第235話 領に戻ってからの後始末

ダンは俺の部屋で待機していた。


「なんか父さん機嫌が悪いんだよ」


「疲れてるだけじゃねーか?ぼっちゃんが居なかったから息抜きも出来てねぇだろうし」


「そうかな?」


「アーノルド様は子供みたいな所があるからな。近々小屋でなんかしようや」


「そうだね。おやっさんと親方も誘ってモツ焼きでもしようか」


「おっ、いいねぇ」


そんな会話をしているとアイナが呼びに来た。


「なんか父さん機嫌が悪いね」


「このところ毎日遅いし、ぜんぜん休んでないわね。覚悟しておいた方がいいわよ」


覚悟?


俺達は執務室に入った。


いきなりアーノルドが怒り出す


「何をしたんだゲイルっ?」


「何のこと?」


「なんで他領からあんなに人が移住してくるんだ?一気に200人以上来たんだぞ!」


あー、あの村の人たちか。でも200人もいたっけか?


「旅の途中で会った人がね、税が払えなくてどうしたらいいかわからないって言うからディノスレイヤ領には働くところあるよって言っただけ」


「言っただけで一つの村が丸々移住してくるわけないだろっ!近くの村ならわかるが1ヶ月以上かけて歩いてくるかっ」


アーノルド激オコ 。


「今までも人増えてたじゃん」


「今までは宿屋に泊まったりしながら職を見つけて住むところとか探してそれぞれがなんとかしてただろうが、一気に着のみ着のまま何も持たずに来られたらどう対応するんだっ!女子供もたくさんいるんだぞっ。エイブリックが事前に100人くらいこっちに向かったというからその準備はしてたが予定の倍以上だっ!」


エイブリックは事前に知らせてくれてたのか。何も持たずに徒歩で向かってたのを知って道中の食べ物や水とか支援してくれてたんだろな。大変だったんだぞというのはこの事か。


俺は旅の途中の話と東の辺境伯管理地区の廃村情報、それによる盗賊が増えていること、それから起きるかも知れない一揆の事をアーノルドに話した。


「そんなに酷いのか?」


「廃村がたくさんあったからそうだろうね」


「この話はエイブリックにしたか?」


「帰りに寄った時にね。王室でも調査するって言ってた」


「お前は初めの村人にちょろっと言っただけというのは本当なんだな?」


「旅の道中で他領の村人を煽動して回る暇ないよ。よっぽど切羽詰まってたんじゃない?」


「そうか・・・。てっきりお前が神様のお告げだとかで煽動したのかと思ってた。すまん」


「俺もまさか全員が本当に離村するとは思ってなかったよ。帰りに村に寄ったら全員居なくてビックリしたからね。でもそのうちまたぞろぞろ来るかも知れないね」


「ここに来れば普通に暮らせると知ったらそうなるだろうな」


「俺が集合住宅作ろうか?今作ってるのだけだと足りないんでしょ?土魔法で作る小屋みたいな奴になるけど。親方の所には扉と窓とか作って貰うだけにしたら早いよ」


「やむを得んな。お前が魔法を使うことが周りにばれて大変な事になるぞ。その覚悟はあるか?」


「もう軍のこと気にしなくていいなら別にいいよ。鬱陶しいやつが寄ってきたら懲らしめるから」


「解った。お前の人前での魔法使用を解禁する。想定より早いがやむを得ん。但しやり過ぎるなよ」


「メインは土魔法だからね。でもこれから他領の人がどんどん来たらそこの領主と揉めそうだね」


「そうだな。まぁそれはなんとかする」


アーノルドの怒りは解けたようだけど、空気が重い、話を変えよう。



「父さんと母さんにお土産あるんだよ。これは母さんに。ミーシャとシルフィードとお揃いだけど」


「あらーっ!今度は母さんにもくれるのね」


むぎゅっと抱き締められる。アーノルドはまだ何も買ってあげてないようだ。


アイナはキャピキャピしながらお土産を身に着けて鏡を見ていた。


「父さんにはこれなんだけど、条件があるんだ」


渡す前に条件を言っておかねば。


「土産に条件?」


「これね、ドワーフの職人が魂を込めて打った逸品なんだ。これを託せる相手がどうか自分の目で確かめたいんだって。これと対になってて俺にくれたんだ。それで短い方は俺用、長い方を父さんに渡していいか聞いたら会いに来るって」


「そんなに良い出来のものなのか?」


「それは自分で抜いて確かめてみて」


ゲイルはアーノルドに刀を渡した。


スラッと刀を抜くアーノルド。見事に様になってる。【スキル】剣神のせいだろうか?


抜いた刀をじっと見るアーノルド。


俺の刀も見せろと言うので抜いて見せた。


「これを打った職人がここに来るのか?」


「父さんに会いに来るのは確かだけど定住するかどうかはわからないよ」


アーノルドは俺達を後ろに下がらせて刀ピュンュュュユンと振って鞘に収めた。


「これは剣と扱い方が違うな。引きながら斬る物だろう。さぞかし斬れ味が鋭いだろうな」


なんの説明もせずにみただけで理解するアーノルド。やはり剣に関してはエイブリックより上だな。


「これ刀と言って剣とは違うんだよ。どう?気に入った?」


「今使ってる剣よりしっくりくる感じがする。俺の魂と共鳴しているかのような・・・」


俺と同じ感覚があるんだな。共鳴と言うか吸い込まれるというかそんな感じだ。


「ゲイル、これはお前が持っていろ。その職人が来たときに実際に会ってからどうするか決める。元々お前に託された物だろ?」


「そうなんだけどさ、俺にはおやっさんがくれた魔剣もあるし、俺がこの刀を褒めたらおやっさんが悔しそうだったんだよね」


「そうだろうな。お前が成人するときにお前に合わせた剣を作ると言ってたからな。お前がどちらをメインの剣に選ぶか見物だな。」


えっ?そんな試練があるの?TPOに合わせて使い分けるつもりなんだけど。


「まぁ、例えるなら二人の女からどちらを嫁にするか決めろと言われるのと同じだ。覚悟しとけよ。モテる男は辛いな」


・・・成人した時にドワンとリッキーから迫られる所を想像する。


・・・

・・・・

・・・・・


めっちゃ嫌だ。このまま子供でいる方法はないだろうか?


早く大きくなりたいと思っていたが、途端にピーターパンシンドロームに襲われた気がしたのだった。


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