第211話 ゲイル、修行に行くその1
「アーノルド、お前太ったな」
「う、うるさいっ!」
「ダン、お前もじゃ」
修行に行く前にドワンの元に防具を新調しに来ていた。
蛇討伐からそんなに日にちが経ってないのにサイズが変わるとはね。アーノルドもだけどダンは冬眠前かと思うくらい食ってたからな。
「坊主は日に日にでかくなっとるの」
俺の防具も新しく作ってもらう事になった。トゲトゲじゃありませんように。
数日くれというので、それを待って防具が出来上がったら出発だ。
その間、自分の治癒魔石の腕輪を作っとけと言われてドン爺に渡した物と同じものを作った。アーノルドとダンのも作ったけど魔石1個のが精一杯だった。
防具が出来上がった。みな同じようなタイプでいかにも冒険者ってやつだ。俺のは銃の弾丸を入れるベルトみたいなものがあり、そこに金属製の小さなポーション入れみたいな物がはめられている。腰の両側にはトンファーが収納でき、剣は背中に背負う。
金属製のポーション入れに魔力水と治癒魔力水を入れてセットした。
ドワン自慢の防具は薄くて軽いけどかなりの性能らしい。
「ほれ、防具の下にこれを着ろ」
そういって渡された網タイツみたいなツナギ。打撃は防げないがキバや刃物は止めてくれる代物らしい。
フルプレイトメイルだと動きが阻害されるので防具+網タイツのツナギで可動部分をカバーしろとのこと。これで致命傷はまず食わんだろうとドワンが胸を張った。
すべて身に着けると安心感に包まれる。
「おやっさん、この防具を身に着けたらおやっさんに守られてるような感じだよ。ありがとう」
「そうか」
一言だけ発したドワンは嬉しそうだった。
「おやっさん、俺達のツナギは?」
「坊主さえ無事ならなんとかなるじゃろ」
ひでぇとダンは呟いた。
装備は整ったので明日出発になった。
修行に向かうのは徒歩で行くらしい。
「ほれ、ぼっちゃん。こいつを背中に背負え」
ダンに預かってもらってる魔剣だ。
前は背負っても引きずる感じがしたけど、今は引きずらない。やはり身体が大きくなってるみたいだな。それでも大きいけど動けないことは無い。
「で、父さん。どこで修行するの?」
「ダンジョン近くの森だ。その後にダンジョンで修行する。今回ゲイルは魔法攻撃は禁止だ」
剣とトンファーのみか。魔手袋もダメらしい。ならメインは剣になるな。ダンジョンってゲームとかで見るようなやつかな?前にダンジョンは洞窟タイプと遺跡みたいなタイプがあると聞いたけど修行だから洞窟だろうな。
「ゲイル、歩いてたら時間がかかるから走るぞ。付いてこい。」
えっ?ここからマラソン?
アーノルドがタッと走りだす。ダンもそれに続く。身体の大きさも違うしそんなスピード出るわけないじゃん。
あ、見えなくなる。
慌てて走りだすが追い付ける気がしない。身体強化して懸命に走ってなんとか付いて行けているけど、これでもスピードをかなり落としてくれてるんだろうな。
はぁはぁはぁはぁ
どれだけ走るんだよ。俺は馬じゃねーぞ!
フラフラになって走り続けるとアーノルド達が待っていた。
「遅いぞゲイル」
「父さん達に追い付けるわけないじゃん、そもそも身体の大きさも体力も違うんだから」
身体強化しまくったので魔力も結構使ってる。喉もカラカラだ。水魔法でコップに水を入れて飲むと真冬だというのに汗が吹き出してきた。
「しょーがねぇ。少し休憩だ」
ようやく息が整ってくる。汗が引くと肌寒くなってきた。真冬に汗をかくと余計に冷えるのだ。クリーン魔法をかけて汗を取り、温風で服を乾かす。
「じゃ行くぞっ」
あっ、また走りやがった。
くそっ!
魔力も回復してきているので身体強化してなんとか付いていく。
はぁはぁはぁはぁ
「よし、飯にするか。ゲイル、ここに来るまで獲物の気配探ったか?」
「そんな余裕あるわけないじゃん。付いて行くので精一杯だよ」
「そうか、じゃあ修行になってないな。どんな時でも気配を探りながら行動せんと無意味だぞ。次の休憩まで気配を探りながら走れっ」
えっ・・・・飯は・・・?
あっ行きやがった。酷ぇ。
今度は飯どころかろくに休憩無しで走るはめになった。
はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ
走り過ぎて死ねるぞコレ・・・
「獲物はいたか?」
「あっちに鹿がいる」
「よし、狩ってこい。魔法無しだぞ」
マジで?俺が剣で鹿を仕留めようと思ったら目の前まで気付かれずに近付くしかない。鹿に気付かれ無いように気配消せってことか・・・
息を整えて集中する。スッと近付くとあと5mくらいのところで気付かれた。
くそっ、魔法無しだと何にも出来ん。
次の獲物の気配を探す。いたっ!
また5mくらいの所で気付かれる。
ダメだ・・・
「ゲイル、時間切れだ。行くぞっ」
うそーーーんっ!
結局飯抜きで日が暮れるまで走り続けた。魔力がヤバい・・・。身体強化をどんどん強くしないと走れなくなってきていたのでもうすぐ魔力が枯渇する。
「よし、今日はここまで。なにかしら獲物はいるか?」
「し・・・鹿が」
狩ってくればいいのね・・・
もう体力も魔力も気力も限界だ・・・
無意識にスッと鹿に近付くと鹿は逃げない。俺に気付いてないようだ。
背中の剣を抜き、トンと胸元を突いた。
何の抵抗も感じず鹿に刺さり、鹿は血を吹いて絶命した。あれ?
「鹿は狩れたな。飯にするか」
あ、俺、鹿狩れたんだ。
その場でへたりこむとアーノルドとダンが鹿をさばきだした。いつの間にか火も焚かれている。
調理?なにそれ?みたいな骨付き肉の直火焼きだ。荷物になるからと調味料は塩しか持って来てない。
ほれと渡されるけど、固くて食えない。剣で表面を削ってシュラスコスタイルで食べる。いつも食べてる飯とは雲泥の差だけど身に染みる味がする。
「ぼっちゃん、明日は昼飯も食いたいぜ」
獲物を食い千切りながらしゃべる熊。似合いすぎるぞ。
「最後のは上手く気配消せてたな。鹿も剣で刺されるまで気付いてなかったからな。それまでは殺気が出て逃げられてたんだ。最後のは無意識だろ?」
「うん、あんまり覚えてない」
「お前は気配も消せるし、鹿を仕留める能力もある。ただそれを生かせてないだけだ。これを意識して出来るまでこの修行は続くからな」
覚悟しとけよと言われてたけど、想像以上に辛い・・・
朝起きたら帰るぞとか言ってくれないかな・・・
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