第246話 エイブリックからの使い

翌日移住者の領営住宅に向かうと既に働きに出たものも多かったが、ミゲルと協力して家を建てようとしている。


「あれ?親方。住居作りに来たんだけど?」


「コイツらが自分達の事は自分達でやりたいと言い出してな。坊主に任せた方が早いと言ったんじゃが言うことを聞かなくてな」


「ぼっちゃん、お早うございます。俺達と増えた移住者達はぼっちゃんが作って下さった建物に詰めて住みます。新しい住居は自分達で作りますから」


あー、ドワンが自分達の事は自分でやれと言ったのを実行してるのか。


「時間かかるでしょ?」


俺なら一度作った物はすぐ出来るから1日で全部出来るけど・・・


「大丈夫です。自分達の事は自分達でやらないと。新しく移住してくる者にもそう伝えます」


移住者はこれからも増えるだろうし、その方がいいか。


「分かった。じゃあ風呂と井戸だけはやっておくよ。あれ大工事になるからね」


でも・・といいかけたけど、素人には無理だからミゲルの所の負担が益々増える


「親方も忙しいからね、他の仕事も待ってるからこれぐらいいいよ」


ミゲルがそうしてくれと言ったので、蛇口と風呂だけ作って帰った。



「ちゃんと信じてたみたいだね。」


「良かったじゃねーか、拝まれたりもしなかったしよ」


「目付きは違ったけどね。ダンも深々とお辞儀されてたじゃん。神の従者認定おめでとう」


「やっぱり俺を巻き込むだけの理由だったんだな?」


「町で悪魔扱いの時はダンが居なかったからね。せめてこっちだけでも巻き込まないと。俺達パーティーメンバーだろ?」


ハンッとダンは嫌そうな顔した。



数日後の王都。


「まだ水牢と手錠は外れんのか?」


「はい、一向にその気配がありません」


王都からディノスレイヤ領に向かう道の小屋で見せしめにされている盗賊達。あれからずっと上を向いたまま寝転ぶ事も出来ず涙を流し続けていた。


(大罪を犯した盗賊とはいえ、さすがに哀れになってきたな。いっそ首を刎ねてやる方がいいが、ゲイルが生かした者を勝手に殺す訳にもいかんからな・・・)


「おい、ゲイルに使いを出せ。何とかしろとな」


「はっ!」



日常に戻った俺達は森で稽古したり飯を食ったりしていた。


屋敷に戻るとミーシャから応接室にお客様が来ていると知らされた。


コンッコンッ

ガチャ


「お客様が来てるって聞いたんだけど?」


応接室にはアイナと見知らぬ身なりの良い人がいた。


「ゲイル、この前の盗賊なんだけど、まだ水も手錠も解除されてないんだって」


えっ?


「ゲイル様、あの者どもの水と手錠を解除して頂く事は可能でしょうか?」


お客さんは王都の衛兵長さんだった。


「母さん、魔法って勝手に解除されないの?」


「さあ?あんな魔法使う人は居ないから知らないわ」


「エイブリック殿下の命令でアイナ様とゲイル様が生かした者を殺す訳にも行かず、かといって魔法が解除出来る訳でもなく対処に困っております」


「今は牢に入ってるの?」


「魔法が解除されるまで王都からディノスレイヤ領に向かう者への見せしめにしておりますが、魔法が解除されないのでそのままです」


げっ!ずっとあの酷い姿のままさらされ続けているのか・・・


「柄の悪い者共はあれを見て引き返して行くので効果は高いのですが、そろそろ同情の声も上がりはじめまして・・・」


治癒魔法をかけられ、死ぬことも出来ず晒されたまま生かされているらしい。どうりで移住者の増え方が落ち着いた訳だ。


「ここから解除出来るか分からないから、明日王都に向かうよ。もうすぐ父さんが帰って来るからもう一度話をしてもらっていい?」


衛兵長はこの話が終わったら王都に戻ると言うので、ご飯を食べながら話そうと言うと遠慮されたが無理矢理食堂に連れていった。


「このようなことをして頂く訳には・・・」


「兄弟が学校で居なくなっちゃったからご飯の時寂しいんだよ。遠慮せずに食べていって」


そうよ、とニコニコアイナ。


今日のメニューはハンバーグ、夏野菜サラダヤングコーン入り、コーンポタージュスープだ。王道ファミレスメニューだな。


アーノルドが帰って来たので食事を運んでもらう



「こんな美味しい物は初めて食べました」


「それは良かった。ハンバーグはアルも好きだからね」


「アル?それはアルファランメル様の事でしょうか?」


「そうそう、エイブリックさんの息子。夏休みと冬休みにここへ遊びに来るんだよ。うちの長男と同級生で仲がいいみたいだから」


「そうでしたか。アルファランメル様と同じ物を頂けるとは恐縮で・・・」


「そんな大したものじゃないから恐縮しないで。食事は美味しく食べないともったいないからね」


「ありがとうございます。とても美味しいです」


体格も良いし、朝イチで何も食べずに飛んで来たのだろう。ブリックにお代わりを持って来てもらった。遠慮していたがちゃんと食べた。


食事が終わった後にアーノルドに衛兵長は説明をした。


「父さん、明日魔法を解除しに王都に行って来るよ。父さん来れる?」


「明日は無理だな」


「じゃ私が行くわ。焦げた頭と耳も治した方がいいでしょ?」


アイナに来てもらって部位欠損した耳とか治して貰った方がいいな。


「すまんな、頼めるか?」


「衛兵長さん、盗賊は反省してそう?それとももう頭おかしくなってる?」


「いえ、気は触れてはおりませんがずっと涙を流しながら天に向かって謝っております」


「そう、それなら改心してるかも知れないね。でも人殺しの罪が消えるわけじゃないから、魔法を解除して母さんが治したら処分は衛兵長に任せるね」


衛兵長はそれは勿論ですと返事をした。


今から戻るということをなので、衛兵長と馬に回復魔法を掛ける。急に身体が軽くなり馬も元気になったことに驚き、改めてお礼を言われた。


「じゃ、明日の夜にエイブリックさんの所に行って、明後日に魔法解除と治癒すると伝えてね」


はっ!ありがとうございますと言い残して衛兵長は走りさった。



衛兵長はパカラッパカラッと馬を走らせる。自分の身体も馬も疲れているはずなのに十分休んだ後のようだ。


ご馳走になった食事は初めて食べるすっごい旨いものだった。エイブリック殿下の社交会で見たこともない料理と酒、菓子が振る舞われたと噂に聞いていたが、あの子が関わっているのだろう。


盗賊どもを拘束している魔法は見たことがなく、無慈悲ではあるが大人しくしていれば死ぬことはない。盗賊どもを見ていると罪を悔いるのに最適だとも今では思える。


あの子は一体何者だろうか?エイブリック殿下やアルファランメル様とも懇意にされているみたいだし、伝令に来ただけの俺にも飯を食えと言ったばかりか、さらっと満腹になるようにお代わりまで出してくれた。


体調を見て俺と馬にまで回復魔法を惜しげもなく使った。それも無詠唱と来たものだ。


非常に興味深い。明後日の盗賊どもへの対応はどうするのだろうか?エイブリック殿下が立ち会いの許可を下さるといいが・・・



衛兵長はほんの一瞬ゲイルと関わっただけで色々な経験をし、心を奪われた事を自分でも気が付かぬまま馬を走らせたのたった。



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