第244話 魔王と神様

騒動も一段落付いたのでアイナとシルバーに乗り、ドワンの所に行くことに。


「・・・怖かった」


なに新喜劇ギャグかましてんだよ?


「何言ってんだよ、オークをワンパンで倒せるくせに。1人目の目潰しをした時の母さんの動き目で追えなかったんだからね」


「怖かったのはゲイルの優しさよ。母さんの為に悪者になってくれたんでしょ」


アイナは俺の心を読めるんだった。だから途中から何もしなくなったのか。


「母さんが盗賊とはいえ人殺しするの見たくなかったからね」


「領民にも見せたくなかったんでしょ」


はい、お見通し。


「母さんは聖女だからね、領民に怖がられたりするのは父さんや俺でいいんだよ」


アイナにぎゅーっと後ろから抱き締められる。


「大丈夫よ。領民もゲイルの事を怖がったりしないわ。みんなもなぜあんな事をしたのか分かってくれるわよ」


別に怖がられてもいいんだけどね、崇められるよりは。



「エイブリック様、ディノスレイヤ領から盗賊と思われる集団が王都へ向かっております」


「何人だ?」


「10名です」


「なぜ捕まえずに報告する?」


「すでにゲイル様に討伐され、無惨な姿になっておりますのでそのまま見せしめとして捕まえておりません」


「ゲイルが連れて来ているのか?」


「いえ、盗賊自らこちらへ歩いておりますが途中で死ぬかもしれません」


「は?訳が分からん、詳しく状況を話せ」


盗賊の状況を詳しく説明させた。


「顔を上向けてないと溺れて死ぬのか。えげつない魔法を使いやがる。処分はこちらに任せると書いてあるんだな?」


「はい」


「こちらに着いたら尋問をしろ、歯向かうなら首を刎ねてかまわん」



ーしばらくしたあとー


「盗賊どもが到着し、尋問をしたところ過去の犯罪まですべて自供しました。決して嘘じゃありませんと」


「聞いてないことまでしゃべったのか?」


「はい」


「見に行く。案内しろ」



(聞いてはいたがなんて酷い有り様だ。討伐証明として耳を切り落として自分に持たせるとは。頭は黒焦げになってるし、殺すより酷いじゃないか)


「あの頭の水はいつ消えそうだ?」


「わかりません。掻き出しても又まとわりついて来ます。手を拘束している土で出来た手錠も外れず、剣でも斬れない為そのままです」


「おい、ディノスレイヤ領であったことを詳しく調べてこい」


それは調査済みです。


そしてエイブリックに事のあらましが詳細に報告される。


(なるほど、ゲイルはダンではなくアイナと一緒にいるところに悪党どもと出くわしたのか。先ずアイナが動いたあと、すべてゲイルがやったか。ならアイナを庇って自分が恐怖の対象になるようにした可能性が高いな。生かして歩かせたのはディノスレイヤに悪党が行くとゴブリンの様に狩るという意思表明か)


「やつらの処遇を言い渡す。王都からディノスレイヤ領に向かう道に小屋を建て魔法が解けるまで皆に見える様に座らせておけ。死なないように治癒魔法を掛けて飯は与えろ。小屋の前には今までの罪状を全て記しておくのだ」


「はっ」



ーディノスレイヤ領商店街ー


盗賊どもが去り、ゲイルとアイナが居なくなったあともざわざわが収まらなかった。


あ、悪魔だ・・・

あの子供は悪魔だ

人間にあんな事が出来る訳がねえ

悪魔どころか魔王だ

悪党が臭いで解るとか言ってたよな

わ、悪いことしたら俺らもああなるのか・・・

おいおい俺達もうっかり悪いことしちまったらああなるのかよ

も、もうこんな所に住んでられねぇ

俺もだ。引っ越す用意しなきゃ


「待ってくれっ!ぼっちゃんは俺の為にあんな事をしたんだっ!」


ロドリゲス商会の為?


「違う、商会の為じゃなく、俺の、俺の尻拭いをしてくれたんだっ」


他の人達がザックの話に耳を傾ける。


「俺はここにくる商人達にこの領の自慢をしまくってたんだ。他領で苦しんでいた村人を全員救ったと。税も安いしこんな暮らしやすい所は無いって」


そんなのは俺達も言ってたよな?


