第209話 実りの多い王都訪問
ジュースと蒸留酒を混ぜて色々とカクテルを作っていく。カクテルの知識はないので単に混ぜるだけだ。
やはり柑橘系のジュースと混ぜたものがメイド達にも評判が良く、シトラスカクテルのような物と水割りに甘味の少ない柑橘の汁を絞った物が採用となった。カクテルのグラスにはリボンを結んで一目でアルコール入りと分かるようにしておいてもらう。ジュースと思って酒飲めない人が飲んだら大変だからな。
最後にパウンドケーキをバスケットに入れてお土産に渡すことを提案しておいた。これで女性達の評価もガッチリと掴めるだろう。
「さすがは師匠。我々にはそこまで気が回りませんでした。あと、今回の社交会に向けて色々と珍しい物を取り寄せたのですが、どうしても使い道が分からないものがありまして、一度見て貰えませんでしょうか?」
「どんなやつ?」
「これ何ですけどね。匂いはいいのですが、どうも苦くて。現地では煎じて薬にしているようですが・・・」
げっ!カカオ豆じゃん!?
「これどうしたの?」
「南の方の国の特産品らしいのですが、大量に持ってきておりましてね、一つ買ってみたんですがどうにもこうにもならなくて」
「これ、全部買って。あとこれからも仕入れて。というか独占した方がいいよ」
「全部?しかも独占?これが何かご存じで?」
「これはね、カカオ豆といって、お菓子や飲み物の原料になるんだよ。このままだと使えないけど、ちゃんと加工したらものすごいお菓子が出来るよ。ただ俺もやったことはないからしばらく実験していかないとだめだけどね」
「あの苦いものがお菓子に?で、では今回売りに来たものは買い占めておきます。あとはお任せしても宜しいですか?」
「分かった。来年の社交会に出せるように試してみるよ」
またやること増えたけど、チョコレートは絶対作らなければならない。どんなお菓子にも使えるからね。
「ヨルドさん、ボットの作ってるケーキにイチゴ入ってたよね?あれの苗を入手出来ないかな?」
「イチゴの苗ですか?わかりました。聞いておきますね。育てるんですか?」
「ディノスレイヤ領にはイチゴが無いんだよ。近くで生産始まったら便利でしょ?」
「この時期に実を採るのは大変みたいで高額でした。春から夏にかけてはたまに入ってくるんですが」
「そうだね、この時期だと温室栽培だろうから高いと思うよ」
「温室栽培とは?」
「んー、植物を育てる部屋を作って、季節を人工的に作るというのかな?やり方はわかってるから、苗が手に入ったらうちでも作るよ。ヨルドさんも定期的に手に入るほうがいいでしょ?」
「それはもちろんです。必ず苗を手にいれるので宜しくお願いします」
「10本くらいあれば大丈夫だからね。後はこっちで増やすから」
よし、今回の王都訪問は実りが多い。来て良かった。
社交会のアドバイスとカカオ豆、イチゴの苗の手配が済んだ後に一旦お開きとなった。
ミーシャとシルフィードは風呂と部屋に案内してもらい先に休んで貰った。
「ゲイルよ、先日は世話になったな、改めて礼をいうぞ」
「ドン爺も楽しんでくれて良かったよ。ミーシャとシルフィードを歓迎してくれてありがとう」
なんのなんのと笑顔のドン爺。
「エイブリックさん、これ」
ゲイルは治癒魔石が仕込まれた2種類のデザイン違いの腕輪をエイブリックに渡した。
「ん?違うものか?それに数が多いが?」
「護衛の二人の分とエイブリックさんとアルの分だよ」
「俺とアルの分まで作ってくれたのか?」
「まぁ、念には念を入れてってやつ!?」
「そうか・・・。ありがたく使わせて貰う。おいっ!」
エイブリックがそういうと、小柄な女性であろう二人現れた。顔は隠されていてわからない。どこから出て来たんだろう?
「ゲイルがお前達にプレゼントを持ってきてくれたぞ。遠慮なく受け取れ」
やっぱりミーシャとシルフィードの護衛か。顔は隠れているとはいえ、俺達の前に姿を現していいのか?
「ゲイル、こいつらの気配を覚えておけ。これ以外の気配は護衛じゃないからな」
気配を覚えさせるのに呼んでくれたのか。いや、目の前に居ても何にも感じないんだけどね・・・
エイブリックが二人に治癒の腕輪を渡す。
「これは?」
「ゲイルがお前達の為に作った治癒の腕輪だ。致命傷を3回くらいは治してくれる魔道具だ」
「そ、そんな貴重な物を私達に渡されると言うのですか?」
「お前達は危険な任務に付いているから万が一の時の為だとよ」
「魔導兵器だけでなく我々の命を守る為のものまで・・・。ゲイル様、過分なるお心遣いありがたく存じます。この命にかけましてもお二人はお守り致します」
兵器なんて渡したっけ?まぁ、いいか。
「二人とも女の子なんでしょ?命掛けるとかしないで。もしあの二人が襲われたら逃がしてくれるだけでいいから自分達の命を差し出すとか止めてね」
(女の子・・・!?)
「その腕輪は致命傷とかじゃなくてもちょっとした怪我とかでも発動して魔力減っていくから、何回か発動したら俺んところに持ってきて。訓練とかで怪我したりするでしょ?ピンク色の魔石の色が薄くなっていくと減ってる証拠だから」
護衛二人は女性を用意するとエイブリックが言ってたから、ちょっとしたアクセサリーがわりに魔石を宝石代わりに見立てて少し見えるようにしてあるのだ。全部見えたら高価なアクセサリーに見えてしまうから、少しだけ見えるように工夫した。
「女性だと聞いてたから、ちょっとアクセサリー風にしたんだけど、もっとシンプルにした方がよかった?その方がいいなら今加工するけど」
「い、いえっ!このままでお願いします。ゲイル様。この腕輪一生の宝物に致します」
一生て大袈裟な。
「気に入ってくれたなら良かった。これから宜しくね」
こちらこそお願いしますと丁寧に頭を下げたまま消えて居なくなった。
「おい、ゲイル。やるなぁ。うちの護衛をたぶらかすなよ」
はぁ?
