第213話 ゲイル、修行に行くその3
今日からダンジョンに潜るらしい。
「これがダンジョン?洞窟と何が違うの?」
「明確な違いはないが、魔物の多さが違う。奥からどんどん湧き出てくるみたいな感じだな。倒しても倒してもまた増えてる。ゴブリンやらオーガとかここから出たやつらが繁殖して増えてるとも言われている。正確には分からんがな」
へぇ、魔物って湧き出てくるんだ。どんな仕組みなんだろね?
「どこかのダンジョンの最深部まで潜った事ある?」
「あるぞ。奥に行けば行くほど魔物が強くなるか数が増える。またはその両方だ」
「何かあった?」
「なんもねぇ。珍しい鉱石とかあることもあるが、ダンジョンだからと言うわけでも無さそうだ。魔物が多いから残ってるだけだろう。魔物の素材集めにはいいがそれ以外に潜る意味は無い。遺跡系は魔道具とか出るからお宝探しならそっちに行くだろう?」
「今回はなんで洞窟系にしたの?」
「お前の気配察知の修行だからな。遺跡系は魔物以外にもトラップとかあるから修行にはこっちの方がいい。お宝は無いからそれの期待はするな」
レベルアップの為のダンジョンか。ピカピカのスライムとか居て効率よくレベルアップ出来ないかな?まぁ、この世界にレベルとかないけど・・・
「じゃ、潜るぞ」
そこそこ大きい洞窟だけど奥に進むに連れてどんどん暗くなっていく。魔法で灯りを点けたら消せと言われた。
「気配察知の修行だと行っただろ?明るくしたら修行にならん」
え?
「暗くて見えなくなったところで修行する。敵もゴブリン程度しかおらんから心配するな」
「それなら目隠しで外でやればいいんじゃないの?」
「外は敵の数も少ないから効率が悪い。それにな」
ザシュッ
ほとんど見えなくなった暗闇でアーノルドが動いて何かを斬った。
「ライトを点けて見ろ」
そう言われて魔法で光らすとそこにはゴブリンが倒れていた。そのゴブリンをよく見ると・・・
「あ、目が・・・」
「そうだ。ダンジョンで生活しているゴブリンや他の魔物も目が退化してるやつらが多い。それに今気配が分からなかっただろ?こいつらは目に頼らない生活をしている分、こっちの気配を読むのも自分の気配を隠すのも外のやつらより優れている。強さはやや弱いがな」
アーノルドが斬るまでそこにゴブリンがいるのに気が付かなかった。これヤバいんじゃない・・・?
常に集中してれば大丈夫だと言われてライトを消した。その途端に不安に襲われる。目が見えないとこんなに怖いのか・・・
まだこの辺りは敵が少ないとのことでどんどんと奥へと進んでいく。
「よし、ここでやるか。俺は壁にくっついてるからダンとゲイルでやれ。ダンも冒険やめてから時間が経つからリハビリに丁度いいだろ?」
「そうだな、コイツら相手だと一撃で死ぬこともないし、肩慣らしには丁度いい」
「ゲイル、お前は身体強化しとけ、防御能力も上がるからな」
この場所は他より広くなってるらしい。アーノルドもまったく見えてないのになぜ分かるんだろう?ダンも解ってたみたいだし。もしかして見えてんの?
「ダン、なんでここが広くなってるって分かるの?」
「ん?声の響き方や空気の雰囲気が違うだろ?」
あ、音の反響具合で認識してるんだな。熊の癖にコウモリみたいだな。しかし、空気の雰囲気ってなんだ?
ダン曰く雰囲気は説明出来ないらしい。感覚的なものなのか?
しかし、暗闇で何も見えない中で敵がいると思うととてつもなく怖い。アーノルドとダンの気配も感じられなくなる。敵がいる暗闇で一人・・・
心臓がバクバクしてくる。
ゴンッ!
