第260話 実地研修
カンッ コンッ!
「いいぞ、もっと真剣に打ち込んでこいっ!」
「はいっ!」
シルフィードはシックに木剣で打ち込んでいく。シルフィードも上達してるとはいえ一本とることは出来ない。シックはかなりの腕前のようだ。
カッとシルフィードの剣が弾かれてそこで立ち合いは終わりだ。
ぜーっ ぜーっ
「あ、ありがとうございました」
「嬢ちゃん、なかなかの腕前だ。ここにいる新人冒険者より断然いいぞ。ただ力がまだまだ足りねえ。スピードは並の上、力は並の下って所だな」
シルフィードは体も小さいし、剣を扱い始めて2年も経たない。ここまで出来たら上出来だろうな。
「次は坊主だな。お前魔法と剣両方使えるんだったな。とりあえず剣だけでやるか」
という訳でまずは剣のみでの立ち合いだ。
「遠慮無くいっていいかな?」
「もちろんだ」
シックは自信満々で答える。
「では遠慮なく」
斜め下段から切り上げて間合いを詰めると剣で受けながら後方へ飛ぶシック。
「うおっ、坊主なんだその踏み込みスピードはっ!?」
中段に構えたシックに突きで手元を狙ってから連擊で斬りつけていく。
カカカカっ
ダンほどではないが受けながしていくシック。こちらからも行くぞっと打ち返して来た。スピードもパワーもかなりあって防戦体勢になってしまった。
ガンっガンっガンっ
スピードはこちらが上、パワーはあちらが上だな。
俺をパワーで押しきろうとするシックが少し大振りになった隙を狙って小さく鋭く振り空いて腹を狙うとスッと避けられた。しまった、誘いに乗ってしまった。あの大振りは罠かっ!
空振りした剣を弾かれて俺の1本負けとなった。
「坊主、お前やるなっ!」
「いや、罠に嵌まっちゃったよ」
「いや、あの隙を見逃さないのはたいしたもんだ。普通のやつなら気付かねぇからちょいと試してみたんだがな。いつもダンとこんな稽古してるのか?」
「そうだね。あまり罠をかけられるようなやり方はしてないけどね」
「そうか、まずは真っ当な戦い方をきちんと学んでからというとこか?なぁダン?」
「そうだな。ぼっちゃんはまだ基礎段階だからな。戦い方は勝手に考えてやっちまうけどな」
「そうか、この年齢でこれだけやれたら10年後にはすっごい剣士になってるだろう。どこまで行くか楽しみだな」
シックはご満悦そうな顔で俺を見ている。
「シックよ、ぼっちゃんは剣士じゃなくて魔法使いだぜ。本業は魔法使いだ」
「そうか、魔法も使えるんだったな。今の剣さばきを見てすっかり魔法のこと忘れちまってたわ。じゃあ、次は魔法有りでやるか」
「シック、それは止めといた方がいいぞ。お前の腕は認めるが、ぼっちゃんと魔法有りでやるのは無謀だ」
「大した自信だな。そんなもんはやってみなきゃわからんだろ?」
フフンと余裕のシック。訓練場内なら剣の方が有利と踏んでいるのだろう。
「まぁ、やってみりゃわかる」
という事で二回戦開始。
「坊主、杖は持たんのか?」
「あんな飾りいらないよ」
「ほう、杖を飾りと言うのか?面白いな。では遠慮なく行くぞっ!」
シックはいきなり踏み込んで来たので土の壁発動。ビタンっと音がしたので壁を解除してやるとふらついていたのでビチビチビチっと土弾を撃ち込んで終了。
ドサッと倒れたシックに治癒魔法をかける。
「大丈夫?」
「今何をした・・・?」
