第255話 チュールの力
ようやくファムもサイトも植物魔法を覚えた。ドワーフが植物魔法を使うとは驚きじゃとドワンが驚いていた。結構時間がかかったのは種族と魔法の相性とかあるのかもしれんな。
チュールをコックとしてディノスレイヤ領に出してくれた礼とエイブリックの刀は材料があったら可能かもしれないとの事を手紙で出しておいたら隕鉄の塊が届いた。
「リッキー、これで足りる?」
「こんなにあるのか。王家の力を侮っていた・・・」
これで刀が何本か打てる量らしい。エイブリックからの手紙には自分の分を作って余ったら残りは好きに使ってくれと書いてあった。まだ材料があるのかもしれんな。
衛兵用の刀20本を打ったリッキーは早速取り掛かるようだ。
晩飯を食いながらアーノルドにリッキーが20本分の刀を打ち終わったことを伝える。
「ちょうど良かった。こっちも衛兵の選抜が終わったところだ。それにすげえ良い奴が来たぞ」
「俺の知ってる人?」
「王都の衛兵長だったやつだ。」
え?
「お前が盗賊退治しただろう?あれに感銘を受けたらしい。ぜひここで働かせてくれとエイブリックからの紹介状を持って家族と一緒に来てな」
コックのみならず衛兵長まで・・・
「王都は問題無いの?」
「王都は騎士になれなかった奴がたくさんいるしな。すぐに補充がきくから大丈夫だろう」
アーノルドは衛兵の訓練や指揮を全部衛兵長に任せるらしい。給料もその分王都より高めに設定したので喜んで貰えたとのこと。馬も用意したみたいだ。
王都より物価の安いディノスレイヤ領で給料も王都より上がるならいいのかもしれないな。
これから東の入り口に衛兵団本部を作り、そこから見廻りをしていく予定だ。
「制服はどうするの?」
「まだ考えてないが必要だよな」
こんなデザインどう?と濃紺の学ランを提案しておいた。刀がさぞや似合うだろう。ミサに頼んで衛兵長バッジも作って貰おう。
「段々と領らしくなっていくね」
「そうだな。俺の小さい頃と大違いだな。ここは本当に何もない村だったからな」
一時期の大量移民は収まっているが移民は増え続けている。衛兵も少しずつ増やしていかないといけないだろう。要所要所に交番みたいなのを作ってもいいな。
「ジョンやベントもそろそろ帰って来る頃だね。帰ってきたらビックリするんじゃない?」
「ゲイル、ベントは学校の友達の所に行くからこっちには戻って来ないそうよ」
「へぇ、うちに遊びにくるアルみたいだね。他のところを見るのも勉強になるだろうけど。どこに行くの?」
「東の辺境伯領らしいわ」
東の辺境伯?
「あそこの領ってうちと比べ物にならないくらい大きいんだよね?」
「そうだな。王都に次いで大きな街だ。うちはここだけだが東の辺境伯は領地持ち貴族をいくつも傘下にしているからな」
「どういうこと?」
「領地持ち貴族が子で東の辺境伯が親と言ったら分かりやすいかな。この国が出来てからの貴族だし、セントラル王国との防衛都市でもあるからな。名門中の名門で領内には貴族も多い。だから血縁者や関係者が廻りに領地を持って運営してるんだ。ウエストランドの中のもうひとつの国と言ってもいいくらいだな」
ドワーフの国近くも東の辺境伯領地と言ってたけど、直営じゃなく関係者の領地なんだろうか?
「うちとは全然違うね。そんな所に行っても勉強にならないんじゃない?」
「さぁな。しかし冒険者になってあちこち自由に動き回らない限り他の所を知る機会はないから、こうやってベントが外の世界を知るにはいいんじゃないか?」
移動に時間がかかるこの世界では生まれた所しか知らない人が大半だ。外の世界を知ってるのは各地を渡り歩く本当の冒険者か店を持たず町から町へ移動を続ける商人くらいだろう。だからこそあの集団離脱した村のように税を搾取されるだけされて支援が無くてもそれが当たり前だと受け入れてしまうのだろうけど。
「でも王都から東の辺境伯領まで遠いんだよね?行って帰って来るだけで夏休み終わるんじゃない?」
「領主育成コースは夏休みが長いんだ。各自が領に戻るからな。騎士学校の倍以上長いみたいだぞ。その分冬休みは社交シーズンで親が王都に来るから短いみたいだけどな」
なるほどねぇ。場所によっては冬休みに移動出来ない領もあるだろうからな。
「じゃあベントが帰って来るのは冬か。どんな事を学んで来るか楽しみだね」
「そうだな。若い内に色々な経験をした方がいいからな。アイナは少し寂しいだろうけど」
「男の子は一度出て行くと帰って来ないものよ。あなたも村を出てからここへ戻ろうとしなかったじゃない」
「それはアイナもだろうが」
それもそうだわと二人で笑いあっていた。
今日もファムとサイトの土魔法の特訓だ。手伝い無しに発動はするようになったので土を耕す訓練をしている。植物魔法より覚えるのが早かったのは魔法慣れか相性なのかはよく解らなかった。
「俺は明日、バルの従業員面接があるから二人は自主訓練ね。畑の予定地で耕すのやっておいて。明後日から果樹園に木を植えに行くから」
商会の居酒屋はバルという名前にしておいた。そのまま居酒屋でも良かったんだけどね。
バルの面接に来て合格にしたのは成人前の男の子。将来コックになりたいそうだから洗い場兼雑用だ。給仕係はご婦人二人。子育ても一段落着いたので働きたいらしい。
で、もう一人が若い女の子なんだけどね・・・採用するか迷っていた。
「なぁ、ウチもここで働きたいねん。他に行くとこもあらへんし、めっちゃ働くから」
何故に関西弁?
