第229話 3人目

翌日からバンデスの所でトロッコの試作品作りだ。鉱石を乗せる所はすぐに出来たが、線路が意外と難しかった。とりあえず短い直線の線路を作り、鉱石を乗せてゴロゴロと動かしてみる。


「ゲイルの言う通り台車よりはるかに少ない力で運べるな」


下り坂で重い鉱石を乗せたトロッコがスピードを落として下ってこれるようにブレーキを強化する必要がある。万が一スピードが落ちなかったら大事故になるからね。


ぎっこんばったんして自走出来る奴も作った。


「これ、荷台がこうやって傾けられるようにしたらもっと便利じゃない?」


「なるほど。よしっ!改良だ」


「線路を曲げるのどうする?」


「錬金棒で柔らかくしてから曲げていけば?」


「それじゃあ!」


試作品作りに一週間費やした。たくさんのドワーフに囲まれて一緒にやいのやいのと作業したのが良かったのか、作業員達の俺に対する人間とドワーフといった垣根が無くなっていた。旨い酒や飯も影響しているのだろう。持って来た酒は無くなったが、新たにジョージが蒸留酒を作り出していた。


今日は燻製をする。ベーコン、ハム、羊の腸も手に入ったのでソーセージも作った。持って来たヒッコリーチップはこれで終わりなので、バンデスが他のドワーフにチップを作るように指示している。



「どこに行きやがったんだあいつらは?」


銀の匙リーダー、ジャックはドワーフの国に入ってからゲイル達を探し続けていた。


「ダメね、これで全部の宿屋に聞いて回ったけど、変わった馬車の目撃情報すら無かったわ」


「こっちもだ。知らん、知らんのオンパレードだ」


「ルーラ、ここに来るまでの休息ポイントに魔法を使った痕跡は確かにあったんだろうな?」


「間違いない」


「ここに来たのは確かなんだ。なぜ見つからん・・・。それに魔道具なんざどこにも売ってやしねぇし」


銀の匙メンバーはドワーフの国に来てから一週間ゲイル達を探し続けたが見付けることは出来なかった。ワイバーンに足止めされていて予定より大幅に予定が遅れているのでこれ以上ここに居るわけにはいかない。


「ジャック様、これ以上は・・・」


「うるさいっ!言われんでも解ってるわっ!」


武器を大量に買ったジャック達はドワーフの国を旅立っていった。



「おやっさん、山肌で武器作ってる所見に行かない?」


「坊主じゃ店に入ることすら出来んぞ」


「外から見て雰囲気が解るだけでもいいし、父さん達の土産も買いたいしね」


「ここで武器を買うのか?」


「そうだね、本気の武器はおやっさんに頼むだろうから装飾用とかかな」


なんかぶつぶつと不満そうなドワン。でもアーノルドの剣はドワンが作ったやつじゃないよね?


「お土産だよ。お土産。俺が店に入れなくてもおやっさんがいるし、この剣持ってたら大丈夫でしょ」


そう言って背中の魔剣をポンポンと叩いた。



シルバー達に跨がり、山の個人店を眺めながら進んでいく。


店の中は見えるけど、店番とかいない所がほとんどだ。売る気あるんだろうか?



ガッシャーーン


うわっ!


冒険者らしき人が店からふっ飛んで来た。


「出ていきやがれっ!お前らなんぞに売るもんはねぇっ!」


「けっ!誰がこんな変な剣買うかってんだ。ただでもいらねぇっ!」


「なんだとぉっ!」


あーあー、店先で喧嘩始まったよ。


「止めとけリッキー」


「うるせぇっ!お前らもこいつの・・・、ドワンじゃねぇか・・いつ帰って来やがったんだ?」


けっ、バーカと捨て台詞を吐いて去る冒険者にリッキーと呼ばれたドワーフは石を投げていた。


「ったく相変わらずじゃの」


「なんだ外の世界で上手く行かなくて逃げ帰ってきやがったのか?」


「ただの里帰りじゃ。そのうちまた出て行くわい。それよりその様子じゃまだ売れとらんようじゃの」


「俺の作品を解る奴がおらんだけだっ。里帰りって事は孫の顔でも見せに帰ってきたのか?」


またドワンの子供に間違えられる。そんなに俺はドワーフっぽいのだろうか?


