第228話 まず2人

「ファムよく来たな。それと誰じゃそいつは?」


「ジョージといいます」


「ドワンさん、こいつは酒造りをしてましてね、今ここでワインやエールを作ってるんですよ」


「ほう、酒を作ってるのか。ん?お前はハーフドワーフか?」


「はい、父が人間で母がドワーフです。父が寿命で亡くなったので母の故郷に来て酒を作ってます。お土産に私の作った酒を持ってきました」


ハーフドワーフか。初めて会ったな。他のドワーフに比べて背が高いから魂は人間なのかもしれんな。


「ファムさん、昼間はありがとう。名前言うの忘れてたよ。俺はゲイル。こっちは護衛のダン。ドワンのおやっさんの里帰りに付いて来たんだ」


「不思議坊主の名前はゲイルと言うんじゃな?お前が言ってたじ、じいるう?とやらの酒が強くなる方法の話をしたらジョージが興味を持ちよってな、あと、とうもろこしや芋から酒を作れるという話もじゃ」


「君がファムさんの話してた不思議坊やか。初めまして、ジョージだ。俺はワインやエールの酒精を強くする研究をしてるが、これ以上は強くならないんだよ。ちょっと飲んでみてくれないか?」


「初めましてジョージさん。ゲイルだよ。味見したいところだけど、まだ4歳だから飲めないんだよ」


「あぁ、そうか。人間の子供はそうだな」


「おやっさん、ダン、ワインを味見してみて。ボロン村のワインと比べてどれくらいか教えて」


ダンも挨拶してからドワンと共にワインを飲む。


「お、旨ぇじゃねぇか。やるなジョージ」


「そうじゃな。ボロン村のと比べると倍以上強いな。いつもの赤ワインよりも少し強いじゃろ」


ということはアルコール度数17~20度くらいかな?醸造だと限界だろう。


「醸造だけでよくここまで酒精強く出来たね。ブドウも良く出来てたんじゃない?」


「よく解ったね。ファムが丹精込めて作ったブドウで作ってるよ」


「俺は飲んでないから確実じゃないけど、醸造酒なら今のが限界なんじゃないかな?蒸留するともっと酒精、アルコール分を強く出来るよ」


「醸造?蒸留?なんだいそれ?」


「ブドウや麦から酒にするのが醸造で、それからアルコール分だけ濃くするのが蒸留だよ」


ほれ、こいつを飲んでみろと蒸留酒をジョージとファムに渡す。


「これは?」


「元々は赤ワインでね、そこからアルコール分を取り出してあるんだよ。アルコールがたくさん入ると酒精の強い酒になるよ」


二人はぐっと一気に飲んだ。


かーーーっ!


