第238話 ここは天国

「崇めるの止めて。神じゃないから」


呆れて皆に立ち上がれと命令した。


炊事場が出来たので洗濯スペースと共同風呂を作る。ちゃんと男湯と女湯を分けておいた。みんなきちゃないから早く洗濯と風呂に入れるようにしないと。


取りあえず今日はここまで。明日は井戸と住居作りだ。ポンプはミゲルが持ってきてくれるとの事だった。


俺は移住者達に拝まれながら帰宅した。



晩御飯食ってるとアーノルドが聞いてくる。


「あとどれくらいで出来そうだ?」


「明日は井戸掘って、住宅が10軒くらいかな。明後日にもう10軒か20軒作るよ。家族向けと独身向けに分けた方がいいでしょ?窓と扉は親方次第だね」


「お前大工になったらどうだ?」


「やだよ。土の家より木の家の方がいいでしょ。どれくらい耐久性があるかわからないし」


「ずっと持つ訳じゃないのか?」


「どうだろうね?年数経ってみないとわかんないや。いきなり崩れるとは思わないけど」


「そうか。しかしミゲル達が大勢の大工を使って1ヶ月掛かったものが2~3日で出来るのは驚異的だな」


「簡易住居ならいいけど、ずっと住むなら俺は木の家の方に住みたいけどね。父さんもそうでしょ?」


「そうだな」


「そういうこと。親方の作るものには敵わないよ。あ、寝る為のマットとか発注しておいてね。土のベッドでずっと寝かすの可愛そうだから」


「わかった」


「あそこに住むのは期限付きにするの?」


「いやまだ決めてないぞ」


「1年とか期限決めた方がいいよ。他の住民達から不満が出ると思うから。俺達には何もしてくれてないのにとかね。そうなると移住者はいつまでもよそ者扱いになって孤立するよ」


「なるほどな。セバスにも言っておこう」


今は住民達でイザコザは起きてないけど、そのうち出てくるのは確実だからな。それにこれからも集団離脱した移住者が増えそうな気がするから、領営住宅に住めるのは期限を切った方がいい。ちゃんと目標を持って自立してもらわないとズルズル甘えて抜け出せなくなる。


さてご馳走さましたし、牛すじ煮込みが出来たか見てこよう。



「ブリック、牛すじ煮込みはどんな感じ?」


「ぼっちゃん味見して貰っていいですか?」


小皿に牛スジを入れて渡すブリック。


モグモグ。お、ちゃんととろけるようになってる。若干味が薄いけど、今晩寝かせて明日温めたら丁度良くなるだろう。


「少し味が薄いかなと思ったんですけど」


「一晩寝かせて明日温めたら丁度良くなるよ。牛スジ旨いだろ?」


「はい、あんな捨てる所がこんなに旨くなるとは驚きです」


「砂糖使うから安くは出来ないけどね。砂糖の生産が成功したらどこでも食べられるようになるとは思うけど」


「普通の家はなかなか買えないですからね。期待してます」


大量に作ってあるので明日、肉屋にお裾分けしてから住居作りに行こう。




「おっちゃん、お裾分け持って来たよ」


「なんだダンと一緒か」


「なんだよそれ?」


「この前ぼっちゃんが聖女様と来てくれたんだよ。美しかったなぁ~。光り輝いててよ」


アイナは可愛い顔立ちだけど美しいか?


いでででっ、ってアイナが居ないのにつねられたみたいな痛みが走った。呪いとかかけてんじゃねーだろうな?


