第220話 冒険者とワイバーン
「実は俺達は・・・」
あー、こいつら聞いてもいないのに語りだしちゃったよ・・・
盗賊もどきの話によると、どうやら不作が続いて税を払えなくなって来ているらしい。うちの領はガンガン農地が広がってるし不作でもない。少し離れると状況が違うのかも知れないな。それに同じ土地で同じ物を作り続けているみたいだから連作障害が出ているのだろう。年々不作になってるらしいからな。それでこの村人達はにっちもさっちも行かなくなって初めて盗賊の真似事をしたらしい。
「本当に初めてなんだよね?」
コクコクコクコクと高速で頷く村人達。まぁ、盗賊とは言え初犯で未遂だからなぁ。
「じゃあもう帰ってもいいよ。二度と盗賊なんてするんじゃないよ」
ドワンに坊主は甘いのぅと言われたがこんな人達を殺すのも後味が悪い。
帰っていいよと言われたら、またぼろぼろと泣き出す村人達。
「俺達はこれからどうすれば・・・」
よく見ると村人達は結構ガリガリだ。冬を越すのに精一杯だったのかもしれない。今年も不作だろうから次の冬は越せないかもしれないな。村には女子供合わせて100名くらいいるらしいし。
「おやっさん、生活出来ないような村からも税って取るものなの?不作が続いたりしたら領主から支援とか入らないのかな?」
「領主の考え方一つじゃな。重要と思えば支援が入るじゃろうし、そうでなければ放置じゃ。税の取れん村の扱いなんてそんなもんじゃ。この先はドワーフ国しかないから他国からの防衛拠点でもないからの」
何もしないのに税だけ取られるのか。たまったもんじゃないな。
「村捨てて他に行くつもりはある?」
へ?という顔をする盗賊もどき改め村人達
「ちょっと遠いけど、王都から西に行った所にディノスレイヤ領というのがあってね、そこは人手不足なんだ。農家でも畜産でも大工でも何でも仕事がある。食いっぱぐれる事はないと思うよ」
「ディノスレイヤ領? そ、そこは冒険者の町なんじゃ・・・?」
あ、知ってる人が居た。
「そうだね、冒険者も多いよ。冒険者になりたければ冒険者育成学校も無料で入れる。店も増えてるから出来ることがなんなりとあるよ。税も安いから生活出来なくて鉱山送りとかもないしね」
「そ、そんな所があるなんて・・・」
「徒歩だと1ヶ月くらい掛かると思うけど、このまま鉱山送りになるか飢えて死ぬよりかはいいかもよ」
村に戻ってみなと相談しますと頭を下げて帰っていった。
「ぼっちゃん、村人全員が徒歩で移動してディノスレイヤ領に行けると思うか?老人や女子供もいるんだぜ?」
「無理かもしれないね。でも話を聞いてると次の冬を越せないと思うよ。年々不作になってると言ってたでしょ?間違いなく今年はもっと不作になるからね」
「何でだ?」
「連作障害って言ってね、同じ場所で同じ物を作り続けてると作物が育たなくなるんだ。うちの領はガンガン農地が広がってるからそんなのまだ出てないけど、そのうちに出だすよ」
「それは指導してやらないのか?」
「言っても誰も信じないでしょ?連作障害が出てからでもいいよ。米とか連作障害が出ないものもあるし、全部の農作物に出る訳じゃないから。この事は今の村人に教えても今から他の土地開発してとか間に合わないから教えても無駄だしね」
「なるほどなぁ。村で死ぬのを待つか一か八かで移動するかか」
「そういうこと。可哀想だけど他領の村まで全部なんとかしてあげることも出来ないからね。自分達でなんとかしてもらわないと。うちの領地に出来る場所なら他にやりようもあるんだけど、さすがにここは遠すぎるし、既に他の領主がいるならそもそも無理だしね」
「村人が全員ディノスレイヤ領に来たらここの領主と揉めるんじゃねーか?」
「税だけ取って何もしない領主なんだから仕方がないよ。村人がそんな領主を捨てるのは当たり前。一揆を起こさないだけマシだと思ってもらわないと。もしここの領主と揉めたらそれは父さんの仕事。俺はディノスレイヤ領は食いっぱぐれが無いよと教えただけだから」
「坊主の言う通りじゃな。後はアーノルドに任せておけ。それより飯じゃ。カレーで良いぞ」
カレーで良いぞって、移動中さんざんカレー味の鹿ジャーキー食ってるよね?
カレー味じゃない方のジャーキー全部が残ってるのでそれを使ってスープカレーにして食べた。さて、この先からずっと山合の道が続くみたいだけど、獲物いるかな?
翌朝出発だが、山を切り取ったような道だ。崖から落ちたら終わりだなと思いながら先に進んでいく。時々ゴブリンやらコボルトとか出てくるけどどっから沸いてくるんだろ?
