第254話 料理人の試験

「こんちはー!」


全て無かった事にして冒険者学校の見学を申し込んだ。苦笑いした受付嬢は見学を許可してくれた。


ギルドの裏手から少し歩いた所に出来た学校は座学用の教室と剣等の実践練習場、魔法の射撃場みたいな所がある。


引退した冒険者だろうか?アーノルドより若干歳が上そうな人が数人物理攻撃の稽古をつけている。


魔法の方はじいさんが教えているみたいだ。しかしあんなに発動に時間掛かってたら実戦で使えるのだろうか?


「ダン、実戦の魔法攻撃ってあんなものなの?」


「そうだな、魔法は剣とかの攻撃の補助みたいなもんだからな。ぼっちゃんみたいに魔法攻撃だけで魔物をバンバン倒せる奴は少ないぞ。高速詠唱しないとダメだしな」


高速詠唱とかあるんだな。早口言葉が得意じゃないと無理だな。しかも連発するなら延々とぶつぶつ言わないといけないし。


「威力もあんなものなの?」


「威力上げるには詠唱も長くなるし魔力も必要だからな。相当強い敵じゃないとあんなもんで十分だ。足止め出来りゃいいからな」


なるほどね。ここで練習してるのは攻撃魔法だけか。ヒーラーや水魔法は座学とかでやってるのかもしれん。


「パーティーのチーム連携とかはどうやってるんだろね?」


「ここでやっても対人のパーティー戦しか出来んからな。どこかで実戦しながらやるんじゃねーか?」


なるほどね。引率者が付いていって指導しながらゴブリンとか狩るのかもしれないな。


「まぁ、盛況で何よりだね。じゃあ雰囲気も分かったし帰ろうか」


見学も終わったから帰ろうとするとギルマスがやってきた。


「さっきはすまんかったな。お前ら時間はあるか?」


今日の予定は飛んだので暇だ。


「別にいいよ」


そう答えるとギルマスの部屋に案内された。



「あのブラックドラゴンの奴らなんだがな。やはりあちこちで同じ事をしてきていたらしい」


治癒ポーションと引き換えに自白させたらしい。ちぎれた耳以外は怪我も治り拘束してあるとのこと。


「ギルドの練習場での死亡は事故として扱われて罪に問われないというのは知ってるな?」


「うん、ダンに聞いたよ」


「という事で奴らを罪には問えん。歯痒いところだがな。処分はワシの権限でこのギルドからの追放が精一杯だ。他のギルドにも手紙を出しておくから実質冒険者としての活動は出来なくなるだろうけどな。すまんな」


そうか。冒険者が出来なくなって普通に働けばいいけど、盗賊とかになりそうだな。


「ギルマスが謝ることじゃないよ。規則がそうなってるなら仕方がない」


お前なら不敬罪で処刑も出来るぞと言われたが止めておいた。


「坊主はなぜあいつらが今までもやって来てたと分かった?」


「この前ドワーフの国まで行った時に道中でさんざん盗賊に狙われたんだよ。あいつらは盗賊と同じような気配してたからね。初めはタチの悪い冒険者も似たような気配するのかと思ったけど、近付いてきた奴からは人を殺した嫌な気配があったからね」


「そんな事が解るのか?」


「なんとなくだけどね。汚れた魂っていうのかな?」


少しめぐみが言っていた事を流用する。


「魂が汚れる・・・か。そう言うのもあるのかもしれんな」


結局、ギルマスからの手紙より早く他のギルドに行けないように1週間程拘束してから釈放すると説明された。


「うん、冒険者の事はギルドに任せるから後は宜しくね。じゃそろそろ帰るね」


ギルマスが外まで送ってくれ、馬に乗ると、仕返ししてくれてありがとうなと言われた。ギルマスを馬鹿にした奴の足を砕いた事が解っていたらしい。


この後、俺達は屋敷に戻りのんびり過ごすことにした。



翌日商会へ行くとドワーフ5人衆が外に出て俺達を待っていた。


「ゲイルさん、昨日は申し訳ありませんでしたっ!」


素直に反省したのか、昨日の俺を見てびびったのかわからないけどいい心掛けだ。


「おやっさんも親方もどれだけ酒飲んでも次の日はちゃんと起きてくるから見習ってね。ドワーフに酒を飲むなと言わないけど酒に飲まれるような飲み方は禁止ね」


「はいっ!」


「じゃあ早速始めようか」


まずミサにドン爺とエイブリックのアクセサリー作りをお願いする。ドン爺のはディノ討伐をイメージしたもの。エイブリックは炎の鳥をイメージしたものをお願いし、ウロコを渡した。


「じゃあファムとサイトは森に、ジョージは蒸留、リッキーは衛兵用の刀をお願いね」



森でファムとサイトに植物魔法を指導する。魔法を使ってなかったのでなかなか発動しなかった。ちょっと時間がかかりそうなのでミスリル合金の棒を持たせて何度もトライだ。


休憩時に梨の摘果作業を教える。こうすることで収穫数は減るが1つ1つが大きく甘くなることを説明する。


それから毎日魔法の特訓と摘果作業を続けた。



今日はコックの試験の日だ。俺は出来たばっかりのぶちょー商会直営の食堂の個室にいた。結局30人くらいが集まった。自分で食堂をやろうと思ったら個人経営なのでリスクが伴う。だから給料制は魅力的らしい。


