第225話 和解

がーはっはっはっはと上機嫌なバンデス。負けたのは初めてらしかった。


「あれだけ見事にやられたら笑いしか出んわ。本当に無詠唱で魔法攻撃が出来るとわな」


「親父が謝る所も負けた所も初めて見たワイ」


くっくっくっくと笑うドワン。


「ドワンよ、お前、武器作りを諦めた訳じゃなかったんじゃな。いきなり飛び出して行ったあと聞こえてくる噂は冒険者になったということだけじゃったからな」


「おやっさんは欲しいものを買うために冒険者になったと言ってたよ」


「坊主、いらんこと言うなっ!」


あら内緒だったの?


「なんじゃ欲しいものって」


ポリポリ頭を掻いたドワン


「錬金釜じゃっ!」


「何っ!錬金釜じゃと?個人で手に入れたのか?」


「ここにある奴よりずいぶんと小さいがな。それで試したい事が思う存分出来ただけじゃ」


どうやらドワーフ国には錬金釜があり、昔から決まった素材しか作らない父親に反発したドワンはここを飛び出していったみたいだ。


「ほー、自分で稼いで錬金釜を手に入れたのか」


「ちゃんと苦労して手に入れたのね。偉いわドワン」


おっかぁに誉められたドワンは真っ赤な顔して子供扱いするなと言い返していた。


「まぁ、その錬金釜も坊主にかかれば形無しじゃったがな」


「どういう意味だ?」


「見ればわかる」


そう言ったドワンは錬金釜の有るところに連れて行ってくれた。


大きな錬金釜が2つある。いつからあるか解らないがドワーフの財産だとドワンは説明した。


1つは抽出専用。片方は融合専用らしい。


抽出の錬金釜の上にはトンネルが掘られており、台車に乗せた鉱石を運んで来てガラガラとそこから放り込んでいた。


ドワンにほれと鉱石を一つ渡される。ちょうどいまミスリル鉱石の抽出をしているようだ。


「坊主、親父に見せてやれ」


ゲイルは下に受け皿を置いてボタボタボタっとミスリルを出した。


「なんじゃ今のはっ?」


「坊主はワシの錬金釜を見てあっさりとコピーしおった」


またコピーって・・・


「これを見た時にワシは愕然とした。死ぬ気で貯めた金で買った錬金釜と同じ事がこうもあっさりと出来るとはワシの人生はなんじゃったんだと思った」


それを聞いて黙るバンデスとタバサ。


「しかしな、坊主は錬金釜がワシの人生じゃない、今まで培った知識と腕こそがワシの手に入れた物じゃと言ってくれおった。・・・ワシはその言葉が嬉しかった。初めてワシという者を認めて肯定してくれたんじゃからな」


ドワンは目に涙を溜めていた。



「そうか、初めてお前を認めてくれたのはゲイルか・・・」


俺はちょっとしんみりした雰囲気が苦手だ・・・


「おやっさん、俺が初めてじゃないと思うよ。父さんも母さんもそうだし、他のパーティーメンバーもそうじゃない?おやっさんの作る武器を求める冒険者もいるじゃない。ダンもそうだし」


「坊主、ワシの言ってるのは生き方じゃ。ワシの人生のことじゃよ」


そんな風に面と向かって言われるとどう答えていいか解らないよ。


「俺もおやっさんと出会った事に感謝してるよ。いつも楽しいし、何でも作ってくれるしね」


そう言うとこつんと頭を叩かれた。



「バンデスさん、このトンネルは鉱山と直接繋がってるの?」


話を変えよう。


「そうじゃ」


「台車で鉱石運んで来るの効率悪いね。トロッコ作ればいいのに」


「トロッコ?」


この世界には鉄道はない。もちろんトロッコもだ。モーターもエンジンも無いけど人力トロッコなら作れるだろう。何せここはドワーフの国だからな。人力と言っても鉱山からここに来るまでは緩い下りになってるみたいだし、ブレーキさえしっかりしてれば問題無いだろう。


「坊主、トロッコとはなんじゃい?」


俺達はリビングに戻ってから絵に描いて説明した。


「この線路ってのを作って各鉱山に敷くのは大変だけど、一度敷いてしまえば後は楽になるよ」


「ドワン、ゲイルはいつもこんなんなのか?」


「そうじゃ。坊主が考えてワシが作る。面白いもんがザクザク出来とるぞ。ダン、そこらの従業員に声かけてワシらの荷物をここへ運び込んでくれ」


ダンはドワンに言われて馬車の所へ。


「クソ親父、ワシが古臭いと言った意味を教えてやる」


ドヤドヤと荷物を運んで来る従業員達。


「まずはこいつじゃ。誰かコップをくれ」


持ってきた蒸留酒をコップに入れてバンデスとタバサに渡す


「これは酒か?」


「いいから飲め」


二人は一気に飲む。ダンは咳き込んだけどドワーフなら大丈夫かな?