「壁作って突進止めて土の弾撃ち込んだだけ」
「詠唱は?」
「無いよ」
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「反則だろ?」
「魔物相手に反則とかないよ」
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
「なんじゃそりゃあぁぁぁぁ!」
シックは今の事を理解したのか大声で叫んでいた。
ー話し合いー
「何っ?坊主はアーノルド様の息子だってか?」
ダンが俺の事を話して魔法有りの勝負だとアーノルドが本気で対峙しないと勝負にならないことを説明した。
「なんだよそれ、そんな事が出来るなら学校なんざ来る必要ねぇだろ」
ぶつぶつとぼやくシック。
「うん、だから連携の訓練だけでいいんだ」
「連携もくそもあるかっ!あんな魔法を無詠唱で使えるならダンが前衛、嬢ちゃんが中、坊主が後衛でやれば済むだろっ」
「そうなの?」
「お前に盾役なんざいらん。無防備になる詠唱中の守り役だろ盾役は。それにこの中だと嬢ちゃんが明らかに守られる立場だろうが。中に入れておくのが一番安全だ。ダンもそんな事は解ってただろうが」
「それはそうなんだがな、ぼっちゃんの安全が最優先なんだよ、俺の仕事はな」
「お前、バカか?嬢ちゃんが坊主を守れる程の力があると思ってんのか?周りを囲まれて嬢ちゃんが最前線になったら余計に危ないだろうが」
俺はシルフィードに守ってもらうつもりはないからそうだな。
「シックさん、私は命に代えてもゲイル様を守って見せますっ!」
「あのなぁ嬢ちゃん。そんなセリフは俺を一撃で倒せるくらい強くなってから言え。嬢ちゃんもなかなかやるとはいえ、この中では自分がお荷物になることぐらい分かるだろ?お前達の連携はお前がダンや坊主の邪魔にならないようにすることだ」
シックが厳しい事をシルフィードに言ってのける。シルフィードは唇をぐっと噛むが事実なので言い返す事が出来ない。
「いいか、これからの連携の訓練は嬢ちゃんがダンか坊主の背後に必ず居ることだ。ダンと坊主が絶対に後ろに敵を行かせないことだけに集中出来るようにしろ。お前の事を気にせずに戦えるようにするのがお前の役割だ。いいなっ!」
シルフィードは悔しそうにコクンと頷いた。
それからシックの指導の元、数日間前方から敵が来たとき、横から来た時、四方を囲まれた時をシミュレーションしながらシルフィードに指導していった。
「基本動作は身に付いて来たから、他の奴らも連れて実地研修に行くぞ」
今日から俺達を含めて3組のパーティーでゴブリン狩りに出ることになった。
「ここらから魔物が出だすから気を抜くなよ」
俺達を最後尾にして2組のパーティーが先に進む。新人パーティーの後ろにはシックが見守る態勢になった。
(なぁ、オッサンとチビ二人のやつらはなんだ?)
(見学なんだとよ)
(へぇ、良いご身分だよね)
(どうせゴブリン見ただけでぶるぶる震えるって)
(そうだよねぇ。あたしらの活躍するところ見て拍手でもさせてやろうかしら?)
新人冒険者達は生徒ではない俺達を見てひそひそ言っているが気にしない。端から見たらその通りだからな。
ん?前からゴブリンが来てるな。あいつらはまだ気付いてないけど、そのまま進むと先手を取られるぞ。大丈夫か?