ドサッ
痛って!いきなり後ろからこん棒みたいな物に殴られて吹っ飛ばされた。痛みを感じるけど治癒魔石は反応しないから怪我はしていない。アーノルドが身体強化しておけと言ったのはこういうことか。
素早く立ち上がって構えを取り直す。
ゴンっ!
ドサッ
ぐっ、またやられた。まったく気配が読めない。
ゴン、ガッ ガッ ガッ
倒れた俺を執拗に殴ってくる。
「うわあぁぁぁぁっ!」
無我夢中で剣を振り回すと軽い手応えと共にブシャッと返り血を浴びる。なんなんだよコレ・・・
「ゲイル、気配がだだ漏れだ。落ち着け」
足がガタガタ震える。蛇の時と違った恐怖感が襲う。
ザザッズルズルズルズル
何かを引きずる音がする。今斬ったゴブリンを何かが引きずって行ったのか?音だけ聞こえて気配がわからない事に更なる恐怖が俺を襲う。
ガッ
また殴られぶっ飛ばされる
怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・
倒れこんだ俺は頭を抱えて亀のように丸まって震えていた。そこにガッガッゴンゴンっと容赦なくこん棒みたいな物で殴り続けられる。
怖い痛い嫌だ怖い痛い嫌だ・・・
怪我はしないけど暗闇で殴り続けられる痛みと恐怖で精神がおかしくなりそうだ。恐怖のあまり火魔法で俺を殴り続けるやつに攻撃しようとした瞬間、
「やめろっ!ダンを巻き込むぞっ!」
アーノルドの怒鳴り声が響いてはっとする。ここは洞窟だパニックで火魔法を使ったらヤバいっ!
シュボッと一瞬明るくなった程度で火魔法を止める事が出来たのが幸いだ。その一瞬の明かりで俺を殴り続けていたゴブリンが怯む。目が完全に退化しているわけでも無いみたいだ。その隙を突いて目の前にいるであろうゴブリンを斬った。
はぁはぁはぁはぁ。
「ゲイル、魔法攻撃は禁止だと言っただろうが。落ち着いて気配を消さないとお前だけ集中的に狙われてるぞ」
まだガクガク震えている足を自分で叩く。落ち着け落ち着け!やられても痛いだけで怪我もしない。死ぬことはないっ。
死への恐怖という本能を理屈で押さえ込む。身体強化もしてるし、ドワンが胸を張って俺に着せてくれた防具も身に付けている。大丈夫だ、大丈夫だ、大丈夫だ。俺はドワンの作る物に絶対の信頼を置いている。そのドワンが胸を張った防具だ絶対大丈夫に決まってる!
そう思うと膝の震えが止まった。ありがとうおやっさん!
心の中でドワンにお礼を言う。蛇討伐で俺を落ち着かせたのもドワンだったな。
心が落ち着くと何となく自分の置かれている状況が把握出来てくる。
後ろにいるっ!
さっと横にかわして剣で斬る。
ドサッ
よし、やられる前に斬った。近くに来るまで分からなかったけど、少し前進だ。
その後、殴られたり躱せたりが続く。
何匹斬ったのだろう?それに足元につまずいて転ぶ回数も減ってきた。少しずつ離れた距離のゴブリンの気配を感じるようになって来ている。
おっと、ザシュッ
よし、攻撃も貰わなくなってきた・・・
いるっ!近くに気配以外に体温を感じる。かなりデカい!!
「おりゃっ!」
俺は渾身の力を込めて斬り付けた。
ガツっ!
「うぎゃぁぁぁあ!」
大きな叫び声を上げて魔物が倒れた。
ポワッとピンク色の光が出る。
「痛ってぇ!何しやがんだぼっちゃん!俺を殺す気か?」
デカいのはダンだった。
ごめん・・・
「よし、今日はここまでにして外に出るぞ」
本日の稽古終了。
ようやく外に出られるとすでに夕方だった。それでも暗闇に慣れた目には眩しかったのだった。
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