かーーーーっ!


「なんじゃこの酒はっ?これもお前らが作ったのか?」


「フッフッフッ旨かろう。こいつは今ウエストランドの王都に出回り始めたばっかりの酒じゃ。なかなか手に入らんぞ」


「どうやって作った?どれだけ持ってきてるんじゃっ!」


「ここにあるだけじゃ。今みたいな飲み方しとるとすぐに無くなるの」


持ってきた樽は10個。およそ300リットルだ。


「なぜこれだけしか持ってこんっ!あるだけ持ってこんかっ!」


「無理を言うなっ!これで精一杯じゃ。それとな、この酒と旨い飯と一緒に飲んだらそれはそれは・・・」


「おいタバサ、飯を作ってくれ。」


「おいクソ親父。母ちゃんの飯が不味いとは言わん。が、ゲイルの作る飯を食ったら腰を抜かすぞ」


「何っ!飯なんざ誰が作っても同じじゃろがっ」


「ワシの言うことを信じられんか?ゲイル、スマンがなんか酒に合う物を作ってくれ」


せっかく帰って来たんだから母親の手料理食べればいいのに。


「おやっさん、タバサさんに作って貰った方がいいんじゃないの?」


「それは後で食う。このクソ親父にギャフンと言わせてやってくれ」


ギャフンて・・・


「タバサさんごめんね」


「あら、私も誰かに作って貰う方が嬉しいわ」


蒸留酒をちびちび飲みながらニッコリ笑って答えるタバサ。確かに俺も旨い飯なら誰かに作って貰う方がいい。


「お肉は何があるの?」


「牛もオークもあるわよ」


牛一択だな。


「おやっさん、焼肉でいい?」


「おうっ!」


「ご飯は?」


「食うっ!」


「どこで食べるの?焼肉なら外の方がいいかな?」


「さっきの練習場でいいじゃろ。あそこは関係者以外おらんからな」


へいへい


タバサに厨房に案内してもらい、米を炊いていく。焼肉はどれくらい食べるんだろな?