少し進んだ所でザッとゴブリン3体が木の影から飛び出してきた。
「わぁっ!いきなり出やがった!」
飛び出すゴブリンに慌てる2組のパーティー。
「慌てるなっ!陣形組んで応戦しろっ!」
グギャグギャっと叫びながら棒を持って襲ってくるゴブリンに慌てて応戦する。もう連携もくそもない乱打戦だ。
シックは色々と指示を出しているが不意をつかれた新人達は連携を取れないままたった3体のゴブリンに殴られたりしている。
杖を持った魔法使いの女の子は詠唱しているが他の冒険者がいるので攻撃出来ないでいた。
ようやく剣でゴブリンを倒したがあちこち傷だらけだ。
「油断するなと言っただろうが。それにあれだけ練習した連携も何もあったもんじゃない」
あちこちに出来た傷をアチチチと手でさすりながらシックの小言を聞いている新人達。
たんこぶは出来ているが大きな傷ではなさそうなので治癒魔法をかけようとしたシルフィードにやめておけと言っておいた。
そろそろ次のが来てるけど気付いてるのかな?騒ぎが聞こえたのかぞろぞろとゴブリン達が集まり出して来た。この辺はゴブリン多いんだな。
そのまま黙って見ているとシックが構えろっと指示を出す。
10体くらいのゴブリンが来てるので不意打ちされると危ないと判断したのだろう。
グギャグギャギャギャっ
2組のパーティーに一斉に襲い掛かってくるゴブリン。今度は陣形も組んでるし、シックの構えろとの事前連絡もあったので少し落ち着いている。盾役が魔法使いの女の子をガードした所で詠唱を始めている。
「避けろっ」
盾役が声を出すとゴブリン目掛けてファイアボールが飛んで行く。それがゴブリンの顔に命中して怯んだ所を剣士が斬る。おぉ、ちゃんと連携になってるぞ。
やったっ!と喜んでいる所に横から他のゴブリンが飛び出してくるのを盾役が止める。そこからは又乱戦だ。盾役は止めるだけで攻撃能力が薄い。見かねたシックがそのゴブリンを斬った。
ようやく10体くらいのゴブリンを討伐完了。
「はぁっ、はぁっ、ゴブリンってもっと弱いんじゃなかったのかよ・・・」
「数も多いし、あんた盾役っても止めるだけじゃなく倒しなさいよっ」
「うるさいっ!お前がもっとさっさとファイアボール撃てばいいんだろっ」
討伐の喜びよりもお互いの不満を責め合うパーティー。もう一つのパーティーはぐったりとへたり込んでいた。
ギャーギャー言い合ってるパーティーを見てシックは呆れていた。
「おい、お前達、人のせいにしてる暇ないぞ。まだぞろぞろ来てるから早く構えろ」
俺は初めて口を開いた。次は50くらいがあちこちから寄って来ていたからだ。
「なんだよチビの癖に偉そうだなっ!見学者は大人しく黙って見とけ」
目の前の剣士役が構えろと言った俺に八つ当たりしてくる。
「なぁ、シック。ここはこんなにゴブリンいる場所なのか?新人パーティーには荷が重いんじゃないか?」
「確かに今は多かったがそんな危険な場所ではないぞ」
「いや、50体くらいに周りを囲まれてるぞ。こいつらだけだとヤバそうなんだけど」
「何っ?50だと。そんなにいるわけが・・・・。なんだこの気配は・・・?」
シックもゴブリンの数に気付いたようだ。
「ぼっちゃん、デカいのは上位種だな。2体いるから1匹頼むわ。おいシック、上位種は俺とぼっちゃんでやるからそっちの新人達の面倒は頼んだぞ」
左右からダンが言う上位種と言うのが来ている。ダンと反対方向は俺が担当だ。
「シルフィード、俺の後ろに付いて来て。ダンが動くスピードには付いていけないと思うから」
シルフィードにそう指示して俺に付いて来て貰う。
「ゲイル様、私も戦います」
「了解。じゃこれ使って」
俺は魔剣をシルフィードに渡した。
「それだけでも斬れるけど、危なそうなら火魔法を纏わせて斬るといいよ」
そう言った時にゴブリンの団体様御一行が俺達の前にやって来た。スドドドドっとマシンガンの要領で撃ち殺して行く。後ろから来たゴブリンはシルフィードが斬って行く。
