第241話 初夏のボロン村

「じゃあ行ってくるよ」


俺とミーシャがシルバーに乗り、ダンはクロスに乗り、3人でボロン村へと向かう。飛ばせば今日中に、そうでなければ途中で1泊だな。馬に荷物もくくりつけてあるから無理せず1泊した方がいいかもしれん。


「ダン、あまり飛ばせないから途中で1泊するつもりでゆっくりと行こうか」


「そうだな。どうせ今日中に着いても夜だしな。のんびり行こう」


「ボロン村ってどんな所なんでしょうね。楽しみです」


ミーシャは初めてボロン村に行くからな。


「シルフィードも驚くだろうね」


ポコポコと馬たちは歩いていく。


途中で1泊してから翌日の昼頃にボロン村に到着した。


「あれ?ぼっちゃん。ようこそボロン村へ。どうしたんですか?」


シドが迎えてくれた。


「ちょっとシルフィードの顔を見に来たんだよ。先にダートスさんの所に挨拶に行ってくるね。シルフィードはどこにいるか知ってる?」


シルフィードは畑にいるとのことだったのでダートスの家に行ってから畑に向かうことにした。



「これはこれはようこそいらっしゃいました」


「いつも突然来てごめんね。シルフィードの顔を見に来たんだよ。今回はメイドのミーシャも連れて来たよ。ミーシャ、村長でシルフィードの親代わりのダートスさんとスザンさんだよ」


「初めまして。ぼっちゃま付きのメイド、ミーシャです」


「あらあら、シルがよく話してたメイドさんね。シルと仲良くしてくれてありがとうね」


シルフィードはうちでの話をよくしてたようだ。


「今回お土産に新しい作物の種持ってきたから、夜にでも一緒に食べよう」


「それはそれは、いつもありがとうございます。シルは今畑に行ってますよ」


「じゃ、今から行ってくるね。今日と明日、ここに泊めて貰っていいかな?」


もちろんですよ。とニコニコしながら返事をしてくれた。



ポコポコと畑に向かうと俺達に気付いた村人が手を振ってくれる。


ダンさんが来たわーっとか声が聞こえてきた。


「ダン、嫁候補がたくさんいるぞ」


うるせぇとか言いながらちょっと嬉しそうだった。本当に嫁探しすれば良いのに。



あ、居た。


「おーいっ!」


俺の声が聞こえたのかシルフィードがこちらに駆け寄ってくる。


「ゲイル様っ!ミーシャさんとダンさんもどうしたんですか?」


ハァハァ言いながらとても嬉しそうに近くまで来た。


「面白い種を手に入れたから持って来たんだよ。ここでも栽培してもらおうと思って」


「面白い種ですか?」


「そう、3種類あるよ。畑する人にも説明するから呼んで来てくれない」


わかりましたと走って行った。シルフィードはもうフードで顔を隠したりしてないし、明るく元気だ。初めて会った頃とずいぶん印象が違う。元々はこういう性格だったんろうな。


シルフィードが10名ばかりの村人を連れてきた。ほとんどが人形みたいに綺麗な女性だ。ダンを見てキャッキャしている。


「作業中ごめんね。新しい農作物の種を持ってきたから、どういう物か説明するよ」


種を3種類取り出して説明する。


「これが飼料用。牛や鳥の餌に混ぜるといいよ。栄養価が高いから他の餌と混ぜてね。牛には実だけでなく茎や葉っぱも全部餌になるから。こっちは人間用で実は人間に、残りは家畜の牧草がわりに。これも人間用で実はおやつに、残りは同じく餌に出来るから」


「これはどんな植物ですか?」


「今から順番に育てるから見てて」


まず飼料用のデントコーンを育てて一つ実を取って皮を剥いて中身を見せる。


「これは飼料用でね、少しここがへこんでるんだよ。人間も食べられるけどあまり美味しくないからね」


シルバーがフンフンと匂いを嗅ぎにくる。


「食べる?」


皮をやると嬉しそうに食べた。生の実は消化に悪いと聞いた事があるから皮だけにしておいた。


「牛や馬に実をあげるときは乾燥させてからあげてね。次は人間用」


育てて皮を剥いて見せる。


「これはさっきのと違って実がぷっくりとしてるでしょ。茹でたり焼いたり、すりつぶしてスープにしたりすると美味しいよ。いま試しに茹でてみるから」


土魔法で鍋作って茹でる。村人はもう驚かないけど興味深そうに見ていた。湯を捨てて、軽く冷ましてから皮を剥いてみんなで食べてみる。


「わ、甘くて美味しい!」


シルフィードも村人達も美味しいと絶賛だ。


「これは畑で植えてもいいし、各家の前とかに植えて自分達で育ててもいいから」


わぁ、と嬉しそうに手を叩く。


「最後のはおやつ用」


一気に種になるまで育てる。


「これは種になってから食べるんだよ」


ダンが無言で種を取る。ドワンの機械を持ってきてないから熊の出番だ。


持ってきた油でポップコーンを作る。ポンポン弾ける音に驚き、出来上がりを見て更に驚く。


「あんな少しの種がこんな風になるんですか?」


「これは爆裂種と言ってね、皮が硬くて食べにくいんだけど、熱を加えると弾けてこんな風になるんだよ」


塩をさっと振って試食する。


美味しいぃ!面白い食感!


