第237話 神様降臨

屋敷に戻ってから厨房で牛すじ煮込みをブリックに教えながらやらないといけないことを考える。


移住者の住居作り

トウモロコシの栽培

イチゴの栽培

サトウキビの栽培

砂糖の生産と販売許可を受けたことの報告書

果樹園の造成


ドワーフ達が来てからする事は、

ドン爺とエイブリックの装飾品作り

エイブリックの刀の依頼

麦、芋を使った酒作り

紙の生産実験


ざっとこんなところか。サトウキビが上手く栽培できそうならラム酒も作れるかもしれない。


栽培関係はファムが来てから一緒にやった方がいいかもしれんな。ファムには植物魔法と土魔法を教えるか。


なんか漏れてそうな気もするけど、取りあえずは住居作りが最優先だな。モデルハウスを一つ作ってミゲルに確認してもらってOKが出たら量産していくか。同じ家は味気ないけど仕方ないな。いちいちデザインとか考える隙は無いからな。スピード最優先だ。


上下水道はどうするかな。上水は各家庭に水の魔法陣と魔石なんて配布出来ないから井戸だな。ドワンにガチャポンプ作って貰うか。水の出る所を中心に複数用意すればなんとかなるな。


下水はスライムの確保がいるからギルドに依頼しないといけないし、アーノルドがどこまでやったか確認しないとな。あとは・・・


「ぼっちゃん、ぼっちゃん!」


「あぁ、ごめん。何?」


「ぼーっとしてましたけど大丈夫ですか?」


「考え事してた。やることがいっぱいあってね。えーっと、茹でこぼしっていってね、牛スジはアクが出るから煮えてアクが出たら煮汁を全部捨てて、また新しい水で煮るんだよ。これを繰り返してアクが出なくなったら味付けしながらまた煮ていくから。すごい時間掛かるよ」


茹でこぼしを3回ほど繰り返してから本格的に煮込み始める。黒砂糖を入れてグツグツと水を少しずつ足しながら煮込み続けた。


「まだ煮込むんですか?」


「もう少しかな。ガチガチに固かったスジがだいぶ柔らかくなってきたからね。晩御飯の後で続きをやろう」


ブリックは晩御飯の準備にかかり、俺は部屋に戻った。



晩御飯を食べながらアーノルドに住居の進捗を聞く。


「いま20軒くらいは出来ていて、取りあえずそこにごっちゃに住んで貰ってる。今はぎゅうぎゅうだな」


1世帯5人と考えて100人分か。単純計算で約半分。実質1/3ってとこか。


「ご飯とかどうしてるの?」


「食料は配給してるが調理する場所が無くて役所の人間と移住者に手伝わせながら炊き出しだ」


難民キャンプみたいだな。早く自立してもらわないと役所の仕事が溜まる一方だろう。


「下水のスライムはギルドに依頼してあるの?」


「それは済んでるぞ。」


「井戸は掘った?」


「そいつはまだだ。他の所から樽に入れて運んでる状態だ」


「じゃあ、まずは井戸と共同調理場を作らないとダメだね。明日からそれをやるよ。井戸は掘ったら水出るかな?」


「この辺はどこでも出るからな。大丈夫だろう」


どこ掘っても水が出るとはディノスレイヤ領はほんとに恵まれてるな。


「明日、おやっさんの所に行ってから現地に行くよ」


「何しに行くんだ?」


「井戸のポンプ、ガチャポンプって言うんだけどね、それを作って貰うよ」


「なんだそれ?」


アーノルドにどんなものか説明する。


「そんな物が出来るのか?」


「仕組み自体は簡単なものだからね。すぐに出来ると思うよ」


じゃあ任せたとのこと。


「別件で報告があるんだけど」


「なんだ?」


「エイブリックさんから贈り物が来ててね、それがサトウキビの株だったんだ」


「サトウキビ?」


「うん、砂糖の原料となる植物だよ。それと一緒に砂糖の生産と販売の許可証が入ってた」


俺は手紙と許可証をアーノルドに渡した。


「お、おまっ、これっ・・・。ん?ぶちょー商会への許可証?」


「そうなんだよ。ディノスレイヤ領でなくてぶちょー商会で許可出てるんだよね。多分、俺個人への謝礼と領に対する配慮だと思うんだよね」


「砂糖は南の領だけにしか許可でてないからな。うちの領に許可出したら問題になるだろう」


「だよね?それにサトウキビは南の植物だからここで上手く育つか分からないんだよ。上手く行ったとしてもうちの領とエイブリックさんの所くらいにしか売らないつもりだけどそれでいい?」


