第242話 噂の出どころ

翌日、俺とシルフィードでイチゴの株を増やし続け300くらいまで増やしてやめた。


鴨の養殖場に行くと少し大人になり掛けた鴨がたくさんいた。養殖場の池は人力で作ったのであまり大きくない。魔法でもう一つ池を作り小屋も増やしておいた。この冬の大切な食料になるだろう。


梨や栗の果樹園の木も小さな実が成っている。この秋に収穫出来るな。うちのは小屋周りのだけだからこちらの方が収穫が多いな。


すべてが順調に回り出してるのを見て安心する。秋には様々な収穫が始まるからめっちゃ忙しくなりそうだなぁ。


去年お願いしたシワシワのブドウもちゃんとワインになってきてるみたいだし、今年も同じようにしてねとお願いしておいた。


夜はまた宴会があり、生け贄アゲインだった。良く飽きないよね君達・・・



「また来て下さいねーっ!」


皆が盛大に見送ってくれるなかボロン村を出発した。シルフィードは手を振りながらまた涙ぐんでいた。またすぐに来るだろ?



「ぼっちゃま、村の人達はみんな明るくていい人ばかりでしたねぇ」


ミーシャはボロン村の過去を知らない。今はもうその面影が見えないからな。


「うん、幸せそうで何よりだね」


俺達は途中で1泊しながら屋敷に戻った。


まだ昼過ぎなのでミーシャだけ屋敷に下ろして果樹園予定地に向かう。


「わ、めっちゃ木が無くなってるね。」


「通常の家に加えて闘技場やら移住者達の家もあったからな。ここをメインに木を切ってるんだろ。取りあえず空いたところに木を植えて行くか?」


「そうだね、まぁファムが来てからにするよ。やり方覚えて貰った方がいいし」


「そんなの知ってるだろ?」


「いや、植物魔法と土魔法を教えてからやって貰らおうと思ってね。そうしないと全部俺がやらないといけなくなるから。切り株は俺がやらないとダメだけど」


「なるほどな。しかし、魔力が足りねぇんじゃねえか?」


「それは魔力あるだけでやっていくしかないよね。どれもそこまで急ぐ必要ないからやれるだけで」


「そうだな」


「ファムが一番忙しくなると思うよ。果樹園、トウモロコシ、イチゴに米の増産、酒用の芋、それにサトウキビだ。まぁサトウキビは軌道に乗るまで俺がやるけど」


そんな話をしながら鴨の養殖場に行くとここも大人になりかけの雛がうじゃうじゃいた。これ、もう一つ池がいるな・・・


隣にもう1つ池と小屋を作っておいた。飼育員の人に溢れそうならこっちも使ってと言っておく。なんかヘロヘロだからドワンに言って人員増強して貰おう。



屋敷に戻り、ダンは明日休みにした。俺も明日1日ゴロゴロしよう。



晩飯を食べてるとアーノルドが帰って来た。


「ゲイル、悪いが明日移住者の住居増やしてくれ。まだぞろぞろ来てるから家が足らん」


なんですと?明日はゴロゴロしようと思ってたのに・・・


どうやらディノスレイヤ領の噂が広まっているらしく、あちこちから人が集まっているようだった。


この通信網が発達して無い世界で噂が広まるの早くないか?


「なんでそんなに噂が広まってるの?」


「商人どもだよ。ここで仕入れた奴等が吹聴して回ってるんだろ。後から来た奴らがそう言ってたからな」


「どこから来てるの?」


「あちこちだ。聞いた事がない村とか多いし、どの領かすらよく分からん」


「じゃあこれからも移住者が増え続けるんじゃない?」


「だろうな」


「まずくない?」


「あぁ、まずい」


一気に人が増えると食料が追い付かなくなる。他領から購入するにしてもすべて領の蓄えから持ち出しになる。食料の量産体制が整うまで一旦どこかで止めないと。


「一気に人が増えると治安も悪くなりそうだよね。どんな人達か分からないし」


「そうなんだよ。どこかの村人かもしれんし、盗賊だったやつらかもしれん。根っからの盗賊は雰囲気や気配でわかるが、盗賊に成りたての村人とかだと分からん」


「どんな噂が広まってるの?」


「ディノスレイヤ領には神が居て、困ってる人に住むところも食べ物も与えてくれる天国のようなところだとさ」


「何それ?」


「これを見ろ」


ん?


