第247話 聖女伝説
「じゃあ行って来るよ」
見送ってくれるミーシャに手を振って出発する。
馬車は使わずにダンとアイナ、俺とそれぞれの馬に跨がって王都に向かった。こっちの方が速いし、ブランもアイナにフラれてばかりで可哀想だからな。アーノルドのソックスは仕事でけっこう乗ってるが、出掛ける機会の少ないアイナの愛馬ブランはいつもおいてけぼりだ。今回も俺とシルバーに乗ろうとしたアイナにブランに乗ってやれと言った。
昼休憩にブリックに作ってもらったサンドイッチを頬張りながら会話する。
「なぁぼっちゃん。アイナ様が行くなら俺はいらなくねぇか?」
「何を言ってるんだよ?神の従者が一緒に来なくてどうするんだよ?」
「また神様ごっこするつもりか?」
神様ごっこて・・・おままごとみたいに言うなよ。
「今回は聖女様の従者だよ。見物客も多いだろうからイベントみたいになるからね」
「何をする気だ?」
「それは着いてからのお楽しみ」
「けっ、またろくでもない事を企んでやがんな」
けっこう飛ばしたので門が閉まる前にたどり着けた。初夏の夕暮れは遅いのだ。
門が閉まってたら貴族と証明するのに時間かかるしな。領主夫人が自分で馬に乗ってきたら誰でも疑うだろ?
晒されている盗賊は小屋の中に座らされ、誰がこんな酷いことをするのだろうと思ったが、やったのは俺だったな。我ながら無慈悲だ。同情の声が上がるのも理解出来る。小屋の前にはでかでかと今までの罪状が記載されていた。盗賊どもは上を向いているので俺達が前を通った事に気付かなかった。
ーエイブリック邸ー
「お待ちしておりましたアイナ様、ゲイル様、ダン様」
ダンもいつの間にか様付けになってるな・・・
「執事さんこんにちは」
にこやかに迎えてくれた後はそれぞれの部屋に案内されてから食堂へ。
「呼びつけて悪かったな」
「いいのよ。久しぶりに馬で走ってスッキリしたから」
フフフと笑うアイナを見てエイブリックの顔もほころんだ。
「ゲイル、お前えげつないことするな。あそこまでやるなら首刎ねた方が良かっただろ?」
「店の前で殺したら縁起悪いでしょ?」
「はぁ、お前ってやつは・・・。まぁいい、あれ解除出来るんだな?」
「うん。ここにくる間に勝手に解除されると思ってたんだけど違うんだね?」
「そんなこと知るかっ、あんな魔法使う奴見たことがないからな」
「父さんにやったときは身体強化で水を弾き飛ばされたんだけどね」
「お前あんな酷いことを自分の親にしたのか?」
「父さんが悪いんだよ、魔法無しで剣の立ち合いだと言った癖にこっそり身体強化するから水で包んでやっただけだよ」
クスクスと笑うアイナ。
「エイブリックさん、ぼっちゃんはあの水でデカいボアも一撃で殺しやがったんだぜ」
「一撃で?溺れ殺したわけじゃないのか?」
「息を吸う瞬間を狙って水を吸わせやがった。一瞬で倒れたよ。ぼっちゃんと魔法有りで対峙したら迂闊に息も吸えなくなるぜ」
ダン、いつの間にかエイブリックにもタメ口になってるぞ・・・
「お前やっぱり恐ろしいな・・・」
「何言ってんの、俺なんか可愛いもんだよ。母さんなんかいきなり目をいででででっ」
「目いででで?」
「・・目を治してたんだ・・・」
おー痛ぇ。脇腹の肉がちぎれるかと思った
「なんだそれ?」
「まぁいいや。明日見物人集まりそう?」
「そうだろうな」
「ちょっとイベントっぽくするから、しばらく騒ぎになると思うけど後は宜しくね」
「何をするつもりだ?」
こうやってね、と明日の説明をしたところでご飯が運ばれてきた。唐揚げメインの料理だ。唐揚げ中毒のエイブリックは週に2回は唐揚げが出てくるらしい。
「マヨネーズ頂戴」
「サラダに付けるのか?」
「唐揚げに付けて食べようと思って」
は?とエイブリックは驚くが構わず唐揚げにマヨを付けて食べる。旨っ、唐揚げマヨ・・・禁断の味だな。前の世界では嫁さんに太るから止めろと禁止されていた。成長途中のこの身体だと問題無いだろう。
俺が唐揚げマヨを旨そうに食ってると皆が真似し始めた。
