第250話 アーノルドの剣

ー王都の学校ー


「ベント様、なにやらディノスレイヤ領は色々とおありのようね?ゲイルというのはご兄弟かしら?」


「あ、マルグリッドさん。ゲイルは弟ですよ」


「あら、ずいぶんと野蛮な弟さんがいらっしゃるのね?耳を刎られた無惨な姿の盗賊が見せしめとして晒されているらしいですわよ。それをしたのがゲイルという名のものだとか」


ゲイルが?何をやったんだあいつ?


「魔王が出たとか色々な噂もありますわ。それとうちの領民を引き抜いているとか・・・。随分と熱心に人を集められてるようだけど、何か企んでらっしゃるのかしらね?」


「うちは冒険者が多いだけで何も無い田舎領だよ。マルグリッドさんの所とは違うから」


「あら、ご謙遜を。ベント様はこの国で2つしか無い辺境伯領の領主の息子ではありませんか。たとえ田舎であっても格は同じですわ」


ベントに話し掛けている娘、マルグリッド・スカーレットは東の辺境伯領主の娘だ。


「ベント様は夏休みに帰省されるのかしら?」


「そのつもりだけど・・・」


「優秀なお兄様はアルファランメル様と帰省されるのでしょう?」


「なんでそんな事を知っているの?」


「あら、スカーレット家は王家と懇意にしておりますもの。それくらい知ってて当たり前ですわ。アルファランメル様とお兄様は騎士学校で常に首席を競われてるとか。帰省されたおりには兄弟で比べられるのでしょうね」


とても美人なマルグリッドは少し意地悪な顔をしてそう言った。


マルグリッドの言う通り、領主育成コースの勉強にベントは苦戦していた。ディノスレイヤ領と他領の常識が違い過ぎるのだ。


「もし宜しければ私の所にご招待致しますわ。うちの領をご覧になれば勉強になりますわよ」


えっ?


「なんで僕を招待するの?」


「先程も申しました通り、私達は同じ辺境伯領主を親に持つ身ですわ。もしベント様の弟のゲイルとやらが領主になればあんな野蛮な事がまかり通る領になってしまいますもの。ベント様を応援するのは当たり前でなくて?」


「僕を応援?」


「そうですわ。うちの領で学び、ベント様が領主になられるのが賢明だと思いましたのでお声を掛けさせて頂きましたの。お嫌でなければお考え下さいませ。ではご機嫌よう」


マルグリッドは領主コースで成績が首位だ。それに教師達も頭を下げる存在・・・


同じ辺境伯領主を親に持つ自分には教師は頭を下げない。同じ爵位であってもぜんぜん違う扱いだ・・・ 俺も東の辺境伯で勉強したらああなれるのかもしれない。帰ったらサラにも相談してみよう。



ーディノスレイヤ邸ー


アーノルドは朝稽古でダンと激しく打ち合っていた。ロロもかなり良くなっていて剣筋が綺麗だ。


「おー、アーノルドさんもダンも凄いねぇ。あれだけ戦える人見たことないや」


「確かに。アーノルドさんは元冒険者と聞いておったが見事なもんじゃ」


今日はドワーフ達も稽古を見に来ていた。


「ゲイル君はやらないのー?」


「父さんやダンには敵わないしね」


「お前、バンデスさんに勝ったそうじゃねーか」


「あれは魔法で意表を突いただけだよ」


アーノルドとダンが打ち合いを止めてこちらへ来た。ダンが一本取られたらしい。


「ゲイル、せっかく皆が来ているんだ。ロロと立ち合え」


えーっ


「もう時間無いよ」


「お願いしますっ!」


嬉しそうに犬みたいに駆け寄ってくるロロ。


「ロロ、俺も稽古を付けて貰ってる身だから指導とか出来ないぞ」


「では一本勝負でお願いします」


しょうがないなぁ。


「すぐに決まっても文句言うなよ?」


「はいっ」




「ゲイルさんその構えなんですか?」


「気にせず掛かって来ていいぞ」


俺は腰を低くして剣を刀のように構える。



「始めっ!」


たぁーっと言い掛けたロロの腹に俺の剣が寸止めされて一本となった。瞬殺だ。


「ゲイルさん、今のは何ですか・・・?」


「居合斬り。木剣だとやりにくいね。上手く鞘から出ないから失敗だよ。ロロの剣がもっと早ければ俺の頭に一本決まってたよ。ロロは剣を振るまでの動作が遅い。中段に構えて振り上げるなら予め上段に構えた方がいい。中段に構えるなら初めに突いてくるとかした方がいいよ」


