第221話 臭い肉

「おいおいおい、あんたらすげぇな。なんだあの魔法はっ!ワイバーンが一発じゃねーか」


やっぱり見られてたか・・・


「お前には関係ない」と素っ気なく答えるドワンにその冒険者は褒め続ける。


だんだんとドワンの鼻がぴくぴく動き、がーはっはっはっと笑い始めた。


ほんとチョロいよなぁ。今から馬車出しても休息ポイントで毎回追い付かれるだろうから無駄だな。このままドワーフ国まで一緒の旅になるだろう。


冒険者達は銀の匙という6人パーティーだった。食いっぱぐれが無いようにと付けたのだろうか?


話し掛けてきた男はジャックというらしい。剣士2人、盾役1人、斥候1人、治癒士1人、魔法使い1人のバランスが取れたパーティーだ。東の辺境伯領都を拠点にして護衛任務、特にドワーフ国への護衛が多いらしい。どうりで空荷とは言えドワンの運転に付いて来れたわけだ。勝手知ったる道なんだな。


【銀の匙メンバー】

剣士、ジャック(リーダー)

剣士、ザジ

盾、 ゴン

斥候、ミサ(女性)

治癒士、シリア(女性)

魔法使い、ルーラ(女性)


ジャックはダンと同じくらいの年齢かな?ドワンと同じく褒められまくったダンも何時の間にやらジャックやザジと話をし始めていた。


俺は商会のボンボンでドワンの里帰りに無理矢理付いて来た事にしてある。ダンはそのまま護衛だ。


ジャック達の雇い主はこちらを警戒しているのか話し掛けては来ない。銀の匙は東の辺境伯領都を拠点としていると言っていたから、領の武器調達なのだろうか?あまり探られたくないのかもしれない。


ふとジャック達の馬を見るとシルバー達の為に生やした牧草をがつがつ食っていた。あー、シルバー達の朝飯用に沢山生やしておいたのに。と言っても馬に罪はないし、この辺りに食べられそうな草は生えていない。生の牧草に飢えてたのだろう。


ジャック達もあれ?こんな所に牧草生えてたか?と不思議そうだった。


「ワイバーンがこの道で獲物を捕れる事を覚えちまって、どうしようかと思ってたんだよ。他の魔物ならいざ知らず、ワイバーンは俺達では狩れないからな。それを二人の魔法で仕留めるとは恐れいったぜ」


俺が仕留めたワイバーンは見ておらず、崖の下にいた奴だけだと思っているらしい。そこは助かったな。


「二人は魔法使いなのか?それにしちゃ剣士とかにしか見えんが・・・」


本来の武器はダンが大剣、ドワンがハンマーだ。しかしこの旅では二人とも剣を武器にしている。御者をやるには剣の方が向いているからな。


「冒険者ってのは余計な詮索をしないってのが暗黙のルールじゃなかったか?」


ダンがそう答える。


「あぁ、悪い。そうだな。つい興奮しちまった。すまん」


素直に謝るジャック。


「ぼっちゃんはワイバーンに襲われて恐くなかったの?」


治癒士のシリアが聞いてくる。どことなくアイナに似た雰囲気がする。可愛くておしとやかに見えるがスキル怪力とか持ってるかもしれんから油断は禁物だ。しかし純粋に子供扱いされるのは久しぶりだな。


「ダンもドワンも強いからね。何も心配してないよ」


ちょっと子供のふりをして答えるとダンがクックックッと笑いやがった。魔力吸ってやろうか?


「ドワンさん達よ、飯どうすんだ?ここから少し行った所に獲物を狩れる場所があるんだ。ワイバーンに足止めされて食糧が怪しくなっててな。良かったら獲物を分けるからここで俺達の代わりに見ててくんねーか?」


食べ物はあるけど生肉はもう無い。ドワンはどう答えるんだろ?


