第262話 新型魔剣
「冒険者が一人死んだらしい。ゴブリンの巣の一番奥にデカいのが居たみたいでな、一人で突っ込んでやられたみたいだ」
「なんで一人で突っ込むんだろね?」
「たかがゴブリンと舐めてたんだろうな。群のボスになるようなやつは結構強いからな」
そうか、犠牲者が出たんだな。アーノルド達の言う自分達も狩られる立場ってのを理解してなかったのだろう。
「話は変わるけどジョン達はいつ帰ってくるか手紙来た?親方が釣りに行きたくてしょうがないみたいなんだけど」
「それがねぇ、冬季遠征訓練というのがあって帰って来れないらしいわ。ベントは帰って来るって手紙には書いてあったけど」
「そうなんだ。ジョンもアルも釣り楽しみにしてたから残念だね。ベントは釣りに行きたいかな?」
「それがね、東の辺境伯の同級生を連れて来るらしいわ。マルグリット・スカーレット嬢をね」
「へぇ、ベントが女の子連れて来るんだ。やるねぇ」
「うちに来るのはいいんだが、対応がなぁ・・・」
ポリポリと頭を掻くアーノルド。
「何か問題でもあるの?」
「スカーレット家は貴族中の貴族よ。うちでもてなせるかどうかなのよね」
「なんで?王様やエイブリックさんとか来たじゃない」
「それはまぁあれだ。王はうちへの理解があるし、エイブリックは冒険者パーティーだったからな。王族だが異端児であることは間違いない。同じ対応で済むはずがないだろう?」
「同じ爵位の娘さんでしょ?」
「爵位はな。でも建国以来の貴族と成り上がりの俺達とは違う世界の人間だと思っておいた方がいい」
俺がイメージするザ・貴族ってやつなのか。ドン爺やエイブリックを見てたからそんな意識薄れてたな。
「何日くらいいる予定なのかな?」
「どうだろな。2~3日だとは思うが」
「じゃあ、俺はその間釣りに行ってるよ。なんか面倒だし」
「いや、来るのが分かってるのにいないのは不味いな。お前も家にいろ」
えぇ~。絶対面倒臭いに決まってるのに・・・
ーぶちょー商会に向かう道中ー
「ダン、ベントが東の辺境伯の娘を連れて来るんだって。」
「へぇ、女連れで帰って来るなんてベントの野郎やるじゃねーか」
「どんな人だろうね?」
「さあな、俺には関係ねぇ話だ。東の辺境伯って貴族中の貴族だろ?身分差別とか当たり前の世界の人間だからな」
「そんなに違うの?」
「あぁ、平民は人じゃねぇくらいの意識じゃねーか?」
やっぱりそうなんだ。俺も深く関わるの止めた方がいいな。絶対に喧嘩になるわ。
「シルフィードも会わせない方がいいぞ。ハーフエルフだとバレたら絶対に嫌な思いするからな。」
「やっぱりそうなんですか・・・」
俺と一緒にシルバーに乗ってるシルフィードは不安そうな声を出す。
「シルフィード、嫌な現実だがまだハーフエルフに偏見が残ってるのは確かだ。特に貴族の中にはな。そのお嬢様が来てる間はバルに泊めて貰え。ミケの部屋ともうひとつ出来てただろ?」
屋根裏部屋は2つ作ってあった。
商会に到着し、ドワンに東の辺境伯のお嬢様が来る間、シルフィードをバルに泊めると話した。
「あそこのお嬢様か。ベントも面倒な奴を連れてくるもんじゃな」
「おやっさんもそう思う?」
「当たり前じゃ。あそこの奴らはワシらドワーフも人と思っとらんからな」
そうか、やっぱり俺も挨拶だけにしておこう。目の前でシルフィードやドワンに何が言われたら切れてしまいそうだからな。
「まあ、こっち側には来ることないじゃろうからワシらは会うこともない。アーノルドとアイナに任せておけばいいわい」
そうだな、面倒事は領主夫妻に任せておこう。
「で、おやっさん。シルフィードの剣は出来たの?」
「ああ、今から森で試すぞ」
布で包んだ剣らしきものをドワンが取り出し、今から森で試し斬りすることになった。
小屋に到着すると布をするするとほどいていくドワン。鞘から剣を抜き白く輝く剣を俺達に見せた。
「お、おやっさん、これは魔剣か・・・?」
一番初めにその剣を手に取ったのはダンだった。
「魔剣と言えば魔剣じゃがな、ちょいと試さんとわからん事もあるんじゃ」
「どういうこと?」
「坊主、火の魔石は持っとるか?」
「いや無いよ」
「じゃあ、小さいのでいいから作ってくれ。それをここにはめるんじゃ」
持ち手の一番下をねじって外すと魔石を嵌め込めるようになっていた。
「これはミスリル銃と同じ仕掛け?」
「そうじゃ。早く魔石作れ」
ドワンも新型魔剣を早く試したいらしい。急いで火の魔石を作る。
「はい、これ」
小さな火の魔石だが試すだけなのでこれでいいらしい。
魔石をはめ込み蓋を締めるドワン。
「シルフィード、これに火魔法を流しながらあの丸太を斬ってみろ」
シルフィードはドワンに剣を渡されてごくりと唾を飲む。そして剣を構えて丸太に向けて振った。
ゴウッと唸りをあげて丸太が切れて黒焦げになる。俺の魔剣を使った時と大差が無い。
「おやっさん、俺の魔剣と何が違うの?」
「次はその剣でファイアボールを撃ってみろ。使い方は杖と同じじゃ」
俺を無視してシルフィードに指示をするドワン。シルフィードは言われた通りにファイアボールを撃った。
「フム、成功じゃな。どうじゃシルフィード、火魔法は撃ちやすいか?」
「はい、ほんの少ししか魔力を流さなくても撃てました」
「剣としても杖としても使えるようにしたからの。使い方次第で斬りながらファイアボールも撃てるじゃろ。後はお前さんの練習しだいじゃ。小さなお前でも間合いが伸ばせたり、斬ると見せかけながらファイアボールを撃つことも出来るはずじゃぞ」
おおなるほど。少ない魔力で刀身を伸ばしたり火魔法を撃ったり出来るのか。シルフィードの魔力回復力を考えたら魔力切れの心配も無さそうだ。
「お、お、おやっさん。俺には魔剣くれない癖にシルフィードには魔剣を渡すのか・・・?」
ダンは半べそをかきながらドワンにズルいと言い出した。
「お前は上手く扱えんじゃろ?無駄じゃ」
「そ、そんなことねぇ。おいシルフィード、そいつを貸してくれっ!」
ダンはシルフィードから新型魔剣を奪い取って上段に構える。
「シルフィード、離れてっ!」
嫌な予感がしたのでシルフィードを連れてその場から飛んで離れた。
「でぇぇぇっ!」
ボウンッ!
「うぎゃっーーー!」
案の定ダンが握った剣が爆発し、ダンは黒こげになった。
あわててダンに治癒魔法を掛けると髪の毛も眉毛もまつげも無くなった恐ろしい姿のダンがそこにいた。
「だから言ったじゃろうが。坊主もシルフィードも簡単そうにやっとるが魔力のコントロールが下手じゃとそうなるんじゃっ」
「ま、魔石を抜いたら大丈夫だっ!」
懲りずに魔石を抜いて試すダン。
「でぇぇぇえっ! でぇぇぇっ! でぇぇぇっ!」
幾度となくか掛け声を出すダンだったが魔剣に炎が宿ることは無かった。
「なんでだっ、ぼっちゃんもシルフィードもあんなに簡単に出来るのに・・・。俺もファイアボールが撃てるようになったのに・・・」
膝を落として泣く毛の無い化け物じみたダンを見てなんかちょっと可哀想になってきた。
「ダン、地道に火魔法のコントロールの練習していけば使えるようになるよ。そしたらおやっさんも作ってくれるから」
「ぼっちゃん、本当か?本当に魔剣使えるようになると思うか?」
「ミスリル銃で火魔法撃てるようになったんだから出来るようになるって。この冬の間、シルフィードの稽古と一緒にダンの火魔法の特訓しよう」
わかった、とダンはまだグスグス鼻をすすっていた。
それをドワンはやれやれといった感じでダンを見ていたのだった。
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