第202話 ドン爺の釣り日記その2

馬達が牧草を食べ終わったみたいなので今日のご褒美の黒砂糖をあげた。王家の馬達はなかなか食べようとしなかったが、シルバー達が嬉しそうに食べているのを見てやっと食べた。あまり懐かれないように気を付けねば。


寝床に枯れ草と毛皮を敷いてやる。毛皮はシルバー達の分しかないけどごめんね。


馬の世話はナルが手伝ってくれた。ヨルドやミーシャ達は夕食の準備をしてくれているが、他の大人達はすでに宴会を始めている。


俺達の寝床も作ろう。ドン爺とエイブリックは馬車、アイナ達もうちの馬車で寝るだろうから、7人分の個室長屋だ。


「ゲイル殿はこんなものまで一瞬で作ってしまわれるのですね」


「魔法って便利でしょ?」


「そうだな。魔法は戦ったり治癒したりするものがほとんどだ」


「俺はね、便利でこうやって生活に密着したやつの方が好きなんだ。 みんなも使えたら便利だろうなと思うから教えてあげたいんだけど魔法って攻撃にも使えるだろ?それで人の命を簡単に奪ったりする人も出てくるだろうから怖くて教えられないんだよね」


「それは剣でも同じではないか?」


「そうだね同じだよ。でも魔法はもっと簡単に殺せる。剣で命を奪うのは技量以外にも覚悟がいるでしょ。目の前で死んでいくし返り血も浴びたりする。魔法は離れたところから手を汚すこともないからね。人を殺すハードルが低いんだよ」


「人を殺すハードルが低いか。あまり考えた事がなかったな。必要であれば斬ると言うのが当たり前の環境だったからな」


そうこの世界は人の命が軽い。だからこそ魔法を広めるのは怖いんだよな。発展させていくには必要なんだけど。


「さ、料理を手伝おうか。お腹すいちゃったしね」


晩御飯は持ってきた肉で焼肉だ。昨日はボアだったけど今日は牛。残念ながらタンは無かったのでカルビとロースだけだ。俺の為にシルフィードにご飯を炊いて貰った。


ナルもヨルドもドン爺がいても飲んで食べてをしている。やっぱりこういうのがいいよな。


ドン爺から解放された俺はミーシャとシルフィード、ジョン、アルとご飯を食べた。ジョンとアルはシルフィードに釘付けだ。少し影のあるモジモジした訳有り美少女。テンプレ盛り沢山だから仕方がない。モテモテだね。今回は来れなかったベントは周回遅れになりそうだ。



飯食ったので湖畔に風呂を作る。湖を眺めながらの風呂はたまらんだろう。俺は青春より風呂だ。


風呂を作ってると湖から金色っぽい光が近づいてくる。あ、主かな?


スッスッと近くを泳いでいる。


「覚えてくれてたんだね。前来たときに鱗をくれてありがとう。明日は朝からここで釣りをするから釣られちゃダメだよ」


そう言うとパシャっと跳ねてまた鱗をくれた。剥げてないだろうか?


少し離れた所に女風呂も作っておく。こっちは周りを壁で囲んで見えないようにと。


風呂を作り終え、みんなの所に戻るとドン爺とミーシャがキャッキャと楽しそうにしゃべっている。


どうやらボアスペクタクル第2回講演が始まっており、ミーシャは凄いですぅ、私も食べたかったですぅというジジ殺しの言葉を連発しお気に入りにされていた。良かったな。次から指名入るぞ。



少し離れた所で元パーティーメンバーが真面目な話をしていた。


「アーノルド、屋敷でも魔法を使わせてないのは軍部への情報流出を恐れてだろ?」


「そうだが」


「もうバレてるぞ。軍の暗部が動き出してる」


「なにっ?」


「当たり前だろう。蛇討伐に連れて行った挙げ句にあれだけオークションを騒がせたんだ。バレない方がおかしい」


「そうかバレたか」


「まぁ、それでもそんなに心配する事ないと思うぞ。父上や俺との関係も伝わってるだろうからな」


「これはお前の所のものだけじゃないのか?」


「気配の数が合わんからな。直接何かするわけでもないからほっておけ」


「そうか、それを見越して今回の事を?」


「それもあるな。護衛達との戦いを見ていただろうから迂闊に手が出せんことが分かっただろう。悪魔みたいな戦い方だったからな。そ、そ、それに 『家族に言い残すことはないか』だとよ」


ぶーっ!


エイブリックとアイナは吹き出した。思い出し笑いだ


「あぁ、すまん。ゲイルもノリノリだったから面白くてな。あとは俺が純粋にゲイルが作るものに興味があるんだ」


「作るもの?」


「ドワン、なぜ武器以外も作るようになったんだ?」


「坊主が考えるものは面白いからの。それだけじゃ」


「俺もそれが理由だ。あいつに取ってはさほど価値が無いものでも実は大発明品とかゴロゴロ出てきそうじゃないか?遺跡の発掘と似てないか?」


「確かにあの子の作るものには驚かされるわね。料理もそうだけど」


「今回はこの懐中電灯だ。こいつは素晴らしい。これを持ってダンジョンに行けたらどれ程楽になったことだろうか」


「そうじゃな。馬車に点けるライトもそうじゃし、屋敷用にもっと便利になるように魔力線というのも出来た」


「魔力線?」


「王都の街灯はどうやって明かりを点けたり消したりしとる?あと魔石の交換もじゃ」


「担当の者がやってるぞ」


「いちいち街灯に登っとるじゃろ?ゲイルはそれを手の届く所でやれるように考えよった。作ったのはワシじゃがな」


「どうやった?」


「安くて魔力の流れがミスリルとほとんど変わらん物質で線を作り、それを魔石とスイッチに繋げたんじゃ」


「それを街灯にも付けたら登らずに済むということだな?」


「そうじゃな。1本2本の街灯なら登ってもいいが、数があるとその方がいいじゃろな」


「やっぱり色々あるじゃないか。アーノルド、いつまで魔法を使えることを隠しておくんだ?もうバレてるなら解放しても問題ないと思うぞ。ゲイルも足枷が無くなったらもっと自由に動けるだろう?」


「そうかもしれんな・・・。しかしもうしばらくはこのままだ。」


「何故だ?」


「ゲイルの魔法はハッキリ言って便利過ぎる。それを利用しようとするものがたくさん出てくるだろう。それが毎日毎日続いてみろ、まともに生活なんて出来んぞ」


「確かにそれはそうだが・・・」


「まぁ、ぼちぼちバレていくのは俺も構わんとは思っているからもう少し待て」


「そうか、それはお前達が決めることだったな。余計な口出しをして悪かった」


「いやそんなことないぞ。いつも相談に乗ってもらって助かっている」


元のパーティーメンバーはその後も酒を飲んで昔話を楽しんだ。



まだ宴会が続きそうなので馬がちゃんと休めてるか見ておくか。


馬小屋に近付いていくと気配を感じる。


実はずっとこの気配が気になっていた。蛇討伐を経験してから気配を感じるセンサーが上がった気がする。


敵意は感じないけどやっぱり誰かいる。アーノルド達が何も言わないので敵では無いのだろうけど、王宮の隠密か何かなのかな?本当の護衛ってやつかもしれない。


それなら王に注意を注げばいいのに俺に付いて来てるよな。それを確認するのに馬を見るふりをして皆から離れてみたのだ。


ちょっと確かめてみるか。万が一と言うこともあるからな。


気配のする方向に集中して一気に魔力を吸う。



ドサッ ドサッ ドサッ


え?3人も居たの?1人しか解らなかった。


何かが落ちた音でアーノルドとエイブリックがこちらにくる。アイナ、ドワン、ナルは王様の側に構え、ダンはミーシャとシルフィードを背の後ろにやった。


「ゲイルどうしたっ?」


「誰か居た。3人そっちに落ちた」


「お前はアイナのところへ行けっ」


アーノルドはそう言うとエイブリックと音のした方向へ向かった。



「おい、エイブリック。これってお前の所の・・・」


「二人はな。一人は軍部の・・・」


どうする?と二人は顔を合わせた。


「ゲイルの野郎、ややこしいことしやがって。おいダッセルに余計なことするなと言っとけ。お前らはなに気付かれてんだ?早く消えろ」


意識の戻った3人は姿を消した。



「なんだった父さん?」


「大きな音だったから熊かなんかじゃねーか?逃げてったよ」


あー、やっぱり隠密の護衛だったか。悪いことしたな。しかしアーノルド誤魔化すの下手だな。

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