第219話 盗賊退治は続く
「本当なんだよっ!嘘じゃねぇ!」
盗賊の生首を持って来た冒険者二人が衛兵の部屋で叫んでいた。
「お前たち二人でこの盗賊を討伐出来るわけがなかろうが。本当の事を言えっ!」
盗賊達には賞金がかけられていたらしくそこそこの大物だった。
「だから俺達が討伐したんじゃないと言ってるだろうがっ!」
「じゃあ誰が討伐したんだ?」
「何度も言わせんなよっ!俺達がこいつらに襲われてもうダメだと思った時に馬に乗った熊みたいなやつと黒くて毛むくじゃらでちっこくてがっちりしたやつがあっという間に倒しちまったんだよっ!」
「お前ら怪我一つしてないだろうが、襲われたんじゃないのか?」
「盗賊がやっつけられた後に光に包まれた馬車から子供が降りて来てそいつが近付くだけで全員の怪我が治っちまったんだよ」
「子供?どんな馬車だ?」
「それは眩しくて見えなかった。その後すぐにその場を去って光が消えていなくなったんだ。嘘じゃねぇ」
「衛兵長、こいつらに護衛を依頼した商人も同じ事を言っております。それ以外に奇跡のポーションを貰ったと」
「奇跡のポーション?」
「そ、それはその子供が渡した奴だ。もう死んだと思った雇い主の傷が治って生き返らせた薬だ」
「生き返らせただと?」
信じられん話だが、何度聞いても同じ話をするし、実際に盗賊どもの首もここにある。何があったんだ?
「その薬はまだ残ってるのか?」
「いえ、小瓶だったので飲み干してしまったようです」
「そうかわかった。冒険者どもよ、これはお前らが討伐していないのは確かだな?」
コクコクと頷く二人。
「では討伐報酬は無しだ。代わりに情報提供として金は払ってやる」
「あぁ、それで構わねぇ。あれは絶対神様か神様の使いだ。斬られた雇い主の背中見ただろ?致命傷だったのに傷痕一つ残ってねぇ。あの子供が近付いただけで治ったなんて今でも信じられん。俺の腕も見てくれ。防具が切れてる所も傷痕がねぇだろ?」
「治癒魔法じゃないのか?」
「どこに近付くだけでこんな治癒魔法を掛けられる治癒士がいるんだよっ!聖女様でも詠唱して祈りを捧げて治すって言うじゃないか。それにあの光輝きようはこの世の物とは思えねぇ。神様か神様の使いに間違いねぇ。・・・盗賊を倒したあの二人も人間じゃなかったのかもしれん・・・」
討伐報酬に比べて情報提供の金は少ない。それでも良いとこいつらは言う。わざわざ首を持って来たのにだ。討伐を自分達の手柄にしたら罰が当たるかもしれないからだと。
「おい、門番から見慣れぬ馬車か子供連れの馬車が来た報告はあるか?」
「今の所ありません」
馬車が消えた方向はこの町に向かってたはずだ。こいつらより先に到着しているだろう。
「おい、他の衛兵と門番に伝えろ。見慣れぬ馬車と男二人に子供一人で来ている奴を探し出せ。門番が見ていないならまだこの町にいる可能性が高い。おい冒険者よ。お前らも捜索を手伝え」
この後、神様が顕現した噂で町中が沸くことになるのであった。
ゲイル達は夜を待って出発した。
ずっと客車に一人でいるのは暇なので俺も御者台に座る。
「ダン、町はそんなに噂になってるの?」
盗賊討伐とかそこまで珍しいのかな?
「あぁ、まばゆい光に包まれた神様が現れて盗賊を討伐し、冒険者と商人を奇跡の力で治したらしいぞ」
なんだそれ?
「坊主は神様の使徒じゃからの、あながち間違った噂でもないの」
がっはっはっはと笑うドワン
「まばゆい光ってなんだよ?町ならライトの魔道具くらい見たことあるやついるだろ?」
「こんな明るい魔道具を馬車に取り付けているやつなんか普通いると思うか?」
そういやそうか。
「それとな、あの斬られた商人も助かったみたいだぞ、良かったなぼっちゃん」
そうか死ななかったのか。
「助かってよかったね。あれだけ血が流れてたら怪我が治っても死んでもおかしくないからね」
「それがな、神様のくれた奇跡の薬で生き返った事になってたわ」
生き返る?
