第245話 ドワンもダンも名優
「なんじゃ坊主、アイナと一緒に来たのか?」
「ダンは休みだからね。ところでおやっさん、両隣の店閉まってるんだけど?」
「急に引っ越したぞ」
・・・こいつ、やりやがった。
「コックは探してんだろうな?」
「いま募集かけてるよ。それよりちょっと協力して欲しいんだけどね、これ見て」
「なんだこの像は?」
移住者達が俺を神様扱いしてること、移住者が急増して問題になりそうなこと、悪人が既に来はじめてることを説明した。
「まぁ、知らんやつらが増えるとそうなるの。で、何を協力したらいいんじゃ?」
「もう否定しても無駄だろうから、いっそ神様になろうかと思ってる」
「は?神になる?」
俺はドワンとアイナに作戦を説明する。
「要約すると、神が坊主の身体を借りて顕現して、移住者達にお告げをするんじゃな?」
「そうそう。明日の夜は新月で真っ暗闇になるでしょ。暗闇の中から魔法使って光の玉で俺が現れるから、おやっさんが神の声役をして欲しいんだ。で、信仰するのは認めるが心の中だけにする事、この事は秘密にすること、良かれと思ってした話が悪人まで呼び込んでしまうこととか注意して欲しいんだよね」
「面倒臭いのう」
「おやっさんの口調とか声が神様にぴったりなんだよ。宜しくね」
という訳で台本を作り、明日までに覚えて貰うことにした。ドワンと話をしている最中、アイナはずっとクスクス笑っていた。声役をドワンに頼んだのは自分で言うと笑ってしまう恐れがあったからだ。よく聞け皆のものよ!とか言ったら自分で吹き出してしまうかもしれない。
ダンには光の馬車で登場して、一番初めに跪く役をやってもらおう。誰かが初めにやると信じやすいからな。
馬車にもライトを4つほど足して明るさアップもしておく事に。
晩飯の時に今日あったことをアーノルドに報告した。
「おまえそれでエイブリックに後始末を押し付けたのか?」
「ここには牢とか無いし仕方がないじゃん。エイブリックさんに押し付けたんじゃ無しに王都に任せたの。王都で裁いてもらった方がいいでしょ?」
そりゃそうだがとアーノルドは渋い顔をしていた。
翌日の朝から森の小屋でおやっさんとダンで神様顕現の予行練習をしていた。
「ぼっちゃん、俺は本当に必要か?」
「当たり前だよ。ざわつく移住者達の所に光の馬車で現れて跪いたら、皆真似するでしょ?大役だよ」
そんなもんかね?と首を傾げるダン。
ダンよ、お前も神の従者として崇められたまへ。俺はこうしてダンもきっちり巻き込んだ。自分だけ崇められるのはゴメンだからね。
ドワンは意外と真面目に声優に取り組んでいた。一晩でセリフを覚えてきて今も真面目に練習している。もしかして本当に俳優にもなれるんじゃなかろうか?
今も声の抑揚を変えたりしながら、より神様らしくなるように工夫しているようだ。笑いそうになるけど我慢する。
「坊主、服装はどうするんじゃ?ダンはいつも通りの服、ワシは見えないように黒服にするが、坊主はそのままじゃとありがたみがないじゃろ?」
「え?ダメ?」
「こう神様らしい服装とかないのか?」
俺のイメージは白い布を纏っただけだな・・・
「白い1枚布でヒラヒラさせようか?木の杖とか持って」
そうしろと言われたので布は自分で、杖はドワンが用意してくれる事になった。
晩御飯のあと、屋敷に集合してから全員で向かうことにする。
「お前ら本当にそんなことするつもりか?」
「仕方がないじゃない。宗教って怖いんだよ。信仰心が強いと信じない人に攻撃したり、熱心にお前も信者になれとか強制するようになるからね。そのうち神の名を借りてそれを利用するやつも出てくるから今のうちに釘を刺して置かないと」
元々宗教は人の心の拠り所だ。正しく生きる為のツールでもある。しかし、宗教を権力争いに利用したり、考え方の違うもの同士で争いの種になるのは元の世界でもあるからな。
アイナは見に行こうかしら?と言ったがやめて貰った。笑いだすかもしれないからな。そうなったらぶち壊しだ。
シルバー、クロス、ウォッカで馬車を引いて暗闇の中を慎重に進む。闇夜でも出歩いている人がいないか気配を探りながら進んだ。
「じゃ、ダンはここで待機ね。俺の光が出て、移住者達がざわつき出したらライト点けながら皆の近くまで来てから最後は歩いて登場。さっと跪いたらおやっさんの出番だ。落ち着いて早口にならないように気を付けてね、自分が思ってるより早口になるから」
最後に今まで話した内容の確認をしておいた。
ドワンと二人で現場に到着。ドワンは俺が出す光の後に回りスタンバイ完了。
俺は空に浮かんで大きな光の玉を出した。
突如として白い光が領営住宅に差し込む。何事だと出てくる移住者達。そして数人が出て来て光を見上げている。他の者にも知らせに行き、たくさんの人が出て来た。
俺はスーっと光の玉と一緒に下まで下がる。まだ光の玉の中にいるから俺の姿は見えないはずだ。
お、馬車の明かりが点いた。タイミングバッチリだ。
上に光の玉があり、ここへ向かう道からも明るい何かが近付いてくる。
何が起こってるのか分からない移住者達は身を寄せあって震えている。そりゃ怖いよね。
道に向かって来ていた光が止まり、何か大きなものが移住者にゆっくりと向かってくる。一層恐怖に包まれる移住者達。子供は泣き出していた。
歩いて来ているのがダンであると分かってざわざわがまた始まり、ダンはそれを無視して跪いた。
俺は光の玉を少しずつ下ろして姿が見える様に移動。
あ、あれは・・・?ぼっちゃん?
