第233話 とりあえずエイブリック邸

俺達はやっと王都までたどり着いた。


もう日が暮れているので門は閉まってるから入れない。俺が貴族だと証明出来る物を持ってないからだ。


王都の壁に沿って出ている宿屋街で串肉を食べる。


「やっぱり人に作って貰うのは楽だよね」


少し割高な串肉だがどうと言うことはない。領を出てからずっと料理番だったから料理を作るのにも飽きが来ていた。ブリックのありがたさがよく解かる。


「やっぱりぼっちゃんが作る飯の方が旨いな」


山ほどの串肉を頬張りながらダンがしれっと言いやがる。


「俺はたまには人の作ってくれたものの方がいいけどね」


旨い飯が出てくるのはうちの屋敷かエイブリック邸だけだ。後は自分で作るしかない。戻ったらちょくちょく行く商会近くの飯屋にレシピを渡そう。これから来るドワーフ達が入り浸るだろうからな。


もう馬車を偽装する必要も無いので夜の間に草を全部取り払った。


朝一番に王都の門をくぐる。変わった馬車はやはり注目を集めるが草まみれの馬車だと貴族街に入れないかもしれないから仕方がない。


エイブリック邸に到着。


「おお、ゲイル様お戻りになられましたか。」


我が家に帰ってきた主人のように出迎えてくれる執事。


「昨日の夜に着いたよ。またいきなり来ちゃったけどいいかな?」


「もちろんですとも。エイブリック様は公務で夜までお戻りになられませんが、ごゆっくりとお過ごし下さい」


俺達は屋敷の中に案内され、寝室に荷物を運んでくれた。まるで定宿だ。


ヨルドの所まで案内してもらう。ドワンとダンは部屋でゆっくりしてるとのことだった。


「あ、師匠いらしてたんですか」


「昨日の夜着いて、さっきお邪魔したところだよ。お土産があるんだ」


俺はドワーフの国に行っていたことを軽く話してポップコーンの種を渡した。帰る途中、チマチマと育てて数を増やしておいたのだ。作るのは良いけど種を取るのが面倒臭かったのですべてダンにやらせていた。ダンがいると機械いらないよな。爪でひともぎしていた姿はまるで熊だった。


