第204話 ドン爺の釣り日記その4
朝ごはんは暗い内に簡単に済ませる。
「今回は人数が多くて全員のフライ飛ばすの無理だから、こんなのを作ってきたよ。これで投げられる人はこっち使ってね」
使い方を説明し、まず重りだけ付けて投げさせてみる
アーノルド、アイナ、ダン、ドワン、ジョン、アル、エイブリックは大丈夫だな。案の定ドン爺とシルフィードが無理だった。
リールは7つ。フライロッド2本。
あれ?俺のは・・・
ナルとヨルドはやらないということなので、俺はドン爺とシルフィードのサポートに徹するしかない。
暗い内にイケスを作り、スピニングでの釣り方をレクチャーする。投げて巻く。以上。底に引っ掛けないように気をつけて貰うだけだ
フライはラインをシュッシュッと引いて来るだけ。
ちゃぽちゃぽとライズが発生し始めた。
「さ、投げて」
俺は魔法でフライを飛ばしてやる。
「なんか引いとるぞ!」
「ライン引っ張って寄せてきてね」
30cmくらいの鱒が釣れて来た。針を外してイケスにポイ。シルフィードにもヒット。同じくらいのサイズ。
向こうも釣れ出してワーワー騒いでいる。入れ食いだ。
そして朝のチャンスタイム終了。
ドン爺も50cmくらいのを釣ってホクホクだ。向こうも同じような感じだろう。
「次は夕方からしか釣れないから休憩ね」
俺はシジミ捕りをして、夜まで砂出しをしておく。残念ながらザリガニは居なかった。
昼飯用に鱒をさばく。鱗と内臓を取って塩をしてしばらく放置。炭に火を付けておいて、一旦鱒の塩を拭いとってから化粧塩して網には乗せずに串に刺して強火の遠火と。
皮パリ、中フワな塩焼きを食べた後は立ち合い稽古となった。俺とダンは馬の散歩がてら周辺を見て回る。
「ダン、帰りの御者なんだけど王家の方頼むよ」
「なんかヤバいのか?」
「いや、念の為。何かあるとしたら馬が狙われると思うから」
「そうか。分かった」
ダンは特に何も聞いてこない。気配も察知してるだろうし、昨晩のこともだいたい解ってるだろう。
みんなの元に戻るとアーノルドとエイブリックが立ち合いをしている。
遊びながらやってるみたいだけど、どんどん速さが増している。あれ、だんだんマジになるやつだな。アーノルドとエイブリックがやりあうとここがめちゃくちゃになるだろう。
ザバッ!
「どわっ!冷てえっ!」
「何しやがるっ。ゲイルだな!」
「父さん達がそんなに激しくやりあうとここがめちゃくちゃになるでしょ?夕方に釣れなくなるよ」
そういうと大人しく引き下がった二人。ずぶ濡れの二人を見てアイナ爆笑。
ジョンとアルはドワンに稽古を付けて貰ってた。
「父さん、どうせやるならナルさんの稽古付けてあげなよ。実戦みたいなやつ。父さんが暴漢になってナルさんが王様を守りながら闘うとか」
「ほう、それはいいな。お前ナルと言うのか?俺から王を守ってみろ」
「はっ!宜しくお願いします」
ナル瞬殺。何回も王を殺される。
「くっ、俺は王を守れぬのか・・・」
「ナルさん。護衛が一人になったら闘うより王様を逃がすことを考えなきゃダメだよ。ジョン、ナルさんの部下になって。ナルさんはジョンを部下にして指揮を取りながら王様を守ってね」
アーノルドは王を目指して襲い掛かる。ジョンはアーノルドを止められず王を殺される。まだ足りないな。
「おやっさん、盾役の手本見せて」
ドワンが入ると一気に形勢逆転する。アーノルドはジョンを軽く抜いたあとにドワンに足止めをくらいそこにジョンが斬り込んでくる。
なかなか良い連携だ。
「アル、父さんの方に加わって」
暴漢追加。ジョンがアルに抜かれ、アーノルドと同時にドワンに襲い掛かり、ドワンがアーノルドに抜かれ王様死亡。
「ダン、護衛に入って」
ダンが入ると王の生存率が一気に上がり、ここで稽古終了。
「お疲れ様。エイブリックさん見ててどうだった?」