それぞれが食べて感想を口にする。


「今度シドが来るときに種を外す機械を持って帰ってもらうから。今回持って来た種はこの3種類。近くに植えると品種が混ざっちゃうかも知れないからそれぞれ離して植えてね」


スイートコーンは家庭で育てる場合は受粉作業をすることと、美味しいのを食べたいなら、一番上のやつだけ残して他の実は小さい間に取って食べてしまうこと、発酵させた鶏糞等の肥料をたくさん入れてやることなどを説明した。


「後はイチゴだよ」


数株だけ持ってきた奴を地面に植えて育てる。花が咲いたら受粉のやり方を見せて実を成らせた。


イチゴの甘さに女性陣はめろめろだ。


「実を取ったらその後ランナーっていうのが伸びてくるから、株を増やす時は親株から2番目と3番目をこうやって取って植え替えて。親株は2~3年が寿命なのと同じ場所で作ってると実が成らなかったり病気になったりするから、ずらして植えていってね」


みなフンフンと育て方を聞いていた。


「今回親株が少ししかないから、明日はみんなで株を増やす作業を手伝ってもらっていいかな?」


はーいということなので、今日は皆に植える場所を確保してもらっておく。


俺達はダートスの家に戻って夕食まで休息させてもらった。シルフィードは作業を終えてから帰って来るとのこと。


「ぼっちゃま、この村の人達綺麗ですよねぇ」


「そうだね、美人ばかりだね。男性が少ないからそろそろ移住者募集してもいいかも知れないね」


このままだと過疎化一直線だからな。


「ぼっちゃん、明日イチゴ育てたら終わりか?」


「そうだね、今回はそれが目的だから。なんで?」


「いや、わざわざミーシャを連れて来たからなんか他に目的があるのかなと思っただけだ」


「シルフィードも会いたいかなと思ってね」


そんな会話をしながらうだうだしているとシルフィードが帰って来た。



「はい、シルフィードにお土産。ドワーフの国で買って来たんだ。母さんとミーシャとお揃いだよ」


おれは髪飾りとイヤリングを渡した。


「わぁ~綺麗!わざわざ買ってきてくれたんですか?」


「珍しい品物だったからね。でももうすぐこれ作った職人がうちの領に移住してくるから他にも手に入るようになると思うよ」


「ありがとうございますっ!」


早速嬉しそうに髪飾りとイヤリングを身に付ける。ミーシャも持ってきてたみたいでお揃いでキャッキャしてた。


「シルフィード、トウモロコシの種の植え付けは春になってからだから、種が足りなさそうなら魔法で育てて増やしておいて。イチゴのも自然に実が成るのは春過ぎたあたりだから、どちらも皆が食べられるのは来年になるよ」


わかりましたと返事してまだキャッキャしている。しばらく二人で楽しく過ごしてくれ。


俺とダンは庭に出て、今晩食べる用のスイートコーンをせっせと育てる。村人が集まって来るかも知れないから多めに育てた。


そこにダートスがやって来た。


「見事な物ですなぁ。もうシルフィードよりも植物魔法を使いこなされてるみたいで」


「これから領で色々な作物を大量生産していくから毎日の様になんか育てたり品種改良したりしてるからね」


「相変わらずお忙しくされてるなか、いつも村の事を気に掛けて下さり本当にありがとうございます」


「こっちも助かってるからそんなに頭を下げないで」


いやいやこちらこそ、いやいやとオッサンな会話が何度か続いたあとダートスが話を切り出してくる。


「来年の今頃には馬をお渡し出来そうなんですが、何頭くらいお願い出来ますでしょうか?」


「何頭でもいいよ。出せるだけ出して貰ったら全部買うから」


「本当ですか?」


「うん、何頭でも売れると思うよ。もし売れなくても商会で全部買うから大丈夫」


「ありがとうございます。10頭程お渡し出来ると思いますので宜しくお願いします」


「あとこの村に移住者とか考えてる?男も子供もほとんどいないじゃない?」


「それは考えてはおりますが、またあのようなことが・・・」


瘴気にやられた男達のトラウマか。


「大人しめの性格ならいいの?」


「そうですね、農業や畜産に長けた者なら歓迎いたします」


「わかった。父さんにも言っておくね」


そんなに話をしていると家の周りからざわざわと話し声が聞こえてきたから村人が集まって来たんだな。外で宴会の準備をしてくれているようだ。


「さ、ご飯にしましょう。お話の続きはまた後で。皆が待ってますよ」


スザンがご飯だと呼びに来てくれた。


外に出ると宴会の準備が終わってて後は焼き出すだけだ。メインは鹿肉の味噌焼き、夏野菜に塩とワインビネガーを掛けたサラダだ。


トウモロコシは1人1本だと足りなそうなので茹でて2つに分けた。本格的に食べられるのは来年だと言うと残念がっていた。


ダンは多くの女性陣に囲まれてキャーキャー言われている。ダンみたいな男性がモテる所に大人しい男を移住させてもカップルが成立するのだろうか?


