第224話 バンデス
ひーひっひっひっひ
「いい加減に笑い止めいっ!」
はぁはぁはぁはぁ
「いやごめんごめん。まさかおやっさんがお、お、王子さ、さ、様だなんて」
ひっひっひ
「ったく坊主は・・・。ワシは王子ではないぞ。ドワーフ王国とか呼ばれたりもするが、ここは正式な国ではないと前に言ったじゃろが。単にドワーフが多く住み着いた場所じゃ」
「小僧、ドワンの言う通りじゃ。ワシは王などではない。
おしい、ハーデスなら冥界の王だったのに。
「あー、お腹痛い。笑ってごめんなさい。おやっさんのイメージとあまりにも合わなくてね。俺の知ってるおやっさんはいかにも職人だからね」
「ドワンが職人?」
「そうだよ。おやっさんが作る武器や防具は天下一品だよ。他にも色々と作ってくれるし。馬車とか見た?」
「いや、それよりもこいつが作る武器が天下一品だと?何を戯けた事を言っておるんじゃ?こいつは何も作れなくてここを飛び出していったんじゃぞ?」
「そうなの?でもこれもおやっさんがくれたやつだよ」
俺は背中の魔剣を鞘ごとバンデスに渡した。
それをバンデスはスッと抜き剣を眺める。
「フンッ、見てくれだけはよく出来とるの」
「斬れ味も凄いよ。魔物とか手応えなく斬れるし」
「お前、戦いの時にドワンが居ると安心とか言っておったな。その歳で戦えるのか?」
「実戦経験はほとんどないけどね。剣の稽古はダンに付けて貰ってる」
チラッとバンデスがダンを見るとペコっと頭を下げた。
「お前が天下一品とふざけた事を抜かすなら試してやろう。こっちへ来いっ」
俺達は裏の広場に連れて行かれた。
「おい、お前が作った防具を身に付けてこい」
バンデスは従業員らしき人に防具を付けてこいと命令した。
「小僧、お前がコイツを天下一品と抜かすなら証明して見せろ」
立ち合いか、この世界の人は好きだねぇ・・・
俺はドワンとダンをチラッと見ると二人とも頷いた。
ドワーフの従業員ってどれくらい強いんだろ?ドワンより強いって事はないだろうけど。
防具を付けて従業員がやって来た
「今からこいつと戦え。真剣勝負じゃ」
えっ?と驚く従業員。
「お、長、こんな子供にそんな無茶を・・・」
「ドワンよ、問題ないんじゃろ?」
「坊主、手加減してやってくれ。魔法攻撃は無しじゃ」
手加減と言われてカチンときた従業員。
「ドワンさん、あまり舐めてもらっちゃ困りますよ。これでも俺はここで一番強いんですよ」
「はんっ、相手の実力も量れん癖に偉そうな口を叩きよる。坊主、こいつに奇策とかいらんからな。正面から斬ってやれ。お前も遠慮するな。坊主は治癒魔法の腕輪を身に付けとるから斬られても死にはせん。ダンで実証済みだ。後で言い訳するなよ」
「言い訳なんてする訳ないでしょ。小僧悪いな、相手が誰であれ試合は試合だ。手は抜かんぞ」
「俺は手を抜くけどね」
「何をっ!チビの癖に生意気な口を叩きやがる」
「おやっさんから魔法攻撃無しって言われたからね。剣だけでやってあげるよ」
ぐぬぬぬぬ
ドワーフってチョロいよなぁ。そんなカッカしたら隙だらけになるぞ。
「ごちゃごちゃしゃべっとらんで早く向き合わんかっ!」
バンデスに怒鳴られ、俺達は互いに向きあった。ドワーフの従業員もやっぱり小柄だ。俺の剣でも届くだろう。
「始めっ!」
ゲイルは相手がどれくらいの腕か確かめる為に様子を見る。
「どりゃっ!」
上段から力任せに振って来た。様子を見て いる時にこんな単純な攻撃をされても余裕で躱せる。それとも連擊あるかな?
「だーっ、とーっ」
あー、もう見る必要ないな。
ゲイルはスッと胸元に飛び込んで防具を上段から斬って、返す刀で顎の前で剣を止めた。
「勝者ゲイルっ!」
「なっ・・・」
あっさり負けた従業員は信じられない様子だった。
「ま、負けた? それに俺の作った防具が簡単に斬れて・・・」
「おやっさんの言う通りだね。なんの手応えも無く斬れる防具だったよ。素材が古いんじゃない?」
「嘘を言うなっ!これは最新の素材を使った防具だぞっ!」
「見苦しいぞっ!こんな子供にあっさり負けよってからにっ!」
そういった後、俺の魔剣を貸せとバンデスが言うので渡す。バンデスは従業員の防具を脱がせ、その防具を魔剣で斬った。
ガッという音と共に防具は斬れる。
「小僧、見事だ。非礼を詫びる」
「ね、おやっさんの武器は天下一品だったでしょ?」
「あぁ、しかし剣だけじゃない。お前の剣筋は素晴らしかったぞ。稽古を付けたのはダンとか言ったな。お前は騎士か?」
「ただの冒険者ですよ。元ですけどね」
(冒険者・・・?しかしあの剣筋は・・・、動きは冒険者のものだったが・・・)
「ゲイル、ワシと立ち合え。さっき手を抜いたとか言っておったな。手加減無用でワシに掛かってこい」
俺の事を小僧から名前呼びに変わったバンデスが立ち合えと言う。
ドワンをチラッと見る。
「坊主、遠慮はいらん」
「バンデスさん、手加減抜きって魔法で攻撃をして来いということ?」
「なんでもいいワイ。お前の実力を見せろ」
大丈夫かな?
バンデスと向き合うとすげぇ迫力だ。ハンマーを持った姿がめっちゃ大きく見える。蛇討伐と修行が無かったら足が震えて動けなくなってただろうな。
「始めっ!」
ドワンが開始の合図をした。
ハンマーを振り上げるバンデス。あのクソ重そうなハンマーのくせに速いっ!
土魔法で壁を作ったら一撃で粉砕された。凄いパワーだ。ドワンの父親を火で焼くのも気が引けるので土魔法だけで闘う事にする。突進してくるバンデスの足元にちょこんと出っ張りを出すと躓いてバランスを崩したところに後頭部へガガガガッと土の弾を撃ち込む。
ドサッと倒れ込むバンデスは顔だけ上げて鬼の形相を浮かべて俺を睨む。
ひっ!おっかねぇ・・・
顔目掛けて土の弾をビチビチビチと左右から撃ち込むとみるみるうちに顔が腫れ上がって更に怖くなる。
「や、止めっ・・・」
ビチビチビチビチビチビチ
ドワンが終了の合図をしないのでゲイルも魔法を止めない。
ビチビチビチビチビチビチ
あ、動かなくなった・・・
「勝者ゲイル!」
くっくっくっくと笑いながらドワンは終了宣言をした。
「相変わらずえげつない攻撃をしやがるぜぼっちゃんは・・・」
見ていた従業員がザワザワとしている。
ぐったりして倒れこんだバンデスに治癒魔法を掛けると意識を取り戻して立ち上がり、そのままグワッと顔を近付けてきた。
わっ!殴られるっ!もう一度土魔法を撃とうとしたら、そのままガバッと持ち上げられた。
「見事だゲイル!」
がーはっはっはっはと笑いながら俺を高い高いするように振り回されたのだった。
酔うからやめて・・・
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