第230話 4人目

今日はジョージとお酒作り談義だ。


「師匠、とうもろこしや芋からも酒が作れるのは本当ですか?」


「エール作ってるでしょ。あれと同じだよ。麦がとうもろこしや芋に変わるだけだよ。ちなみにエール作るときにホップを加えずに作ったものがウイスキーの元になるんだよ」


「なんじゃとっ?ウイスキーが作れるのかっ?」


「蒸留して寝かすんだけど、それだけだとただのアルコールでさほど風味が出ない。麦芽を乾燥させるときに使う炭とかの煙と樽の木が何かで風味が決まるんだよ。後は樽の中を火で炙ってわざと焦がしたりね。どんな味になるかはやってみないとわかんないけど」


「そうか、ウイスキーが作れるのか。そうか、そうか」


ドワンめっちゃ嬉しそう。


「ドワーフの国は樽があまり手に入ら無いかもしれないね。木があまり生えてないから」


「そうですね。あちこちから薪になる木を持って来てるくらいです」


「鉄溶かしてるところも石炭使ってたよね」


「あの石炭と言う奴は薪より火力があるらしいからな」


「もっと火力がいるなら、石炭をコークスにするといいよ」


「コークスとはなんじゃ?」


「薪を炭にしたでしょ?石炭にも同じ事をしてやればいいんだよ。薪が炭になるより速く出来ると思うよ」


「そうか、もっと火力を上げることも可能なんじゃな。親父に言っておく」


「しかし、師匠は何でもよく知ってますね」


「ジョージさん、師匠はやめて。もうそう呼ぶ人がいるから」


「なんとすでに弟子がおられたのですね」


「弟子とかじゃないよ。料理のレシピ教えただけ。俺には敬語も要らないし、ゲイルと呼んでくれたらいいから」


「では私もジョージとお呼び下さいゲイルさん」


ジョージはドワーフ国にいる間は、新しい酒は作らず蒸留のやり方だけを確立して他の者に教えるそうだ。


ウイスキーとかは領で試してちゃんと出来たらまたここに教えにくればいいしね。




ーその頃のディノスレイヤ領ー


「手紙にはなんて書いてあったの?」


「村を捨てた人達が100人くらいここへ向かってるらしい。住むところを用意しておけだと」


「どういうことかしら?」


「子供のしでかした事は親が責任取れとか書いてあるからゲイルが何かしたんだろな」


「何やったら村を捨てる人が100人も出るのかしら?」


「さぁ、ドワーフ以外にもスカウトしたんじゃないか? とりあえずどこかに住む所作っておかないとな。明日、ミゲルの所に行って相談してくるわ」



ードワーフの国ー


さて、ドワーフの国滞在期間も残り少ないな。ドワンは他に誰かスカウトしてるのかな?


石炭からコークスにするやり方を教えて炭窯の大きい奴を作るのを手伝ったり、料理のレシピを伝えたりして過ごしていた。


そろそろ土産買っておくか。アイナ、ミーシャだけでいいかな。ブリックはとうもろこしがあるからそれのレシピでいいし。ドン爺とエイブリックになんか買って行くと気を使いそうだしな。ポップコーンとかでいいだろう。


「おやっさん、宝飾品の店ってどんなもの売ってるの?」


「どうじゃろな。昔はここで買った武器に装飾を施してただけじゃったからな」


そういう店か。お土産になるような物無いかもしれないな。困ったな・・・


「とりあえず見に行くか?」


ドワンもよく知らないとの事だったので見に行く事にした。




「いらっしゃーい」


珍しく愛想の良い店員がいる。店内はサンプルなのだろうか、剣や盾に綺麗な模様が施された物が展示してある。この甲冑とかすごいなぁ。ドン爺の式典に筆頭護衛のナルとかが着るようなやつなんだろう。


キョロキョロ店内を見ていると店員が声をかけてきた。


「キミ、人間だよね?それともハーフドワーフ?」


「いや、ドワーフの血は入ってないよ」


やっぱり俺はドワーフぽいのか?


「だよねー、人間の子供初めて見たよ。何しに来たの?」


「ドワンのおやっさんの里帰りに付いて来たんだよ」


「ドワン?あーっ!ドワンのオッサンだ!いつ帰ってきたのー?」


「お前、ミサか?」


「覚えてた?久しぶりだねー」


「大きくなったの。ワシがいた頃は寝小便垂れてたガキじゃったのに」


「うるさいっ!」


「騒がしいぞっ!何やってんだミサ!」


「あ、お父さん。ドワンのオッサンが帰って来てるよ」


「何っ?ドワンじゃと? おぉ!本当じゃ。いつ帰って来たんじゃ?」


「この前じゃ。しかしいつ来ても変わらんのここは」


「まぁ、装飾屋じゃからな。武具が変わらん限り変わらんの」


宝飾店じゃ無くて装飾店なのか。


「キミキミ、ちょっとその腕輪見せてくんない?」


治癒魔法の腕輪と気付いたんだろうか?


