第256話 バルのプレオープン

明日バルのプレオープンという日にジョンとアルが帰って来た。


「よう、ゲイル。また大きくなったな」


アルが開口一番嬉しそうに話しかけて来た。


「ジョンお帰り。アルはいらっしゃい。二人とも背が伸びたね。声も低くなってるよ」


第二次性徴期なのだろう。冬に会った時よりもずいぶんと背が伸びて声変わりが始まっている二人。


「訓練でも声出すからな。自分でも変な気分だ」


あーあーと喉を押さえながら声を出すジョン。


「グッドタイミングで帰って来たよね。明日ぶちょー商会の食堂というか居酒屋というか飲みながら食事が出来る店のプレオープンなんだよ」


なんだプレオープンって?という質問をして来たので晩飯を食べながらその説明をすることになった。



「へぇ、じゃあ明日はそこで晩飯を食えるんだな?楽しみだ」


ジョンもアルもどんな店だろうな?と野太くなり始めた声で新しい店はきっとこうだとか話していた。



翌日ジョン達と森で狩りを楽しんでからバルへ向かった。


「おー、これがバルという店か。思ってたより大きいな」


プレオープンを迎えるバルは綺麗に清掃もされており、魔道具のライトで中も明るい。そろそろ日が暮れるというタイミングでぞろぞろと招待客がやってきた。ミゲルと大工の中心メンバー、続いてドワンとドワーフ5人衆とぶちょー商会のそれぞれ部門長だ。ジョンとアルに新しく来たドワーフ5人衆を紹介する。


「ドワーフも武具作りばっかりしてるんじゃないんだな」


アルがそれぞれのメンバーを紹介されて驚いていた。


次に来たのはロドリゲス商会の商会長とザック。商会長のくそ長い挨拶を途中で切って席について貰っていると、肉屋のミート夫妻と子供がやってきた。子供は俺より少し大きな子供と10歳にならないくらいの子供だ。奥さんはオッカサンてな感じのふくよかな人だった。


「よう、今日は招待ありがとよ。遠慮無く家族で来たぜ」


「おっちゃん、遠慮は無用だよ。今日は食べ放題、飲み放題だからね」


俺がそう言うとふくよかな奥さんは腕まくりをしながら席に向かった。ミートと子供はその後ろを付いていく。うん、家庭内の序列がかいま見えるな。



「おう、もう皆集まってるのか」


アーノルド、アイナ、ミーシャ、ブリックが来た。その後ろにはギルマスもいる。


これで揃ったかな?


「今日は食べ放題、飲み放題となってます。食べたい物や飲みたいものは各自で取ってね」


プレオープンは招待客のみだ。全メニュー出すのでビュッフェ形式にして従業員は食器の片付けと料理の追加に専念してもらう。


「おやっさん、ドリンク行き渡ったから挨拶お願い」


坊主がせんのか?と聞かれたが商会の責任者はドワンだからという事で押し付けた。


「今日は飲んで食ってくれ!乾杯!」


ドワンの挨拶は短くて宜しい。長い挨拶なんて不要だからな。


かんぱ~いの掛け声と共に大皿に載った料理が次々と運ばれてくる。


みな自分の皿を持って料理を取りに行く。一つの料理をてんこ盛りにする人、全ての料理を盛り付ける人とか性格が出ている。しばらく料理には人だかりが出来ているので、ブドウジュースを飲みながら皆の食べる様子を見ていた。


こりゃうめぇとかたまらんとかの声と炭酸は強化していないがよく冷えたエールを飲んでカーっ!とか言ってるのが聞こえてくる。その時にアルがカップスープを持って俺に駆け寄って来た。


「ゲイル、なんだこれは?ほんのり甘くてめちゃめちゃ旨いぞ」


「それはコーンスープだよ。トウモロコシっていう野菜のスープだね。あそこにある黄色の粒々の野菜がそうだよ。焼いてあるやつも美味しいから」


なにっ?それは食べないと、と走って取りに行った。



「ぼっちゃん、いいコック揃えたな。うちの肉をこれだけ上手に扱ってくれるとは嬉しいねぇ」


ミートが手にしてるのはビーフシチューだ。


「王都からいいコックが来てくれたしね、あとそれ作ったのはそこで食堂してたガンツだと思うよ」


「なにっ?ガンツがこれを作ったのか?こんな旨い物を作れたのか・・・。あいつ自分の店はどうした?」


「宿屋と朝食だけにするって。ここが出来たら太刀打ち出来ないだろうって言ってね。他2人は串焼きしてた人だよ」


「そうか、そりゃこれだけ旨くてメニューも豊富なら他の店潰れちまうかもしれんな」


「値段は他の店より3倍以上に設定してあるから大丈夫だと思うよ。飲み物も高いし。蒸留酒をパカパカ飲んだらもっと高くなるしね」


「そうなのか。ちゃんと考えてあるんだな」


「元々おやっさん達が飲み食いするための店だからね。今日の招待客には割引するからたまには来てよね」


そうしたいけどうちは嫁さんが食うからなぁと笑って自分の席に戻って行った。



俺も料理を取りに行こうかなと思ってたら、


「ほら、持って来たったで」


皿に料理を一通り載せたミケがやって来た。


「ありがとう。よく気が付くじゃん」


「あんたちっこいから料理取りに行かれへんのやろ?欲しいもんあったら言いや」


「これだけあったら大丈夫だよ。でもよく俺が食ってないの分かったね?」


バル内はわんさかと人が居るし、料理や飲み物を取る為に常に誰かがあちこち動いている。


「あったり前や!ずっと周りを気にしながら生きて来たんやで。全員何を食べてるかぐらい見えてるわ」


おぉ、計算はダメだが接客は向いてるかもしれない。実稼働し始めたら良く気が付く看板娘になるかも知れないな。



「ゲイル、今の娘変わった喋り方だな?」


ジョンが牛串片手に聞いてくる。


「そうだね、方言みたいだよ。ずっと東から来たって言ってたから。今は住むところもないからうちの従業員用の建物に仮住まいしてるよ」


へぇ、うちに住んでたのかとジョンは驚いていた。


ミケがハーフ獣人というのはまだ内緒にしてある。従業員全員にメイドキャップをかぶってもらってるのもそのせいだ。ミケという個人が皆に受け入れられてから徐々にハーフ獣人だと言うことをばらして行けばスムーズに受け入れられるだろうからな。


しかし、皆良く食うし飲むね。どの料理も酒も好評そうだし、オープン直後はかなり混雑するかもしれないな。人手が足りなそうなら商会からヘルプ出して貰おう・・・


こうしてプレオープンは大盛況のうちに終了した。


ここまで休み無しで店の準備に取り組んで貰った店の従業員に2日の休暇を与え、3日後に正式オープンとしたのだった。




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