「なんだぼっちゃん、アイナ様に護衛頼んだのか?」


「一人で行こうとしたら母さんが付いて来たんだよ。イヤリングと髪飾り見せびらかしたかったんじゃないの?」


「あぁ、気に入ったみたいだったな。俺にはさっぱり分からんかったがぼっちゃんの見る目の方が正しかったぜ」


「で、ぼっちゃん、お裾分けってなんだい?」


「これ、牛すじ煮込みだよ。この前くれた奴で作ったから持って来たんだ」


「ずいぶんと黒いというか茶色というか・・・」


「焼き鳥のタレとかと一緒だよ。味噌使うとそんな色になるからね。黒砂糖も入ってるからよけいに黒くなるよ」


「へぇ、ってことは甘いのか?」


「そうだね、甘じょっぱいよ。ちょっと味見してみて」


肉屋の親父はひとつまみして口に入れた


「これホントにスジか?とろける様に柔らかいじゃないか」


「煮込み続けるとそんな風になるんだよ。旨いでしょ?」


「いやぁ、驚いたわ。今まで捨ててたのが馬鹿らしくなるな」


「手間暇掛かるけど、味噌無しでもスープの具とかになるから今度作り方教えるよ。今日は急ぐからまた今度ね」


「どこに行くんだ?」


「大量に移住してきた人達の事知ってる?」


「ああ、税が払えなくて村捨てて来たんだろ?よくここのこと知ってたな」


「あの人達ね、旅の途中で会った人なんだよ。今年の税が払えそうにないから死ぬ気でこっちに来たんだよ」


「なんだい、ぼっちゃんが一枚噛んでたのか。チラッと見かけたけどみんな痩せてやがったな。ずいぶんと生活が苦しかったんだろ」


「農作物があまり育って無かったからね。この冬越すのがやっとだったんじゃないかな」


「そうか、食うもんが無いのは辛いな」


「今配給してるから大丈夫だと思うけど」


そう言うとちょっと待ってなと言う肉屋の親父。


そしてドサッと大きな肉の塊を2つ持ってきた。


「こいつはビッグカウのモモ肉なんだがな、売れ残るから持って行ってやってくれ」


「え?売りものでしょ?」


「知り合いの冒険者から買ってくれと言われて仕方がなく仕入れたもんだ。昔は扱ってたんだがこいつは少し癖があるだろ?最近はここで育てられた牛しか売れないんだよ。だから持っていってくれてかまわん。このままだと廃棄になるからな」


「じゃあお金払うよ」


そう言っても廃棄予定だからいらんという。多分嘘だ。串肉屋とかに十分卸せるだろう。


「わかった。ありがたく貰うね。移住者にはここからの差し入れだと宣伝しておくから」


「おう、働きだしたらここで肉買えって言っておいてくれ」



シルバーとクロスにデカイ肉の塊をくくりつけて現場に向かう。


「坊主、遅いぞ」


ミゲルに怒られた。


「ごめん、肉屋に寄ってから来たんだよ。父さん、これ肉屋からみんなに差し入れだって」


「差し入れ?こんなデカイ塊を2つもくれたのか?」


「ビッグカウはあまり売れなくて廃棄予定だから持ってけって」


「そんなはずないだろう。串肉屋とか宿屋とかに卸せるだろ。後で金払ってこないと」


「受け取らないと思うよ。おっちゃんなりの移住者への応援だと思うから。それよりここの領民がみんなを応援してることを教えてあげて。あと宣伝も」


「本当にいいのか?」


「あの肉屋のおっちゃんはそういう人だからね。お金いるなら俺に言ってるよ。近々料理のレシピ教えるから。通り掛かった時にでもお礼を言っておいて」


わかったとアーノルドは返事した。


さて、井戸掘りますか。


ガチャポンプと管に合わせた穴をゆっくりと掘って行く。そろそろかな?と思った時にブシャッと水が吹き出した。ミゲルは慌てて管を差し込んで行くが、横からブシャッブシャッと水が溢れだす。土魔法で管ぴったりに合わせるとその水も止まった。


「びしょびしょじゃワイ」


俺たちもだ。温風で皆を乾かしていく。


「親方、こんなに水が吹き出るならポンプいらないよね?」


「蛇口つけるだけでいけそうじゃな」


兄貴に言ってくると言ってウイスキーで走っていった。あーあ、せっかくガチャポンプ作って貰ったのに・・・


ガチャ ドシャー、ガチャ ドシャー


ポンプというよりデカイ蛇口だ・・


「み、水があんなに溢れ出して・・・」


神・・・・


「神じゃないからっ!」


先に言っておこう。本当に線香が焚かれそうだ。


ミゲルが帰って来る前に家作っていこう。


モデルハウスをイメージしてよいしょっと。魔力は100くらいしか使わんな。土魔法ばっかり使ってるからかなり最適化されてスピードも早い。出来上がりを確認してこの前と同じ作りになってるか確認してと。よし、問題無いな。これだと今日中に終わりそうだ。


うんしょっ!

