第234話 エイブリックと刀

「これはポップコーンと言うのか。なかなかに面白い食べ物じゃのう」


ドン爺とエイブリックはポリポリとお土産のポップコーンを食べていた。


「装飾品もお土産にしようと思ったんだけど全部女物だったから、職人が来たら別に作ってもらうよ。どんなのがいい?」


「ほほぅ、装飾品か、ならばワシは胸元を飾る物が良いな」


「俺はこいつを止める奴がいいな」


ドン爺は上着の襟につけるやつ、エイブリックはアスコットタイみたいなのをしているからそれのタイピンだな。


「解った。職人が来るのはもう少し後だから3ヶ月くらい後になるかな。楽しみにしてて」


そうかそうかと嬉しそうなドン爺。こうやって遠慮せずにリクエストしてくれるとこちらも助かる。



「さっき言ってたアーノルドの土産にする予定の刀とはどんな剣だ?」


「まだ土産に出来ると決まったわけじゃないから、それはまだ見せられないけど、刀はダンが買ったのがあるよ。斬れ味に特化した形だね」


見せてほしいとのことだったので、ダンは部屋に刀を取りに行き、訓練所に向かった。


「これが刀か・・・」


ダンに渡された刀を鞘から抜いてマジマジと見つめるエイブリック。


「片刃で刀身が反っているんだな」


「おやっさんの剣は良く切れるけど、一般的な剣はスパッと切るというより、ぶった斬ったり突き刺したりって感じでしょ?これはスパッと斬る為の物だね。扱いが下手だと折れるから剣より扱いが難しいと思う」


エイブリックは美しい刃紋を眺め刀の角度を少しずつずらして食い入るように見ていた。


「これ、鞘から抜く時の感触がいいな。するんと飛び出してくるみたいだ」


さんざん刀を眺めた後、鞘にしまったり抜いたりを繰り返す。


「ダン、向こうでやったみたいに実演してみてくれる?」


ダンはかがんだ状態から居合斬りで丸太を斬ってみせると、エイブリックもやりたいと言い出した。アーノルドと同じく子供だよなぁ。


エイブリックは同じようにかがんで斬る。


おっ、見ただけで一発で決めやがった。さすがだ。


斬られた丸太は少し間が空いてからストンと落ちた。エイブリックはかちゃっと刀を鞘に収める。


「つまらぬものを斬ってしまった・・・」


なんでそんなセリフ知ってるんだよ?



「ゲイル、これを打った職人も来ると言ってたな。俺にも打ってくれるように頼んでくれ」


エイブリックの腕があればリッキーも納得するだろう。


「エイブリックよ、刀が気に入ったのか?」


ドワンがエイブリックに聞く。


「あぁ、剣とは違った美しさと独特の雰囲気がある。それに抜いた時の感覚がなんかこうしっくり来るな」


「やはり、坊主の目は正しかったんじゃな。その刀というのはドワーフの国では今まで1本も売れなかったんじゃ。もの珍しさで買おうとした奴には売らんかったというのもあるがの」


「これが売れなかったのか・・・。ゲイルが貰ったという短い刀は見せてもらえるか?」


エイブリックが見たいと言うのでダンに取って来てもらう。


「これ本当は父さんに渡す用の刀と対になっているものなんだけどね。短い方は俺用と言うことで」


エイブリックはゲイル用の刀を抜いてみる。


「うっ・・・」


抜いた刀身を見て固まるエイブリック。


・・・

・・・・

・・・・・


「その職人はこれをゲイルに託したのか?」


「うん、刀がお前を選んだとか言ってた」


「アーノルドのはさっきのダンのと同じぐらいの長さなんだな?これと同じもので・・・」


・・・

・・・・

・・・・・


「その職人はこれとまた同じ物が打てるのか?」


「どうだろうね。隕鉄、空から振って来た星のかけらで作ったとか言ってたから材料が無いかもしれないし、材料があっても無理かもしれない」


「材料があれば可能性はあるのか?」


「んー、どうだろうね?職人が来たら知らせるから直接聞いてみて。作った本人じゃないとわからないや」


「そうか・・・、そうだな」


そう言いながらエイブリックはずっと俺の刀を見続けていた。


そんなに見ててもあげないよ。




翌朝エイブリック邸を出発する。


ちゃんと俺の刀は返してもらえて良かった。くれとか言い出しそうな雰囲気だったからな。



長旅でシルバー達も疲れているだろうからのんびりと途中で一泊してから戻る。盗賊の気配は微塵もなくのんびりと寝ることが出来た。やはり治安が良いのは良いことだ。



昼過ぎに屋敷に戻ると、


「ぼっちゃまお帰りなさい」


「ゲイルちゃまお帰りなさい」


ミーシャとポポが真っ先に出迎えてくれた。ミーシャは俺をぎゅっと抱き締めて、帰ってくるのが遅いから心配しましたと涙ぐんでいた。俺もミーシャの顔を見るとホッとする。ミーシャの背中をポンポンと叩いてただいまと答えた。


使用人達が荷物をおろしてくれている間にダンがシルバーとクロスを馬車から外して牧場へと連れて行き、そのままドワンと一緒に馬車に乗って商会へと同行した。ウイスキーをこっちへ連れてくる為だろう。


俺はポップコーンの種を持って厨房へ行き、ブリック達の土産ということでポップコーンの実演と作り方を教えて後でみんなに振る舞ってくれとお願いした。


ミーシャはキャラメルポップコーンを大皿に入れて俺の部屋まで付いて来た。


「予定よりおほかったでふね」


さっきの涙はどこへやら。キャラメルポップコーンを頬張りながら聞いてくる。ミーシャ。喉に詰まるぞ。


「ミーシャには別のお土産があるんだよ」


部屋に入ってからミサの作ったイヤリングと髪飾りを渡す。


「母さんとシルフィードとお揃いだよ」


「うわぁ~、とっても綺麗ですぅ」


嬉しそうにイヤリングと髪飾りを着けて鏡を覗き込んでいた。良かった喜んでくれて。


ミーシャはイヤリングと髪飾りを着けたままニコニコしながら俺の旅の話を聞いていた。


「5人もドワーフが増えるんですか。これを作った人も来るんでしょ?楽しみですねぇ」


ミサが来たら仲良くしてやってくれ。



晩ご飯はハーブソルトで味付けしたチキンステーキだった。レモンをぎゅっと絞って食べる。うん旨い!


エイブリック邸のコース料理も旨かったけど、こういうのが食べたかったんだよね。やるなブリック。


帰り道では鹿肉、鹿肉、ボア、鹿肉だった。鶏肉に飢えていた俺はがつがつと食べた。


アイナはアーノルドが帰って来たら話を聞くわねと言っていたが、まだ仕事から帰って来ていない。もう飯食い終わったぞ?



「帰ったぞ」


やっとアーノルドが帰ってきた。


「お帰りなさい。遅かったね」


「やっと帰ってきたかゲイル」


にこりともせずに俺にお帰りというアーノルド。なんかぼろぼろだな?


後で執務室にダンと来いといったアーノルドはすこぶる機嫌が悪かったのだった。



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