ことっとおいた小さな木彫りの像だ。人が両手を上げているように見える。


「これ何?」


「神様の像だとよ。お前が移住者達の家を魔法で建ててるのをイメージして作ったそうだ」


線香を焚く代わりにこんなものを作ってやがったのか・・・


「お前、移住者から信仰対象にされてるぞ。お供えとか冗談のつもりだったがまさか本当になるとはなぁ」


「どうしよ・・・?」


「うちの領は壁も門も無いから来る奴を止めることも出来ん。それに頼って来たやつらを追い返す事も出来んしな」


「取りあえず父さんはこの領で衛兵を持つ用意をしておいて。そのうち絶対事件がおこるから。俺は移住者達が俺の噂をしないように手を打つよ」


「どうやるんだ?」


「もう本当に神様になるよ。それで噂するなと言い聞かせる」


「神様になる?」


「おやっさんとダンに協力してもらうから、こっちは任せておいて」


「あぁ・・・分かった」


家作るのちょっと待ってとアーノルドに言っておいた。先に神様の件をなんとかしよう。でも明日はダンも休みにしちゃったしなぁ。急がないとまずいよな・・・



翌日


「母さん、ダン休みにしちゃったから、街とおやっさんの所に行って来ていい?」


あら、じゃ、一緒に行くわ、だと。


「町に何しに行くのかしら? 」


「昨日の話でさ商人が噂してると言ってたでしょ?ザックにも聞いてみようかと思って」


「そうね、あそこは今商人達が多く出入りしてるみたいだから色々な話が聞けるかもね」



ポコポコとロドリゲス商会に向かうと大勢の客で賑わっていた。


「そうなんだよ、うちの領主様やご家族様は神様みたいな人でね、困ってる村をまるごと引き受けて助けたんだよ。うちは税も安いしまるで天国みたいな所だよっ、へいありがとね!また宜しくっ!」


噂の出所はコイツか・・・


アイナはザックの後ろから近付き頭をガッと掴んだ。


「あいだだだだっ 誰だっこんなことするのはっ!」


アイナが手を離すとザックはバッと振り向いた


「一体あなたは何を話しているのかしら?」


微笑むアイナ。さすがにザックも何かを感じたのか血の気がスッと引いていく。


「ア、アイナ様。い、いつもご贔屓・・・」


「今誰に何を話してたのかしら?」


ニッコリ


「あ、あの商人にうちの領の自慢を・・・」


「へぇ、いい話ね、ちょっと商会長を呼んでくれるかしら?お礼を言いたいわ」


言葉のやり取りだけを聞いていると領主婦人に誉められてる店員だ。


応接室に案内されてロドリゲスがやって来た。


「これはこれはアイナ様。いつもありがとうございます」


深々と頭を下げるロドリゲス。


「今日はね、うちの領の噂が広まってると聞いて、どんな情報か確認しに来たの。もう聞く必要無くなったけど」


「と、申されますと?」


「噂の出所はザックだったんだよ。さっき他の商人に話してたの聞いたからね」


「ザック、お、お前どんな噂を流したんだっ!」


「いや、ただ俺はこの領の自慢話を・・・」


ザックは自分が話した内容を説明した。


「嘘じゃないな?」


「こんなに恩がある領主様やぼっちゃんの悪口なんて言うはずがないじゃないか。信じてくれよ」


「商会長、内容はその通りだったわ」


「で、では何が問題で・・・」


「今うちの領に人がどんどん移住して来てるわ。それは少し前からだけどね」


「は、はい。住民も冒険者も増えました」


「それは良いことなんだけど、村が丸ごと移住してきたでしょ?」


「はい」


「その後から尋常じゃない増え方をしているの。今日もぞろぞろと来ているわ。これが続くとどうなると思う?」


「ひ、人が増えるのは良いことでは・・・」


「そう、ありがたいんだけど、その増え方が問題なのよ」



「商会長、ザック、このまま加速度的に人が増えたら食料が足りなくなるんだよ。どんどん農作物や畜産は増えてるけど、それ以上に人が増える可能が高い。そうなればとうなる?」


「あっ・・・・」


「食べ物が少なくなると争いが起きるわ。それに悪いやつらも増えるから治安も悪くなるのよ」


「その原因がザックの自慢話・・・」


「他の地区に噂が広がるの早すぎると思ったんだよね。お前、他所から来る商人全員にこの話をしただろ?」


「は、はい」


「ザック、もうこの話はこれ以上しないで頂戴。もうしてしまったものは仕方がないけど」


「は、はい。申し訳ありません」


ザックも良かれと思ってした話だから咎める必要はない。


「ここまで人が移住してくるのは俺達も想定外だったから怒ってるわけじゃないよ。すぐに移住者が止まる訳でもないからもうこれ以上するなよってだけ」


「は、はい」


「父さんが衛兵の設立をする予定だけど、すぐに出来るわけじゃないからきちんと自衛しておけよ。衛兵が設立されるまで冒険者ギルドに護衛依頼出しとけ。お前の所はいつ狙われてもおかしくない。同業のやっかみもあるだろうしな」


「今までそんな被害は一度も・・・」


「人が増える、店が儲かって大きくなって来る、その弊害が治安の悪化だ。近々必ず事件が起きる。周りの商会にも言っておいてくれ。近隣で組合作って共同で冒険者を雇っても良いと思うぞ。それでもここは独自で護衛依頼出すことを勧めるけどね」


「ご、ご忠告ありがとうございます。早速依頼を掛けておきます」


「ぼっちゃん、俺は俺は・・・」


「ザック、今回は責めた訳じゃない。想定外の事が起きただけだ。それとな、商売人なら情報を与えるだけじゃなく情報を収集しろ。商品のことだけじゃなく他領の情報とか幅広くな。東の領地の村とかめちゃくちゃ廃村が増えてたぞ。不作が続いてるみたいだからな。他の領は知らないけどあちこち回ってる商人ならそういう情報を持ってんじゃないか?」


「は、はい。ありがとうございます」


「今日の用件はこれだけだ。他にも用事があるから帰るぞ」


二人は深々と頭を下げたのだった。


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