それらしい事を言ってみたが違うならアーノルドかダンが訂正してくれるだろう。


ほぅとドワーフ達が感心していたけど、適当だからね。


「坊主、なぜ剣であんなやり方をした?」


リッキーが聞いてくる。


「この後父さんがあの刀を持つのに相応しいか見たいんでしょ?せっかくだからロロに刀でやる居合斬りとどれくらい違うか見てもらおうかと思って。じゃ取って来るよ」


部屋に刀を取りに行く。俺のも持って行こう。



「アーノルドさん、この刀で居合斬りを見せてもらえませんか」


と、リッキーが言うのでアーノルドに刀を渡す。


腰を落としたアーノルドから繰り出されたのは丸太に向かって居合斬りからの十文字斬りだ。目を身体強化してて良かった。普通に見てたら何したかわからんところだ。

少し間があいてから丸太がガラガラと崩れ落ちる。


リッキーはその斬れた丸太の破片を持って泣いていた。


「坊主以外にこんなにもこの刀を使いこなせる人がいるとは・・・」


「リッキー、俺は合格か?」


「ぜひこいつを使ってやって下さい。宜しくお願いします」


ああ、とアーノルドは短く答えた。



「アーノルドさんよ、今まで使ってた剣はドワーフの国で手に入れた物だとアイナさんから聞いたが、どんな剣か見せては貰えんか?」


「構わんぞ」


そう言って置いてあった剣をファムに渡した。


鞘から剣を抜いて見るドワーフ達。


リッキーがこれは・・・と言葉を発する


「こいつはランデスさんが打った剣だな」


「ランデスさんって?」


「バンデスさんの弟だ。ランデスさんも偏屈でな。気に入った奴にしか剣を売らん。というか金を取ったことねぇんじゃねぇか?腕のいい穀潰しって奴だ」


「剣を打った親父の名前は知らんかったが、そうかドワンの叔父さんが打った剣だったか。こいつは見た目は普通だが魂がこもってるだろ?ディノもこいつで斬ったが歯こぼれせんかったぞ」


ドワーフ一同はシーンとなり、敬意を込めてアーノルドに頭を下げた。


「おいおい、なんだよ急に?」


「ドワーフを代表してアーノルド様に敬意を示します。俺達の武器を使ってくれてありがとうございます」


ドワーフは自分達が作った武器に誇りを持っている。誰が作ったとかではなくドワーフとしてだ。武器を渡した後は誰がどのように使っているか知る術はない。それが今このように大切に使われ、その剣でディノという化け物を討った人物がここにいる。これ程嬉しいことはない。


「おいおい、よせよ。弱ったなまったく」


頭を下げ続けるドワーフにアーノルドは困惑していた。



そんな空気を読まずにいきなり俺はリッキーに話し掛ける。


「リッキーさん、この刀と同じ物を欲しいと言ってる人がいるんだけど、材料があったら出来るかな?」


「刀を欲しいと言ってる人が他にも?」


「帰りに王都のエイブリックさんの所に寄ったんだけどね、俺が持ってたこの短い方を見せたんだよ。ずーっと見つめて同じの作れるか聞いてくれって言われてたんだよね。材料無いかもよって言ったら用意するだって」


「あの星の欠片が簡単に手に入るはずが・・・」


「王子だから持ってるかもよ」


王子?


「あーっ!そう言えばゲイル君は王様も王子様も遊び相手だと言ってたよねー?」


遊び相手ってお前・・・アーノルドは頭を押さえる


「エイブリックはこの国の王子でもあるが、俺達とディノ討伐をしたパーティーメンバーでもある。剣の腕も確かだぞ」


「ディノ討伐のパーティーメンバー?王子が・・・?その王子様はどんな剣を・・・?」


「あいつのは魔剣だ。炎の魔剣って奴だ。初めから持ってたから誰が作ったのかは知らんがな。遺跡から出たやつかもしれん」


「リッキーさん、剣の腕で言うと、父さん、エイブリックさん、ダンの順番かな。本気の剣だと違うかもしれないけど」


「ダンの腕も見事だと思っていたがそれより上だと?しかも材料まで用意するから俺の刀を欲しいだと・・・?」


「ちゃんと分かる人は分かるんだよ。エイブリックさんすっごい期待してたよ」


ぷるぷると震え出すリッキー。


「同じ物が出来るかわからんが、魂を込めて打つぞ。こんな英傑達が俺の刀を望んでくれるとは・・・」


リッキーは感動でさらにぷるぷると震えていた。


その後、朝飯を食べてドワンの元へと向かったのだった。


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