第212話 ゲイル、修行に行くその2
寒っ
パチパチと焚き火の音が聞こえる。あー、飯食った後、そのまま寝ちゃったんだな。
「起きたか?」
アーノルドは横で座っていた。
「あー、久しぶりに地面で寝ると身体が痛ぇ~」
ゴギゴギっと関節の音を鳴らせて伸びをするダン。俺も身体中が痛い。筋肉痛と地面で寝たせいだ。しかし魔力は回復しているので回復魔法で体調を整える。
「おはよう父さん」
「もうすぐ夜が明けるからな。朝飯食ったら昨日の続きだ」
残念ながらアーノルドは帰るぞとは言ってくれなかった。
昨日の鹿肉で塩味スープを作り、それを食べたら身体も温まってくる。食べ終わってしまうと修行が始まってしまうのでなるべくゆっくりと食べるがそれにも限界がある。
残った鹿肉は地面に埋めておけと言われた。今日は今日でまた獲物を狩らないといけないらしい。
また地獄のマラソンの始まりだ。ダンからは昼飯も食わせろよと言われているので気配を探りながら走り続ける。
はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ
今日は昼飯休憩までノンストップで走らされる。馬でも昼飯までに休憩取らせるのに・・・
「何がいる?」
はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ
「ボ・・ア・・・2頭」
狩って来いと言われるが気配を上手く消せずにまたもや逃げられる。
「水飲んだら行くぞ」
また昼飯抜きだ。飯は食えなかったが。休憩は出来た。しかし、こんな状態なら狩れても食えなかったかもしれない。
そして日が暮れる直前までマラソンが続いた。
「何がいる?」
「ウ・・サギ・・とゴ・・ブリン。あと・・知らない気配が多数」
「よし、その知らない気配とやらの正体を確かめに行くぞ」
その気配は俺達が止まったあといくつかがかたまり、他は俺達を囲むようにバラけた。
ガウッ
バラけた気配が俺達の前に飛び出して来た。
犬?それとも狼か?
3方から飛び出してくる魔物。それに構えたら後ろからかたまっていた気配も飛び出して来た。
ぎゃううんっ!
目の前に来た魔物を斬る。動きは素早いが動きは単純だ。俺めがけて飛び上がったところを仕留める。横からも同じように飛び掛かって来たので振り下ろした剣をそのまま上に斬り上げた。
ダンも2匹仕留めて、アーノルドは集団のやつらを殲滅していた。
目の前に倒れている魔物を見ると犬にしてはデカいし、狼にしては黒い。
「こいつはコボルドだ。こうやって集団で狩りをしてくる。始めに飛び出して来たやつらは誘導係だな。本体の集団の気配は解ってたか?」
コクッとうなずく。アーノルドがそっちに対峙したのが解ってたから目の前の奴に集中出来たのだ。
「ならこの気配を覚えておけ。倒しても大した金にもならんし、こうやって集団で襲ってくるからいちいち相手するのが面倒な相手だ。討伐依頼を受けてなければ避けるのも手だな。気配を覚えておけばそれが出来る」
「肉は?」
「食えなくないが臭いぞ。食うか?」
臭い肉はダメだ。
「羊すらダメなぼっちゃんが食えるとは思わんぞ」
ダン、その通りだ。
「やめとく」
「じゃ、次はゴブリンだ。何匹いる?」
「5匹」
「よし、ならそれを狩ってから、他の獲物を狩るぞ」
ゴブリンは気配を察知されても逃げずに襲ってくるから狩るのは楽だ。すんなり倒して食べられる獲物を探すが、今の騒動と血の臭いで食べられる獲物は周りからいなくなってしまった。
少し走ると小さな気配がいる。ウサギだろう。
何も言われるまでもなく、気配を消してスッと近くまで行く。
あと5m・・・4m・・・2 1
射程距離に入ったのでサッと横斬りで2匹のウサギを斬る。まだ息があるので、上から頭を刎ねた。
「お、ウサギを狩れたなら上等だ。合格だな」
今日は意識的に気配を消せた。ウサギを狩れたことの嬉しさよりも合格と言われてホッとする。マラソンから解放されるからだ。
今日の晩飯はウサギの直火焼き。鹿ほど肉が硬くならないのでかじって食べる
「2日目で上級冒険者並に気配が消せるようになったな。というかもっとちゃんと出来てたからな。この前やった朝稽古で見せただろ?」
アーノルドが言っているのは奇襲かけて負けた稽古のことだろう。あの時は自分でも不思議な感覚だった。
「あの時、集中したら自分でもよくわからない感覚に包まれてたんだよね」
「能力はすでに身に付いてるがそれをいつでも出せるとは限らんからな。しかし、いつでもその能力を出せるようにならなければ能力が無いのと一緒だ」
そりゃそうだよね。
「父さんはどうやって気配を消せるようになったの?」
「うちの村は貧乏だったからな。小さい頃は食うもんが少なくて自分で食える草とか木の実とか探して食ってたよ。でも肉が食いてぇだろ?何とかしてウサギとか狩りたくて木の槍とか剣で追いかけ回しているうちに自然に身に付いてたな」
どこかの部族みたいだな。
「ダンは?」
「俺は追われて逃げてる時だな。もうダメかと思った時に敵が俺に気付かずに横を通り過ぎて行きやがった。自覚したのはその時だ」
どうして追われなければならなかったのか気になるけど聞かずにおこう。
アーノルドは食べ物への執着、ダンは命を守るため。アーノルドもさらっと食いたいからと言ってるが、草とか食ってたらしいから飢餓状態だったのかもしれん。どちらも命がかかった生存本能から会得したのだろう。しかし俺のは違う。アーノルドやダンをイメージして得たものだ。命懸けで会得したものじゃない。自在に出せないのはこの辺の差なんだろうな。
翌日、同じようにウサギが狩れるか確認するとのことでマラソン大会は継続された。
昼飯も晩飯も食えたので、次のステップに行くらしい。
「想定範囲で予行練習が終わったな」
あれで予行練習・・・
嫌すぎるっ!
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