「はいどうぞ」


「これミスリルだよね。シンプルだけどいいデザインしてる。変にカッコつけた物でもないけど武具でもなさそうだし」


マジマジと治癒の腕輪を見ているミサ。


「これどこで買ったの?」


「ミサ、それは売りもんじゃなくて、坊主が自分で作ったものじゃ」


「自分で作った?ミスリルの加工が出来るの? すっごいね」


久しぶりにすっごいのフレーズ聞いたな。


「名前なんて言うの?」


「ゲイルだよ」


「私はミサ。ピッチピチの52歳よ」


ウインクしながら月に代わってお仕置きするポーズを決めるミサ。なんでこんなの知ってるんだろう?それにドワーフの52歳ってピッチピチなのか?年齢だけ聞くと元の世界の同世代なんだよな・・・


「で、何に装飾しに来たの?背中の剣?」


「母さんとメイドにお土産欲しいんだけど、宝飾品があるのかなって思ってたんだ。剣はこれで気に入ってるから装飾はいいかな」


剣はこのままでいいと言うとドワンはうんうんと頷いていた。


「お土産に宝飾品?お母さんとメイドにも?やっさしーっ! それならこんなのがあるよっ!」


ミサが出して来たのは髪飾りだった。

驚いたのはその細工。とても細かく精巧に華をモチーフにしたものはこの世界で初めて見るものだった。


「螺鈿細工じゃん・・・ 凄い」


美術館に置いてあってもおかしくない細工を施された髪飾りだ。


「うっそ、これの凄さ解るの?ほら、父さん聞いた?凄いって!」


「坊主、こんなので良ければ買ってやってくれ。まだひとっつも売れてないんじゃ」


え?こんな凄いものが売れない?


「物凄く高いの?今回あまりお金持って来てないんだよ」


「ひとつ銀貨1枚だよ」


「えっ?」


これが1万円?


「まだ高い?子供が払える金額じゃないよね?じゃ2つで銀貨1枚でどうかな?」


「逆だよ。こんなに精巧に作ってあってデザインも綺麗なのにそんな値段で売っちゃもったいないよ」


「坊主、確かに手間は掛かってるがな、素材は鉱石の切れ端とかそんなもんだ。元手はただみたいなもんじゃから銀貨1枚でも高いと言ったんじゃがな」


貝殻じゃ無くて鉱石なんだ。不思議な色に光ってるし貝殻かと思った。


「全部でいくつあるの?」


ざらざらっと出してくるミサ。髪飾りだけでなく、イヤリングやネックレス、櫛とか色々あった。


「ぜんぜん売れなかったの。武具に付けようか?って言っても断られるし。付けるなら宝石付けろだって」


なんてもったいない。もっとなんか作って欲しいくらいだ。


「じゃ、これ全部頂戴。」


えっ??


全員が驚く。


「ぼっちゃん、クズ鉱石並べただけの物をアイナ様の土産にするのか?それも全部買うとか・・・」


「みんなにはこの価値がわからないのか?もったいないな。元手はただみたいなものかも知れないけど、このデザインセンスと技術は凄いんだよ。貝殻とかでも作って欲しいな」


俺がそう言うとカバッとミサが抱き締めてきた。


「ありがとう。こんなに自分の作った物を認めて貰えたの初めてだよ」


ムチューっとほっぺたにキスされた。


「こらっ!お客さんになんてことしやがるんだっ!」


「ごめんねー!つい嬉しくなっちゃって」


まぁ見た目子供みたいな娘にチューされても恥ずかしくもない。


「ぼっちゃん、全部買ってどうすんだ?」


「え?母さんとミーシャ、シルフィードの分と残りは部屋に飾ろうかな。ドン爺とエイブリックさんに献上しようかと思ったんだけど、全部女の人用だからねぇ」


「献上?誰に?」


「ドン爺とエイブリックさん」



「ミサ、ドン爺はウエストランド王国の国王、エイブリックは王子じゃ」


「えーーーっ!そんな偉い人と知り合いなの?」


「遊び相手?かな」


「ドワン、どういうことだ?」



ドワンは経緯を説明し、今回職人をスカウトしに来た事を説明した。


「行くっ!私そこへ行く」


「おいミサっ、何言ってるんじゃ。お前みたいな者をスカウトしに来たんじゃないじゃろ」


「俺は歓迎するけど」


「おい坊主、何を言って・・・」


「ミサ、武具やら他の物への装飾も出来るなら来てもいいぞ」


「おいおい、ドワン。お前まで」


「お前の親父の許可があればの話じゃ。うちの親父は本人が望むなら誰でも勝手に連れて行けと言っておる」


・・・

・・・・

・・・・・


「バンデスさんはすでに了承済みなんじゃな?」


ドワンはこくっと頷いた。


「解った。お前の職人としての価値を解ってくれる奴がいるならそこの方がいいじゃろ。ここじゃこいつの作った物は売れんから穀潰し扱いじゃからな。おい坊主、お前がミサを見初めたんだ責任取れよ」


嫁に貰えとかの意味じゃないよね?


「大丈夫だよ。うちに来てくれるなら鱗を加工して貰って献上品にしよう。男性向けの作ってね」


鱗?


「鱗って魚の鱗?」


「そうだよ。湖の主の鱗。とっても綺麗な鱗だよ」


「なんだそれ?」


「金色に光るデカイ魚でな。ワシが釣り上げて食おうとしたらゲイルが主だから逃がせと言いおった。そしたら礼にその魚がくれたんじゃよ」


「そいつは貴重なもんじゃないのか?」


「王都でオークションに出したらかなりの高額になると思うぞ」


「かーっ!そんな貴重な物まで任せようと思うくらいミサを気に入ったか。坊主、末永くミサを宜しく頼むぞ」


嫁に貰うんじゃないからね。


「ありがとうゲイル君。ふつつかものだけど宜しくね」


嫁に貰うわけじゃないからね。

嫁に貰うわけじゃないからね。


大切なことだから2回言っておいた。


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