ざわざわ


「前から人が増えてたけど、今急激に増えすぎてて俺のした話が商人達によって広められてるんだ。それを聞いた人達がまた大量に来てるんだ。このままだと領の食料が足りなくなって争いが起こるかもしれない、悪い奴等もたくさんくるかもしれないから気を付けて護衛を雇えと言われたんだ。それをみんなに伝えておいてくれと頼まれた時にこの騒ぎが起こった」


ぼっちゃんが言った通りになったのか・・・?


「さっき、商人達がたくさんいただろう?わざと悪い噂が広がるように酷い仕打ちをしたんだ、俺がした話を打ち消してこれ以上急激に人が増えないように。未来におこる争い未然に防いでくれたんだっ!」


そう言って大声で泣くザック。


そういや昔ザックが絡まれてた時に止めて、殴り掛かろうとした奴を懲らしめてたよな。ちゃんと言い分を聞いた上で

護衛の男が斬ろうとしたのも止めてたぞ。

ザックの間違いも正してたよな・・・


「そうだ、ぼっちゃんは無闇にあんなことはしない。人をたくさん殺してきたやつだからこそだ」


ざわざわ ざわざわ


俺達にも危ないから次はすぐ逃げろとかも言ってたよな・・・

やっぱり俺達の為にやったことなのか?

よく考えたらいきなり足止めしたり、火の玉出したりって凄くないか?

あぁ、魔法だとしても詠唱とかしてなかったよな・・・?

悪魔じゃなくて神様なんじゃねーか?悪人に罰を与えたんじゃ・・・


「あ、あの・・・」


1人の男が勇気を絞り出して声を上げる。


「私は村を捨てて移住してきたものです。不作が続き税が払えず鉱山奴隷になるか飢えて死ぬところでした」


皆が食い入るようにその男の話を聞く。


「やむを得ず、旅の途中だったぼっちゃん達の荷物を奪おうとしました」


何っ!全員が一気に敵意を剥き出しにする


「申し訳ありません。」


ガバッと土下座をする男。


「護衛の男が我々を斬ろうと剣を抜いた時にぼっちゃんがさっきのように火の玉を出して脅されました」


ごくっ

それで?


「我々が初犯で未遂だったことで殺されずに済みました。初めから脅すだけで殺すつもりはなかったのだと思います。ぼっちゃんが火の玉を出さなければ護衛に斬られていたでしょう」


・・・・・


「その後、私達の話を聞いてくれ、ディノスレイヤに行けば働き口があると教えてくれました。村人と相談し、ひたすら歩いてこちらに向かいました。食料も水も無くなりもうダメかと思った時に親切な人が水や食料をくれました。ぼっちゃんからそれは王子様の部下が助けてくれたのだと教えてくれました」


王子様が見知らぬ村人を助けた?


「ぼっちゃんは王様や王子様と懇意にされてます。きっと支援要請をしてくれたんだっ!」


ザックが叫ぶ。


「こちらに着いたら既に住むところが出来ていて、まだ増えると聞いたらすぐに追加の家を作ってくれました。それで早く生活基盤を作れと・・・。それが噂になってこんなことに」


申し訳ありませんと再び土下座をする。


お前らも生きるのに必死だったんだろ?

助かって良かったじゃないか

俺達が逆の立場だったら同じことをしてたかもしれん。


口々に移住者を擁護しだす領民達。


お前らよく働くって評判になってるぜ。

それによ、よく考えたらぼっちゃんはアイナ様を庇ったんじゃねーか?危なくないように。

そうだ、いきなり殺さずに足や腕を止めてたじゃねーか。あんなことが出来るならすぐに殺せたはずだからな。

逃げようとしたやつが俺らを襲う可能性もあったよな。

だから次はすぐに逃げろと言ったのか。


ざわざわ ざわざわ


ぼっちゃんは領や俺達を守るためにわざわざあんなことしたんだよ。

そうだ、きっとそうに違いない。


わーわーっ


ほらお前も立て、もう領民だろ。


「み、皆さん許して・・・ 」


許すも何ももうお前達は同じディノスレイヤの領民じゃねーか。

衛兵団を作るって言ってたよな。うちの息子志願させるわ。

うちもだ。冒険者より衛兵になれって言うわ。


わーわー やいのやいの



こうしてゲイルの神様説は領民達にも広まっていくことになるのであった。



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