第223話 ドワーフの親父

トンネルを抜けた。


「わぁ、ここがドワーフの国かぁ」


トンネルから出た所は山の中腹のようでドワーフの国が一望出来る。そこは険しい山々に囲まれて盆地のようになっており、山の裾野や山肌からいくつもの煙が立ち上ぼっている。


中央は平地になっており規則正しい碁盤の目のように道が広がっているのが見えた。



「おやっさん、すげぇな。ドワーフだらけだ」


「当たり前じゃ」


ガチムチ親父がそこらじゅうにいる。女性も小柄だがガチムチではなさそうだ。


下まで降りてきたダンがキョロキョロしてドワーフばかりだなと言ったらおやっさんは呆れたように答えていた。


変わった馬車だというのに誰も気にも止めない。ひそひそ声が聞こえてくるうちの領とはえらい違いだ。


馬車を進め町の中央を通りすぎて山の麓にある大きな建物というか山と一体化したような建物に到着した。


「ワシの家じゃ」


すんげぇ立派だ。


近くにいたドワーフ達がザワザワしだす。


「ドワンさん、ドワンさんがお戻りになったぞーー!」


1人が声をあげるとわらわら中からドワーフが出てくる。


「お、おおおおお帰りなさいませ。ドワンさん」


おぅっ、と声を出して手をあげるドワン。



馬車と馬を預けて中に入る。


周りにいるドワーフ達が騒がしくバタバタしていた。


「なんの騒ぎじゃっ!」


ドワンより一回り大きくいかついドワーフが出て来て周りのドワーフ達を一喝した。


うわっ、ドワンより数倍おっかねぇ


「なんじゃいっ!コイツら・・・ん?」


俺達をギヌロっと睨み付けて止まった。


「クソ親父、顔見に来てやったワイ」


フンッと横を向きながらドワンが挨拶した。


これがドワンのお父さんか。めちゃくちゃ迫力あるな。それに偏屈そうだ・・・。間違い無く親子だな。


「誰じゃったかな。知らんなお前みたいなやつ」


フンッと顔を横向けて答える。


あぁ、そっくりだ・・・


「ちっ!このクソ親父・・・。だから帰って来たくなかったんじゃ」


ボソッとドワンが呟いた。


「親に向かって舌打ちするとはなんじゃっ!」


「ワシのこと知らん奴と言ったじゃろがっ!父親づらすんじゃねぇっ!」


「なんじゃとーーーっ!」


ゴスッ!


ドワンを殴り飛ばす親父。


「何するんじゃこのクソ親父ーーーっ!」


ガッ


殴り返すドワン。


このやろうとやり返す親父、応戦するドワン。


あーあーあー、いきなり想像通りじゃないか。


ダンが俺をさっと抱き抱えて後ろに後退する。


ドワンと親父の壮絶な殴り合いでもうめちゃくちゃだ。



「あらあらあら、ドワンが帰ってきたのね」


恰幅の良い、いかにもオバサンという感じの女性ドワーフが奥から出てきた。ちっちゃくてコロンとしている。


「あら?あなた達は?」


俺達を見付けて話し掛けてくる。


「ドワンのおやっさんに世話になってます。一緒に来ましたダンです」


「あらそうなの?この僕はドワンの子供なのかしらっ?」


とても嬉しそうに俺をドワンの子供かと聞く?俺もドワーフに見えるのだろうか?