シルフィードとミーシャは髪飾りとイヤリングを見た女性陣にダンとは違った意味でキャーキャー言われている。ダンに群がってるのはやや適齢期を過ぎたかなという女性陣。シルフィードとミーシャに群がってるのは若目の女性陣だ。


なぜか俺の所には大工やら男どもが群がって、仕事の話をしてくる。罠で大物取った自慢や鴨の雛が生まれて順調に育ってる、俺の育てた鶏の卵が旨いとか仕事が上手く行ってる部下が業務報告に来ているようだ。仕事が上手く行ってる時は報告が多いのは前の世界でも同じだ。こういう時はちゃんと誉めておく。


しかし上手く行ってないことも聞かねばならない


「なんでこの村は独身ばっかりなの?子供がいないと村が無くなっちゃうよ」


シンと静まる男達。おずおずと1人の男性が報告を始めた。


「ぼっちゃん、今までは食うや食わずの生活で子供を作れる状態じゃなかったんです。今は領主様やぼっちゃんのお掛けで食べ物の心配も無くなりましたけど・・・」


「じゃあそろそろいいんじゃない?お金を稼げる物も出来てくるし」


「その・・・、今から恋愛するのも恥ずかしいというか・・・、それに誰かを選んだら白い目で見られそうというか・・・」


あー、長く恋愛無しで一緒に過ごしていると照れ臭いのもあるし、圧倒的に女性陣が多いから、なぜあの人だけとかなるのかもしれんな


「そうなんだ。難しいね」


「はい・・・」


「そのうち男性の移住者が増えて来るよ。さっきダートスさんとその話をしたから。このままだと村が無くなっちゃうからね。好きな人がいるなら今のうちになんとかしないと取られちゃうかもね。ダンみたいな人とかがたくさん移住してきたらどうなるのかなぁ・・・」


男性の移住者が増えると聞かされてギョッとする男性陣。


「お、お、お、男が来るんですか?」


「女性はこれ以上増えても困るでしょ?男女がバランスよくなる方が良くない?」


「そ、そりゃそうですけど」


ライバル会社が進出してくることを部下に伝える。部下達も予想はしていたけど、いざ現実の物となると慌てるものだ。


「では、今の間に対策を練ってすぐに行動を起こすように」


村人達に指示を出しておく。方法は自分達で考えてくれ。


俺に言われた後、ダンに群がる女性陣を見て改めて危機を実感したようだ。ある者はフンスッとやる気を出し、ある者は顔が青ざめてと反応はバラバラだ。予告はしてあげたので頑張ってくれたまへ。


そこへシルフィード達に群がってた女性陣が俺の所にやってくる。


「ぼっちゃん、シルフィードとミーシャさんのどちらをお嫁さんにするんですか?」


君達、そんな週刊誌のレポーターみたいな目で見るなよ


「シルフィードは友達、ミーシャはメイド。どちらも家族みたいなものだから嫁とかそんなの考えたことないよ。それに俺はまだ4歳だぞ?」


キャー、領主の息子とメイドの禁断の愛だわーっ!


種族を越えた愛かもよっ!


ぎゃーぎゃー騒ぐ女性陣。俺の話なんざ聞いちゃいねぇ。


「ぼっちゃんはそれにミサの事もあるし、おやっさんやリッキーの事もあるしな」


きゃーきゃーに疲れたダンがこっちに来ていらんことを言う。


えーっ!まだ他にも女がいるみたいよー!


それに男もいけるらしいわー!



「おいっ、ダンっ!」


「いいじゃねーか、娯楽の無い村だ。ちょっとは生け贄になってやれ」


あーもうっ!



芸能人でもないのにゴシップに巻き込まれるのはまっぴらなんだよ。


俺は隙を見つけてその場を離れ、誰もいない所に逃げた。



1人になるとかさっと物音がして双子の果物売りが現れた。


「モテモテのぼっちゃん、美味しい果物はいりませんか?」


二人が差し出す篭にはブドウが入っていた。


「ごめんね、今お金持ってないからこれでいいかな?」


俺は髪飾りと櫛を2セットを渡した。イヤリングは護衛には不向きだろうと櫛にしておいたのだ。


双子は顔を見合わせてから凄い笑顔ではいっと答えた。


果物を貰ってお土産を渡す時に少しだけ減った治癒の魔石に魔力を補充した。


それを受け取った二人はありがとうございますと言ってスッと消えた。




私たちにもお土産買ってくれてたんだね。

うん、嬉しい。

とっても綺麗だね。

うん、ずっと大切にする


ありがとう。私達の初めての人




俺はブドウをモグモグしながら皆の元に戻った。そのブドウをひょいと摘まんで食べるダン。


「ミーシャを連れて来たのはそういう訳か」


「そういうこと」


「相変わらずよく気が回るなぁ」


「ダン程じゃないけどね」


俺がそういうとカッカッカッと笑いながら、さ、生け贄に戻るぞと言ったのだった。




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