第243話 魔王再び

ロドリゲスとザックが俺達を送り出そうとした瞬間にキャーッという悲鳴と共にシルバーがヒヒーンと鳴いた。


俺とアイナは瞬時に外に出た。


1人の男がシルバーにのされ、数人の男達が剣をシルバーに向けていた。


「あなた達っ!何をやってるのかしら?」


アイナが男達に怒鳴り、シルバーはばっと俺の前に立つ。


「このクソ馬が俺達の仲間を蹴りやがったんだっ!殺してやるっ!」


アイナからめっちゃ冷気が出ているような感じがする。


「ア、アイナ様、そいつらが馬を盗もうとしたんですっ」


騒動を見ていた向かいの商店の店員が状況を説明する。


「へっ、何処にも繋いでない野良馬を持って行って何が悪い」


シルバーは賢いのでここで待っててと言うだけていいのでいつも繋いではいない。


「へぇ、私達の馬を盗もうとしたの?いい度胸ね?」


「女の癖に偉そうな口を利きやがって。こっちは女だからって手を抜くことはねぇぜ残念だったなオバサン」


プチンと音が聞こえた気がする


アイナは目で追えない早さでオバサンと言った奴に近付き抜き手で両目を潰した。


「うぎゃあぁぁぁぁ!」


いらぬ事を言った男の両目から血が吹き出す。


「何しやがるっ!ここは衛兵も居ないと調べてあるんだからなっ!」


周りの男どもが一斉に剣を振り上げた。このままだとアイナはこいつらを殺すかもしれないし、周りの人に被害が出るかもしれない。俺はアイナが人を殺すところを見たくないし、他の人にも見せたくない。


ゲイルは盗賊どもに怒鳴る。


「とまれっ!さもなくば死ぬことになるぞ」


子供にしてはドスの効いた声で言う。一瞬怯んで止まる盗賊。目を潰された男の叫びが煩いのでアイナは腹にパンチをいれて気絶させて居た。


「こいつ、チビの癖にでかい声で脅かしやがって・・・」


残り8人か。シルバーにやられた奴、アイナが目を潰した奴を入れて10人。気配を探っても他には居ないな。


「今剣を捨てたら命は勘弁してやる」


「うるせぇっ!」


1人がアイナに斬りかかり、2人が俺に斬りかかって来た。こういったトラブルに慣れてない商店街の人々は逃げるわけでもなく、加勢するわけでもなく、おろおろと見てるだけだ。