「あぁ、そうしてくれ。いくらぶちょー商会への許可証と言ってもここで生産販売するのに変わりはないからな」


「じゃあ、その件もおやっさんと相談しながらやるよ。サトウキビからも酒作れるからノリノリになると思うよ」


「どんな酒だ?」


「蒸留酒にするからキツイ酒だね。お菓子作りとかにも使えるから、ディノスレイヤ領名産が増えて行くと思うよ。ますます忙しくなるね」


ちょっとは加減してくれと苦笑いするアーノルドであった。



ーぶちょー商会ー


「おやっさん、作って欲しい物があるんだけど」


「帰ってきて早々それか」


「あの村の人達が来てて大変なの知ってるでしょ?」


「ミゲルがぼろぼろになっとるの」


「そうそれ。俺も住居作りをすることになったんだけど、井戸掘らないとダメなんだよね。それでこんなのを作って欲しいんだ」


ガチャポンプの仕組みを絵に描いて説明する。


「ほう、これは売れそうじゃな。しかし、坊主が住居作るとは魔法でじゃろ?いいのか?」


「ちょっと早いが解禁だって。どうせ軍にはバレてるみたいだからね。それより移住者問題を解決しないとね」


「アーノルドも背に腹を代えられんようになったか。坊主、やり過ぎるなよ」


ここでもやり過ぎるなと釘を刺される。やり過ぎたこと無いと思うんだけどね。


「ガチャポンプの売値はおやっさんに任せるけど、早急にいくつか作って欲しいんだよ」


取りあえず明日までに一つ作ってくれるとのこと。


「後ね、エイブリックさんから砂糖の生産と販売許可がぶちょー商会に出たよ」


許可証をドワンに渡す。


「ずいぶんと難儀なもんをくれおったの」


「サトウキビの株もあるからファムが来たら栽培実験をするよ。サトウキビからも酒作れるしね」


酒が作れると聞いて絶対成功させろと言われた。想像通りだ。



用件を済ませて移住者の難民キャンプに向かった


めっちゃいるなぁ。みんなやつれてるし大変だったんだろうな。


アーノルドとミゲル発見。


「おやっさんにガチャポンプ依頼して来たよ。取りあえず明日1個作ってくれるって」


「坊主、ワシを殺す気か?」


会って早々俺を睨むミゲル。


「親方なら大丈夫だって。今日から俺も手伝うし。試しに一つ作るから確認して。それがOKならどんどん作るから」


まだぶつぶつ言ってるミゲル。


「これが落ち着いたらモツ焼きパーティーするから。もうちょっと頑張って」


ふんっ、早くしろよとちょっと機嫌が直る。相変わらずドワーフはちょろい。



取りあえず2DKのモデルハウスを作る。風呂も完備だ。薪の風呂釜は後で設置出来る様に作った。


中を見てまわるミゲル。窓をこことここにこれくらいの大きさでと指示された通りに形を変えていく。


「坊主、風呂いらんぞ」


「あった方が良くない?」


「お前、井戸から水汲んで風呂貯めるのがどれくらい大変じゃと思っとるんじゃ?」


あっ・・・


「ここは身体を拭く場所にするから風呂桶は無しじゃ」


そうだよねぇ・・・


「だったら共同風呂作ろうか?そこにポンプを持ってきて直接入れられるようにすればいいし」


それなら構わんという事だったので、家族用の住居、独身用住居、井戸の場所、共同調理場などの配置を決める。


ミゲル達とあーだこーだ言いながらやってると数人の移住者達が近付いてきた。


「あ、あの時のぼっちゃんではないですか・・・?」


「あ、盗賊の人?」


盗賊?と言われて皆がこっちを振り返る。


かばっと土下座して、


「あの時は申し訳ありませんでした。助けて頂きありがとうございます」


「ゲイル、こいつらが話にあった盗賊のやつらか?」


「そうだよ父さん。未遂だから盗賊にはなってないけどね」


「りょ、領主様が父さん・・・?ではぼっちゃんは領主様の息子・・・」


土下座をしながらぶるぶると震え出す元盗賊。


「申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳ありません」


またお漏らししそうだな。


「いいよもうそんなに謝らなくても。土下座も止めて。」


「お、お許し頂けるのですか・・・?」


「許すも何も、この前でお詫びは済んでるでしょ。それより皆無事にたどり着けて良かったね。大変だったでしょ?誰も死ななかった?」


ぼろぼろと泣き出す元盗賊。


「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとう・・・」


「ほら、もう良いって。それより立ち上がって。皆見てるから」


そう言われて恐る恐る立ち上がる。


「で、皆無事だったの?帰りに村に寄ったら誰もいないからビックリしちゃったんだよね」


「あの後皆で話し合い、ここで死ぬならぼっちゃんの言う事を信じようと決まり、すぐに出発しました。道中は辛かったのですが、親切なお人が水や食料を下さり、誰一人欠ける事無くたどり着けました」


「その親切な人はウエストランド王国の王子様の部下だよ。村から集団離脱した報告が入って支援命令出したって言ってたから。ここに向かってるだろうと父さんに事前に連絡もしてくれてたんだよ。予想より人数が多かったから住居が間に合ってないけど」


「お、王子様が・・・?そんなバカな話が・・・」


「帰りに寄って直接聞いたから本当だよ」


「寄った?ぼっちゃんは王子様とも面識がおありなんですか?」


「父さんの友達だからね。時々遊びに行ってるだけだよ」


移住者達を支援したのが王室だと聞かされざわざわとし出し、またぼろぼろと泣き出す元盗賊。


「我々みたいな者まで気にかけて下さるとはなんと慈悲深い・・・。領主様も受け入れを許可して下さるだけでなく、このような住居を用意して下さって・・・」


もーわんわん泣いて収まらない。周りの移住者達も泣き出して手に負えないのでしばらく泣き止むのを待った。


東の領主は何もしてくれず、税だけ取られるのが当たり前の生活だったのだろう。それが王室から支援が入り、領主からは住むところを与えられて迎えてくれたなら感激もするわな。



「落ち着いた?あと2~3日中に追加で住居を作るから。窓とかは後になるけど、ぎゅうぎゅう詰めは解消されるよ」


2~3日中?


「取りあえず、共同で調理する場所作って食材は提供するから自分たちで作るようにしてね」


は、はぁと訳がわからないみたいだ。


ミゲル達が作った住居は10軒の長屋を2列で作られてあったので、真ん中に共同調理場と井戸予定地にする。調理場と共同風呂もそこに作ろう。今ある住居の反対側にまた家族用と独身用を作る事にする。


まず調理場とここでも飲食出来るスペースを土魔法で作る。ざざっと土が盛り上がって出来ていく様を移住者達は口をあんぐり開けて見ていた。井戸から汲んだ水を入れる水瓶を3箇所設置して、下から蛇口で出せるようにミゲルに付けてもらう。これで調理の時に使いやすいだろう。


水瓶に水を入れやすいように階段を作ってと。あ、洗濯場所も要るな。この辺の水がちゃんと流れるように排水溝を作って網の蓋をする。下水用の穴を掘り、ここにスライムいれたらOKだな。ミゲルと確認しながらさくさくと作っていった。


「こんなもんでどうかな?使いにくいようなら改良するから」


そう言っても誰も動こうとはしない。


「か、神様じゃ・・・」


誰かがそう言いだしたらざわざわしだす移住者達。


「そ、そうじゃ。ワシらみたいなもんをここに導いてくれて、このような物まで一瞬で・・・」


神様じゃ!神様じゃ!神様じゃーー!


移住者達が一斉にひれ伏し俺を崇めた。


「ゲイル、やり過ぎるなと言っておいただろうが。これからお供えとかされるぞ」


アーノルドは呆れた顔をした。



変なヤツが来たら成敗したらいいと思ってたけど、こんなの想定外だよ。俺に線香とか焚かないでよね・・・


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