「どこから来たの?」
顔立ちはお目目パッチリで可愛いんだけど、なんか薄汚いのだ。遠くからここまで来たんだろうけど。食べ物屋に清潔感は必須だ。
「めっちゃめちゃ遠くやで」
あーうん、関西人と同じ説明だな。俺も関西人だったからよくわかる。それにこの帽子を被りっぱなしってのは・・・
「店の中では帽子脱いでね」
そう言うとキョロキョロして、
「なぁ、ここは種族気にせぇへんてほんまなん?」
「別に気にしないよ。ここのルールに従ってくれるなら」
そう言うとおずおずと帽子を脱いだ。
そこにはピンっとケモミミが・・・
「お前さん獣人か?珍しいの」
面接に立ち合ってたドワンが驚く
「おやっさん、獣人って?」
「あぁ、この国では見かけんが、セントラル王国よりまだ東に行った所にはそういう種族がいるとは聞いておったが見るのは初めてじゃ」
「きみセントラル王国から来たの?」
「ちゃうでそこのおっちゃんが言うた通り、もっと向こうや。おかんが獣人でおとんが人間で主人やってん。おかんが病気で死んだから逃げ出してきてん」
「獣人の村へは行かんかったのか?」
「ウチな、獣人と人族のハーフやし、ウチが村に逃げたら追いかけて村まで来るかもしれへんやろ?だからこっちへずっと逃げて来てん。さすがにここまで来たら捕まらんと思うし」
聞けば2年くらい掛けてずっと西へ西へと逃げて来たらしい。そりゃ薄汚いわけだ。
「食べるものとかはどうしてたの?」
こうやってシャッってな、と爪で引っ掻く素振りをみせた。猫系なのか?髪の毛というか毛並みは真っ黒だ。
「もちろん住む所とかないよね?」
「その辺の木の上で寝るからエエで」
エエでて・・・
「おやっさん、ここはもういっぱいだよね?」
「6部屋じゃからな」
ドワーフが5人。エイブリック邸から来たチュールが入って満室だな。今から増室頼んだらミゲルが発狂しそうだ。
どこにも行く所無さそうだし、取りあえず屋敷の従業員の所で泊まってもらうか。服も買ってやらないとダメだろうしな。
しかし、チュールの名前を聞いた時に猫を呼びそうだなと思ったけどまさか獣人を呼び寄せるとは・・・
「分かった。他に行くとこも無さそうだし雇ってやる。但し条件がある」
「えっ?ほんまに雇ってくれるん?奴隷やなしに?」
「奴隷?」
話を聞くと母親は奴隷で人間に囲われていたらしい。セントラル王国より以東は獣人の奴隷とかも多く、それもあって西に逃げて来たみたいだ。
「ここでは奴隷制度もないし、俺もそんな事をするつもりもないよ」
「ほんまに?やった!で、条件ってなんなん?」
「毎日風呂に入れ。食べ物屋は清潔第一だ!」
「え?風呂?」
サーっと顔色が悪くるハーフ獣人。
「う、ウチの服は汚れとるかもしれんけど、身体は清潔やで。ほらこうやってキレイにしとるから」
身体をペロペロと舐める仕草をする。
「ダメ。毎日風呂に入るのが条件だ。それがいやなら不採用だ」
うにゃうにゃ迷ってたみたいだったけど分かったと約束した。
「名前聞くの忘れてた。なんて名前?」
「ミケや!」
黒猫なのにミケ・・・
「歳は?」
「出てくる時に8歳やったからいま・・・」
指で数えていく。
「9歳や!」
「お前、2年逃げてたんだろ?10歳だ」
またひーふーよーと数え出す。
「ほんまや!うち10歳や!」
こいつにレジ任すの無理だな・・・。当然学校にも行ってないだろうし。
「おやっさん、ドワーフの国って学校あるの?」
学校は無いが店や親に教えられるらしい。おやっさんもミゲルもここら辺の人間よりずっと賢いから種族的なものだろう。獣人は人間よりさらに足りないのかな?学校へ行かせるか店で教えるかアーノルドに相談してみるか。
「ミケ、取りあえずうちにしばらく泊めてやる」
きちゃないのでクリーン魔法を掛けると。目を真ん丸くして自分の臭いを嗅いでいた。
「ダン、馬に乗せてやって。一旦、屋敷に戻って、ミーシャ連れてこいつの服を買いに行くから」
