第231話 5人目

うちの領に来ることになったのが今の所4人。


農業系のファム

酒造りのジョージ

刀職人のリッキー

装飾職人のミサ


肝心の鍛治職人がいないんだよね、色々な道具を作ってくれる人が。


ドワーフの国で教えられることは教えたし。見るところも全部見たので、もう明日ここを出発することになっている。今はバンデス達と最後の宴会中だ。


「おやっさん、もうスカウトする人終わり?」


「そうじゃな。一緒に来たいと言って来た奴はいたんじゃが、そいつらが来るとここが困るようなやつが多くてな。いくら好きに連れてと言われてもちょっとな」


なるほど、おやっさんが来ても良いと言ったメンバーはここから居なくなっても影響が少ないドワーフばっかりなんだな。強いて言えば酒造りのジョージが連れていかれて困るかもしれんが、アルコール度数を上げる研究を中心に造ってたみたいだから流通量は少ない。その度数を上げるのも蒸留で解決して他の者に教えてるから問題も出ないようだな。



「ゲイルよ、本当に帰るのか?ずっとここにいていいんじゃぞ」


ガッハッハッハと俺の肩をバンバン叩くバンデス。骨折れそうだからやめて・・・


「寂しくなるわねぇ。ドワン、たまにで良いから帰って来なさいよ。ミゲルにも言っておいて」


タバサは涙ぐんでドワンにそう言った。


宴会もそろそろお開きなので、ドワンは親子の会話を楽しむといいだろう。ダンと俺は馬の様子を見てから寝ると言って先にその場を離れた。



「シルバー、明日ここを出発するからね。また1ヶ月ぐらいの旅になるからちゃんと休んでおくんだよ」


毎日シルバー達の面倒を見てくれていたドワーフの少年、名前はサイトと言うらしい。大人しい性格で初めの頃はびくびくしていたが、段々と打ち解けて話すようになっていた。


「明日、帰っちゃうんですね」


「うん、もう料理とか俺の知ってる事は伝えたし、うちに来てくれる人も何人か見つかったしね」


「ゲイルさんが来てから凄く美味しいものが食べられるようになって嬉しいです」


「それは良かった。美味しいご飯は人を幸せにするからね」


「ゲイルさんの所に行く人は何か出来る人なんですよね」


「農業、酒造り、刀造り、装飾だね。あと調理器具とか色々な物を作ってくれる人も探してたんだけど難しいみたい」


「色々なもの?」


「そうだよ。今は全部おやっさんにお願いして作って貰って、出来たやつを人族の職人が量産していくんだけど、最初のやつを作るのが難しくておやっさんに頼りきりなんだ。それをしてくれる職人を探してたんだけどね」


「武器を作る職人を探していた訳じゃないんですか?」


「俺達の武器はおやっさんが作ってくれるし、武器屋は他にもあるからね。それより新しい物を作ってくれる人がいいんだよ。例えば紙とか」


「紙?」


「そう、今は羊の皮や板とかに書いてるだろ?それをもっと薄くて軽い物を作りたいんだけど研究する時間が無くて後回しになってるんだよ」


「どうやって作るんですか?」


「木とか草を水にどろどろになるくらいに溶かして作るんだけど、その木や草を色々試さないといけないし、大量に作る方法も考えないとダメだしね。それが成功したら本とかも作れるし、屋台の食べ物とか包んで渡せたりとか便利になるよ」


「本?」


「そう文字や絵が書いてあったりしていつでも読めるし、学校に行く前に文字を覚えられたら学校は違うことを教える時間も増えるよ。それに言葉で伝えると段々と意味が変わったりするから文字に残すほうが正しく伝わるんだよ。未来の人に今の事を残しておくのもいいと思わない?」


「本・・・、学校・・・、未来に残す・・・。 それやってみたいな・・・」


ん?サイトはうちに来たいのだろうか?