「なんじゃこの酒は?」


「こ、これは・・・・」


「もっと強くすることも出来るけど、酒の美味しさは酒精が強い弱いだけじゃないからね。風味と酒精の強さのバランスを取るとこれくらいのがいいんじゃ無いかと思うよ」


ジョージはボロボロと泣き出した。


「ど、どうやったらこんな酒が出来るんだっ!教えてくれっ、不思議坊やっ!」


「不思議坊やじゃなくてゲイルね」


俺は名前をもう一度言ってから蒸留の説明をした。ジョージは理解したがファムは???だった。


「ちょっとやってみようか?」


俺は土魔法で管の付いた壺と土鍋を作り、土鍋に湯を入れて赤ワインを温め出した。さんざん蒸留をしてきたので慣れたものだ。


管の先からぽとぽと水滴が出始めたのでジョッキで受けていく。


1リットルの赤ワイン。度数が20度と仮定すると、500ccで度数40度くらいの酒になるだろう。


実際には30~35度くらいだろうか。


冷ましてから4人で味見してもらう。


「うっ、俺の作った赤ワインが別物の強い酒になった・・・」


「これが蒸留だよ。俺とおやっさんが今これを作ってて、去年の冬から少しずつ売りに出し始めたんだ」


・・・

・・・・

・・・・・


「よがっだーーー!ごんな人がここにぎてぐれっぐれっくれるなんてぇ~~」


ジョージが涙を流して俺の両手を握る。


「師匠、私と一緒に明日から酒造りをしましょう。よーしっ!どんどん造るぞーーーっ!」


また師匠・・・弟子はヨルドがいるからもういらん・・・


「ジョージ、坊主がここにいるのは1ヶ月くらいじゃ。ここには住まんぞ」


「えっ?」


「ジョージさん、俺達はおやっさんの里帰りに付いて来ただけだから、ここには住まないよ。でも解ることは伝えて帰るから」


「えっ?とうもろこしや芋からも酒が作れるんだよね?1ヶ月で作れるのか・・・?」


「無理だよ。でも赤ワインやエール作ってるなら出来ると思うよ」


「出来た物が正解かどうか誰が判断するんですか」


「ジョージさんが納得したらそれが正解じゃない?」


「ダメだっ!納得出来るかどうかわからないじゃないか。ここに2~30年でいいから住んでくれないかっ!」


そんな数ヶ月みたいな感覚で言わないで。


「俺が2~30年も住んだら人生の半分終わっちゃうよ。ドワーフと寿命違うからね」


「あっ・・・」


「ね、だからジョージさんが頑張って作っていって」


・・・

・・・・

・・・・・


「分かりました。私が師匠の元へ行きます。師匠の故郷で酒を一緒に作りましょう」


「おいおいおいジョージ、何言ってんだ。勝手にここを出ていくつもりか?俺達の酒はどうなるんじゃっ!」


「他にも酒を作ってるヤツがいるだろ?それを飲めばいい」


「いや、俺はお前が作る酒が飲みたいんじゃ。お前がどうしても行くならワシも行く」


ドワンがその様子をみている。


「お前らここを出てワシらの所に来ると言うのか?」


「ドワンさん、私は酒を、誰よりも旨い酒を作りたいんです。師匠のところに行きます」


「ジョージは外の世界を知っとるし、目的があるから大丈夫じゃろ。ファム、それに比べてお前はどうじゃ?ここしか知らんし、酒飲みたいだけじゃ外の世界は辛いぞ」


「いや、不思議坊・・・、ゲイルが俺の作ったものをもっと生かせると知った。他にもあるはずじゃ!それを知りたいんじゃ、酒を飲みたいだけじゃないっ」


「だとよ、親父、こいつら連れて行くぞ」


「勝手に連れて行けといったじゃろが。好きにしろ」


お、おさ


いつの間にかバンデスが帰って来ていた。


「ドワンはここに一緒に働くドワーフをスカウトに来たんじゃ。行くなら勝手に付いて行け」


「いいのですかっ?」


「じゃから好きにしろと言ったじゃろが。但し、誰かに自分の仕事を引き継いでおけ」


はいっと二人は返事した。


「そろそろご飯にするわよ」


タバサとコックが晩御飯の準備をしてくれた。


ハンバーグとパンは大好評で、バンデスはハクションするやつ宜しくめちゃくちゃ食べていた。


夕食後にディノスレイヤ領に来るスケジュールを打ち合わせた。俺達が帰る時には引き継ぎが間に合わないので後から来ることになった。



「ゲイルよ。トロッコとやらを作ろうと思うが試作品作るのを一緒に手伝ってくれんか?」


バンデスがトロッコを作る気になったようだ。


「師匠、トロッコとはなんでしょう?」


ファムもジョージもまだいる。


「鉱石を運ぶ為の物だよ」


再びトロッコの説明をする。仕組みがあーだこーだとワイワイ言い出すドワーフ達。こういうのは皆好きなんだな。


「ぼっちゃん、何かつまみねーか?」


「何か飲むの?」


「ジョージが持ってきたエールを飲んでみようかと思ってな」


ビールのつまみか。ポップコーンにするかな?


「ポップコーンにする?」


「いや、ちょっと違うな。銀杏とかあればいいんだが・・・」


あ、大豆貰ったな。


「じゃあ育てるよ」


「銀杏をか?」


「いや枝豆」


枝豆??



土魔法でプランターを作り、そこに土を入れて大豆を植える。大豆は自家受粉するので問題無しだ。


ぐっと成長させて実が大きくなった所で収穫し、タバサに塩ゆでにして貰った。


「ゲイル、これは大豆じゃよな?」


「そうだよ。こうやって食べればエールに合うよ」


ドワンとダンがスッとジョッキを出すので炭酸強化して冷やす。


ドワンが皮まま枝豆を食べようとするので、食べ方の手本を見せる。


枝豆久しぶりだな、旨いわぁ。


ドワンとダンも同じように食べてエールを飲む。


「ぼっちゃん、これだっ。今俺が求めてたのはこれだっ!」


プチプチ ごくごく ぷはー素晴らしいコンボだろうな。


「師匠、さっきからなんかしてますか?」


「エールをより旨くしてるんだよ。ジョージもしてみる?」


ジョージのジョッキも炭酸強化して冷やす。


ごくごくっ ぷはーっ!


「旨いっ!物凄く旨いっ!」


その後バンデスもタバサもファムもジョージも俺にジョッキを出し続けた。


俺はビールサーバーじゃねぇ・・・

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