第236話 休みたいけど休めない

「ぼっちゃん、ドワーフ王国の話はしなくていいのか?」


そうだった。つい現実逃避をしてしまった。


「父さん、ウエストランド王国とドワーフ王国が秘密裏に同盟を組んでおやっさんが王子になったよ」


「なんだそりゃ?」


いかん、まだ動転してるわ。


きちんとドワーフの国に行って何をしてきたのかと行き帰りの話と同盟の話を順を追って話した。


「そうかドワンはおさの息子だったのか。あいつ一言もそんなこと言ってなかったな。」


「ドワーフの国が正式にドワーフ王国となるのね」


「対外的には今まで通りにするみたいだけど」


「あそこは各国から武器の買い付けに来るところだからな、ある意味中立国とも言える場所だ。特定の国と同盟を結んだら脅威と見なされて攻められる危険が出てくるだろう。王もエイブリックも分かってるはずなのになぜそんなことをしたんだろうな?特に同盟を組むメリットがないだろ」


「その辺はよく分からないからエイブリックさんかおやっさんに聞いて」


俺も不思議なんだよね。アーノルドと同じ意見だ。


「そうだなドワンに聞くか。それとよく無事に帰ってきたな。お帰りゲイル」


やっとアーノルドがお帰りと言ってくれた。


「ただいま父さん」



翌日はダンも休みにしたので俺も二度寝しようかと思ってたらブリックから荷物が届いているので、取りあえず庭においてあるから確認してくれと言われる。


庭?


案内された所にはサトウキビの株が大量にあった。


「これが一緒に来た手紙です」


エイブリックからの手紙だ。えー、サトウキビの株をゲイルに託す。お前なら栽培出来るだろう。


ふむふむ。


ぶちょー商会に砂糖の生産と販売を許可する。


えーーーっ?


手紙と一緒に砂糖の生産と販売の許可証にドン爺の署名がしてあった。


これ治癒の腕輪の礼なんだろうな。なんて波乱を生みそうな物を・・・


しかもディノスレイヤ領に許可では無くぶちょー商会への許可証だ。と言うことは俺個人への許可証と同然だな。


俺の帰る予定に合わせて手配してくれてたのに帰ってくるのが遅くて見るのズレたんだな。帰りに寄った時にエイブリックはなんにも言ってなかったのに。


「ぼっちゃん、これなんなんですか?」


「砂糖の原料になる植物だよ。ぶちょー商会で生産と販売して良いって」


「へぇ、これから砂糖が出来るんですね」


ブリックは砂糖の生産と販売の許可が出た事には反応しない。まあ普通はそんなもんか。


しかし、サトウキビは南方の植物だ。年間平均気温が20度とか必要だったよな。ここはそこまで暑くないから難しいかもしれない。砂糖が生産出来るぐらい栽培する規模のガラス温室とか作れんしな・・・ ここでも育つように品種改良とか出来るだろうか?


取りあえず株を分けて、温室で常に株を残すようにして実験だな。


ドン爺とエイブリックにお礼の手紙を書く。盛大に驚いたことを盛り込んでおこう。これはサプライズで贈ってくれたことへのマナーだ。


さて手紙をザックの所に持っていくか。ついでにポップコーンの種がそのうち発注が来ることも言っておかないとな。しかしダンは休みにしてしまったしどうするかな。アイナに一人で行っていいか聞いてみよう。