ご婦人方も明日から働くとのことでオープンまでメニューの試食と仕事の流れを練習してもらうことにしよう。
街に来てミケの服を私服と仕事用に見繕ってもらう。ついでにご婦人方の割烹着みたいなのを3着ずつと洗い場用の服を頼んでおいた。これはすぐに出来るらしいので屋敷に配達を頼んだ。コック服は既に配布済みだ。
「なぁなぁ、ほんまに服なんて買うて貰てええん?」
「お前、服それしか持ってないだろ?仕事着は毎日ちゃんと洗えよ」
「あんた小さいくせにおっとこ前やなぁ。あ・・・?上手いこと言うてこれ脱がすつもりちゃうやろな?」
こいつ・・・
「いらんこと言ってたらしっぽ引っ張るぞ」
「なななななんでうちにしっぽあんの知ってんねんっ?」
ケモミミがあったらしっぽもあるだろ?
「適当に言っただけだ。仕事中はしっぽだすなよ。毛が飛ぶからな」
飛ばへんわっ!とか言ってたけど嘘だな。
「ミケちゃんかわいいですぅ」
ミーシャに服を誉められて、そ、そうお?とかまんざらでも無いミケを連れて屋敷に戻った。
従業員用の部屋をミケにひとつ与え、ミーシャに後は任せる。
めっちゃええとこ住んでんなぁと驚いていたが、逃げ出して来た屋敷はもっと大きかったそうだ。
晩飯の時にアーノルドに相談する。
「獣人とのハーフか。珍しいな」
「そうね、この国では見たことが無いわ」
やっぱりそうなのか。
「まだ10歳らしいんだけど確かじゃないんだよね。見た目は成人してるかなと思ったんだけど」
「獣人は人間より成長が早いと聞いた事がある。その分、寿命は少し人間より短いのかもしれんな」
成長が早いならそうかもしれないね。
「勉強してないみたいだから、文字と足し算引き算くらいは教えたいんだけど、学校に入れた方がいいかな?」
「そうだなぁ、種族の差別は無いとは言え、獣人はこの国におらんかったからな。少し慣れるまで待った方がいいかもしれん。それに学校に行くとしても来年からになるだろ?」
「じゃあ、午前中はうちでミーシャに勉強を教えて貰おうか。で昼から働きに来て貰うのはどうかな?」
「ミーシャがいいならいいんじゃない?ついでにポポも一緒に学べばいいわ。誰かと一緒に学ぶ方が張り合いあるでしょ」
ポポは6歳になってる。文字の勉強を始めていいかもしれないな。
教師を頼まれたミーシャは無理です無理ですと言っていたが、ご褒美に二人の成績がよくなればケーキを作ってやるぞと言ったらすぐにOKを出した。きっとスパルタ教育になるだろう。
翌日ミケを連れて商会まで行き、バルの従業員部屋を見せて貰った。
居間とベッドルームがあり、トイレも各部屋にあるそうだ。風呂は男女に別れているけど共同だ。
「おやっさん、この屋根裏に部屋作れるかな?」
ミケも屋根裏で十分との事だったのでミゲルに作らせるとの事だった。また恨みがましい目で見られるのも嫌なので、急がせなくていいからとは言っておいた。
「なぁなぁ、ゲイル。あんたとこのご飯めちゃめちゃ旨いな。あんなんウチ初めて食べたわ」
おい、思い出しヨダレが出てるぞ。
「お前が働くバルでも賄い出すから似たような飯食えるぞ」
「ほんま?あんなんウチらにも食べさせてくれるん?やっぱりこっちに逃げて来て良かったわぁ。ウチの勘も捨てたもんやないね」
腕を組んでうんうん頷くミケ。
ご婦人方もバルに到着したので後は任せ、ファムとサイトを連れて果樹園予定地に向かった。
かなり木が切り出されているので、まず梨を植える相談をしていく。切り株は残ったままなので、俺がそれを枯らして除去したら、そこに梨を植えて行くことにする。
畑はトウモロコシとイチゴの栽培だ。トウモロコシは3種類離して植えること、イチゴの増やし方とかを教える。
これが稼働し始めたら俺はサトウキビの実験だな。今年の夏は遊べるのだろうか?
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