「違うわっ。この坊主はワシのツレの子供じゃ」


「初めましてゲイルです。ドワンのおやっさんの里帰りに付いてきました。こっちは護衛のダンだよ」


ダンもペコッと頭を下げる。


リッキーと呼ばれるこのドワーフもハーフドワーフだろうか?そこそこ背が高いし、口調もドワーフっぽくない。


「坊主、こいつはリッキーと言ってな、変わった剣しか作らんで全く金を稼がん穀潰しじゃ」


「売れんのじゃねぇ、売らんだけだ。」



俺達は店先で話すのもなんだということで中に案内された。


店の中は何も展示されてはいなかった。


「リッキーさん、どんな剣を作ってるの?」


「ドワンの知り合いかなんだか知らねぇが、子供にゃ関係ねぇ」


「おい、リッキーよ。坊主はそこらのやつらよりずっと強いぞ。親父を伸したぐらいじゃしな」


ガッハッハッハと笑うドワン。


「バンデスさんを伸せるやつなんざ居るわけねぇだろ。いい加減な事を言うな。外の世界で嘘を付くことを覚えてきやがって。剣のひとつでも作れるようになってからしゃべりやがれっ!」


まぁ、信じられないのは確かだね。


「リッキーさん、おやっさんはすごい武器職人だよ。これもおやっさんが作った奴だよ」


俺は背中の剣を見せた。


ハンッと言いながらその剣を見るリッキー


・・・

・・・・

・・・・・


「本当にドワンがこれを作ったのか?」


「坊主専用に作ったもんじゃないがな。次に作る奴はもっと良いものを坊主用に作る予定じゃ」


「こいつにそんな価値があるのか?」


「この剣も使いこなしておるでの。試しにお前が作ったものを坊主に見せてみたらどうじゃ?」


そう言われたリッキーは奥に引っ込んだあとしばらくしてから持って来た。


「これは俺が打ったものだ」


これは・・・


ダンが代わりに受け取り鞘から抜いた。


「こいつは変わった剣だな。片刃で反ってやがる」


「ダン、これは剣じゃないよ」


「ちょっ、ぼっちゃん。失礼じゃないか?確かに変わった剣だが見事な出来だぞ。」


チッと舌打ちするリッキー。


「そういう意味じゃないよ。これは剣じゃなく刀って言うんだよ。剣より斬れ味に特化してるね」


「坊主、お前、これが解るのか・・・?」


「美しい刃紋が出てるね。よく斬れそうだと思うよ」


バッと奥に引っ込むリッキー。何やらがたがたと音を立てて箱を持って来た。


「こいつを見ろ」


箱から刀を出してくるリッキー。ダンに抜いてもらう。


うっ、なんて刀だ・・・蒼白いオーラが出ているように見える美しい刀、恐ろしさすら感じる。


「凄いね。見るだけで身震いするような刀だよ。何でも斬れそうだね」


これアーノルドにお土産にしたら喜びそうだな。売り物かな?



「これは特別な鉄を使って打った刀だ。お前が買え」


「俺はまだこれを使える程腕も無いし、身体も小さいからね。父さんのお土産としてでもいいなら買ってもいいよ。でもこれ売り物なの?あまりにも見事なんだけど」


「父親の土産?」


「リッキー、坊主の父親はアーノルドだ。アーノルド・ディノスレイヤ。剣の使い手じゃ」


「あの化け物を討伐したっていう冒険者か?」


「そうだよ。父さんの剣の腕は見事だよ。この刀で居合斬りとか出来ると思うんだよね。本当に売ってくれるなら買うけどいくらくらいするの?」


「金貨100枚だ」


おぅ、1億円か。蛇討伐のお金があるから買えなくも無い。金額は高いけどその価値はありそうな気がする。


「それ以上の価値はあると思うけど、そんなにお金持って来てないや」


こっそりダンにいくら持って来たか聞くと金貨10枚くらいだった。全然足りない。


「お前は金貨100枚と聞いても驚きもしないし、笑いもしないんだな。本当に金貨100枚の価値があると思うのか?」


「うん、正直言うと売り物じゃないと思ったんだ。お金で売るようなもんじゃないだろうなと。特別な鉄って隕鉄・・・、空から降って来た星のかけらから採れる鉄で打ったんでしょ?」


・・・

・・・・

・・・・・


リッキーは俺がそう言うとマジマジと俺を見つめた。


「これを」


リッキーは箱からもうひとつ短い刀取り出して俺に渡す。


脇差しかな?