治療院に移動した。


「仕事中ごめんね。ちょっとロドリゲス商会まで行きたいんだけどダンを休みにしちゃったんだよね。一人で行っていいかな?」


「あらそうなの?じゃ母さんが一緒に行ってあげるわ」


「仕事は?」


「みんながいるから大丈夫よ」


そういったアイナはイヤリングと髪飾りを身に着けていた。仕事中にすんなよ・・・ これ着けて町に出たかったのかもしれないな。


「じゃあすぐ出れる?」


いいわよとのことだったのでアイナと出掛ける事にした。


「なんでブランに乗っていかないの?」


アイナはシルバーに俺と乗っていた。


「たまにはいいじゃない」


ブランも乗って欲しそうに見てたのに・・・



シルバーはポコポコと機嫌良く歩いてザックの所へと向かった。


「あ、アイナ様。ようこそいらっちゃいしゃました」


なに噛むほど緊張してんだよ?いつもとえらい違いじゃねーか。


「ザック、これエイブリックさんの所に届けて。あとそのうちポップコーンの種が発注入ってくるかもしれないからその時は連絡頂戴」


「ポップコーンって何ですか?」


「来年には流通させる予定だけど、今はエイブリックさんの所にしか卸せないんだよね。おやつにする植物の種だよ」


「あらゲイル、なにそれ?」


昨日試食しただけでアイナも食べてないからな。


「帰ったら作るよ」


「ぼっちゃん、ポップコーンってどんなものですか?それだけじゃわかんないです」


扱う商品知っとけと言ったの俺だから、うるさいとも言えないか。


「じゃあ、ある程度背の高い鍋とバター、塩を用意して」


アイナと俺はロドリゲス商会の厨房でポップコーンを作った。


「コレがポップコーンですか。美味しいですね。売れますよこれ」


「おやつだから高い値段とれないけどね。安く卸せるように大量生産してみるよ」


楽しみにしてますとザックは喜んでいた。


「あれもドワーフの国で手にいれたの?」


「家畜用の作物として栽培されてたんだけどね。何種類かあるんだけど、どれがどの種類かわからないんだよ。育てて調べるよ」


「美味しいのある?」


「あると思うよ。楽しみに待ってて。あ、これから肉屋に行くから」




「お、ぼっちゃんやっと帰って来たのか・・・って、ア、アイナ様?」


「ダンが休みだから母さんが護衛だよ」


「ア、アイナ様。ご機嫌うるわしゅるしゅる」


肉屋よお前もか。


「しかし、聖女様と一緒にいるところを見ると、やっぱりぼっちゃんも領主様の息子なんだなぁと実感するな」


「なんだよそれ?」


「いや、ぼっちゃんって貴族らしくないだろ?」


「母さんも貴族っぽくないだろ?」


「いや、アイナ様は光輝いて見えるじゃねーか、あの耳飾りと髪飾りも良く似合ってて聖女様というより女神様じゃねえかと思っちまうわ」


俺に向かってアイナをベタ誉めする肉屋。アイナの微笑みには聖女と悪魔が同居してんだ・・・


いでででっ。


見えない所をツネリやがった。


「いつも美味しいお肉をありがとう」


「は、は、はいっ。とんでもねぇでゲス。ぼっちゃんは肉の事をよくわかっているんでガンスで俺っちも売りがいかありんす」


もうめちゃくちゃだな。


こんな話をしている間も肉やベーコン、ソーセージが飛ぶように売れていく。


「おっちゃんにお土産あるんだけど、作り方教えないとダメなんだよ。ちょっと火と鍋、油と塩ある?」


「わざわざそんなもん買って来てくれたのか? いいぞちょっと待ってな」


店の裏手に周り、薪に火を点けてくれた。ポップコーンの作り方を教えながら実演する。


「はい、出来上がり。強火だとすぐに焦げるから温めるくらいの感じでやってね」


ポンポンと弾けて出来たポップコーンを食べる肉屋のおっちゃん。


「ぼっちゃん、これおもしれぇな。酒のつまみにも子供のおやつにもいいじゃねぇか」


「まだ数が無くて少ないけど、また出来たら持ってくるよ。来年には商品として販売するから」


「おう、わりぃな。これ持って行ってくれ。前に話した牛スジだ。ぼっちゃんのお陰で毎日牛も解体してるから内臓も前日に言ってくれたら用意しておくぜ」


「お土産持って来ただけなのに悪いね」


「いやぁ、聖女様をこんな近くて見られて良かったぜ。また一緒に来てくれよな」



「ゲイルは町の人とずいぶん仲が良いのね。」


「よく買い物に来るからね。ザックの所はエイブリックさんの所に商品卸すようになったし、肉屋のおっちゃんはソーセージやベーコンを作ってくれるようになったからこっちも助かるよ」


「ゲイルのおかげで繁盛しているみたいなもんね」


「いや元から繁盛すべき所だよ。俺はきっかけを作っただけで」


それを聞いたアイナはフフフと笑って楽しそうにしていたのだった。

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