ダンにも手伝って貰って大量の肉を切っていく。脂身多目のところがいいだろう。酒に合わせるからな。


ちと肉質が固そうなので、切り込みを入れていく。それにタレを掛けて完成と。


ご飯の土鍋をダンが、どっちゃり焼肉の大皿をタバサが持ってくれた。


練習場にテーブル付きのバーベキューコンロと椅子を作り、炭をセットして火を点ける。全て魔法だ。


炭に風を送ると真っ赤になって熱を放ち出したので、各自にご飯をよそって貰ってるうちにドワンが焼肉を網に乗せていった。


じゅーーっという音ともに肉の脂が炭に滴り落ちて煙りが肉にまとわりつく。そこにタレの香ばしい匂いが周りに漂いだした。


ごくりと唾を飲む従業員達。


「坊主、炭酸割にしてくれ」


バンデス、タバサ、ドワン、ダンのジョッキに蒸留酒、炭酸強め、氷を入れる


「さ、食って飲んで見ろ」


焼肉を頬張り、目を見開くバンデスとタバサ。そのあと炭酸割を飲んで更に目を見開く。目ん玉飛び出るぞ。


「旨ーーーーいっ!」


そっからもう一心不乱で焼き肉→炭酸割焼肉の無限コンボが続く。


俺は焼肉とご飯を楽しむ。時々炭酸水を飲んで喉を潤す。


俺をチラッと見たバンデスは初めて米に手を付ける。んふっと声を上げて肉米肉米のコンボに切り替えた。


あっという間に大量の肉と米が無くなった。


あ、あ、あーと従業員達が残念そうな声を上げた。


「もう無いのか?」


バンデスは残念そうな声で聞く。


「今用意した分はね。ベーコンでも焼く?」


なんじゃそれはと聞くので残ってたボアベーコンを全部持って来て焼いた。ドワン達もベーコン好きだからな。


それもがつがつ全部たべてしまった。




「ゲイルよ、ここに住め。この町はお前にぴったりだ」


それも楽しそうだけどね。


「楽しそうだけど、まだ領でやりかけのことたくさんあるからね」


何をやってる?と聞かれて色々と答えた。


「手広くやってるな。金儲けが好きなのか?」


「お金はあっても困らないけど、目的じゃないね」


「ほう、何が目的じゃ?」


「いつでも美味しい物があって、それを一緒に旨いと言いながら食べることかな?こんな風にね」


「あれだけの能力と知識があって飯が目的じゃと?がーはっはっはっはっ。そいつは傑作じゃ。旨かったぞゲイル、酒も飯も」


それからも、がーはっはっはっはと大笑いを続けたバンデスであった。



その晩、バンデスの家に泊まりゆっくりと眠る事が出来た。



「ドワンよ、すまなかったな。ワシはお前の事を何にも解っちゃいなかったようじゃ」


「何言ってんだクソ親父。気持ちが悪い。歳食って気持ちが弱ったんじゃないのか?」


「ふんっお前の口の悪さは変わらんの。お前が飛び出し出ていった時、てっきりワシはお前がここでの生活に嫌気が差して逃げだしたもんじゃとばかり思っておった」


「ワシも何も言わず出て行ったからな」


「あの時、タバサは泣きじゃくってたんじゃぞ。その後、しばらくしてミゲルも出て行きよるし」


「母ちゃんにはその内謝っておく。」


「ここへ戻ってくるのか?」


「今の所そのつもりはしとらん。坊主が考える物を色々と作らにゃならんからな」


「そうか。あのゲイルは面白い奴じゃの。一目見て鉱山からの運搬の効率を考えおった。何者じゃやつは?」


「ただの面白い子供じゃよ。生意気じゃが良い子じゃ。いつも誰かの事を考えておる。自分の努力も惜しまんし、あれだけの力を持ちながら傲ることも人を見下す事もない。いつぞやあいつの兄弟がワシらドワーフを亜人と馬鹿にしたことがあっての。あぁいつもの事かと思ったが、ゲイルが泣きながら怒って兄貴をぶちのめしたんじゃ。嬉しかったワイ」


「そうか。人間にもそういうヤツがおるんじゃな」


「アーノルドとその嫁のアイナもワシらを馬鹿にすることもないがの。それどころかヤツが治める領の奴らもワシらに対する差別とかはまったくない。いい所じゃ」


「そうか、いい出会いをしたんじゃな」


「あぁ」


「今回戻ってきた理由はなんじゃ?酒を売り付けに来た訳でもあるまい」


「目的は2つじゃ。一つ目はワシの所に来てくれる奴のスカウトじゃ。坊主が考えた物を実現するには職人が足りなさすぎる」


「この町の奴らを連れて行くのか?」


「その許可を親父に貰いに来た。来たい奴らが居ればの話じゃかな」


「そんな物好きが居れば勝手に連れて行け。あと一つはなんじゃ?」


「坊主・・・、ゲイルを親父に会わせたかったんじゃ。あいつはきっとこの世界を良いように変えるというより発展をさせる。しかしそれには周りの協力が必要じゃ。すでに坊主の能力に目を付けたやつも出てきておる。しかしドワーフならゲイルを利用しようとかせんじゃろ?だからこそワシはゲイルを皆に知ってもらいたかったんじゃ」


「なるほどのぅ。ずいぶんとあの子供に入れ込んだもんじゃの。そこまで凄いのか?」


「凄いとかそんなんじゃねぇな。ただ楽しくなるだけじゃ。親父もあんなに笑ったの初めてじゃろ?」


「そうじゃな。心の底から笑ったのは初めてじゃ。ここにいる間にどれだけ笑わしてくれるか楽しみじゃな」


「しばらくここにいるから楽しみにしておけ。だからドワーフをゲイルの味方にしてやってくれ」


「フンッ、この手紙を読んでみろ」


「王の手紙か、何て書いてあったんじゃ?」


「自分で読め」


手紙にはゲイルが人間とドワーフとの架け橋になるであろうこと。近いうちにエルフとも架け橋になるであろうこと。


ドワーフの国を国と認め、正式な国交を結ぶ事を望むと記載された手紙であった。


呼び名こそドワーフの国やドワーフ王国と言われているが正式に国と認めている大国はまだ無い。


「どうすんだ親父?」


「ワシらは国であろうが無かろうがどっちでもいいが、ゲイルが架け橋になると言うことは賛成じゃ。しかしエルフとの架け橋とはどういうことじゃ?」


「エルフの里のグリムナというヤツが居てな、そいつの娘がハーフエルフでゲイルと仲が良い。ゲイルはその父親を探しに来年エルフの里を探しに出る」


「エルフの里を?見つからんじゃろ?」


「ゲイルなら見つけるじゃろ。王もそれを確信しておるから手紙にそう書いたんじゃ」


「父親探しにはなぜゲイルが行くんじゃ?」


「理由は2つある。純粋にハーフエルフの娘の父親を探して会わせてやりたいというゲイルの優しさじゃ。もう一つはこれじゃ」


ことっと魔銃をバンデスに見せる。


「なんじゃこれは?」


「親父、これを聞いたら後戻りできんぞ。それでも聞くか?」



バンデスはごくっと唾を飲んで頷いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る