「唐揚げとマヨネーズってこんなに合うのか・・・」
中年3人組も唐揚げマヨの味を知ってしまったようだ。太っても俺のせいじゃないからな。
デブの元を堪能した俺達はさっさと寝る事にした。門が開いたらすぐに盗賊の所に行って処理して帰る事にしたからだ。それだとエイブリックも立ち会えるらしい。
翌朝馬に乗って門迄行くと衛兵長が待っていた。
「おはようございます」
「あ、衛兵長さんおはよう。無事に戻れたみたいで良かったね」
「はいっ!お陰様で難なく戻る事が出来ました。本日は我々が立ち会いますのでご安心を!」
アイナも宜しくねと微笑んだ。
王都の衛兵長が子供に向かって嬉しそうに敬礼しながら丁寧に接している姿を見た部下達は少しざわついていた。
盗賊の小屋まで来たら衛兵達が盗賊を外に出して立たせると、これから処刑が始まるのだろうとギャラリーがワンサカ集まってくる。みんな趣味悪いよな。
「おい、盗賊ども、俺の声は覚えているか?」
処刑を覚悟していた盗賊は俺の声に反応した。ずっと座り込みっぱなしだったのと恐怖で上手く立てないのを衛兵達が支える。
「は、はい・・・」
震えて消えそうな声で盗賊の頭が答えた。
「なぜ、水も手錠も解除されないか解るか?」
上を向きながら首を振る。
「お前達が今まで犯した罪を心の底から反省しない限り水も手錠も消えない。すなわち、お前達はなぜ自分達がこんな目に合うのか、ちょっと人を殺しただけじゃないかと思ってるから消えないんだ!」
ギャラリーに聞こえるように大きな声で言う。
「そ、そんなことはありません・・・。ここにいる間に反省して心の底から自分のしたことを悔いていま・・・す」
「本当か?嘘だったら舌が伸びて行くぞ」
本当だろうけど、少し舌を引っ張ってみる。
「ほ、ほんとうでふっ!うほじゃありまへ・・・」
止めてやる。
「止まったと言うことは本当のようだな。では解除されないのはお前達が殺した人間の怨念だな。殺された者はまだお前達を許してないみたいだぞ」
「申し訳ありません、申し訳ありません。俺達は商人や村人を殺してしまいました。二度とこのような事はしないと誓いますっ」
「まだ許してくれないみたいだな。怨念は晴れそうにないな」
ぼろぼろ泣く盗賊達。
「あなた達、これからどうやって生きて行くつもり?」
ここでアイナので出番だ。
「罰を受けて一生懺悔します。殺した人達に懺悔しながらずっと供養します」
「本当ね?」
「誓いますっ!」
「ダン」
アイナがダンに声を掛けるとダンは手錠を斬った。その瞬間に手錠を消す。うおぉっと観客から歓声が上がる。
アイナは両手を前に組み詠唱を始めた。俺は演出の為にアイナをうっすらと光に包む。アイナからピンク色のモヤが盗賊たちに降り注ぎ頭や耳が再生しだしたのに合わせて水を解除した。
ギャラリーからはダンが手錠を消して、アイナが怨念を浄化して怪我を治し、欠損部位まで再生したように見えたはずだ。ダンはアイナに跪いて頭を下げている。
「あなた達を恨んでいた怨念は浄化されて天に帰ったわ。これからちゃんと罪を償ってあの人達の供養をして生きていきなさい」
上を向きっぱなしだった盗賊は水が無くなってもなかなか首を元に戻せないまま、その場で土下座した。
土下座すると上を向いた顔がちょうどアイナを見つめる形になる。土下座しながらアイナと見つめ合う盗賊・・・
駄目だ吹き出しそうだ。アイナも微笑んでいるというより笑いを堪えているように見える。
ここでエイブリック登場。
「衛兵長、この者たちを牢に入れろ。処分内容は追って言い渡す」
「はっ!」
衛兵達は盗賊の腕を掴んでギャラリーの間を抜けていく。盗賊達は涙を流しながら聖女様ありがとうございますと言い続けて大人しく連行されて行った。
俺はエイブリックとアイコンタクトを取り小さく手を振ってから馬に乗ってその場を去ったのだった。
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