第218話 盗賊=ゴブリン
がっはっはっは
わっはっはっは
飯も食い終わってご機嫌で飲んでるドワンとダン。何があるかわからんからいい加減にしとけよ。
そろそろ寝ようかと思った時に
(ぎゃーっ)
ん?叫び声?
「今の聞こえた?」
「この先じゃな。坊主、防具着て剣を用意しとけ。ワシとダンで見てくるから馬車で後から来てくれ。気配を探りながら来るんじゃぞ」
ドワンとダンは馬で叫び声が聞こえた方向へ走っていった。
「シルバーだけで馬車引ける?」
酒の樽をいくつも積んでるので馬車は重い。
馬車のライトを上向きにして、フォグランプで手前を照らした。明るさに怯えることもなくシルバーはゆっくりと歩き出そうとする。体重が馬車に負けて足が滑ってる感じがするので馬車を魔法で少し持ち上げてみた。するとカッコカッコと動き出した。
気配を探ると確かに道の先に人がいる。周りにはいないな。
前方にウォッカとクロスがいる。あそこだな。
近くまで来ると血の臭いがして来た。誰か斬られたんだろう。
ドワンとダンに斬られたのだろうか?10人くらいがその場で死んでいた。それと怪我をしている冒険者らしき者が二人、商人と思われる男が二人だ。その内の一人は背中を斬られて倒れている。もう死んでいるのかピクリとも動かない。
「ぼっちゃん、大丈夫だったか?」
「うん、それよりその人死んでるの?」
「もうダメだろうな」
と言うことはまだ死んでないのか。試しに俺は治癒魔法を掛けてみる。
傷は治ったけど動かないな。治ったということは息があった証拠だけど血を流し過ぎてる。恐らくダメだろう。
怪我している人達に治癒魔法を掛けていった。
「た、助かった。あんたらいったい・・・」
あー、無詠唱で魔法使っちゃたわ。
「お前達が知ることではない」
そっけなく答えるダン
「う、ううう」
あ、さっき死にかけてた人の意識が戻ったみたいだ。助かるかな?ゲイルは小瓶に水を出して回復魔法を込めた。
「効くかどうか分からないけど飲めそうだったら飲ませて。これは薬だから」
恐る恐るその小瓶を受けとるもう一人の商人。
ドワンはウォッカとクロスをすでに馬車に繋いで、さっさと馬車に乗れと合図した。ダンも御者台に座り、ゲイルが馬車に乗るとすぐに動き出した。
カッコカッコカッコと結構なスピードで離れてライトを消し、馬車を木の影に停めた。
「あれ盗賊だよね?」
「そうだ。護衛の冒険者がボケなんだよ。あんな時間に馬車停めて夜営してたら襲ってくれと言ってるようなもんだ」
えーっと、俺達も同じことしてたよね?
「何で何も言わずに離れたの?」
「面倒臭ぇことになるからに決まってるだろ?盗賊を討伐したら首持って行って近くの町に報告しに行かないとダメだ。もしくは生け捕りにして連れて行くかだ。討伐報酬貰えるがそんなもんいらんだろ?」
これから何日か生首持って移動とか嫌過ぎる。
「そうだね、面倒臭いのはかんべんだ」
だろ?と言うダン
「あの人助かったかな?」
「まぁ坊主が治癒魔法かけてポーションまで渡したんじゃ。それ以上どうしようも無いからな。心配しても意味がないじゃろ」
確かに。しかしダンもドワンもドライな反応だな。
「坊主、馬達に回復魔法を掛けてやってくれ。こいつらには悪いがこのまま進む。坊主が掛けた無詠唱の治癒魔法やポーションの出所を探られたくないからの」
やっぱりまずいことになるからさっさと離れたのか。
馬車は夜通し走り、日が登るころ脇道に入った。馬達にも回復魔法を掛けっぱなしだ。水と餌以外の休息もほとんど無しで進んだ。
「もう大丈夫じゃろ。この道はあっちの道が付いてから使われておらん」
「何で使われなくなったの?」
「魔物の数が多いんじゃ。その分盗賊も出ん」
ドワンの話によるとあっちの道は盗賊が出て、こっちの道は魔物が出る。 魔物は昼夜問わず襲われる可能性があり、護衛の数を多く雇わないといけない。盗賊の出る道は明るい間に移動して宿場町に泊まっていけばほぼ盗賊に襲われる心配がないとのこと。この道は旧街道ってやつだろうな。
