第205話 ドン爺の釣り日記完結

昼飯休息の後、御者がドワンからアーノルドに変わる。あちらはダンがそのままだ。


「ゲイル、お前あの騒動からずっと気を張ってるな。大丈夫か?」


「エイブリックさんに魔石作れる事を話したよ。詳しいことは帰ってから話すね」


「そうか。あの護衛の稽古もそれに関係してるのか?」


アーノルドは秘密を勝手に話した事を咎め無かった。


「同じような護衛の稽古自体はやってるだろうけど、盾役の重要性をナルさんに知って欲しかったんだよ。エイブリックさんもそう言ってくれて良かった。おやっさんが前に居てくれる安心感で冷静な判断が出来るようになるからね」


「アルはなぜこっちに入れた?」


「いずれ護衛される側になるから襲う側の心理や動きを体感して貰う為かな」


「そうか。理にかなってるな」


「この帰りになんかあると思う?」


「どうだろうな?まぁ、お前がそれだけ警戒した気配をビンビンに出してりゃまず大丈夫だろ。誘き寄せるならまずいが、何事も無く終わらせるにはちょうどいい」


そんなに俺の気配は出てるのか。自分でもっと気配のコントロールが上手く出来た方がいいだろうな。今の俺なら手練れ相手だと全て考えが読まれて、本気で襲われたら勝ち目ないな。


移動を続け、最後の休憩を取る頃に日が暮れた。馬車のライトとフォグランプの両方点けて、王家の馬車の後方にも簡易でライトを取り付けた。まるでエレティカルパレードみたいだ。


あと少しで街に着く。気を抜くな・・・


しかし、街に着いても何事も無く、屋敷に無事到着した。



晩御飯は持って帰って来た鱒とシジミを他の護衛達に振る舞うとのことで、ドン爺もエイブリックも天幕へと向かった。釣りスペクタクルと共に振る舞われるのだろう。


俺は気が緩んだのか明日の予定だけ決めて飯も食わずに寝た。



翌日、ダンに鴨を十数羽肉屋に持ち込んで貰い、ブリックに引き取りと昼飯にヒレ肉とフォアグラステーキを仕込んでおくように言っておいた。ブリックはヨルドに教えながら仕込んでくれるようだ。


王家の馬車をソックスとブランに引かせて森に向かう。あそこが一番秘密の話をするのに向いている。ドワンもピックアップして小屋に到着した。



「じゃあ、今回の話をまとめるね」


俺はエイブリックにした話を。ドワンからは魔道具が作れるようになった話を。アーノルドからはエルフの里が魔法陣を開発している可能性について話した。


「色々有りすぎて混乱するのぅ」


「エルフの話は非常に可能性が低いがその確認を含めてエルフの里、グリムナを探しに行こうと思ってる。それはゲイルに託すつもりだ」


元々そのつもりだからいいけど。


「時期は2年後、正確には1年半くらいあとだな。それまでにゲイルがドワーフの国から無事帰ってくること。シルフィードが最低限自分を守れる実力を付けることが条件だ」


「ゲイル、王宮の問題はこちらでやるから心配するな。お前の忠告通り俺も身を守る魔道具を身に付けておくから」


「うん、そうして。俺に出来ることはあまりないしね」


「ゲイル、お前を政治に巻き込んでしまってすまない。ワシらがこれ以上お前が利用されんように手を打っておくからの。だからあまり心配をするでない。これでもワシは王じゃからの」