「子供みたいに可愛がってもらってますけど違いますよ。ゲイルと言います」


「あら、残念。孫かと思っちゃったわ。いきなり子供を連れて帰ってくるんだもの。あ、ドワンの母のタバサよ」


「初めましてタバサさん。ドワンのおやっさんにはいつも大変お世話になっています。この度は突然お邪魔してごめんなさい」


「あらー、小さいのに凄いわねぇ。今いくつ?」


「4歳になりました」


「どこから来たの?」


「ウエストランド王国のディノスレイヤ領から来ました。」


「まぁ随分と遠い所から来てくれたのね。これだけしっかりしてるならドワンの子供じゃないのは確かね」


がっはっはっは。


あ、ドワンと同じ笑い方だ・・・


「さぁさ、中に入って頂戴。ドワンの話でも聞かせてくれるかしら?」


ドワンの母親タバサ。あちらで壮絶な親子喧嘩しているのをまるで気にしていない。肝っ玉母さんだな。


「あなた達、先に中に入ってるわよ」


二人を止めることなく俺達を家の中に案内してくれた。


ほぼ山をくりぬいたような家は中も石造りだ。周りの険しい山々はあまり木が生えていなかったから木材は貴重なのかもしれない。しかし石の椅子はお尻がちべたい・・・


「本当に遠い所からよく来てくれたわね。はいどうぞ」


ブドウジュースの入ったジョッキをドンっと出してくれる。


「ありがとうタバサさん。いただきまーす」


ゴクッっ ブッ


赤ワインじゃねーか・・・


「あら大丈夫?喉に入っちゃったかしら?」


布で口をゴシゴシ吹いてくれる。

痛い痛い痛い・・・


「わ、ワインとは思わなくて・・・」


「タバサさん、ぼっちゃんは酒飲んだことねぇんだ」


ワインが水代わりに出てくるのか・・・文化が違い過ぎる・・・


「あらそうなの?珍しいわね。じゃあこれの方がいいかしら?」


なんとなく甘くて香ばしいような匂いのお茶らしきものを淹れてくれる。


俺はアルコールでないことを確かめながら飲んだ。あ、これ・・・


「これとうもろこしのヒゲ茶?」


「あらよく知ってるわね。最近牛の餌に良いからって育てる作物の先を煮出してあるのよ」


「とうもろこしの実は食べないの?」


「あんなの餌よ。私達は食べないわよ」


あんなもん食うか!ドワーフ舐めんなみたいな感じで返事をされた。


元の世界のとうもろこしは非常に甘い。生で食べられるやつはフルーツ並だからな。しかし、餌としてしか認識されてないなら、原種でそれほど甘くないのかもしれない。あとで見せて貰おう。



「クソ親父が本気で殴りやがって」


「親に手をあげるたぁ、この親不幸もんがっ!」


「何をっ!」


お互いに胸元をつかんで睨み合いながらこっちに来た。


「やるなら外に行きなさい。ここでやったら承知しないわよっ!」


ビタッと止まる二人。


女は弱し、されど母は強し。どこの世界でも家庭でも同じだな。


あーあー、二人ともズタボロで口から血出てるじゃん。


俺が二人に治癒魔法をかけるとドワンが俺に向かってスマンと謝る。おっ!?と驚くドワンの親父。


「ゲイルに礼ぐらい言えっ」


「ゲイル?」


チラッとダンの方を見る親父。


「初めまして。ゲイルです。ドワーフの国が見たくておやっさんの里帰りに付いて来ました。突然お邪魔してすいません」


は?という顔をする親父。


「初めましてダンと言います。ぼっちゃんの護衛です。ドワンのおやっさんには世話になってます」


ダンが挨拶をすると俺とダンをキョロキョロと見比べる


「ドワン、ゲイルというのはこの小僧か?」


「そうだ、今傷を治してもらっただろ。礼ぐらい言えっ」


俺に顔をグッと近付けてくる親父。


「今のはお前がやったのか?」


「余計なお世話だった・・かな?」


近い近い近いっ!顔が近いぞっ!


「どうやったんじゃ?」


「治癒魔法掛けただけ・・・」


「治癒魔法じゃと?この小僧が?それに詠唱はどうした?」


だから近いって!


「詠唱は知らないよ・・・」


ちゅーされそうな距離まで顔が近いので横を向いて答える。


「ドワン、どういうこった?」


やっと離れてくれた。


ドワンは俺の事を色々と話した。


「あらゆる魔法を使えるじゃと?そんな訳があるわけなかろうが、いつからお前はそんな嘘を吐くようになったんじゃ!このたわけがっ!」


ドワンの話を全く信じない親父。


「誰が嘘つきじゃっ!まぁ信じんでもいいワイ」


「それで何しに帰ってきたんじゃ?どうせろくな武器も作れんお前のことじゃ。飛び出したは良いが上手くいかず逃げ帰ってきたんじゃろ。こんな人間まで連れて来おって」


あまり歓迎はされてないようだな。人間嫌いなのかもしれない。しかし、ドワンがろくな武器を作れないというのはどういうことだ?