「この刀と対になる物だ。抜いてみろ」


スッと鞘から刀を抜くと、先程の刀と同じ物だった。自分の魂が共鳴しているような感覚がする。元日本人だからだろうか?・・・刀持ったことなかったけど。


しばらく刀を眺めているとリッキーが話し掛けてくる。


「坊主、これはお前が言う通り売り物じゃない。いくら金を積まれても売る気は無かった」


「やっぱりそうだったんだね。自分で抜いてみて解ったけど、自分の魂と共鳴するような不思議な感覚があったよ。おやっさんが作る剣や武器にもそんな感じがするから」


・・・

・・・・

・・・・・


「この刀は二つともお前にやろう。持って帰れ」


えっ?


「ダメだよそんなの。こんな見事な刀を会ったばかりの俺に渡しちゃ」


「俺はこの刀を誰にも託す事なく死ぬものだと思っていた。それが託す相手が現れた。それだけの事だ。お前が要らぬならいずれ朽ち果てるだけになる」


俺はドワンとダンの顔を交互に見る。


「坊主、貰ってやれ。職人にとって自分が魂を込めて作った売り物じゃねぇ武器を託す事が出来るのは本望なんじゃ。リッキーはその相手に坊主を選んだんじゃよ」


「本当に良いの?俺は剣士とかじゃないよ」


「剣士かどうかは別にいい。刀がお前を選んだ。それだけの事だ」


刀が俺を選んだ?よくわからんけど断る方が悪そうだな。


「じゃあありがたく貰うね。長い方を父さんにあげてもいいかな?父さんならきっと使いこなせると思うんだ」


「坊主の父親にか・・・。良かろう。但し条件がある。俺に父親と会わせてくれ」


「ぜんぜん良いけど、父さん忙しいからここに来れるかな?」


「俺が会いに行く」


ということでリッキーも来ることになった。定住するかはわかんないけど。


「ダン、初めに見た刀買えば?」


貰うだけじゃ悪い。


「しかし、剣と違うんだろ?扱い方知らんぞ」


「どこかに刀振れる所はある?」


裏に試し斬りする所があるとの事でそこへ移動すると木の丸太がそこには並べられていた。


「居合斬りしてみる?」


「なんだそれ?」


「座ったままでも出来るんだけど、腰を低く落としてやろうか。ちょっとやって見せるね」


昔漫画で見たやつをイメージする。確かこんな感じだったよな。


腰を落として鞘の中を刀が滑り出す感じで


ふんっ


どうだっ!


あれ!?


イメージ通りに出来たけど手応えも無いし、丸太も斬れてなかった。空振りしたのか・・・恥ずかしい。



「坊主、見事だ。お前に託したのは間違いではなかった」


リッキーは感動していた。


「空振りしたのに何言ってんの恥ずかしい」


「いや、これを見ろ」


リッキーが丸太をコンと叩くと斜めに切れてストンと上の部分が落ちた。


「ちゃんと斬れてたぞ。」


え?魔剣でもないのに・・・


「ぼっちゃん、すげぇじゃねぇかっ!」


俺もやってみたいとのことでダンも同じようにした。


スパンと丸太は斬れ、ストンと上が落ちた。


「ダンとやら、お前もいい腕を持ってるな。その刀を売ってやろう」


それを見ていたドワンはワナワナと震えている。同じ職人として悔しいのかもしれない。


ダンが手にした刀は金貨1枚とのことだった。


俺達が出た後に他のドワーフが来るときにリッキーは一緒に来るということになったのだった。。

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