フォッフォッフォッと笑うドン爺。そうだよね、俺がこれ以上心配しても仕方ない。まだ軍がクーデターを起こすと決まった訳でもないし。


「ゲイル、ミーシャとシルフィードの隠密は火魔法と土魔法だ」


エイブリックはさらっと話したが、これって重要秘密なんだろな。


「じゃ、これを渡してやってくれ。ワシら用に作ったもんじゃから少し大きいが胸元に仕込めば大丈夫じゃろ」


ドワンが渡したのはリボルバー型の魔銃だ。


性能と使い方をドワンがエイブリックに説明すると、あまりの性能に驚いていた。


「これ、国宝級どころじゃないぞ」


「坊主、来年の春にはまだ作れるんじゃろ?」


「問題無いよ。治癒のお守りは年明けに行くときに持って行くよ」


「ゲイル、何か欲しいものはないか?金でもいいんだが・・・」


国宝級の治癒の腕輪、それ以上の魔銃。金額に換算するのは難しい。


「そうだね・・・。スパイスと白砂糖が欲しいかな」


「あっはっはっは!そうか、お前が望むのはスパイスと白砂糖か。分かった」


エイブリックが笑いながら手配しておくと約束してくれた。



屋敷に戻ってフォアグラとヒレ肉のステーキに感動した王と王子。アルはフォアグラをそっと避けて食べていた。このお子ちゃまめ。



ー昨晩、王と王子が寝静まった頃の護衛達ー


「おい、陛下の腕にはめてあった腕輪見たか?」


「行くときはあんなの付けてなかったよな?」


「あれもしかして隷属の腕輪じゃないか?」


「隷属の腕輪?」


「あぁ、あれは魔王の臣下に渡されるもんじゃないかと思う」


「ということは陛下はやはり・・・」


「あぁ、魔王の配下だ」


「ウェストランド王国は魔王が治める国になってしまったということか」


「そうだな・・・」


「しかし、待機しているときに街に買い物に出たが魔王の評判良かったな」


「あぁ、ここに王室の認証店まであったのには驚いたぜ。あれも魔王の仕業らしい」


「魔王の関わった店はどこも繁盛してるし、良いものを扱ってるよな。店のやつらも感じのいいやつらばっかりだった。あれこれ教えてくれてよ」


「魔王の治める国も良いものになるかもしれんな。柄の悪そうな奴らからは恐れられててトゲチビとか呼ばれてたぜ」


「トゲチビ・・・なんか怖そうだな」


「心配するな配下になったやつには無茶はせんだろ」


「そうだな、今日の魚、初めてあんなの食ったぜ。旨かったよな。それにまた陛下と飯食えるなんて思っても見なかったな」


「ナルディック様も人が変わったみたいだったな。俺達にあんなに色々と説明してくれるとは」


「あぁ、戻ったら新しい訓練をするとか言ってたな」


「それ、魔王直伝の護衛方法らしいぞ」


「俺達も立ってるだけじゃなく活躍する場が与えられるってことか」


「そうだ。やっと本物の護衛になれるってことだな」



フォアグラとヒレ肉のステーキに舌鼓を打ったあと、王都に戻る事になったドン爺とエイブリック。


日が出ている間に王都に着くのは無理だから、うちの馬車からライトとフォグランプを取り外して王家の馬車に付けておいた。後ろのランプはそのままだ。


「ライトは簡易で付けただけだから、戻ったら職人にちゃんとしてもらってね。魔石が無くなったらここで交換だから」


説明がてらそっと魔力を充填しておく。


「ゲイルよ。世話になったな。次に王都に来る時を楽しみに待っておるぞ」


「年が明けたらミーシャとシルフィードも連れて行くから宜しくね」


「おお、二人もちゃんと客人としてもてなすでな」


ミーシャまでも客人扱いか。よっぽど気に入られたらしい。さて、そろそろお別れだ。


護衛達が配置に着く前に俺に仰々しく礼をする。こいつら何やってんだ?


そしてドン爺達は帰って行った。



「ぼっちゃん、あいつら何で臣下の礼なんてしていったんだ?」


「さぁ? 殺されなかった礼じゃない?」


「そうか?ぼっちゃんを王と同じような目で見てたぞ」


「多分、俺が護衛いらないって言ったから、待機と言う名の休み貰えて嬉しかったんじゃない?」


「そうかな?」


「そうだよきっと。護衛なんて休みないだろうから」


「そう言われたらそうかもしれんな」


「ダン、今日と明日は休みにしよう。疲れたから寝るよ」


「そりゃ助かる。俺もくたくただ。」


ダンもずっと気を張ってくれてたのだろうな。ゆっくり休んでくれ。



ゲイルは王家の護衛から魔王と呼ばれ、勝手に配下になってるとは誰も気が付かなかったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る