第257話 ジョンとアルの夏休み
翌朝の稽古からジョンとアルも参加してロロの面倒を見たり、アーノルドと立ち合いをしたりで楽しそうに汗だくになっていた。
「今日も森で狩りをするぞ」
ジョンもアルも元気いっぱいだな。あんなに汗だくになって稽古してたのに。
アルとジョンはアーノルド達の馬を借りて出発しようとした時にミケが暇そうにしているのが見えた。今日と明日は休みだからな。
俺達に気が付いて走って来るミケ。こいつ足速いな。
「なぁ、どこ行くん?」
「狩りをしに行くんだけど!?」
「ウチも連れてって。やること無くて暇やねん」
「勉強あるだろ?」
俺がそう言うと目を逸らせて鳴らない口笛を吹く素振りをみせる。まぁ勉強っても午前中だけだしな。たまにはいいか。
「ゲイル、俺達は構わんぞ」
ジョンとアルもそう言うので連れて行くことにした。
「なぁ、ゲイル。あの二人も優しいな」
「ジョンは俺の兄貴、アルはその友達だよ。騎士学校に行ってて今は夏休みなんだ」
俺の馬に乗ったミケは快く同行を許可してくれた二人に笑顔で手を振っていた。
「なぁなぁ、何狩るん?」
馬を置いて狩り場に向かうときにミケが聞いてくる。
「そうだな、鹿かウサギだな。鶏が良ければ違う場所に向かうけど」
「ウサギやったらウチでも狩れるで」
と言ったミケにアルが、
「お前、武器持ってないだろ?」
と疑問に思ったようだ。
「ウサギくらいやったらいらんで」
「どうやるんだ?石でも投げるのか?」
「ちゃうちゃう。こうやってなシャッってやんねん」
シャッシャッと両手で引っ掻く素振りを見せて説明するミケ。全く理解出来ないジョンとアル。
「ぼっちゃん、いるぞ」
その時にダンがウサギを発見した。
「ほな見せたるわ」
そう言ったミケはトンっトンっと木に登って移動し、上からウサギ目掛けて音も無くダイブしてシャッとやった。
「ほら、武器なんていらんやろ?」
ポカンとするジョンとアル。俺もミケが狩りをするところを初めて見たけど見事だった。木に登る身のこなしといい、音も立てずにウサギを狩った腕といい、2年間逃げながら生き延びて来たのは伊達じゃない。気配を消すのも非常に上手い。
「凄い身のこなしだな。まるで魔物みたいだったぞ」
アルは誉めたつもりだったがミケは一瞬暗い顔をした。
「なぁ、ウチってやっぱり魔物なんかな?」
ちょっと悲しそうな顔で俺に聞いてくる。
「魔物ってのは動物全般の事を言うからね。俺から見たら猫とか豹とかそんな身のこなしだと思ったよ」
「自分、猫知ってるん?」
「知ってるよ。この国では見たことないけど」
「そうなんや。やっぱりこっちには猫おらんのやね。ウチのおかんは猫系の獣人やったから、猫みたいと言われるんやったら分かるわ」
獣人?
ミケが発した獣人という言葉にジョンとアルが反応する
「ミケ、帽子脱いで見せてやって」
俺がそういうとミケは帽子を脱いで耳を見せた。
「ずっと東に行くと獣人と呼ばれる者が居ると父上に聞いた事があるが、貴様がそうなのか?」
「ウチはハーフ獣人やねん。おとんが人間でおかんが獣人」
おとん?おかん?