「さっき襲われてたやつらは出発時間を考えてないか、舐めてたかのどちらかだ。ああいうアホがおるから盗賊もおらんくならんのじゃ」
「いきなり盗賊を殺したの?」
俺は現場を見ていない
「盗賊ってヤツは物を奪っても人は殺さないのが暗黙のルールでな、護衛も相手が多くて守りきれないと判断したら雇い主に荷物を差し出せとアドバイスするんだ。雇い主の命を守るのが護衛の仕事だからな。冒険者が応戦したのかも知れんが人を斬るような盗賊に理由とか聞く必要も無い。魔物と同じだ」
なるほど。護衛がぼんくらだった上、盗賊も悪質だったわけだ。
「荷物を守るのは仕事じゃないの?」
「絶対奪われたら困る荷物なら護衛の数を増やすしかねぇ。小麦粉とかならそこまで護衛を雇うと赤字になるから護衛無しか、最低限の護衛しか雇わんよ。だから日の出てる間しか移動しないもんだ」
王都からここに来るまで何度も馬車や歩いている人にすれ違ったり追い抜いたりしたけど確かに護衛が付いてる馬車は大きめの荷馬車だったな。小さな荷馬車は護衛が付いていなかった。
「坊主、もし盗賊に襲われるような事があれば迷わず殺せ。あいつらはゴブリンと同じじゃ。人と思うな」
ドワンは人を殺した事がない俺に盗賊はゴブリンと同じだと言う。ドワンもダンも冒険者時代に同じ様なことが幾度もあったのだろう。この二人が居れば俺に出番はないだろうけど心構えとして言ってくれているのだ。
「まぁ、この馬車を襲う盗賊は居ないと思うけどね」
俺がそう言うとがっはっはっはとドワンは笑い返した。
「もう少し進むと馬車を停められるように開けた場所がある。そこで昼飯を食ってそのまま夜営するぞ。さすがにワシらも寝たいからの」
回復魔法をかけてるとはいえ、馬もずっと走りっぱなしだし、俺達も寝ていない。ゆっくり休息を取るのは必要だな。
もうほとんど使われていないこの道は荒れていて進むのが大変だ。倒れている木を魔法でどかしたりしながら馬車を停められるポイントに着いた。
誰も来ないとのことだったので、馬小屋と俺達の小屋も作る。魔物が来てもいいように周りに柵も作っておいた。小屋の屋根には風呂も付けた。ここまで風呂無しだったからゆっくり浸かりたいのだ。
宿場町に共同風呂みたいな物があったけど入る気にならなかったのだ。その衛生面がね・・・あんなきちゃない湯に浸かるのは嫌だ。
馬達に黒砂糖をあげてから自由にしてやる。
ダンは狩りに、ドワンはその辺の草をとって馬小屋に敷き詰めている。
俺は竈と火の準備をしてパンを焼いた。
ダンが鹿を仕留めて帰って来たので、解体して調理に入る。
昼飯は焼肉だ。意外とこんがり焼いたパンは焼肉とマッチする。結構な量を食べてお腹いっぱいになった。
「おやっさん、ダン、小屋の上に風呂作ってあるから入ってきなよ」
「ぼっちゃん先に入らねぇのか?」
「俺はこの肉を晩御飯用にローストするのと、残った奴を燻製にするから先に入ってきて良いよ」
「じゃ、おやっさんから入ってくれ」
ダンとドワンは俺の護衛もあるので同時に無防備になることはしないつもりみたいだな。恐らく睡眠も交代して取るだろう。この前の修行もアーノルドとダンで交代しながらだったからな。ちょっと申し訳ない気がするけど、飯は俺が作るからな。役割分担と割りきって甘えておこう。
「じゃ、先に入るぞ」
ドワンが屋根の上に登っていったあと
あーーー
と言う声が聞こえてきた。ゆっくり疲れを癒してくれ。
鹿肉の塊にプスプスと串で穴を空けてからミックススパイスを擦り込み簡易オーブンに入れる。ドワンが風呂からでてきたので、炭酸水を出してやり、風呂の湯を入れ換えた。
うーーーーっ
ダンの声が聞こえてくる。
焼肉くらいの薄さに切った肉に塩胡椒をして軽くスモークをしていく。簡易ベーコンみたいな奴だ。馬車に乗りながらおやつ代わりに食べるのにちょうどいいだろう。
