第248話 ドワーフ御一行

盗賊どもを解放した後、ディノススレイヤ領に戻る途中、人がいなくなった所まで来たらアイナが馬を止めて降りた。


その場でしゃがみ込んだのでお腹でも痛いのかと思ったら、いきなり笑いだした。


「きゃっーはっはっはっ!もうダメ、きゃっーはっはっはっ!!!」


しゃがみ込んで笑いをなんとかこらえようとする。


「ゲ、ゲイル。あ あいつらの土下座見た?か か 顔だけこっち向いてんのよっ。きゃっーはっはっはっ」


やっぱり笑いポイントは同じだったな。俺も笑い堪えるのに必死だったからな。


そして、ゲイルもアイナにつられて顔だけ上を向いた土下座を思い出し、ぎゃーはっはっはと親子で大笑いをするのであった。


ダンは救って貰って涙を流しながら感謝した盗賊にちょっと同情していたのだった。


その一方で、盗賊達のショーを見ていた観衆からの噂は瞬く間に王都へと広がり、劇場で演目に加えられるのは確実となった。



ー見慣れぬ御一行が王都に到着ー


「王都と言っても値段が高ぇだけで飯も酒も普通だな」


「人族ばっかりだね」


「それは当たり前でしょう」


「ねーねー、後で宝飾店を見に行ってみようよー」


「お前一人で行けばいいじゃろ」


「えー? ゲイル君が居たら一緒に行ってくれるんだろうなぁ」


「しかし、あちこちでディノスレイヤ領の話をしてやがんな。やれ神様だ聖女だとか悪魔が出たとか、そんなに有名な所なのか?」


「どうでしょうね、領地としては新しい所だと聞いてましたが」


「あとどれくらいで着くのー?」


「明日ここを出て明後日には着くじゃろ」


宿屋の食堂にいるドワーフたちは普通のエールを飲みながらディノスレイヤに着くのを楽しみにしていた。



ーディノススレイヤ屋敷ー


「お、帰って来たか。どうだった?」


飛ばす必要も無いのでゆっくり帰って来た俺達は先に帰って来ていたアーノルドと食堂へ向かった。たまには一緒に食えとダンも連れて来られて迷惑そうな顔をしている。



「魔法は解除してやったのか?」


飯を食いながら今日の事をアーノルドに報告する。晩飯は唐揚げだった。バッドだ、バッドチョイスだぞブリック。


俺はマヨに一味を加えたピリ辛で味変して食べる。ダンとアーノルドも真似して唐辛子多めで食っていた。アーノルドが次の唐揚げを口に入れた瞬間、


「きゃっーはっはっはっ」


いきなり笑いだすアイナにビクッとするアーノルド。


「ど、どうしたアイナ?」


「ど 土下座の顔がこっち向いてるのよぉ~」


「きゃっーはっはっはっ」


アーノルドへの報告はざっくりしたものだったが、アイナは思い出し笑いに襲われていた。



「は?」


アイナが笑いだした意味がまったく分からなかったアーノルドは食後に枝豆をつまみにダンと二人で飲みながら詳細を聞いていた。


「で、ダンは神様と聖女の従者になった訳だ。良かったな大出世じゃないか」


笑いながらそういうアーノルド。


「良くねーよ、ぼっちゃんは俺を巻き込むためだけに連れてったんだぜ。パーティだろとか抜かして。ひでぇ話だよまったく」


「まぁ、その盗賊どもをエイブリックがさらしてくれたお陰でずいぶんと人の増え方が落ち着いたのは確かだ。あれ以来騒動も起きてないしな」


「あんな酷い姿を見たら誰も来ねぇって。盗賊どもは水が無くなっても首が固まって元に戻せなかったしな。それをアイナ様は大笑いだ。ちょっと盗賊に同情しちまったぜ」


「アイナは昔から変な所で笑いだすからな。俺が昔魔物にやられてるってのによ・・・」


その後しばらく、アイナの昔話が続いたがダンはノロケてんじゃねーよとは言えなかった。けっこう酷い話もあったからだ。


これ、ぼっちゃんが聞いてたら大笑いするだろうな。あの二人同じ所で笑うからな・・・



ー翌日ー


ガラガラガラガラガラ


「あ、あれじゃない?」


「そのようじゃの」


「けっこう栄えてますね」


「でも王都と全然違うね。あっちは石造りの建物ばっかりだったけど、こっちは門もないし、木で出来てる建物ばっかりだよ」


「木の家もいいもんじゃの」


「どこにいるんだろうねー?」


大きな荷馬車に乗った小さなドワーフ達はキョロキョロしながら進んで行く。


「ちょっとあそこの店の前にいる人に聞いてみるね。おーいっ!そこの人ー!」


「なんだい?ドワーフの嬢ちゃん?」


「ゲイル君探してるんだけど、知ってるかなぁ?」


か、神様の知り合いっ?

馬鹿、よせっ、言うなって言われてるだろうがっ!

あ、ああすまん、いきなりぼっちゃんの名前聞かれるとは思わなくてついな


「ん?神様・・・?」


「いやぁ、何でもねぇこっちの話だよ。ゲイル君って、ゲイル・ディノスレイヤ様のことだよな?」


「そうそう、領主の息子だって言ってたから」


「なら、あそこのロドリゲス商会って店で聞いてくれ。ザックという奴がいるからそいつなら解るかもしんねぇ」


「ロドリゲス商会のザックね。ありがとうー!」


ガラガラガラガラガラ


「ここの人間は私達見ても驚かないね?それに神様とか言ってたけど?」


「ドワンやミゲルがいるから馴れとるんじゃろ。ここは人間だドワーフだとか気にせんとこじゃと言っておったからな」


「へー、本当にそうなんだね。で、神様って何?」


知らんとファムは答えた。


「あ、あれだね。すいませーん、ザックさんいる?」


「あ、はい、私がザックですけど、何がご入り用で?」


「ゲイル君探しているんだけど、どこにいるか知ってるかな?」


「あ、ぼっちゃんのお知り合いですか。いつもぼっちゃんには大変お世話になっております。お屋敷かぶちょー商会だと詳しくご存知だと思います」


「ありがとー、私たちこれからこの街に住むから宜しくねっ」


「あ、はい。今後ともご贔屓に」


ザックはそう言って頭を下げた。



「みんな親切だねー」


「そうじゃな、物も買わずに道だけ聞いても嫌な顔ひとつせん」


「さすがゲイルさんがいる街ですね」



「お、あれじゃな、ミサちょっと聞いて来てくれ」


はーいと返事したミサは屋敷の使用人らしき人に声をかけると何やら人を呼びに行った。


「ぼっちゃまは今出掛けていますけど、お約束されてましたでしょうか?」


「あー、それ私の作った髪飾りだ!あなたがゲイル君のメイドさん?」


「あ、ぼっちゃまが言ってたドワーフの職人さんですか?楽しみにお待ちしてました。これ素敵で気に入ってますぅ」


「ゲイル君のメイドはこんなに可愛かったのか・・・。あ、他の皆も呼んでくるね」


ミサは皆を呼びに行き、応接室に案内されたのだった。

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