「おとんはお父さん、おかんはお母さん。方言だよ」
言葉が分からなかったジョンとアルに補足説明をして、詳しくは小屋に戻ってからとなった。
「ほう、それは苦労してきたんだな」
ジョンはミケの身の上話を聞いてそう言った。
「でもな、ここに来て良かってん。奴隷にならずに済んだし、美味しい物も食べれるし、この服もゲイルが買うてくれてんで。こんな優しぃしてもらうん初めてや」
ほろっと涙を見せるミケ。
「そうか、我が国に来て良かったなミケ。ゲイルと会えたのはラッキーだったぞ」
「我が国?」
「ミケ、アルは王族だ。他の人には言うなよ」
ミャッっ!と驚くミケ。
「アルはそんな偉いさんやったん?」
「まだ偉くはないぞ。今はただの学生だからな」
「前におった所とえらい違いやな。屋敷の主人って呼ばれる人はもっと偉そうにしてたで。おかんもウチも人扱いなんてされてへんかったし」
「ゲイルは人種とか気にしないからな。ゲイルと出会ってからその方が良いと自分も思っただけだ」
「そうなんや。やっぱりここに来れて良かったわ」
そう言ってミケはウサギのマヨ焼きを美味しそうにハムハムと食べた。
翌日もミケが付いて来ると言ったのでミーシャも連れて河原でバーベキュー。ミケがシャッシャッと捕まえたエビも唐揚げにして食べた。
それから無事にバルはオープンしたが値段に驚く客が多いとのことで、店の前にメニューと値段をボードに書いて出しておいた。これを見て払えそうな客だけくれば良いだろう。
果樹園やトウモロコシ、イチゴの畑の手伝いや衛兵団に元衛兵長がいて驚くアルと衛兵団が出来ていることに驚いたジョン。衛兵団の刀を見て興味を持ちリッキーの工房に入り浸って刀を購入したりして夏休みを満喫した。
そろそろジョン達が王都に戻る頃、ミサからドン爺とエイブリックのアクセサリーが出来たと聞いてぶちょー商会に来ていた。
「会心の出来だと思うよゲイル君。どうかな?」
ドン爺のは濃い紫のドラゴンっぽいディノに深い緑の蛇が絡み付いた物にウロコでコーティングしてあるもの。エイブリックのは漆黒の中を飛ぶ炎の鳥にウロコでコーティングしてあるようだ。モチーフになったディノ、蛇、炎の鳥はいくつもの細かい鉱石らしきもので作られており、炎の赤といっても濃淡やほんの少しの色違いの鉱石で作られており、まるで本物がそこにいるような出来映えだった。それらを入れられるケースにも細かな模様が付けられ、非常に素晴らしい。
「ミサ、素晴らしいよ。ドン爺もエイブリックさんも喜ぶと思うよ」
「でっしょー?我ながら良い出来だと思うんだよね。喜んでくれるかなぁ?」
「絶対喜ぶに決まってるよ。これいくら払ったらいい?」
「これゲイル君の献上品なんでしょー?お金はいらないよ。大切なウロコも使わせて貰ったし。あれ凄いよねぇ。あんなに薄いのに丈夫だし、不思議な色してるしー」
「そうか。じゃあお金の代わりにあのウロコの残りはミサにあげるよ。またなんか特別に頼まれた物があれば使えばいいよ」
「本当に貰って良いの?貴重なものなんでしょー?」
「もう二枚あるから大丈夫だよ」
そういうとヤッターと喜んだ。俺だとそのまま飾っておくことしか出来んからな。
ジョンとアルは確かに綺麗だなと感心はしたが感動は薄かった。まぁ価値が解らなければそんなもんだ。
ミサはこれからバルの反対側に店を出すらしい。冒険者向けの武具装飾とアクセサリー販売の店になる予定だ。
「世話になったな。次は冬にマス釣りに来るぞ」
夏休みはあっという間に終わる。じゃあと言いかけた時にリッキーが走って来た。
「こ、こいつを持って行ってくれ」
リッキーが渡してきたのはエイブリックの刀だろう。
「同じの打てたの?」
「全く同じではないが納得のいくものが打てた」
リッキーは刀を抜いて見せる。俺が貰った物よりやや反りが強く赤白いオーラのような物が感じられる
「ちょっと違うけどこれも凄いね」
「それとこっちはアーノルド様に」
もう一本抜いて見せるリッキー。こちらは金色のオーラを感じる。
「父さんのは前のがあるじゃん」
「あれはお前が持て。アーノルド様にはこいつを代わりに渡してくれ」
リッキー曰く、やっぱりあの刀は俺に持っていて欲しいらしい。脇差しとセットというのもあるかもしれない。
「分かった。じゃあそうするよ。刀に名前は付けた?」
「いや付けてないが」
「名刀なんだから名前付けたら?エイブリックさんの刀とか淋しいじゃん」
ムムムっと考え混んだ挙げ句、俺に付けろと言ってきた。
「じゃあ父さんのが神金刀、エイブリックさんのが炎月、俺のが陽炎」
そう言うと満足そうにリッキーも頷き、銘を彫ることになった。俺はリッキーに漢字でこう書いてと教える。
「これは文字か?」
「いや記号というか暗号みたいな物だと思っておいて」
そう誤魔化した。刀にアルファベットは似合わないからね。
「じゃあ、アル。お使いみたいになって悪いんだけど、アクセサリーと刀を渡して貰える?」
お安い御用だと気前良く引き受けてくれた。ザックの所に頼める物でもないし自分で持っていくつもりだったけど俺は忙しいのだ。
ジョンとアルはまたなー!と手を振りながら帰って行った。
明日からはまたやらないといけないことがたくさんあるな・・・
農業系の仕事をファムとサイトに任せっきりでジョンとアルと遊びまくった夏はもうそろそろ終わるのはとても残念だった。
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