「やってみたいの?」


「僕は弱いし、武器も作れないから何も出来る事がないんだ。でも僕が作れる物があるならやってみたい」


「お父さんやお母さんは何を作ってるの?」


「二人とも死んじゃっていないよ」


寿命が長いドワーフが両親そろって死んだって事は事故かなんかだろうな。


「今バンデスさんの所で世話になってると言うことは親の代わりだよね?」


「そうです。ここで雑用してます」


「じゃあ、バンデスさんに許可貰って来て。許可が出たらうちに来たらいいよ」


「えっ?本当ですか?僕何も出来ないのに・・・」


「初めては誰にでもあるからね。頑張って紙とか作ってくれると嬉しいな」


「はいっ!いまからおさにお願いして来ますっ」


サイトは走ってバンデスの所に行った。


「ぼっちゃん、いいのか?何にも出来ねぇやつスカウトして」


「サイトは大人しいから荒々しいドワーフの国でずっと雑用して穀潰しとか呼ばれるよりいいんじゃない?毎日きっちりシルバー達の面倒見てくれてたから馬も懐いてるし、教えたら真面目に仕事するよ。成長力に期待ってやつかな」


「ぼっちゃんがそう言うならいいけどよ。タバサさんとか寂しがるんじゃねぇか?」


「あー、それはあるかもね。おやっさん達が出て行ったあと自分の子供みたいに思ってたかもしれないなぁ」



「えっ!サイトがドワンの所に行きたいって?まだ子供なのにダメよ」


タバサは即座に否定した。


「お前は何しにドワンの所に行くんじゃ?雑用係なんぞドワンもいらんじゃろ」


「ぼ、僕は何かを作りたいんです・・・」


「ここでも出来るじゃろ」


「ここだと武器以外の物を作っても認めて貰えません・・・」


「酒や農作物もあるじゃろ。他にもコックとか色々ある」


「僕は新しい物を作りたいんです・・・」


「今あるものが作れん癖に新しい物が作れる訳がないじゃろがっ!」


・・・

・・・・

・・・・・


「親父、こいつをここで飼い殺す気か?」


「飼い殺すだとっ?言って良いことと悪い事があるぞっドワンっ!」


・・・

・・・・

・・・・・


「ワシの時もそうじゃった・・・。何か自分の手で作りたいと言っても聞いてくれもせず頭ごなしに否定しかせんかったじゃろが。だからワシはこの国を出た」


「ぐっ」


押し黙るバンデス。


「ミゲルもそうじゃ。あいつは小さい頃から木で何かを作るのが好きじゃった。しかしここでは木は薪にしかならん。じゃから外の世界で木で何かを作ろうとしたんじゃろ。今では立派な大工の親方じゃ。ディノスレイヤ領の建築をほとんどあいつの所でやっとる」


「ミゲルも・・・」


「サイトよ、お前はゲイルと何か話して作りたいものが見つかったんじゃろ?」


「紙を作りたいと思います」


「そんなもん作ってどうするんじゃ?」


「紙が出来ると未来の人に今を伝える事が出来ると聞きました。僕の作ったものが色々と未来に伝える物の手伝いになれば嬉しいです」


「未来に残すもの・・・?」


「サイトよ。坊主が作ろうとしていた物を作りたいんじゃな?しかしあやつの求める物は難しいものばかりじゃぞ」


「はいっ、覚悟しています。ゲイルさんは誰にでも最初はあると言ってくれました。僕はまだ何も作れないけど死ぬ気でやってみせますっ!」


・・・

・・・・

・・・・・


「親父、何かをやりたいと目的が出来た奴を認めてやってくれ。そうせんと生きて行くのが辛い。今回うちに来たいと言ったやつでリッキーとミサがいる。リッキーは変わった剣、刀と言うそうじゃが誰にも認められないままずっと売れんかったみたいじゃった。坊主はアイツが魂を込めて作った物を金貨100枚と言われても笑いも驚きもせんかった。それ以上の価値があるものだと。実際に試してみたら悔しいほど素晴らしいものじゃった。ミサの作ったものもそうじゃ。誰もが価値を理解出来んかった物を買うと言い出し、売値を言われてそんな安く売ってはダメだと、王に献上出来る程の技術だと言いおった」


「リッキーやミサの作った物が?」


「そうじゃ、ここでは認められなかった者達の才能を坊主が見付けたんじゃ。素晴らしいことじゃと思わんか?」


・・・

・・・・

・・・・・


「坊主はこのサイトにも何かを感じて紙の話をしたんじゃろ。こいつなら作れるんじゃないかとな。お袋、ワシが黙ってここを出たことは悪かったと思っておる。親父もお袋もワシやミゲルを可愛がって心配してくれてたことも今では解る。サイトの事も我が子のように思うて可愛がっておるんじゃろ?だからこそ許可をしてやってくれ。ワシみたいに帰りたい時に意地を張って帰れんようなことをしないでやってくれ」


「ドワン・・・」


タバサはぼろぼろと泣き出した。


「好きにしろっ!」


バンデスはそう言うしかなかったのだった。



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