「幻の薬でエリクサーと言うものがあると言われておる。死者も甦る薬じゃな」
「幻の薬エリクサー?あれ、ただの回復魔法を込めた水だよ。死んだら生き返る訳ないじゃん」
魂が肉体を離れたらめぐみの所で回収されて記憶リセットとメンテナンスされて次の肉体に戻される。これは本人から聞いてるから間違いない。生き返るということは魂を壊れた肉体に戻すようなもんだからあり得ないよな。いや、あの適当なめぐみのことだから魂の回収漏れとかあるかもしれんけど。
「まぁ、端から見てたら奇跡に見えてもおかしくはないの。無詠唱で治癒魔法を使えるやつなんておらんからな。ダンに偵察に行ってもらって正解じゃ。あのまま町に入ったら何日足止めを食ったかわからん」
「足止めどころか領主の所に連れて行かれるはめになるだろうな。その後、不思議な力と薬の尋問が待ってて拘束されるのが落ちだ」
俺はディノスレイヤ領の息子であるという証明書も何も無い。ダンも冒険者証を返上している。あるのはドワンの商会証だけだ。ただの商人なら領主が拘束するのは訳が無い。この世界の平民の命は軽いのだ。
「おやっさんの読み通りだね」
「アーノルドとディノスレイヤ領は違うが、どこも似たようなもんじゃからな。坊主が住んでいる所が当たり前じゃと思ったらいかんぞ」
ディノスレイヤ領の貴族はうちだけだし、しかも平民上がりだ。貴族と平民の垣根はほとんど無いと言っていいだろう。良かったそんな所に生まれ変われて。そこはめぐみに感謝だな。
誰にも気付かれないまま町を離れてその先の街道へと進む。日が昇る前に牧草を育て馬車に大量にくくり付けて牧草を運ぶ馬車に偽装した。
この先一週間くらいは宿場町があるが、その先には小さな村があるだけらしい。その村の所で他の町にいく道とドワーフ国に向かう道と分岐する。ドワーフ国に向かう道は山合になり宿場町も無くなるみたいだ。
ドワーフ国に行く道はほぼ武器の調達をしに行く商人が通るだけになるらしく一気に通る人が減るとのこと。
取りあえず宿場町があるところは偽装したまま進み、森の中に隠れて夜営することにした。
「また来おったか」
偽装したとたん毎夜のように盗賊が現れる。ドワンのデザインした馬車はやはり盗賊避けになっていたようだ。もう俺でも気配で盗賊と解る。
初めはダンやドワンがこっちに来る前に追い払いに行っていたが段々面倒臭くなり、気配を探って土魔法で狙撃するようになっていた。ドワン達も俺にそんなことをさせたくなかったみたいだが、面倒臭くなってたのは同じ様で、一度狙撃した後は何も言わなくなった。殺さない程度に撃ってはいるが、狙撃したあとに気配が薄くなって他の奴等が連れて行っているようなので、アジトで死んでるかもしれない。死んでても問題ない。奴等はゴブリンだと自分に言い聞かせた。
「盗賊ってこんなにいるんだね」
「ディノスレイヤ領近くはおらんがな。商人が通る道は盗賊がいるもんじゃが、それにしても数が増えとるワイ」
「なんで増えてるんだろね?」
「さぁの?元々盗賊は冒険者くずれの奴等が多い討伐やら採取やらよりも簡単じゃからな。増えとるのは食えなくなった村人やらじゃないかと思うぞ。税が払えんと鉱山送りとかになるじゃろ?村を捨てて食う当てが無くなって盗賊落ちとかじゃろ」
他の領地は生活出来なくても税を取るんだな。そう思うとちょっと盗賊も可哀想になってくる。
「坊主、元農民でも盗賊は盗賊じゃ。自分達が苦しいからといって人を襲って良い理由にはならん。同情なんてするんじゃないぞ」
俺の感情を見透かしたように言ってくるドワン。罪を憎んで人を憎まずとかはこの世界にはない。やるかやられるかだからな。
村を拠点に道が分岐したのでドワーフ国へ向かう道に舵を切る。
今夜の夜営を最後に偽装を解く事にした。狙撃するのも面倒臭くなって来たからだ。それにもう馬車を見られても問題はない。帰り道は遠回りになるが噂になった町と違う道を通って帰ればいいじゃろとのこと。
ドワーフ国への道は宿場町の代わりに馬車が停められるスペースがあり、そこで夜営しながら進む。
日が暮れだした頃に初めの夜営ポイントに到着した。竈を作って飯の準備をし始めた頃にまた誰かがやってくる。数人の気配だが盗賊だろうか?それとも通行人だろうか?今までの気配とは感じが違う。
ドワンとダンも気付いている様だけどあまり緊張感はないから盗賊じゃないんだろな。俺はそう思い飯の準備を続けた。
完全に日が落ちて暗くなった頃に松明に火を点けて近付いてくる人達。
「お、おおおおお前らっ、ににに荷物をおおお置いていけっ。いい命までででとらっとらっ・・・」
やっぱり盗賊みたいだけど、持ってるのは鍬やナタだ。それに松明を点けて近寄ってくる盗賊なんて初めて見た。
「お前らさっきの村の住人だろ?盗賊の真似事なんて止めておけ。死ぬぞ」
ダンは剣に手をやり、盗賊に言葉を掛ける。
「う、う、うるさいっ!黙って荷物を置いて行けっ!」
後ろにいた青年らしき男が叫ぶように吠える。
「なら、仕方がないな」
ダンは剣を抜いた。
「ヒッ!」
腰を抜かす盗賊達。
なんかコイツらをゴブリンと思うには無理がある。このままだと本当にダンが斬り殺してしまうかもしれない。
俺は空に向かって大きめのファイアボールを撃った。
ドゴンッ
大きな音と閃光にシルバー達もビクッとする。
「おっちゃん達、斬られるのと焼かれるのとどっちがいい?」
「ひいいいいいっ」
逃げて行くかと思えばその場で腰を抜かして動けなくなる盗賊もどき。あー、もうお漏らしまでしやがった。
「すいませんすいません、お助け下さい」
全員が頭を地面に擦り付けて土下座をして謝り命乞いをしてくる。
もー、夜営地でお漏らしするなよ。臭いのでクリーン魔法を掛ける。
急に股間がスッキリしたことに驚きキョトンとした顔を上げて俺を見る。ダンはもう危険は無いと判断して剣を鞘に納めた。
「お主ら馬鹿なことをするもんじゃな。今殺されいてもおかしくなかったんじゃぞ。坊主に感謝しろっ」
ドワンにそう言われて殺されないとわかった安堵感からかぼろぼろと泣き出した。
このまま素直に村へ帰ってくれないかな・・・
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