全員の料理を食べるのは無理なので先にふるいにかけることに。


普通の水、極薄い塩水、薄い塩水。どれが塩味が薄いか選んでもらう。ここで1/3くらい落ちた。


次は新鮮な牛肉、食べ頃の牛肉、痛みかけた牛肉を匂いだけで選ばせる。


「食べ頃と思った番号に並べ」


ダンが試験を受けに来たもの達を肉の番号順に並ばせる。


年齢性別種族を問わないと告知してあるので料理の腕だけで判断するために俺は個室で待機だ。


「ぼっちゃん、10人残ったぜ。これくらいでいいか?」


「そうだね。一口ずつならいけると思う」


いよいよ本番。鶏肉とじゃがいものスープと焼き鳥を作ってもらう。合格者はもう一度同じ物を作って貰う予定だ。


1~10番の番号を付けられたスープと焼き鳥が運ばれてくる。


「これはじゃがいもの切り方が不揃い過ぎるな。不合格。これは焼き鳥が焼きすぎだな・・・」


両方バッチリだったのは1名。どちらも完璧に俺好みの味だった。この人はもう合格出してもいいんだけどね。焼き鳥だけ良い、スープだけ良いの各2名、合計5名を最終選考に進んで貰った。


最終選考でスープだけ良かった人が同じ味で作れなかったので1名不合格。焼き鳥は2名とも同じ焼き加減で出して来たので合格。両方バッチリだった人は当然合格だ。


「ダン、3人と言ってたけど、この4人を合格させるよ」


俺はそう言って合格した料理人が居る飲食スペースに移動した。


あれ・・・・?


見たことある顔が2人。一人は近くの食堂の親父。もう一人は・・・


「あれ?エイブリックさんのところの・・・。なんでこんなとこにいるの?」


エイブリック邸に居たコックだ。名前知らないな・・・


「ゲイル様の所でコックを募集していると伺いまして応募しました。合格ありがとうございます」


「いやいやいやいや、ここ一般人向けの食堂というか居酒屋だよ。貴族とか来るような店じゃないから」


エイブリック邸私設のコックと言えど宮廷料理人に匹敵する立場だ。こんな所でコックするとかなんか勘違いしてないか?


「ゲイル様が誰であろうと全力を尽くすのがプロのコックだとおっしゃったじゃないですか」


そりゃ言ったけどさ、それ王様が突然来てワタワタしてたからで・・・


「いや、そうだけどさ・・・。ヨルドさんとか困るじゃん」


俺がそう言うとこれをと言って手紙を差し出してきた。差し出し人はエイブリックとヨルドの連名で合格したら雇ってやってくれという内容だった。


「本当にいいの?給料もそんなに高くないし、ガラの悪い客とかも来るだろうし、飲んだくれのドワーフ達が毎晩入り浸るような店になるよ?」


「はい、ここなら様々な料理を任せて貰えそうですし、何より最新の料理が覚えられると思うんです。ヨルドさんを抜かして見せますよ」


確かにここだと新しい食材が入ったらすぐに試そうとは思ってるけど・・・


「ごめん、名前なんだっけ?」


「チュールです。チュール・ハイフンと申します」


貴族か・・・、しかし、猫が寄って来そうな名前だな。


「本当に良いんだね?ならエイブリックさんとヨルドさんの許可も出てるみたいだし宜しくね。」


「はいっ」


「どこに住むの?」


「ここに合格したら探すつもりでまだ決めてません」


「なら、ここに住む?2階の住居スペースが空いてるから」


「それでお願いします」


ということで強力なコックが手に入った。エイブリックとヨルド宛に手紙出さないとな。


「そっちは宿屋のおっちゃんだよね?自分の店は?」


「こんな所に店が出来ちゃ太刀打ちできねぇだろ?宿屋と朝飯だけにするつもりだ。合格して良かったぜ。ここで昼飯と晩飯を作って食わせりゃいいからな」


宿屋の客をここに誘導するつもりらしい。食堂自体はあまり儲けが無かったので給料を貰えるならこっちの方がいいと判断したようだ。


「おっちゃん名前は?」


「ガンツだ。宜しくな坊主。新鮮なマス持ってきたらもっと旨く料理してやるぜ」


あ、昔のマスの事を覚えてるんだ。これは客のことをちゃんと把握してくれそうだな。スープの合格はこのおっちゃんことガンツだった。


焼き鳥合格の2人は串焼き屋で、ここがオープンしたらまず客が減るだろうと応募したようだ。肉屋のミートから炭の事とかも聞いていてもっと旨い物を焼きたいと思っていたようだ。


「じゃあ、皆さんこれから宜しく。すぐに働ける?」


全員が大丈夫とのことだったので、オープンは1ヶ月後にする。オープンまでの間に役割分担とメニュー決め、そのメニューの練習をすることにした。もちろんその間も給料だすからね。


「給仕係も雇わないとダメだね。皿洗いとかも。何人くらい必要かな?」


「最低3人は欲しいな。後は客がどれくらい来るか見てからでもいい」


そうだな。他よりも高単価な店にするからそこまで流行らないかもしれないし。


「分かった。募集かけとくよ。料理人と同じく、年齢性別種族問わずに出すけど問題ないよね?」


まったく問題ないとのことだったので、アーノルドに手配してもらおう。



しかし、面白い料理人が集まったな。すぐに本格的なメニューが色々出せそうだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る