「何の事?」
「あいつらに感情の気配出させたろうが?」
いや、存在の気配すらわかりませんでしたけど。
「まあいい。ミーシャ達に付ける護衛はアーノルドやお前が側に居るときは極力離れさせておく。そうじゃない時はいつでも守れる位置に付かせておくから。それでいいか?」
見られてるのが嫌だと言ったから最大限配慮してくれたんだな。
「うん、ありがとう。治癒魔石の充填も遠慮なく言って来るようにエイブリックさんからも言っておいて。いざ言うときに魔力切れとかしてたら意味無いから」
(女の子だなんて初めて言われたね)
(うん。動揺してる所にこんな可愛いアクセサリーだなんて)
(思わず感情もれちゃったね)
(気を付けないと)
(でも私たちみたいな者にまで心配してくれるなんて嬉しかった)
(初めてだねこんなの)
(うん、ゲイル様。私たちの初めての人・・・)
翌日、ドン爺とエイブリックは公務に行き、俺達は執事に王都案内をしてもらう。見せたい物があるらしい。
「ゲイル様、こちらでございます」
「わぁ、綺麗な店だね」
大きなショーウィンドウがあり、2階は住居スペースの様だ。裏手には大きな倉庫もあるらしい。
「誰か店でも開くの?」
「ロドリゲス商会の王都支店でございます」
えっ?
「ザックの所の支店?あいつのところそんな儲かってるんだ?」
貴族街の中心地。しかもエイブリック邸から歩いてすぐだ。メインストリートには面してないとはいえ、よくこんな所の土地が手に入ったな。
「いえ、こちらで用意させていただいた賃貸店舗でございます。少し家賃は頂きますがさほど負担になることはないでしょう。こちらとしても発注する度にディノスレイヤ領に行くのは手間でございますから」
はぁー、それだけの為に用意してくれだんだ。しかも王都が支店って・・・
「執事さんありがとう。ロドリゲス商会も喜ぶと思うよ。薄力粉とか炭とか消耗品は王都に在庫持っておけと言っておくから」
「はい、宜しくお願い致します」
次は俺のリクエストで魔道具を扱う店に連れて行って貰った。
業務用のコーナーで温風が出る魔道具と冷風が出るもの、明るさ違いのランプとか色々と仕入れた。俺はホクホク顔だ。品物は今日中にエイブリック邸に届けてくれるらしい。
軽く昼飯を食ってから吟遊詩人が歌う内容を劇で見せてくれる所にいく。歌劇ってやつだな。庶民向けの娯楽らしい。
一番上等な席に案内される。演目はお任せになり、なにが上演されるかわからないみたいだ。
うわぁぁぁ!怪物が倒されたぞー!
俺達の勝利だ!うぉぉぉお!
登場人物の名前は変えてあるが、ディノ討伐をモチーフにした物語だった。人気演目らしく観客から怪物が倒された時に歓声と拍手の海に包まれる。
「さ、出るぞ」
アーノルドはさっさと出ようとする。
「まだ終わってないみたいだよ?」
「いいから、早くっ!」
『卑怯だぞ!』
暗転してから登場したアーノルド役が叫び声を上げるり
『やめてっ!私の為に争わないでっ!』
アイナ役だろうか?何言ってんだ?私の為に争わないでとか笑かす。
ぐぎぎぎぎ
いででででで
アイナクローが炸裂する。
「出るぞっ!」
アーノルド必死。
「演目の途中で立ち上がるのは失礼よアーノルド」
アイナに怒られ、あうあう言いながら座り直すアーノルド。
その後、アイナ役を取り合うパーティーメンバー。そして権力を使ったエイブリック役とアイナ役が結婚式を上げている途中にアーノルドが乱入し、花嫁を抱き上げて連れ去り二人は結ばれるという内容だった。
いかん、腹がよじれる。
俺がヒッヒッヒッと堪え笑いをしてると二人からゲンコツを食らった。
ミーシャとシルフィードは感激したようで目をうるうるさせていた。
「いやぁ、父さん達があんなラブロマ・・・」
いでででででっ
アーノルドが俺のほっぺを捻り上げる。
「あれは演劇であって事実じゃねぇ!」
アイナはまんざらでは無さそうだけどな。まったくのフィクションでもないんじゃないか?
「アーノルド様があんなに情熱的とは知りませんでしたぁ~」
両手でほっぺたを押さえながらほぅ~という表情をするミーシャ。シルフィードも顔が赤い。アーノルドもさすがにミーシャをつねる事も出来ずプリプリと怒っていた。
「あらアーノルド、私が他の人と結婚しようとしてたらどうしてたのかしら?」
意地悪く笑うアイナにアーノルドはそ、そりゃお前・・・とか真っ赤になっていた。はいはいご馳走様。
「あの演目は人気でして、何度やっても好評なのですよ。初めは吟遊詩人だけで語られてたものに劇が加わってさらに人気が出た次第です」
そうなんだ。娯楽のない世界だとああいう分かりやすいのが受けるんだろうな。
「そうそう、先日は新しい演目が追加されましてね、それも人気があったので、これから何度も演じられるかもしれませんよ」
「へぇ、どんな内容?」
「大蛇討伐物語でございます」
げっ!
人を呪わば穴二つ・・・
知りたくなかった・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます