第268話 マルグリットが来た その6

「どうしたんだ?なんか元気ないぞ?」


カツカレーを食いながらあまりしゃべらないマルグリットにアーノルドが尋ねた。


「ダンがマルグリットの護衛を斬ったんだ」


それにベントが答える。


「何っ?ゲイル、何をしたんだ?」


「いや、マリさんの避難訓練というか護衛の実戦訓練をやっただけだよ。治癒魔法を使える様になったシルフィードも居たから真剣でよりリアルに・・・」


「は?真剣を使っただと?なんてことするんだお前はっ!マルグリットになんかあったらどうするつもりだっ!」


「訓練だよ訓練っ!ダンがそんなヘマするわけないじゃないか」


「そりゃそうだが・・・、どういうことか始めから説明しろ」


俺はベントがマルグリットを連れて森の小屋に来たところから話した。



「で、そこから何で護衛訓練になったんだ?」


「いや、護衛を強い弱いだけで判断するのは間違ってるかなぁって。で、実際に賊に襲われたら護衛がどうなるとか知ってもらいたかったし、より実戦に近い体験してもらったらもし本当に襲われた時に怖くて動けなくなるとか防げるんじゃないかなぁって」


アーノルドは怖い顔しながら話を聞いている。


「で?」


「ベントが夏にスカーレット家にお世話になったお返しになればなと思ったんだよ」


「お返し?」


「マリさんところのお礼って金銭や物だとうちに出来るもの無いでしょ?うちよりずっと大きいし、お金も物も比べ物にならないぐらいあるだろうから」


ゲイルが言った通りアーノルドも実際お礼の手紙を送っただけである。


「本人交えての訓練なんてやらないだろうからここでしか出来ない事をやった方がいいんじゃないかなと思ったんだよ」


・・・

・・・・

・・・・・


「あの訓練が僕が世話になった礼だと?」


ベントは意味があまり理解出来ていない。


「まぁそんなとこだよ。それにベントも自分で自分の身を守る重要性を理解しただろ?」


ベントは黙ってしまった。


「はぁ・・・。マルグリット嬢、こういうことらしい。ゲイルが怖がらせてすまなかったな」


「い、いえ。貴重な体験をさせて頂いて感謝しておりますわ。ゲイル、もし宜しければ明日もう一度お願い出来ないかしら?」


「えっ?マルグリット明日もやるの?」


ベントは目を丸くしてもう一度やると言ったマルグリットを見た


「えぇ、王都や家では出来ませんからね」


「でも、今日でやれることはやっちゃったからね。後はもっと複数で襲われるパターンとかしか無いから無理だよ。俺とダンだけしかいないから」


「あら、だったら私とアーノルドが賊側に加わるわ」


そう言ってふふふと笑うアイナ。


「おいアイナっ!お前まで何を言い出すんだっ」


「明日は休みでしょ?本人もやりたいと言ってるんだからやった方が良いわよ。ね、ゲイル。お返しと言うならその方がいいわ」


アーノルドとアイナが居る盗賊団を防げる護衛なんて居るわけがないじゃないか・・・



ー護衛達のテントー


「ダン殿、実際の賊はどんなものですか?」


ダンはビトー達の所で一緒にカツカレーを食っていた。帰ってから話を聞かせて欲しいとビトーに言われてたからだ。


「物取りの盗賊だと大したことねぇのが大半だ。農民が食えなくなってやむ無くやってたりするからな。そういう奴等は護衛がいる馬車は狙わんから襲われた経験ないだろ?」


「確かに今まで我々は盗賊に襲われた事はありません」


「だから襲われるとすれば誘拐か暗殺かどちらかになる。そうなって来るとどんな手練れがくるか解らん。魔法を使える奴が来るかもしれんし、飛び道具を使って来るやつも居るだろう。まぁ、足がつかないように少数精鋭で来るだろうけどな」


「ゲイル様はそれを見越した訓練をされた訳ですか?」


「どうだろな?商人の馬車とは違うから誘拐や殺しに対する護衛訓練ってのは当然だからな。殺しの訓練だとお嬢を攻撃せにゃならんから誘拐だけにしたんじゃねぇか?」


「暗殺に対する訓練だとマルグリット様を攻撃することに・・・」


「賊側にとっちゃ誘拐の方がはるかに難易度が高い。殺しの方が簡単だな」


・・・・

・・・・・

・・・・・・


「ゲイル様は我々護衛になぜこのようなアドバイスをくれたり親切にして下さったりするのでしょうか?」


「ぼっちゃんはお前らを気に入ったんじゃねーか?同じ爵位とはいえ、格は東の辺境伯の方が上だろ?それでもお前らはぼっちゃんにキチンと敬意も払い丁寧に接してたしな」


「それは当たり前のことでは?」


「そうなんだがな、アーノルド様は元平民で成り上がりだろ?英雄と呼ばれていても貴族の中には面白く思ってない者も多いみたいだ。その息子に敬意を払うとかバカらしいんだろ」


「そのような者がいるとは・・・」


「以前に他の貴族の護衛がぼっちゃんに立ち合いを挑んだんだよ。そりゃあ悲惨なやられ方をしたぜ。あいつよく心が壊れなかったもんだと思うくらいにな」


「どんな立ち合いを?」


「護衛は真剣、ぼっちゃんは魔法有りだ。まぁ酷い有り様だったぜ。護衛達は最後には命乞いをするだけだったからな」


「そうですか・・・、護衛が命乞いをするとは・・・」


「事情があってぼっちゃんはそう仕向けたんだがな。戦闘不能にするだけなら簡単だが心を折る必要があったんだろ」


「ゲイル様はどこまで考えてらっしゃるんですかね?」


「どうだろな?その辺は俺にもよく解らんが面白いのは確かだ。ぼっちゃんが考える飯も旨いしよ。このカツカレーってやつも旨いだろ?」


「えぇ、こんなのが毎日食えるダン殿が羨ましいですな」


そう言われたダンはカッカッカッカと笑い残りのカツカレーを一気に食い終えた。


そこにゲイルがやって来た。


「あれ?ダンもここで飯食ってんの?」


「どうしたんだぼっちゃん?」


「風呂作りに来たんだよ。あ、ビトーさん。明日も護衛訓練することになったよ」


「明日もう一度ですか?」


「父さんと母さんも賊側に加わるから覚悟をしておいてね。治せるけど確実に怪我するから・・・」


ゲイルの覚悟しておいてねという言葉にビトーはごくっと唾を飲み込んだのだった。




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