ダンやドワンが魔物を斬って崖に蹴り落としていく。俺も時々暇潰しに土魔法で撃ってやっつける。シューティングゲームみたいでちょっと楽しい。
今夜の夜営地点に到着すると先客の馬車が数台停まっていた。
「なんかあったのか?こんなに馬車が溜まっとるとは珍しい」
俺達の馬車を見てビクッとする他の護衛や商人達。なんじゃいとドワンに凄まれて目を反らした。
ダンが聞いて来たところ、この先でワイバーンに襲われた馬車がいて、まだそのワイバーンがウロウロと飛んでいるらしい。一番長くここに留まってる馬車は一週間くらい待機しているようだった。
「おやっさん、明日からどうする?」
人が大勢いるので凝った料理は作らず、ジャーキーと根菜だけのスープをすすりながら明日からの相談をしていた。
「まぁ、こいつがあるから平気じゃろ」
ドワンは新型の魔銃を構えた。
初めに作った魔銃はミーシャとシルフィードの隠密にあげてしまったので作り直したのだ。
「じゃあ明日もそのまま出発でいいな?」
「構わんぞ」
という事でさっさと寝た。
日が昇りだす前に出発の準備をする。他の馬車は朝食の準備をしていた。
「朝飯は抜きじゃ。あいつらに付いて来られても面倒じゃからの」
カッコカッコと馬車が動き出すとどこかの馬車の護衛をしている冒険者が走って追いかけてくる。
「止まれっ!」
冒険者が叫ぶのでドワンは馬車を止めた。
「なんじゃい?」
「おいおい、あんたらこの先にワイバーンが居ると教えただろうがっ!」
親切にも心配して追いかけて来てくれたのか。
「心配無用じゃ。慣れとる」
ドワンはそう言って馬車を出そうとする。
忠告しに来てくれた冒険者は慌てて自分達の馬車に戻って朝食の準備を片付け始めたようだ。
「坊主、飛ばすから客室に入れ。あいつら付いてくるつもりじゃ」
あの冒険者はドワーフのドワンが言った言葉の意味を悟ったのだろう。付いて行けば大丈夫だと。
ドワンはスピードを上げた。
「もう見えないから大丈夫じゃない?」
客室から顔を出してドワンに聞く。
「奴等は買い付けにいくから空荷じゃろ?新型馬車とはいえ、こっちは酒をしこたま積んどるから同じくらいのスピードになるかもしれん」
なるほど。シルバー1頭じゃほとんど動かなかったからな。
片側は壁、片側は崖の道をドワンは飛ばす。
「落ちる落ちる落ちるっ!危ないって!」
「慣れとるっ!」
重い馬車が左右に振られる度に恐怖を感じる。この馬車が落ちたら全てを魔法で浮かす自信がない。
慣れてるとかの問題じゃないっ!
次の夜営ポイントにもう着いた。シルバー達もゼイゼイ言っている。
回復魔法を掛けて水を馬に飲ませて黒砂糖をあげる。草が少ないので牧草の種を撒いてわんさかと生やしておいた。気の済むまで食べたまへ。
「おやっさん、危ないし、シルバー達が怪我したらどうすんだよっ!」
そこはちゃんと加減しとると言うけど本当かね?
ん?上の方からと崖の下から大きな気配がする。冒険者が言ってたワイバーンだな。
ドワンとダンが魔銃を構えた。
「ぼっちゃん、上のやつ頼めるか?」
ダンの魔銃は火魔法だ。上のやつが火だるまになって落ちてきたら困るからだろう。それにダンとドワンも魔銃を撃てるようになったとはいえ実戦は初めてだ。下の奴を二人で狙うらしい。上から下に撃つ方が狙いやすいしな。
ワイバーンが俺達の上を旋回し始める。ワイバーンってプテラノドンみたいだよな。それに思ってたより大きい。セスナよりデカイんじゃないかな?
遠くで飛んでいる分あまり怖く感じない。というより上のは囮なのかな?上に気を取られているうちに下のヤツが襲ってくる作戦かもしれない。
「来るぞっ!」
ダンが叫んだ。
下のヤツが急上昇し始めると上のやつからの威圧が強くなる。囮じゃなく挟み撃ちか。
ドンッドンッ ボウッボウッ
ダンとドワンが魔銃を撃ち出した。
ちぃっ クソっとか声が聞こえるから当たってないのだろう。おっと、こっちも急降下してるから攻撃しないと。
俺は尖った土の玉を散弾銃のようにワイバーンの目の前から撃ち出す。急降下の勢いもあり、いきなり目の前から飛んでくる弾を避けられるはずもなく全弾命中する。
ぎょょょょ~っと汚ない声で鳴いたワイバーンはバサッと羽ばたいた後そのまま落下してくる。風魔法で崖の方まで飛ばすとそのまま落ちて行った。
下のワイバーンは魔銃を撃たれてるので避けながら飛んでいる為まだここまで上昇していない。
「手伝おうか?」
「黙って見ておれっ!」
ドワン必死。自分達で仕留めたいのだろう。魔力が切れないようにダンとドワンに魔力を充填してやる。
俺が落としたワイバーンを見てダンとドワンの魔銃を避けていた下のワイバーンが回避行動から逃避行動に切り替えた。逃げられるっ!
クソっ!
二人は魔銃の安全装置を外して威力最大にしやがった。
ドガーーーンッンッンッ
魔石の力を乗せた火魔法と土魔法の弾はワイバーンを木っ端微塵にして、その音が下からこだまして聞こえて来る。振動も足元まで伝わって来た。過剰攻撃にも程がある。
「危ないじゃないかMAXの威力で撃つなんてっ!」
「アイツがチョコマカ逃げるからじゃ」
がーはっはっはっと笑うドワン。ダンも実に満足そうだ。
「そもそもあんな威力で撃たなくてもちゃんと当てれば済む話でしょ」
俺が怒ると二人はばつが悪そうだった。
ふと気配に気が付くと後ろからあの冒険者と馬車がガラガラと凄い音を立てながら追い付いて来ていた。
多分見られただろうな・・・
また面倒臭い事になりそうだ。
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