アイナに襲いかかったやつは剣を持つ手を握り潰され、俺を襲って来たやつは足の甲を土魔法で貫いて足止めし、剣を振り回せないように腕も刺しておいた。


ぎゃああああぁ


残りの盗賊はヒッと悲鳴を上げて逃げる態勢になったので、同じく足と腕を土魔法で貫き地面に固定した。


叫び続ける盗賊達。


「母さん、そいつから離れて」


アイナは握り潰した手を離したので足と腕を串刺しにしておきそいつに近付き尋ねる


「お前らの頭はどいつだ?」


「いでぇ、いでぇよぉぉぉぉ!」


身体強化して気絶しない程度に腹パンする。


「ぐぼぉっ」


「そんなことは聞いてない。お前らの頭はどいつだ?」


「いでぇ、こ、こいつを離し・・・」


もう一発腹にどーん。


「ぐぼぉぉぉっ」


「お前、答えられないならもういいわ」


ゲイルは背中の剣を抜いて首に当てた。


「そそそそ、そいつですっ!そこで始めにオバサンと言ったやつが頭ですっ!」


ゲイルは魔剣を首から離して耳を切り落とした。


「ぎゃああああぁ」


「この領ではね、盗賊はゴブリンと同じだと教えられてるんだよ。ゴブリンを狩ったら耳を切るのは討伐した証なんだよ。知ってる?」


「ゲイル、討伐証明は反対の耳よ」


「あ、そうだった。間違えちゃったな」


反対の耳も斬り落とす。


「ぎゃああああぁ」


アイナも容赦無いよな。せっかく俺が悪者になってるというのに・・・


「こいつ耳が悪かったみたいだから、これで良く聞こえるんじゃない?」


まぁ、とクスクス笑うアイナ。


目を潰された盗賊に近付き、アイナに言って治療してもらう。暴れたら困るので、足と腕を刺して固定しておく。ついでにシルバーにやられたやつも。


「な、何しやがる・・・」


「お前、母さんがオバサンに見えたんだろ?目を治して貰ってよく見えるようになったか?」


「うるせぇっ!オバサンにオバサンって言って何が悪い」


アイナが攻撃する前に俺が剣で目を斬る。


「ぎゃああああぁ」


「母さん、まだちゃんと治ってないよ」


「あら、本当ね」


もう一度治す。


「どう?よく見える?」


「うるせぇ・・・オバ」


ぎゃああああぁ


また治す。


「き、キレイです・・・」


「やっと治ったみたいだよ」


「あらやだわ、キレイだなんて」


照れ隠しに見せかけたおもいっきりビンタが炸裂。なんか聞いた事がないような音がしたけど、死んでないよね?



盗賊全員の足と腕の串を解除した後、後ろ手に土の手錠を嵌めて横一列に立たせ、討伐証明として全員の片耳を斬り落とした。叫び声をあげる度に腹パンされるので今は痛みに耐えている。


「俺は慈悲深いから死に方を選ばせてやろう。1:剣で刻まれる、2:馬に死ぬまで蹴られる、3:火炙り」


そう言って大きな火の玉を盗賊の頭の上に出した。


ヒッと悲鳴をあげる。


「死ぬ前になぜこの領に衛兵が居ないか教えてあげるよ。それはね・・・、この領には悪人がいないからだよ」


クックックッグと笑いながら火の玉を頭の上に近付けていく。ちりっと毛が焦げだした


「た、助けてくれっ!俺達が悪かった。ちょっと馬を頂こうと思っただけなんだっ」


「ふーん、で?お前ら今まで何人殺してきた?」


「こ、殺しなんてしたことはねぇっ!」


「へー、嘘吐くんだ?俺さぁ人殺ししたやつ解るんだよねぇ。独特の臭いがするから。嘘吐きは嫌いだなぁ。だから嘘を吐けないように舌を引っこ抜こうか」


念動力で舌を引っ張り出していく。


「ほら、嘘吐いたから舌がどんどん引っ張られる。良かったね、これなら嘘も吐かずに済むよ」


「や、やめへっやめへくへっ」


「誰が本当の事を言うかな?もうこいつはしゃべれないしね」


ゲイルは他の盗賊共をぐるっと見廻す。


「む、村を襲ったり商人を襲ったりして殺したことありますっ」


「お前ら全員?」


「は、はい嘘じゃありませんっ」


舌を抜かれて死にかけてたやつを解除してやる。


「じゃ・・・」


「ゆ、許して・・・くれる・・」


「じゃ。さようなら」


髪の毛を燃やすとやめてくれぇと懇願する。


「お前達が襲った村人や商人も同じ事言っただろ?その時どうした?許したか?どうせ笑いながら殺したんだろ?だから同じ事をしてやる」


あーはっはっはっは


ゲイルは笑いながらファイアボールを盗賊共に近付けていく。


じゅううううう~


うぎゃあぁぁぁぁ!


「ゲイルダメよ、殺しちゃ」


アイナのやつ、ようやく止めやがったので一旦火の玉を消す。


頭を火傷しながら助かったと口にする盗賊ども


「母さん、こいつら人殺しだよ」


「そうね、でもここで殺したら商店の人に迷惑だわ。やるなら他でやりなさい」


止めるんと違うんかーいっ!


