第210話 新たなる試練
翌朝、大量に買い込んだ魔道具とカカオ豆を積み込んで帰ることになった。
「次はいつ来るんじゃ?」
「そうだねぇ。ドワーフの国に行く前に来れたら来るよ。無理だったら帰ってきてから来るね」
楽しみに待ってるぞとドン爺は寂しそうにした。公務があったから一緒に飯食っただけだからな。
ダンの御者でディノスレイヤ家の馬車はエイブリック邸を後にした。
4頭立ての馬車は軽やかにディノスレイヤ領へ向かう。出るのは朝食を食べてからだったのに夕方に屋敷に着いた。
馬で駆けるくらいのスピードだな。
ミーシャとシルフィードはドン爺から土産として王都で最新の可愛い冬服と春服を貰っていた。
アイナにはお土産は無かったのでアーノルドが買ってやると言わされていたのは言うまでもない。人の奥さんに服をあげるのは気を使うからな。
翌日、ミゲルに温室を作ってくれるようにお願いする。牧場の近くの空いてる土地にガラス張りの奴だ。背の高い物と普通のもの。そこそこ大きいもの2つだ。金貨50枚はするぞと言われている。ガラスの手配に時間が掛かるとのことなので取りあえずカカオの苗を保管出来るものだけでも急いで作って貰うことにした。
熱帯気候を作らないといけないので温風の出る魔道具も設置してもらう事に。
チョコレート作りは上手くいくだろうか? 確か、発酵→洗浄→乾燥→焙煎→粉砕とかこんな感じだったよな。発酵にバナナの葉っぱに付いてる乳酸菌で発酵させると何かで読んだけど、バナナはないしな。干し葡萄に付いてるのは酵母か。乳酸菌ってどうやって確保するのかな?乳酸菌ってめちゃくちゃ種類あるんだったよな。自然に付いてくれるかな?納豆菌とかだったらやだな。
クワガタの幼虫のエサ作るのにくぬぎのオガクズと小麦粉に水入れて混ぜ混ぜしてたら勝手に発酵したけど、これはどうだろう?
んー・・・
取りあえず干し葡萄を入れて試すか。なんか乳酸菌も付いてそうだし。
カカオの豆を割って中の綿と種に分ける。ここに干し葡萄を適当に入れて少しぬるま湯を掛ける。未使用の小さなワイン樽に入れて終わり。真空パネルで箱作って発酵が始まったら保温出来るようにしておこう。クワガタの餌とかも発酵始まったら温かかったからな。あとは1日数回樽を回してやって温度が上がってくれば大丈夫と。
楽しみだな。上手く発酵してくれるといいんだけど。
変化は2日後に現れた。樽がほんのり温かいのだ。やった!発酵が始まってる。匂いもヨーグルトみたいな甘酸っぱい匂いだ。腐敗だと腐った臭いになるからな。そして翌日からは熱い風呂くらいの温度になっている。素晴らしい!
毎日樽を回して空気を中まで入れてやる。まるで子育てをしてるみたいだ。
それから数日して温度が収まった。発酵完了だな。
樽からカカオの種を出すと元々白かった物が茶色く変化している。微かな発酵臭がまだ残ってるので豆を洗浄して乾燥させよう。
冬だから天日干ししてもあまり乾かないだろう。温風の魔道具買っててよかった。網に広げてゆっくりと温風を当てて様子をみるか。
「なぁ、ぼっちゃん。この前から一生懸命にやってるけど一体何が出来るんだ?」
「チョコレートって奴だよ。上手く出来たらケーキに続いてお菓子革命がおきるよ。高くて庶民の口には入らないだろうけど」
「売るのか?」
「そうだね。今年は実験かな。来年のエイブリックさんのところの社交会で発表して超高額で売るかな。王家のお菓子としてね」
「製造方法は売るのか?」
「いずれはね。ヨルドさんにカカオ豆買い占めろとか言ったけど、数が確保出来ないのが目に見えてるから、うちで栽培してみるよ。それが上手く行っても一般化するの何年も後になるだろうね」
「そうか、まだまだ先の話だな」
「そうそう。ずっと先の話。それまでは自分たちで楽しむだけになるかな」
数日後、チョコレートは完成したけど、元の世界の物とは比べ物に成らなかった。でも作れる事はわかったから先にカカオ豆の生産だな。
チョコレート作りも一段落着いた頃、アーノルドが執務室に来いと言う。なんだろうね?
「ゲイル、近々修行に行くぞ」
「なんの?」
「お前の気配察知能力を上げる修行だ。中途半端に察知出来ている状態のままドワーフの国に行くのはあまり良くない。この前みたいに気を張り詰める状況が続いたら身体が持たんからな」
「こんな寒いのに修行?」
「もう時間が無いからな仕方がない」
「誰と行くの?」
「俺とダンとお前の3人だ。ダンにももう一つ上の察知能力を身に付けて貰う」
「父さんの仕事は?」
「その間、アイナに任せる」
そうか、アイナに任せるくらい緊急なんだな。アーノルドが初めて領の仕事を任せるくらいだ。
「わかった。ダンにはもう言った?」
「明日の朝稽古の時に伝える。ちょっと厳しい修行になるから覚悟しておけ」
覚悟しておけか。何やらされるんだろな?
そして数日後、俺達は修行の旅に出たのだった。
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