「ナルディックよ。いい稽古になっただろう。お前は筆頭護衛だから何があっても王を守る役目だ。戻ったらこのような連携の訓練をしておけ。特にドワンの様な盾役を育てる必要があるぞ」
同感だ。ドワンが入ると一気に生存率が上がるからな。盾役の重要性がよく分かった稽古だった。
「皆様ありがとうございました。戻りましたら部下達にもより実戦的な稽古をつけます」
それぞれこうやったらもっと良いとかワイワイ話し合い出した。王もその話に加わり、身の安全を確保する逃げ方などを打ち合わせている。
ヨルドと一緒に晩御飯の準備に取り掛かるとミーシャとシルフィードも手伝いに来てくれた。
ヨルドはムニエルとフライ、俺はカルパッチョの仕込み。ミーシャとシルフィードはシジミチャウダーの仕込みだ。
下ごしらえが終わり、夕方の釣り再開。シルフィードは見てるから俺に釣れと言ってくれた。
爺さんと並んで釣りも悪くない。
結局スピニングの使い心地が試せないまま釣り終了。ドン爺は60cmほどの鱒を釣って大喜びしていた。
「ゲイル、これは丸々調理する方法はあるか?」
塩焼きか丸揚げかなぁ?でも他のと被るし面白みもないな・・・
「ドン爺、ちょっと考えるね」
んー、オリーブオイルで煮るか。オリーブオイルにニンニクをすりおろして入れてゆっくり煮ていく姿煮だ。パンにもワインにも合うからね。
夕飯の準備に取り掛かる。下ごしらえは済んでるから調理は早い。
軽くスモークしたカルバッチョから出していき、シジミチャウダーとシジミのワインとバター炒め、フライにムニエルと続く。
最後にドンっ!と鱒の姿煮を出してやると、おおーっと歓声が上がった。
「ドン爺が釣った鱒だよ。大きいよね」
「王様凄いですぅ!」
ミーシャ嬢に王様より指名が入る。それを見たアイナママがワインボトルを王様に入れた。1本で金貨1枚くらい取られそうだ。
「ヨルドさん、俺たちも食べよう」
ちょいちょいつまんでいたけど、ゆっくり座って食べたい。それはヨルドも同じだろう。
「師匠、こちらに来てから気になってたんですがこの炭というのは薪を燃やした後のものではないですよね?」
「薪が燃えないように燃やしてやるとこんなのが出来るんだよ。これからは煙も出ないし、長時間安定して高熱を出すから素材を焼くのはこっちの方が向いてるんだよ。肉も魚もふっくら焼けるしね」
「これは師匠がお作りに?」
「今、担当を決めて作って貰ってる。薪よりだいぶ高くなるだろうからあんまり売れないかもしれないね」
「いえ、これをうちに売って下さい」
「魔導コンロあるから炭とか使わないんじゃない?」
「いえ、小屋の料理やここでの炭で焼いた料理は非常に美味しいのです。ぜひ取り入れたいと思います」
「まだ値段は決まってないけど、薪の10倍はすると思っててね。薪よりぜんぜん火が長持ちするけど、見た目の単価は上がるから驚かないでね。火を消して乾かせば無くなるまで使えるから」
炭はうちの領より王都に売ることになりそうだな。
「とっても美味しいですぅ」
ミーシャの声が聞こえて来る。ボトルも2本目が入ったようだ。
ヨルドが作ったムニエルとか旨かったな。さすがだよな。このシジミチャウダーも旨いけど。
翌朝軽く釣りをして湖を出た。
ナルとヨルドには王の護衛ということで馬車に乗せ、ダンが御者に。ドン爺からミーシャもこちらにと言われたがアフターは断った。エイブリック苦笑い。
うちの馬車はドワンと俺が二人で御者をすることになった。
ガゴガコと馬車が動き出す。
「おやっさんが気配を探知するのは父さん達と同じくらい?」
「どうじゃろのぅ?アイツは解ってても言わん時もあるし、そんなのいつ気付いたんじゃ?と思う時もあるからの」
やっぱりアーノルドの方が察知能力高いんだろな。ドワンとダンが同じくくらいなのかも知れないな。
帰り道何も無いといいけどな・・・
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