「ザック、ここで殺したら迷惑か?」


ぶるぶると震えながら頷くザック。


「しょうがないな。ザック、何か書くもの持ってきてくれ」


ザックは俺にビビりながらペンを渡して来た。盗賊の服を切り刻んで上半身裸にして大きくこう書いた。


〔私はディノスレイヤ領で悪事を働き討伐されました。手に持ってる耳は討伐された証明です〕


王都の衛兵へ

この者の処分をお任せします。

ゲイル・ディノスレイヤ


これでよしと。


後ろ手に耳を持たせ、全員に水魔法で口を覆うくらいまで包む。


ごほっ ごほっと咳き込みながら上を向いて息をする盗賊達。


「お前ら王都の場所は分かるな?自分達で歩いて出頭しろ。この領に牢はないし、王都まで連れていくのも面倒臭い」


「こ、この水は・・・」


「上向いてりゃ息出来るだろ。逃げても良いが一生上向いとけ。ちゃんと出頭したら水が無くなるかもな。それと次嘘吐いたら舌が無くなると思っとけよ。ほらさっさと行け。目障りだ」


ドンっ蹴飛ばすと倒れて溺れそうになる盗賊の頭。


ごほっ ごほっと水を飲んで起き上がろうとするが、後に手を縛られているし、水口にどんどん入ってくるのでその場で溺れていく。


「お前らこけたらこうなるから気を付けて王都まで行けよ」


死にかけてる頭を魔法で立ち上がらせてやる。


「早く行かないとまた蹴飛ばすぞ」


そう言われた盗賊どもはひぃぃぃと言いながら上を向いたまま慎重に歩いて王都へ向かったのだった。


その場を汚した血、嘔吐物、お漏らしをクリーン魔法で綺麗にする。


恐れおののきながら遠巻きに見ている領民達に向かって宣言しておく。


「ロドリゲス商会には先ほど伝えたが、これからこういう悪人が来ることが増えるかもしれない。領主アーノルド・ディノスレイヤは今、衛兵の準備をしているがそれまでは自衛を心掛けろ。それと剣を抜くような奴が居た場合、見てないでさっさと逃げてくれ」


シーン・・・・


俺のしたことで領民ドン引きで固まったままだ。


ザックにペンを返しに行く。


「ペンありがとうな。今言った事は皆聞こえてなかったかもしれないから後でちゃんと説明しておいてくれ」


「ぼぼぼぼ、ぼっちゃん。本当にぼっちゃんですよね?」


「なんだよ?」


「魔王が乗り移ったとかじゃないですよね・・・?」


魔王?


ざわざわざわざわ。魔王の言葉にざわつく領民


「さあな。本当は俺が魔王かもよ?お前も俺に嘘吐いてみるか?」


ぶるぶるぶるぶるっと首を振るザック。


「まぁ、これでお前が話した事も帳消しになって人の急増も収まるだろ。良い噂より悪い噂の方が広まるの早いからな」


えっ?


「商人達が慌てて出ていったろ?すぐに噂が広まるさ。しばらく商人が減るかもしれんがそこは我慢してくれ」


「ぼ、ぼっちゃん・・・まさか俺の為に悪者に・・・」


「領のためだよ。気にすんな」


俺とアイナはシルバーに跨がりその場を去った




王都からディノスレイヤ領に向かう道で、水牢に顔を覆われ上を向きながら歩く集団にすれ違う人々はざわざわしていた。


ディノスレイヤ領で悪事を働いたと書かれてるぞ。

おい、片耳がねぇぞ。

討伐されたって書いてあるからゴブリン扱いされたんじゃねーか?

なんだよあの水?顔半分覆われてて下向けなくされてるぞ。

よく見りゃ頭も黒焦げだ。まさか生きたまま焼かれたのか?

おいおい、ディノスレイヤ領は衛兵とかいないんじゃなかったのかよ?


多くの人々とスレ違い、ディノスレイヤ領で悪事を働いたらトンでも無い目に合うと噂が広がるのであった。盗賊の惨状を見て柄の悪い連中はどんどん引き返して行く。


盗賊どもはなんとか4日間かけ生き延びて王都に着いていた。





水牢はまだ解除されていない。



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