「はんっ!こんな古臭い武器しか作れん所に誰が帰ってくるかっ!」


「古臭いじゃとっ!」


がっしゃーーんっとテーブルをひっくり返して怒る親父。


「古臭い物を古臭いと言って何が悪いっ!ワシがおったころと何も変わっとらんじゃろがっ!親父が古臭いから何も進化せんのじゃっ!」


あー、また取っ組み合いだよ。売り言葉に買い言葉ってやつだな。


ごーーーーんっ


「いい加減におしっ!ここではやるなって言っただろうがっ!」


親父とドワンをハンマーで殴るタバサ。死ぬよそれ。


おちちちっ、と殴られた頭をなでる二人。平気そうなので治癒魔法はかけないでおく。その方が大人しくてよい。


「お前さんは何言ってんだいっ!せっかく来てくれたお客さんに失礼だろっ!ドワンもドワンだっ!古臭いとはなんだいっ!言って良い事と悪い事くらいわからんのかいっ!」


怒鳴りつけられた二人はしゅんとして謝った。


タバサこぇぇぇ。


「僕、ごめんよ。この二人はいつもこうでね。悪気は無いんだ。許してやっておくれ」


「気にしていないよ。ドワーフって口は悪いけどいい人なのは知ってるから。あと酒好きなのも」


ニコッと笑って答えた。


「小僧、お前はドワーフをどう思っとるんじゃ?」


「おやっさんと親方、あ、ミゲルの親方ね。二人しか知らないけど、いつも本当によくしてもらってる。特におやっさんには色々とお願いすることも多いし、戦いの時に居てくれると安心感がぜんぜん違うんだ。わがままで偏屈だけど、一緒に居ると楽しいよ」


「ミゲル?ミゲルも一緒にいるのか?」


「初めはおやっさんと兄弟って知らなかったんだけどね。途中で分かっていまうちの領に住んでるよ」


「うちの領?」


「坊主はアーノルドの三男坊だ」


「アーノルドってお前と一緒にディノを倒した冒険者か?」


「そうだ。あいつは拝領してディノスレイヤ領の領主をやっとる」


「ほう。それでその息子を連れて来たわけか。権力にぶら下がるとはのぅ」


「こっのクソ親・・・」


ごーーーーんっ!


タバサハンマー炸裂


(まだ暴れとらんじゃろが・・・)


と、親父はボソッと呟く。



「坊主はな、種族がどうとか身分がどうとか気にしとらん。領主の息子じゃがコックやメイドと一緒に飯も食うし遊びにも行く。王様ですらジジイ呼ばわりしとるワイ」


がっはっはっはと笑うドワン。


「ウエストランドの王をジジイ呼ばわり?」


「ほうじゃ。その王の息子から手紙を預かっておる」


ドワンがエイブリックから渡された手紙を親父に渡す。あれ?ドワーフ王に渡す手紙だよね?


蝋で封をしてある手紙をガッと破いて読み始めた。


・・・

・・・・

・・・・・


「小僧が王と繋がりがあるのは本当のようじゃの」


何が書いてあるんだろう?しかし、あの手紙を読んだと言うことは、ドワンの親父がドワーフ王。ということはドワンは王子様と言うことだ。


ドワンが王子?あの毛むくじゃらのガチムチ親父が王子様?


ゲイルは白馬に跨がったヒラヒラの襟の貴族服姿を想像する。ゲイルの想像する王子像は古い。


ホワンホワンホワン


白馬に股がるヒラヒラ襟のドワン


くっくっくっく・・・ ダメだ耐えられん


「ぶーーっ!わーはっはっはっは」


いきなり大声で笑い出すゲイル。


「なんじゃいっ!坊主。いきなり笑い声しおってからに」


「お、おやっさんて王子様だったの?おやっさんが王子・・・」


だーはっはっはっは!


ゲイルの腹筋崩壊。


「は、は、白馬にま、また また 跨がってたりする?」


だーはっはっはっは!


それを聞いたダンも吹き出した。


「ええぇいっ!何がおかしいんじゃっ!」


「酔い潰れて朝まで水風呂に浸かってたのに王子?」


だーはっはっはっは!


「銀杏食べ過ぎてお腹痛くなってた王子?」


だーはっはっはっは!


「う、う、うるさいっ!余計な事を言うなっ!」


「だってだって」


だーはっはっはっは!



しばらく俺の笑いのスイッチは押されたままだった。

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