「これはなんの種ですか?」


「トウモロコシって言うんだけどね、何種類かあってこれはこの種をおやつにすることが出来るんだよ」


ゲイルはポップコーン作りを実演して見せる。


「これは面白い。ほんとにおやつにぴったりですな」


「これ、たくさん育てるからこれから流通させるね。取りあえずこれはお土産に」


どさっと袋にいれた爆裂種をヨルドに渡した。


早速自分でもやるヨルド。


ポンポンと小気味よい音でポップコーンが出来て行く。


「カレー粉作ってある?」


ありますよとのことなので、出来たポップコーンに塩とカレー粉を振りかけて混ぜる。


「こうやって色々な味にアレンジ出来るからね」


コック一同はおおーっ!と言いながらカレーポップコーンを食べる。


「あの、これはデザートにはできませんか?」


お菓子担当のボットが聞いてくる。


「デザートとまでは行かないけど、甘いポップコーンも出来るよ」


教えて下さいとのことなのでキャラメルポップコーンを作ることに。


牛乳とバターに砂糖を入れて煮詰めていくけど、白砂糖なので物凄く高価なポップコーンになるよな。


「これくらいでやめると練乳と言うものになるよ。イチゴとかに付けて食べると美味しいね」


ボットが味見した後に他のコックがイチゴを持ってきた。収穫が始まって入荷しているみたいだ。


みんなで練乳を付けて食べると揃ってうまーい!と声を上げた。この世界のイチゴは元の世界よりも小さく酸っぱい。練乳をかけた方が美味しいのだ。


「更にここから煮詰めて行くとキャラメルになるから」


煮詰め続けると段々と茶色くなっていく。


「ここにポップコーンを入れてよく混ぜて冷やす」


冷めるのを待つのが面倒なので冷風で冷やしていく。それをボットが味見して目を丸くする。


「こんなに簡単に出来るんですね」


「デザートには無理だけどおやつにぴったりでしょ。塩バターとかカレー味のは軽いつまみにもなるし」


「はい、素晴らしいお土産をありがとうございます。このポップコーンの種はいつ頃から流通予定ですか?」


「帰ったら取りあえずここの分は作るよ。量産出来るのは来年以降になるけどね。足りなくなったら発注しておいて、その分だけ先に作るから」


「ありがとうございます。昼飯のリクエストはありますか?」


と聞かれたのでハンバーガーを頼んでおいた。飲み物はオレンジジュースで。


リクエスト通りのハンバーガーセットを堪能して部屋でエイブリックの帰りを待っていたら寝てしまったようだ。


「ゲイル様、エイブリック様がお戻りになられました」


執事が起こしに来てくれた。




「予定より遅かったな」


「ちょっとドワーフの国に長く居たのと事情があって遠回りにして帰って来たからね」


「神様になったからか?」


あ、知ってる。


「なんだ騒ぎのこと知ってたの?」


「お前らが出てすぐに騒ぎの報告があったからな。お前はどこに行っても騒ぎを起こすよな」


「巻き込まれただけじゃん」


人をトラブルメーカーみたいに言わんでくれ。


「それと村人全員がディノスレイヤ領に無事に着いたぞ。大変だったんだからなあれ。何やらかしたら村人全員が村を捨てるんだ?」


これも伝わってるのか。大変だったと言うことは何か支援でもしてくれたんだろうな。


「村人が盗賊になって俺達を襲おうとしたんだよ。初めて盗賊の真似事をしたみたいだったから話を聞いたら税が払えなくてどうしたら良いかと泣かれちゃったんだよね」


「それで?」


「ディノスレイヤ領なら働くところあるよと言っただけ」


「それだけで全員村を出たのか?」


「帰りに村に寄ったら誰も居なくてビックリしちゃった」


(ゲイルの言葉だけで村人全員が村を捨てる決断をしたのか・・・)


「帰りはどの道を通って来たんだ?」


「東の辺境伯領都に向かう道を通ってぐるっと回ってきたんじゃ。あちこちに廃村があって盗賊も山ほど居たわい。村を捨てて盗賊に成り下がったんじゃろ。歯応えのあるやつらは一人もおらなんだ」


と、ドワンが道の説明をしてくれる。


「村を捨てた人達も領主からの支援は何も無いと言ってたから、他の所もそうなんだろね。そのうち一揆とか起こるんじゃない?」


「一揆とはなんだ?」


「生活に苦しくなった農民がイチかバチかで領主に対して反乱を起こすことだよ」


「農民とかが歯向かっても勝てるわけなかろう?」


「どうせ死ぬなら戦って死ぬとかそんなんだからね。元から勝つ気ないから死ぬの恐れずに襲ってくるよ」


「不味いな・・・」


「今はバラバラに盗賊になってるみたいだけど、治安が悪くなった道は通る人が少なくなったり護衛を強化されて商人を襲えなくなるから、可能性はあると思うよ」


「そうか、わかった。こちらで詳しく調べておこう」


随分と真面目で怖い顔でそう答える。エイブリックが公務をしているときはこんな顔をしてるんだろうな。


ガチャっとドアが開いてドン爺がやって来た。


「おぉ、ゲイルよ。無事に戻ってきたようじゃの。息災であったか?」


満面の笑みを浮かべて俺の頭を撫でる。


「さ、飯でも食べながら話を聞かせてくれ」


コース料理を食べながら行き帰りの道の事とドワーフ国から5人の職人をスカウトしたことを話した。


「王よ、これを」


食事が終わった時にドワンが手紙を渡す。バンデスからの手紙だろう。


中を読んで確認するドン爺。そしてエイブリックにも渡す。


「ドワンよ、此度の件大儀であった。礼を言う」


ドン爺も公務の顔だろう。きりっとした顔でドワンに礼を述べた。


「ドワンとゲイルはこの手紙に何が書かれているのか知ってるのか?」


手紙を手にしたエイブリックが俺達に聞いてくる


「エイブリックよ、ワシは手紙を預かっただけじゃ。内容はワシも坊主も知らん」


「そうか、では伝えておくが内密にしておいてくれ。アーノルドとアイナには知らせて貰って構わんがな」


手紙の内容はウエストランド王国とドワーフの国が正式に国として国交を樹立する。それに伴いドワーフの国はドワーフ王国となり、バンデスがおさから王になる。但し、公には発表せずに密約とする。表向きは今まで通りだが、有事の際はお互いに援軍を送るというものだった。


これでドワンは正式に王子様だ。


ゲイルはクックックックと笑いが込み上げてくる。


「どうしたゲイル?」


「これでおやっさんは正式に王子だね。ねっ、ドワンお、お、お、王子様っ」


ゲイルは、あーはっはっはっはと自分の発した言葉に笑いがこらえられなくなり、皆もドワンの王子姿を想像して大笑いした


「う、うるさいっ!ワシはワシじゃ。なんも変わらんわいっ!」


真っ赤になって怒るドワンをエイブリックはしばらくからかいながら酒を飲んだのだった。




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