第217話 いざドワーフの国へ

「ありがとうございました。また来ますので宜しくお願いします」


シルフィードは目に涙を溜めながらボロン村へと帰っていった。


「ぼっちゃま、シルフィードさん帰っちゃいましたね」


ミーシャも目に涙を溜めていた。次の冬にまた来ると分かっていても淋しくなるのは仕方がない。姉妹みたいに仲良くなってたからな。


俺達も準備を整えないと。



シルフィードが帰村してから2日後、次は俺達の旅立ちの日だ。


カレー粉、ハーブソルト、小麦粉、薄力粉、米、パン種、味噌、焼肉のたれ、焼き鳥のタレ、塩、胡椒、砂糖、白砂糖、スモークチップ、各野菜の種、エイブリックへのお土産・・・、一応釣具も積んでおくか。


エイブリックから届いたスパイス各種にハーブ系も入ってたので、カレー粉とハーブも調合しておいたのだ。片道1ヶ月くらいの旅だし、ドワーフの国でも料理を振る舞う事になるだろう。調味料の類いはたくさんある方がいい。


味噌やタレ関係は一応クーラーに入れて保冷出来るようにしておく。


着替えやら毛布とかはミーシャが用意してくれているので、後は装備品だな。魔剣、魔手袋、防具と。こいつ・・・トゲトゲ防具は置いていこう。サイズが少しきつくなってるしな。


もう忘れ物はないかな?調理器具はドワンが持ってくるし。


ドワンがウォッカを迎えに来て、ダンと一緒に馬車を引いて来る事になっている。そこにシルバーを加えて3頭立ての馬車だ。2頭立てでもいいんだけど、酒積むから馬は多い方が良いとのことでそれぞれの馬を連れて行くことになっている。



ぶちょー商会の馬車がやってきた。釣りの時にも問題がなかったのでこれでいく。


うちの馬車と同じくサスペンション、ダンパー、スプリングマット装備、ライト、フォグランプ、それにブレーキまで付けた。なぜなら商会の馬車なので荷物も運べるピックアップトラックみたいになってるのだ。ブレーキが付くことで重くなっても安全に止まることが出来る。


改めて見るとデカイ馬車だよな。横幅はともかく、全長が長いのだ。うちの馬車はもう騒がれなくなったが、さすがにこれは領民達もザワついてるな。


そのデザインがね・・・


なんかめちゃくちゃイカツイのだ・・・。どこの世紀末覇者が乗ってるの?みたいな。


ドワン曰く、盗賊対策らしいけど。


まぁ、なんかヤバそうな感じは伝わってくる。てか俺もあまり近寄りたくはない。


「ほれ、さっさと乗らんか」


ダンがシルバーを馬車に繋ぎ荷物は使用人達が乗せてくれた。


あー、またヒソヒソ言われてるわ。


ドワンが御者をし、俺が乗り込んだ後にダンが乗り込む。


「ドワン、ゲイルを宜しくね」


おう、とアイナに返事して馬車は出発した。今から急いでも今日中に王都につくのは無理なので比較的ゆっくりと進んだ。途中の宿場町には止まらず、日が暮れた所で一泊する。3人で馬車の中で寝たがイビキが煩くて寝不足だ。


午前中にエイブリック邸に着くと執事が出迎えてくれていつもの様に応接室へ。



「ドワン、これをドワーフ王に渡してくれ」


王室からの正式な手紙みたいだ。


「エイブリックさん、これ他の隠密の人に渡して。ちょっと時間が足りなくて魔石1つしか入ってないけど」


俺は10個の腕輪を渡す。


「他の奴等にも作ってくれたのか?」


「みんな危険な任務だからね。人数が分からなかったから取りあえず10個。」


エイブリックはフッと笑って受け取ってくれた。


「礼はなんか考えて送っておく。いつ頃帰ってくるんだ?」


「多分3ヶ月後くらいかな?」


「夏頃か。わかった。父上にも伝えておく」


ドン爺は公務らしい。俺達は昼飯をご馳走になって、すぐに出発した。



ウエストランド王国からドワーフの国へは道があるが、森や山合いを通るらしくなかなか厳しい道のりだそうだ。今のところ平地なので揺れることもほとんど無いし、魔物も出ない。取りあえず一つ目の村を目指して進んだ。



「おやっさん、なんでわざわざ村に寄るの?ご飯も泊まる所も自分達で用意するほうがいいのに」


王都の飯でもいまいちなのだ。地方の村に期待するのは酷だ。


「こういう道沿いの村は旅人が寄る事で生計を立てとる。気に入らん村ならともかく、ちょっと金を落として行ってやったほうがいいんじゃ」


なるほどね。


村の中を見て回るがものの見事に何もない。宿屋兼食堂があるくらいだ。売ってるのは干し肉と水くらいか。


ちょっと土産物とか特産物とか売ればいいのにと思うが、王都に一番近い村だと売れないんだろうな。


飯は案の定不味いというかこの世界の標準的な飯だ。その割にはそこそこの値段なので不満が募る。ドワンもダンも酒もあまり進まず部屋に入った。3人一部屋だ。


「ぜんぜん飲まなかったね。」


「飯がああじゃとな・・・」


やっぱり舌が肥えてしまってるのはみんな一緒だな。


地面で寝るのと変わらないようなベッドでまたもや寝不足だ。運動もしてないので当然だな。


その後、一週間くらい同じ生活が続いていた。


どんどんストレスが溜まる3人。


「おいダン、次の村は飛ばして、その先で夜営するぞ。我慢の限界じゃ」


同意だ。宿場町なら宿場町らしくなんか工夫を凝らせよっ!


名物料理も無けりゃ土産物も無い。どこも同じだ。そりゃ発展するわけ無いわっ!


宿場町をスルーして少し開けた所に馬車を停める。


「ダン、何でもいいから狩って来いっ」


馬を馬車から外してやるとその辺の草を食べ始める。水だけ用意しておこう。


土魔法で竈とバーベキューコンロを用意しておく。持ってきた炭もセット完了だ。何も無いところでの深酒は危険なので、蒸留酒を水割りで飲むドワン。


「おやっさん、炭酸にしようか?」


「そいつは飯の時にしてくれ。今はこいつでいい」


機嫌の悪いドワン。相当ストレスが溜まってるな。


しばらく待つとダンがウサギを狩ってきた。さっさと解体していき、ハーブソルト焼きと焼肉のたれ味で焼いていく。


ドワンとダンには蒸留酒の炭酸割。俺は炭酸水だ。


「やっぱりぼっちゃんが作る飯の方が断然旨いな」


かーっ!とか言いながら酒を飲むダン。


「昔は宿場町の飯が当たり前じゃったがあんなにまずかったんじゃな。飯が不味いと酒も旨くならんとよくわかったわい」


そう、酒単品より旨い物と飲んだ方がいいに決まってる。


ドワンもダンもみるみる内に機嫌が直っていく。


「おやっさん、次からまた宿場町に泊まるの?」


「もうやめじゃ。次に寄るのは町に入ってからじゃな」


ここから3日くらい行った所に町があるらしい。そこで良いところがあれば泊まり、無ければ少し見るだけにしようということになった。


まぁ、見るだけになるだろうけど。


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