木の影から出てくるゴブリンをズドドドドっと撃ち殺す3Dシューティングゲームみたいでちょっと楽しい。後ろで必死になってるシルフィードには悪いけど・・・
あ、アイツが上位種だな。周りのゴブリンより二回りほどでかいが大したこと無さそうだ。眉間を狙ってパンっと撃ち抜いたらあっけなく倒れた。
気配を探ってもこちらはもう大丈夫。
「シルフィード、新人達の応援に入るよ」
そういって新人達の方へ向かうと挟み撃ちになっていた。パニックになってる新人を守りながらシック一人で大量のゴブリンをさばくのは難しいだろう。
俺は刀を持ちシルフィードと共にゴブリンの群れに突っ込んだ。
さすが陽炎。脇差しとは言え面白いように首が飛んでいく。シルフィードは火魔法を纏わせて滅多斬りにしていった。
シックの所にたどり着くと新人達が血を流してへたりこんでいた。
「シルフィード、傷治してやって。ゴブリンはこっちでやるから」
俺達が来たことで形勢逆転したシックは俺に背を任せてゴブリンの首を刎ねていく。こちらもスパスパとゴブリンを狩って行った。
「なんだよ、もう終わっちまったのか?」
ダンがけろっとしてこちらへやって来た。
「うん、今シルフィードがみんなの治療し終わった所だよ」
「なんなんだよ、お前ら見学者じゃなかったのかよっ!なんでそんなに強いんだよチビの癖にっ」
また剣士役の少年が絡んでくる。
「ゴブリンなんて何匹来ても話にならんよ。それよりシックにお礼言ったら?守って貰ってたから死なずに済んだんじゃないの?」
「俺は教官だ。こいつらを守るのは義務だ。礼なんぞいらん。それよりこちらが礼を言わねばならん。お前ら悪態つく前に助けて貰った事と治療して貰った事に礼を言えっ!」
「そ、そう言えばき、傷が・・・」
気が動転していたのか、それとも山程いたゴブリンをあっさり倒したのに驚いていたのかシルフィードが治癒魔法をかけていたのに気付いていなかった。女の子の魔法使いはまだガタガタ震えてるし。
「なぁ、シック。これ巣が出来てんじゃねーか?多過ぎだろ?」
そう言ったダンはぽいっと上位種の耳をシックに投げた。
「そうだな。まず間違いなく出来てる。こいつがいるならな」
シックは上位種の耳をプラプラして同意した。
「シック、とりあえずさ皆にゴブリンの死体をここに集めさせて。焼き払うから」
死体を放置しておくのは良くないので集めて焼き払う必要があるけどやりたくないのでやって貰う。
立ち直った新人パーティーはゴブリンの死体集めをやらされ、集めた死体の右耳を切って集めていく。
「ほれ、討伐証明だ」
「俺達冒険者じゃないからいらないよ。みんなで分けたら?」
「手柄を横取りするわけにはいかん。上位種のもあるしな」
「じゃあ学校に寄付するよ。実地訓練だし学校の権利って事でいいんじゃない?」
「それでいいのか?結構な額になるぞ」
「いいよ」
という事で討伐権利は辞退した。
集めた死体を魔法使いの女の子に焼かせるが火力が弱いので俺がさっさと燃やした。
「何これっ!ねぇ、詠唱は?詠唱はどうしたのよ?それとも心の中で詠唱してるの?どうしてそんな威力出せるの?ねえっ!どんな詠唱なの?教えなさいよっ!」
「俺は先生じゃないからね。先生から教えて貰って」
ねぇ、ねぇ、うるさい女の子にはそう言っておいた。しつこかったけどそうしないと俺が教師をやるはめになるからな。
「ダン、悪いがこのまま巣を探すの手伝ってくれねぇか?巣を見付けたら後はギルドに報告あげて冒険者どもにやらすから」
ぼっちゃんどうする?と聞かれたので良いよと答えた。巣を見付けたら殲滅してもいいんだけどね。
そしてそのまま気配を探りながらゴブリンの巣を探しに行くことになったのだった。
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