒ですわ。うちの領ですと高級酒1杯で銀貨4枚くらいしますわよ」


東の辺境伯領までだと運送料も必要だし、複数の利益と税金かかるからそんな値段になるのか・・・


バルだとシングルで銅貨50枚、ダブルで銅貨80枚くらいだからな。これでも死ぬほど高いと思ってたけどシングルで4万円とかなんだよその値段・・・


「そんなにするんだね。まぁうちは税金も安いし、バルと蒸留酒の卸元が同じ商会だからマリさん所と比べるのは間違いだね」


「そうでしたの・・・」


東の辺境伯領の物価は王都と同じか物によっては高いらしい。遠くから物価の安いうちの領まで商人が買い付けに来るのは当然か。


ベントが他のクラスメイトと感覚が違うのは貴族のしきたり以外に物価感覚の違いも大きいんだろな。



シルバーは馬に乗り慣れないマルグリットにあわせてそーっと歩いてくれたのでマルグリットも怖がる事無く屋敷にまでたどり着いた。


俺はそのままビトー達のキャンプに行き風呂を作る。


「ゲイル様、毎夜ありがとうございます」


「みんな結構飲んでたみたいだけど大丈夫?」


「自分を見失う程飲んでおりませんので大丈夫です。しかしあの蒸留酒というのは旨いですなぁ。あんなガツンと来る酒を飲んだのは初めてです。なぁお前達!」


「はいっ!」


全員が大きな声で返事した。


「東の辺境伯領で飲むとずいぶん高いみたいだね。1杯で銀貨4枚とかみたいだから飲める人ほとんどいないよね」


「ぎ、銀貨4枚・・・? そこまで高い酒とは知らずに、も、申し訳ありませんっっっ!」


「いやいやいやいや、うちの領だとそんなにしないから。あそこは蒸留酒の卸元と同じ商会の飲み屋だからね。レシピもうちのを渡してあるから皆が思ってるほど高くないよ」


「ち、ちなみに通常ですとどれくらいの値段なのでしょうか・・・?」


「エールやワインだけ飲んでご飯食べたら一人銅貨5~60枚くらいじゃない?蒸留酒が1杯銅貨50枚、濃い方で80枚とかだから」


「えっ?あの料理がそんな値段で食べられるのですか?」


「もっと安くてもいいんだけどね、他の店に影響出ちゃうから高く設定してあるんだ」


「なんと羨ましい・・・。飯も酒も税金も安くて尚且つ信じられないくらい旨い。しかも治安が良く他国からの脅威にもさらされていないなんて・・・」


「まぁ、魔物はたくさんいるけど冒険者が討伐してくれるから地理的には恵まれてるよね」


「わが領の民がこちらへ移住していくのは当然ですな」


「あ、知ってるの?」


「はい、不作が続いた村がいくつか無くなったとは聞いております」


「あれね、連作障害ってのが出てるんだよ。同じ作物を同じ場所で作り続けると作物が育たなくなるんだ。本来はもっと土地を開拓して、順番に何も作らずに土地を休ませる必要があるんだよね。天候とかの影響もあるけど」


「土地を休ませる?」


「そう。作物によって必要な栄養が違ってね、同じ物を作り続けるとその栄養がなくなっちゃうんだよ。だから違う栄養を必要とする作物を植えるんだ。後は失った栄養を肥料で補給してやるとよく作物が育つようになるし」


「ゲ、ゲイル様、私には難しくて何が何の話かよくわかりませんのでマルグリットお嬢様にその話をして頂いても宜しいでしょうか?」


「別にいいけどマリさんも解るかな?農業とか知らないよね?」


「そ、そうですな」


「再来年には新しい種を流通させることが出来ると思うからそれを植えろとかの方が簡単かもしれないね」


「新しい種?」


「そう米とトウモロコシって言うんだけどね、うちも今増やしているところだからまだ種を流通させられてないんだよ。米は水田っていって普通の畑とは違うからほとんど連作障害もでないし」


「いやはや、魔法の凄さにも驚きましたが、そのようなゲイル様の知識があるからこそ急速に発展しているのですな」


「誰もが美味しい物を食べられるのが理想だからね。来年の夏に視察に来てもらったら色々見てもらえるんだけど、俺がその頃いないと思うんだよね。」


「どちらかに行かれるのですか?」


「ちょっと冒険にね。どれくらいの期間になるのかわかんないんだ」


「ほう冒険ですか。冒険者の子供はまた冒険者なのですな?」


「そうかもしれないね」


そんな会話をしながら風呂を作って皆順番に入ってもらった。


屋敷に戻った後にミーシャにスポドリをキャンプに持って行くようにお願いしておいた。




「とてもお世話になりましたわ」


翌日マルグリットは王都に戻る事になった。


「マルグリット、また学校でね」


「はい、ベント様。また学校で」


「また良かったらいつでも遊びに来てくれ。歓迎するぞ」


「アーノルド様、そのお言葉本気にしますわよ」


もちろんだとアーノルドとアイナが返事した。


「ゲイル様、次に王都にいらっしゃるのはいつ頃かしら?」


「んー、ベントが学校に戻る時に一緒に行くかも」


「あら、じゃあ早めにいらして。王都の屋敷に招待しますわ。戻りましたら招待状を送りますわね」


「あ、うん・・・」


辺境伯の王都邸・・・。面倒臭そうだなと曖昧な返事をしておいた。


「ぼっちゃん、こいつは馬車に積めばいいのか?」


ダンが酒樽を持ってきた。朝イチで買って来てもらったのだ。


「ビトーさん、これ馬車に積める?」


「これは?」


「蒸留酒だよ。戻ったら護衛の皆さんで分けて。他にもいるんでしょ?」


「な、なんとこのような貴重な酒を我々に・・・」


「あらゲイル、いいのかしら?」


「マルグリットさんにはこれを」


ミサの作ったバレッタを渡す。


「まぁ、綺麗・・・」


「うちの領の職人が作ったものでそんなに高価なものじゃないけど普段使いにどうぞ」


「これは婚約の贈り物かしら?」


「ただのお土産だよ。普段使いって言ったじゃん」


辺境伯令嬢に贈るものとしてはショボいが部屋に居るときとかに使えばいいだろう。4歳児が10歳の女の子にお土産で渡すには十分だ。普通はどんぐりとか松ぼっくりとかだからな。


「ふふっ、大切に致しますわね」


こうしてマルグリット達は護衛に守られながらゆっくりと帰って行った。



ディノスレイヤ領は楽しかったですわね。あんなに普通に接してくれるなんて初めての経験でしたわ。それに投げ飛ばされたのも・・・


帰りのおやつと言って渡されたプチシュークリームを口に入れながら貰った髪飾りを眺めてディノスレイヤ領での経験したことを思い出しながらマルグリットは馬車に揺られたのであった。



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