うんしょっ!

うんしょっ!


ポコポコと出来ていく家。拝みながら見ている移住者。俺はなんの儀式をしているのだ・・・


10軒ほど作った時にミゲルが帰ってきた。普通の蛇口3つと大きな蛇口3つだ。


せっかく作った水瓶と階段を取り外してそこに普通の蛇口を埋め込んでいく。3箇所完了して俺とミゲルはびしょびしょだけど、そのまま作業を続ける。ガチャポンプの反対側に大きな蛇口。男湯と女湯にも大きな蛇口を付けて完成。温風で服を乾かす。


どの蛇口からもはじめは土混じりの水が出た後に綺麗な水が出た。一応鑑定したら飲料可となっていた。


「水道はこれでOKだね。お昼にしようか?」


アーノルドに渡した肉を見るとまだ塊のままだ。先に切っておいてくれたら良かったのに。


「おい、ここの住民の肉屋より、お前達に応援の品が届けられた」


ドンと大きな肉の塊を皆に見せる。切り分けてなかったのはこのパフォーマンスをする為だったのか。


「お前達がちゃんと働けばここの住民達はこうやって歓迎してくれるだろう。今日から1年間はここの家賃も税金も免除する。その間に働いて出来るだけ早く金を稼いで自立するように。働き口はいくらでもある。明日から就職相談をここでする。それと今まで義務教育を受けていないものは年齢問わず来年から学校に通え。ここは授業料も免除だ」


わぁぁぁぁと歓声と拍手が起こる。アーノルドはパフォーマンス慣れしてるよなぁ。ベントが後を継いだらこんなの出来るのかな?


「さ、肉がたくさんあるから思う存分食べてくれ。役所近くの肉屋からの差し入れだ。肉を買う時はそこで頼むぞ」


皆で手分けして肉を切り分けてどんどん焼いていく。住宅を作った端材がたくさんあるので薪には困らない。


みんな嬉しそうに肉を頬張っている。配給はパンとスープが朝と晩にあるだけだし、今までも思う存分肉を食べる機会は少なかっただろうからな。


これ肉足りないよな?と思ってたらアーノルドの指示で追加で購入してきたようだ。ポケットマネーだろうな。


俺達も少し食べてから家作りを再開した。


うんしょっ!

うんしょっ!


と作っていると食べ終わった移住者達が周りに集まってくる。


そーれっ!

うんしょっ!

そーれっ!

うんしょっ!


俺のタイミングに合わせて万歳するように声をあげる。ますます儀式っぽくなっていく。


夕方までに家族用20軒、単身用10軒を作り終えてしまった・・・


わぁぁぁぁ神様ありがとー、ありがとーと拝んだり囃したてられたりと様々だ。

でもみんな笑顔で悲壮感は消えていた。


「神様・・・この度はなんとお礼を申し上げて良いか・・・」


元盗賊のリーダー、名前はゴタといい、もとの村の村長だったそうだ。


「俺はゲイル。神様じゃないからね」


「ゲイル様。本当にありがとうございました。あなた様のお言葉に従って本当に良かった。普通、村を捨てて移住したものは奴隷のように扱われます。我々もそれを覚悟して村を捨てて来ました。それをこんな、こんな・・・」


またうぐっうぐっと泣き出す。


「これから働いて返してもらうから大丈夫だよ。新しい農作物とか食べ物とか人手が足りなくて作れないものがたくさんあるからちゃんと働いてよね」


「誠心誠意全員でお仕え致します」


いや、お仕えとかじゃなくてね・・・



こうして住居も完成し、働き出した移住者達は働き者だと評判になり、あちこちで引っ張りだこになっていった。


その後移住者達の家に手を上げて家を作るゲイル神像が祀られていくことをゲイルは知らなかった。



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