ドワンは小屋にマットを準備していた。携帯しやすいように薄目で三つ折りに出来るのをこの旅の為に作って来たのだ。元の世界にもあった三つ折りマットレス。俺が言わなくても考え付くとはさすがだ。
ダンが風呂から出て来たのでドワンが小屋に寝にいった。
ダンにも炭酸水を出すと一気に飲み干した。
「ダンも寝てきたら?夜は交代しながら休むんでしょ?」
「一応護衛だからな。柵も作ってくれてるから問題ないとは思うが、気にはなるだろ?二人が気を張りながら寝るより、交代で一人に任せてゆっくり寝る方がいいんだよ」
なるほどね。
「ぼっちゃんもちょっと寝たらどうだ?馬達は俺が見ておくぞ」
「俺は馬車に乗ってただけだからそんなに疲れてないんだよ。夜は二人に任せて寝るから。それより俺も風呂入ってくるよ。シルバー達を宜しく」
「おう任せとけ」
屋根に登り風呂の湯を入れ換えて浸かる。
あーーー
下からダンのカッカッカッという笑い声が聞こえてきた。お前らも声出してたんだからなっ!
しかし、鳥のさえずりを聞きながらの風呂もいい。冷えたビールがあれば最高なんだけどな。こう枝豆とビールとかでいっぱいやりたいなぁ。
そんな事を思いながら風呂でうとうとしてしまったようで、ダンが心配して見に来て起こされた。
「やっぱり疲れてんじゃねーか。寝るならちゃんと寝ろ」
ダンは護衛というより、もはや親だな。俺より年下なのに・・・
「寝ちゃってたね。やっぱり晩御飯まで寝るよ。おやっさんと交代したら晩御飯の時に起こしてくれるように言っておいて」
オーブンに入れてあった鹿のローストを出して布に包み保温用のクーラーにいれてから寝た。硬めのマットレスに横たわると一瞬で意識が無くなってしまった。
「おい、飯にするぞ」
ドワンに起こされる。感覚的には今目を瞑ったところなのに、4時間くらい寝ていたらしい。
「今から晩御飯作るよ。それまで保温してある鹿肉のローストでも食べておいて」
ダンも起き出して来たので自分たちで切って勝手に食べてて貰おう。
玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもに鹿肉を入れて煮込み始める。その間に米を炊いていく。晩御飯はカレーライスだ。カレーとわかったドワンはワクワクした顔をしながらローストをかじって赤ワインを飲んでいた。
「旨い!やっぱりカレーは旨いぞ!」
カレーは小麦粉を入れてとろみを出した日本式のおうちカレーにした。森の中で食うカレーライスは子供の頃に楽しんだキャンプを思い出す。旨いよなぁ、外で食うカレーって。
寝る前に仕込んだ鹿肉ジャーキーを取り出して、カレー味のジャーキーを燻製室に放り込んでから寝た。
仮眠を取ったけど、朝まで目が覚めなかった。
朝から3人で昨日の残りのカレーをガツガツ食って、小屋や柵を消してから出発した。
4日ほど同じように使われなくなった旧街道をゴブリンやコボルトを倒しながら進み、町の近くまで来ていた。
「ダン、町の様子を見てきてくれ。ついでにエールを調達してこい」
この前助けた商人が町に戻っててもおかしくない。どこに行くのか分からないが、あのまま進むとも思えないので町に戻った可能性が高いということでダンが様子を見に行った。
半日ほどしてダンがエールの樽を馬にくくりつけて帰って来た。
「おやっさん、ダメだな。町は素通りして進もう」
やはり商人達は町に戻っていたようで、盗賊が討伐された話で持ちきりだったようだ。
「夜になったらここを通り抜けて先に進むぞ。今のうちに寝ておけ」
まだ昼を過ぎたばかりだが、ドワンに休める時に休むのも大切なことだと言われる。
町が近いので馬車を木で隠してその中で寝ることにした。
何も悪いことをしていないのに犯罪者の気持ちが解ったような気分だ・・・
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