げ、ゲイル・・・様?
俺に気付いた人が現れ出したのでドワンの出番だ。
「よく聞けみなのものよ!」
クックックッ ドワンの奴、声色まで変えてやがる。危うく吹き出すところだった。
笑いを堪えるのに風魔法で一枚布の服をたなびかせる事に集中する。手にはドワンが作った金メッキの杖だ。実に神様らしい。
ドワンの声が聞こえ、ダンが跪いているのを見て、俺が神様であると悟ったのか一斉に同じように跪く移住者達。
「ワシはこの者の身体を時々借りているものじゃ。よく聞くが良い」
じーっと俺を見つめる移住者達。
「ワシはこの領とこの者を気に入っておる。この者の慈悲深い心に惹かれてここにやって来たのじゃ。ここに住まう者は皆良い心を持っておる。ここに来たお前達もそうじゃ。少し悪い心に汚されかけた者もおるようじゃがの」
盗賊もどきをした村長ゴタほか数人が土下座をして申し訳ありません申し訳ありませんと謝り始める。
「良い良い、すでにその者達も心から反省し、よき心になっておるからの。心を浄化したこの者に感謝せよ」
ははぁ~
「お前達がこの者を崇め、他の者にも伝えようとする気持ちも解るがそれが思わぬ
「は、はいっ。この前盗賊を呼び寄せてしまいましたっ、申し訳ありません」
「分かっておれば良い。先程も言った通り、ワシはこの領とこの者を気に入っておる。美味しい酒や食べ物、便利な物が増え、人々が楽しく暮らしておる。身分や種族の違いも気にせず協力しあえる稀有な所じゃ。ワシはそんな領に発展させていってるこの者に感謝しておる」
あれ?こんなセリフあったか?
「じゃからこそこうやって直接ワシの声を聞かせに来たのじゃ。
涙を流しながらドワンの話を聞く移住者達。
「今日ワシが話した事もここへ現れたのも秘密じゃ。良いな?」
はは~っ
「もし、悪い心を持った者がこの領にいれば心が浄化されるまで天罰を与える。この事は皆に知らせて良い。神のお告げで聞こえたとな」
あ、あれはやはり天罰・・・
「もう一度言うぞ、お前達が言って良いのは神のお告げで悪い心には心が浄化されるまで天罰が下るということだけじゃ。良いな?」
「わかりましたっ!」
「それから自分達の都合で神を頼るでないぞ。自分達の事は自分で努力してなんとかするものじゃ。良いな?」
「はいっ!」
「では皆の者、よく働き、よく食べ、楽しく暮らすのじゃぞ。さらばじゃ」
俺は一旦光の中に入り、一枚布の服と金メッキの杖をさっとドワンの元へと飛ばす。ドワンは光の後だから移住者達には見えないはずだ。そのまま光を弱めながら玉を上空へ飛ばして行き消した。
いつもの服装に戻った俺は気を失ってるふりをしてゆっくりダンの元へと降下して行った。それを受け止めたダンは無言で俺を抱き抱えながら光の中に消えていく。
馬車に乗ったら光を消して退散だ。
ドワンも馬車に乗ったのでさっさとこの場を離れ、気配を探りながら商会へ戻った。
「はぁ、お疲れ様。上手くいったかな?」
「皆信じきって泣いてたからな。大丈夫じゃねーか?」
「おやっさん、なんかセリフ増えてなかった?」
「予定通りじゃ」
そうだっけ?
「まぁ、明日住居増やしに行くんだろ?その時に様子みりゃいいんじゃねぇか?」
「そうだね。あ、おやっさん。蛇口を用意して親方に渡しておいてね」
もう渡してあるとのことだった。
「ぼっちゃん、明日は笑うんじゃねーぞ。気を失ってて知らない事になってるんだからな」
「え、わ 笑ってないよ」
ごつんっ!
痛って
「笑ってたじゃろがっ!」
バレてたのか・・・・
気配で解ると二人に言われた。
まだ気配を消す修行が足りないみたいだね
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