「構わんぞ。ワシらもそこで狩るつもりじゃったからの。お前さんらが行くならそれで構わん」


ドワンがそう答えると、じゃ頼んだとジャックとザジが狩りに行き、残りはここで待機となった。


盾役のゴンが周りを警戒し、それぞれで竈とかを石で組んだ。俺が作ったら一発なんだけどね。



日が暮れても二人は帰って来ない。お腹空いたな・・・。商人もいれたらそこそこの人数になるからうちの食料は出したくない。パンも出すには量が足りない。自分達が食べる分しかパン種を作ってないのだ。米も有り余ってるわけでもないし・・・


取りあえず鹿ジャーキーとジャガイモのスープを作る。向こうも干肉でスープを作っているようだ。宿屋とかで食べるあれだ。


スープが煮込み終わった頃にようやく二人が獲物を持って帰ってきた。



オーク・・・。二足歩行の豚。食べたことはある。豚肉と変わらないか旨いくらいだ。でもなぁ・・・


「なかなかの大物じゃの」


「狩ったは良いけど重くてよぉ時間かかっちまった」


薄暗いなかズルズルと死体を引きずってきた二人。


そう獲物ではなく死体だ。解体ではなく解剖だ


水は貴重なので肉も血まみれ・・・


内臓や頭を崖の下に捨てて肉の塊になって初めて食べ物と認識出来た。


「なんだよ僕、解体見るの初めてかよっ?青い顔しやがって」


斥候のミサが俺をからかってくる。オークの解剖は2回目だ。昔アイナがグーパンで倒した時以来だな。


「解剖は初めてじゃないよ」


「解剖?」


いやこっちの話。


「じゃ、これくらいの量でいいか?」


思ったより沢山の量をくれようとするが、俺の様子を見ていたダンは今日の晩食べる分だけでいいと断った。


え?と驚くジャック。


「俺達はここで待ってただけだからな。今日の分貰えただけでいい」


「いやワイバーンも討伐して貰って・・・」


「あれはお前さんらがおらんでもやったことじゃ」


「いやでも・・・」


「ワシらは他にも食糧があるから心配いらん」


いや心配とかじゃなくと言いかけたがそのまま引き下がり、その後はお互いに別れて食事を取る。


「ぼっちゃん、このオーク食えそうか?」


血抜きが甘い上にほとんど洗ってないからなぁ。


「あー、無理かも。血の臭いがどうもね・・・」


「だろうな。他に肉無いけどどうする?」


「ジャガイモを焼いて食べるよ。バターがあるからそれで」


俺はジャガイモを2つ土の壺に入れて火の中に入れた。


「修行でフラフラの時も毎回水で洗ってたもんな」


「せっかく食べるなら美味しく食べたいじゃない?血の臭いやケモノ臭いのってどうしてもダメなんだよね。肝とか平気だから自分でも不思議なんだけど」


ダン達はオークの塩焼きを炙って食べていた。焼けてる匂いは良いけど、口に入れたとたんにケモノ臭い味が広がるだろう。もしそれがなければダンが勧めてくるはずだ。


しばらくするとジャガイモの焼けた匂いがしてくる。


ダンが木で壺を火から出してくれ、素手でジャガイモを熱々ッと言いながら取り出して皿に乗せてくれた。


フォークで十字に切り込みを入れてバターを乗せて塩を振る。


じゃがバター旨ぇ。


ホフホフしながら食べてるとダンとドワンがジーッと見ている


「まだジャガイモあるよ」


俺がそういうと壺にぎちぎちにジャガイモを詰めて火に放り込んだ。


「ぼっちゃんが食ってると旨そうに見えるんだよなぁ」


ダンがそういうとドワンも頷く。あんたらしこたまオーク食ったじゃん。


しばらくしてジャガイモが焼け、二人はバター乗せてがっついて食べていた。


「明日からもずっと一緒なのかな?」


「いや明日は次のポイントを飛ばして次のところまでいく。やつらは付いてこんじゃろ」


「なんで?」


「雇い主は俺達と一緒にいたくないんじゃないか?一度も話し掛けてこねぇしな」


「あれって東の辺境伯の人かな?」


「恐らくな。素性を探られたくないんじゃろ。次のポイントで夜営したら嫌でも一緒になるからな。じゃから飛ばして進めばもう一緒になることはない」


明日も今日と同じスピードで飛ばすのか・・・・


無事に済むといいなぁ。

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